日記に書いていたSS 1

「ねぇ、マスター。俺、絶対今日の呼び出し、小言だと思うんですよ」
アナキンは、嫌そうにエレベーターの釦を押しながら、オビ=ワンに言った。
音もなく上昇し始めたエレベーターの中には、暖かな日差しが差し込んでいる。しかし、その優しい光を裏切るようにアナキンの顔は暗い。
元弟子は、ローブの肩を落とし、大きなため息をつく。
「小言だと思うということは、心当たりがあるということなんだろう?」
オビ=ワンは、口元に穏やかな笑いを浮かべた。元師匠は、ぐだぐだとあまりにも家から出ない元弟子の様子に、仕方なくテンプルまで同行したのだ。テンプルに着き、自分の用のために道を分かとうとした師を、弟子は引きとめ、もうこれを降りれば、目的の部屋の前だというエレベーターにまで一緒に乗せている。
「ある……っていうか、……心当たりが多すぎるというか……」
オビ=ワンは、ナイトにもなって未だ自分をマスターと呼ぶ元弟子をやれやれと見つめた。
「俺、何やっても文句をつけられるんですよ。マスターに学んだとおりやってるつもりなんですけどね。どうしてなんだろう。何がいけないのかな」
アナキンは手を口元へともっていき、いらいらと爪に歯を立てる。
「こら、噛みすぎるとそこからばい菌が入るって言ってるだろう。任地では、それが命取りになることだってあるんだぞ」
オビ=ワンは、弟子を叱った。
「それから、アナキン。私は、お前の任務への取り組み方を尊敬しているよ。お前は、いつだって真摯に取り組んでいる。ただ、ちょっと、やり方が荒っぽいがな」
オビ=ワンの笑顔は、エレベーターの中に差し込む太陽の光より、まだ暖かだった。しかし、笑顔に励まされるどころか、アナキンは唇をかみ締めている。
「…ああ、胃がきりきりしてきた」
気が強いくせに、いや、気が強いからか、人から叱責を受けることにいつまでも慣れない元弟子の背中をオビ=ワンが叩く。
「ほら、しっかりしろ。マイ・プレシャス」
「……しっかりなんて出来ません。ねぇ、マスター、アレ、してください。アレ、してくれたら、きっと大丈夫ですから」
「あの、おまじないか?お前は……いつまでも、甘えることばかりして……」
オビ=ワンは、仕方なさそうに笑いながら、アナキンの首へと腕を回し、自分より大きな元弟子を抱きしめた。
小さな頃から繰り返してきたように師は、弟子の唇にキスをする。
自分にプレッシャーがかかると、すぐ口元に手を持っていき、爪を噛むという癖からもわかるように、アナキンの唇は、性感帯として発達している。
そこを刺激されるのが、とても好きなのだ。
そして、オビ=ワンもアナキンに口付けるのが好きだ。
オビ=ワンは、アナキンを甘やかしたい。
元師は、アナキンが自分の手元からどんどん離れていってしまうことを寂しく思っているのだ。

弟子が、師の柔らかな髭を食むようなそんな毛づくろいにも似たいちゃついたキスを師弟が繰り返しているうちに、音もなく上昇していたエレベーターが、やはり、音もなく扉を開いた。
「マスターケノービ……」
自分より大きな弟子を抱き、伸び上がるようにして口付けているオビ=ワンの名を呼ぶものがいた。
抱き合っている二人が、お互いに回した腕もそのままに振り向くと、そこには、大勢のジェダイマスターたちがいる。
半数は、唖然とした表情で、そして、残り半分は、仲の良すぎる元師弟をいつものことだと、呆れつつ、笑っている。
メイスが怒鳴った。
「この、馬鹿師弟!」
今日は、任務の達成率が良いアナキンをワンランク上の任務につけるため、下打ち合わせが行われるはずだったのだ。
それなのに、アナキンときたら、師匠であるオビ=ワンを引き寄せ、抱き上げんばかりに口付け、離れようとしない。
そして、その元師も、ナイトへと昇格した元弟子相手に、おまじないのキスとやらをし、髭まで濡らしている。

結局、アナキンの予想が当ることになった。メイスの小言が頭の上から降ってくる。
しかし、予想と違うところは、アナキンばかりでなく、オビ=ワンも、その小言は降りかかったところだった。
「マスター、俺がついてきて欲しいなんて言ったから。すみません……」」
アナキンが、こっそりオビ=ワンの手を握り、ひそりと呟く。
「いいや、私こそ、お前の折角のチャンスを邪魔して……」
オビ=ワンは、アナキンの指を握り返す。
「お前ら、本当に反省してるか!?」
多分、していない。いや、きっと、どう反省すればいいのか、お互いにべったりと愛し合っているこの師弟はわかっていない。