子羊とオオカミ
*褒めてない
オビ=ワンは、捕まえた罪人の前歴を聞き、眉をひそめた。
「スリ、強盗、詐欺、恐喝、強盗、詐欺、恐喝、詐欺、恐喝、詐欺、詐欺、詐欺、詐欺……」
今回この男は、大掛かりな詐欺を働き、それを捕らえるためオビ=ワンに任務が下されたのだ。
呆れた気分のままに、オビ=ワンは男を眺めた。
「結構な前歴だな」
「ええ、まぁ、何分若いうちは、何が自分にあっているのか、よくわからなかったもんで……」
照れたように男は頭を掻いた。
*名医
風邪をひいたかもしれないという小さなアナキンに向かって、オビ=ワンは前をはだけるようにと言った。
オビ=ワンの指が、こつこつと薄いアナキンの胸を叩く。
「マスター?」
「しっ、静かにアナキン」
アナキンは、まじめな顔をしたオビ=ワンに思わず口をつぐんだ。
アナキンの目には、ジェダイは医術にも通じていたのかと、かすかな尊敬の色が見える。
しかし、しきりと胸を叩くばかりで師は何のコメントもしなかった。
おずおずとアナキンは聞いた。
「マスター、何かわかりましたか?」
「いいや、わからん。いつも医者がこうするから真似をしてみたんだが、一体彼らは、これで何がわかるんだろう?」
くしゅんと、くしゃみをしたアナキンは「俺、自分が風邪を引いたということだけはわかりました」と、答えた。
*だから、子羊、実は子羊の皮を被っているだけじゃ?
オビ=ワンがまだ、パダワンだった頃の話だ。
「マスター、赤い髪の女性は、最近来ませんね。どうしたんですか?」
「……ねぇ、前の女のことばかり話す男って最低だと思わない?」
最近クワイ=ガンの周りにちょくちょく現れる女がオビ=ワンに聞こえるよう大きな声で嫌味を言った。
オビ=ワンは彼女を振り返るとにっこり笑った。
「大丈夫ですよ。あなたの前で、マスターは、そんな失礼なことはしません。まぁ、次の女の話はするかもしれませんけどね」
*ピピー。スピード違反です。
ものすごい速度を出すアナキンのスピーダーに乗せられたオビ=ワンは、地上に足が着くなり怒鳴った。
「お前! どうしてあんな運転を!」
オビ=ワンは顔の色をなくしている。
「マスター、今日は追い風がきつかったんですよ」
アナキンにも反省の色は無かった。
*現状把握
その日、クワイ=ガンは特別に講義を受け持っていた。
「さぁ、もし、とてもチャーミングなお嬢さんが、そこの角で、得体のしれないクリーチャーに抱きつかれ、無理やりキスされそうになったと訴えかけたとしよう。さて、君たちならどうするね?」
「はい。もしかしたら、キスをしようとしたのではなく、捕食活動中だったという可能性もあるので、注意してそのクリーチャーに接近します」
「はい。私は、まず、その女性の保護が第一だと思います。もっと詳しく事情を聞き、情報を分析してからクリーチャーの捕獲に入るのが正しいと思います」
嫌そうに、オビ=ワンが手を上げた。
にこやかに笑ったクワイ=ガンがオビ=ワンを指名する。
「ほかの先生方なら、今までの答えで正解だと思うのですが……、まず、その女性に協力してもらい、詳しい現場の再現をします……そうですよね? マスター」
「正解だとも、マイ・パダワン。私は、とてもチャーミングな女性だったと言っただろう? なぁ、諸君」
*困ったな
オビ=ワンはアナキンの弁護をしていた。
「それは見間違いだ。メイス。アナキンはそんなことをする子じゃない。もう一度よく探してほしい。絶対にアナキンは、そんなことはしない!」
メイスが次の講義のために用意していた作文の用紙が紛失したのだ。
オビ=ワンは、弟子の無罪を強く主張している。
「絶対にアナキンなんかじゃない。たとえ、誰かがアナキンをその付近で見かけたと言っていたのだとしても、決してアナキンなどではない」
「ああ、悪かった。疑った私が悪かった」
十中八九、アナキンが犯人だと未だ思いながらも、メイスは、真剣になって弁護するオビ=ワンの手前、その場を引いた。
メイスが立ち去った後のアナキンは、きょとんとしている。
「もう大丈夫だ。アナキン。しかし、お前も、いきなりメイスに怒られて一言の反論もしないなんて、そんな情けないことじゃいけないぞ。いつまでも、私を頼るばかりじゃだめだからな」
オビ=ワンは、罪を着せられそうになっていたかわいい弟子の頭を撫でる。
「ほら、無罪放免だ。もう行っていいぞ」
「えっと」
アナキンは、困ったように頭を掻いた。
「ねぇ、マスター、俺の机の中にある作文用紙は、どうしたらいいと思う?」