どうすればいいのか

 

野外へと設置されたスピーダーの発着場所が騒がしくなり、アナキンは出かけるタイミングが遅くれたことに、小さくため息を吐き出した。

乱暴に止められたスピーダーから人の飛び降りる音がする。それを追うようにもう一台が滑り込んでくる。エンジン音から推測するに、後続のスピーダーが行ったスピンが成功したのは、性能のためではなくたまたま運が良かっただけだ。

「うるさいっ! ついて来るなと言っただろう!」

「あんたさ、あんた! そんな自分の都合ばっかりでいいと思ってるのかよ!」

「うるさいっ! 帰れっ!」

怒鳴りあう声は、いつも通りの騒々しさで、どうしてこう自分の師匠は上手くないのかと、アナキンは思う。アナキンとしても、出来ることならば自室へ引き取り、この嵐が過ぎ去った後に出かけたい。だが、約束の時間が迫っていた。

「待てよっ!」

「ついてくるなと言っているっ!」

どうやら男は、不安定な位置へと無理やり止めたスピーダーから降りるのに苦労している様子だった。勿論ジェダイであるオビ=ワンはとっくにスピーダーからは離れ、部屋に入ろうとしている。

「おかえりなさい。オビ=ワン」

姿を現したオビ=ワンに、仕方なくアナキンは声をかけた。オビ=ワンが一瞬驚いた顔をする。そして、バツの悪い顔で後ろを振り返る。オビ=ワンを追っていた男は、やっとスピーダーから降りることに成功したようだ。転がるようにして部屋へと飛び込んできた。

「待てって!」

オビ=ワンの腕を掴んだ男は、食いつかんばかりにアナキンの師匠へと顔を寄せたが、もう一人部屋の中に人がいることに気付き、驚いたようだ。

男にじっと見つめられ、アナキンは気まずい思いをした。師匠とただならぬ関係にある男と顔を合わせたからではない。相変わらずのオビ=ワンの趣味にだ。

 

「げっ……」

男は驚きの声を上げた。

「……本物?」

男は自分が掴んでいるオビ=ワンをマジマジと見つめる。そして、穴が開くほど、アナキンの顔を見る。

「今回はかなり似てますね」

アナキンはぼそりと感想を述べた。オビ=ワンが面白くなさそうに小さく鼻を鳴らす。

「えっ、本当なのか? あんた、ほんとに、オビ=ワン・ケノービ? えっ、マジ? 嘘だろ……」

近頃の整形技術は実に手頃で、若者たちは簡単に自分の顔を弄っていた。勿論、技術と値段は同じカーブの曲線を描くため、手直しではなく、もうワンランク上の技術である誰かに似せた顔を作るのは、上出来なものに出会う確立は低い。それでも、ホロネットのヒーローであるアナキン・スカイウォーカーは町に溢れかえっている。勿論、顔に傷があるせいで、アナキンなのかもしれないと思わせる程度が殆どだが、骨格が似ているからだろう。その中でも、この男はかなりアナキンに似ていた。顔だけでなく、雰囲気まで近いものがある。

 

「離せ」

低いオビ=ワンの恫喝に、男は思わず掴んでいた手を離していた。

「あんた、マジで、オビ=ワン・ケノービだったのか……?」

やはり、男は、オビ=ワンを偽者だと思っていたのだ。いや、だが、こう思うのは普通のことだ。残念ながらアナキンを異端児だと崇め、憧れる男たちは、ジェダイの伝統の継承者だと評判のオビ=ワンについて細部まで知ろうとするほどの興味を持たない。もし、性嗜好として、そっちもいけるのだとしても、似ている、というだけで十分だ。

「そうだ。始めに言っただろう?」

「だって、そんな、嘘だと思うだろ。……普通、嘘だと思うだろ」

自分の遊び相手が本物のジェダイだったと知り激しく動揺する男が、あまりに自分に似ているため、アナキンは実に居心地の悪い思いをした。

オビ=ワンは、つまらなそうに言い捨てた。

「私だけでなく、アナキンにまで会えたんだ。もう、十分だろう? さぁ、帰ってくれ」

「……えっ?」

別れ話を蒸し返され、男は驚きのあまり、かなり間の抜けた顔になった。だが、男にとってもオビ=ワンが本物のジェダイであるというのなら、気軽な遊び相手として手出しできる相手ではない。

 

「申し訳ないのですが、これから出かけなければなりません。あなたの止めたスピーダーを退けていただきたいのですが」

礼儀正しいアナキンの言葉は、その場での態度を決めかねていた男にとって調度いい誘い水のようなものだった。

オビ=ワンに取り付く島はない。

酒場で始まった男とオビ=ワンとの関係は最初から良好とは言えなかった。それが更に関係の修復をしようもない状態になって、この部屋へとたどり着いたのだ。未練というより、男はあまりに人を馬鹿にしたオビ=ワンの態度に腹が立って、追ってきたに過ぎない。

男の前には憧れ続けたヒーローがいる。宇宙の革新者だ。アナキン・スカイウォーカーだ。

彼が、自分に話しかけている。

「ジェダイの任務?」

男の怒りに火を注いでいた酒の勢いは、今度はアナキンへと話しかける勇気を後押ししたようだ。

アナキンは鼻に付く酒臭い息の匂いに閉口した。それでも表情は変えなかった。

「ええ」

アナキンは、気の毒な男をスピーダーへとそつなく誘導しながらオビ=ワンを視界の端で捕らえていた。

師匠は、馬鹿馬鹿しい寸劇が終わったとばかりに、つまらなそうな笑いで唇をゆがめている。

「あの、誤解して欲しくないんだ。俺、オビ=ワンとは、その、無理に誘ったとか、そういうわけじゃ」

「ええ、そうだと思っています。あの人、……酷い人ですから」

笑ったアナキンの顔に、つられて男がぎこちなく笑った。笑うと、男とアナキンはあまり似ていない。年齢までも多分男とアナキンは同じくらいだろう。しかし、男の笑みはどこか無邪気だ。

アナキンは、男がスピーダーに乗り込むための手伝いをしながら、手入れの悪い計器を見た。

「さっきのような飛び方を普段からしているのなら、一度中身をばらして、……特にエンジンの調子をみてもらったほうがいいと思う」

 

 

男が飛び立ち、アナキンがスピーダーの座席へと座ると、アナキンの師匠は、ゆっくりと夜へと足を踏み出してきた。

立ち止まり腕を組んだオビ=ワンは、今の修羅場をなかったことのように師匠面でアナキンに命じる。

「アナキン、用がすんだら帰って来い」

「……今日は、帰れないかもしれなくて」

アナキンはパネルのチェックをしながら返事を返した。

あれだけの醜態の後でもオビ=ワンの面の皮は厚い。

「帰って来いと言っている」

アナキンは顔を上げた。残念だが逆光でオビ=ワンの表情は見えない。

腕を組んだシルエットは、全くいつもと変らない。

「帰ってくるな。アナキン」

「……努力はします。マスター」

 

 

テンプルから帰ったアナキンが見つけたのは、飲みすぎで潰れている師匠の姿だった。

仕方なく、元弟子はカウチで眠ってしまっている師匠の手から握られたままのグラスをもぎ取る。軽い苛立ちのままに弟子は師匠の頬を二度ほど張り飛ばし、するとオビ=ワンはうっすらと目を開けた。

「おかえり。アナキン」

とろりと酔いで瞳を緩ませているオビ=ワンの腕が伸びて、アナキンの首を抱いた。アナキンに叩かれ頬を赤くしたままのオビ=ワンの首がもたげられる。緩やかに開かれたオビ=ワンの唇はキスを望む形だった。

アナキンはいつもどおり機械的に酒臭いオビ=ワンの唇を塞いだ。オビ=ワンが嬉しそうに笑う。

憮然としながらも、気遣う瞳を隠せずにいる弟子の背中を酔った師匠が力加減もせず叩く。

酒臭い息がアナキンへと吐きかけられる。

「アナキン。わかってるだろうな。お前の師匠は慰めを必要としているんだ」

 

 

自分で歩こうともしない師匠を引きずるようにしてアナキンはベッドへと転がした。アナキンは、もう何度もこんな夜を経験していた。アナキンがナイトの位を授与した頃から、果たしてこれで何度目になるのだろう。

アナキンは、師匠の望みも、そして、その望みであるこれから行うセックスも、結局はオビ=ワンを満足させることができないことを知っていた。男との修羅場の前にもどうやら散々飲んでいたようだが、師匠は更に酒を重ねている。オビ=ワンは飲みすぎており、この状態では、楽しむどころかなかなかいけずに苦しくなるだけなのだ。

ベッドに横になったまま、ごそごそと服を脱ぎ始めたオビ=ワンは、アナキンを見上げ、力の抜けた幸せそうな笑みを浮かべていた。

「お前は、私の男に似てるからな。仕方ない。お前で満足してやるよ」

オビ=ワンは軽く腕を上げて、アナキンを抱き寄せる。アナキンは、師匠の腕の中へと抱き寄せられた。

「マスター……」

額を寄せ、間近の青を見つめる。これだけ酔っているというのにオビ=ワンの目にははっきりと意思がある。

口付けを拒まない。

それどころか、オビ=ワンは自分からアナキンへと舌を伸ばした。オビ=ワンの方が食らいつくようにアナキンへのキスを求める。

アナキンはただ、抱きしめていただけだった。

アナキンの唇を吸い尽くし、濡れた舌をひらめかせた師匠は、酒でとろりと色気の増した目をしてアナキンを押し倒すと上へと圧し掛かった。

オビ=ワンの金髪が、するりとアナキンの下肢へと逃げていく。

自分の上唇を舐める師匠が、アナキンのレギンスに手をかける。金具は簡単に外された。

オビ=ワンの手が布をかき分ける。ペニスを探し当てたオビ=ワンが火照った手でそれを握った。

普通の状態というには少しばかり固すぎるそれに、オビ=ワンは意地の悪い笑みを満足そうに浮かべる。

そして、師匠は、躊躇いもなくそれを口に含むのだ。

夢中になってじゃぶる師匠を、アナキンはただ見下ろしていれば良かった。

オビ=ワンは口ひげが唾液で汚れることも気にせず、アナキンのペニスへとむしゃぶりついている。

「どうだ? いいか?」

生暖かい口内にアナキンのものを含んだまま、見上げてくる目はこんなことに慣れている。

アナキンは小さな笑みを唇へと乗せた。

「いいですよ」

実際に濡れたオビ=ワンの口を使うのはとてもいい感触で、彼が唇で熱心にペニスを扱けば、アナキンは、オビ=ワンを師匠として敬わなければならないことを忘れ、その顔を掴んで自分勝手な方法で使いたくなるほどだった。

多分、オビ=ワンもそれを望むだろう。

しかし、アナキンはしたくない。出来る限り、それはしてはいけないことだと思っていた。

アナキンは手を伸ばしてオビ=ワンの汗に濡れた柔らかな髪へと触れた。師匠は、しばらくの間、自分に触れてくる手の感触を楽しんでくれていたようだが、やはり、邪魔だったらしい。頭を振って手を嫌がったオビ=ワンが、きつくアナキンのペニスを吸い上げる。舌を使って先端を舐めることも忘れない熱心さで、

「マスター。……それ、ちょっとヤバイ」

アナキンは、オビ=ワンの頭を掴み、動きを邪魔した。それでもしつこく舌を這わせ、アナキンを味わうオビ=ワンは手を振り払うために頭を振った。濡れた口から興奮に逸る息を吐き出しながら、師は青い目へと軽蔑の色を浮かべ、鼻を鳴らす。

「ちっ、だらしのない」

 

まだ、パダワンだった頃のアナキンは、いまより更に思い上がっていた。

「俺も、あなたのことが好きですよ。マスター」

暑かったあの日、それまで頭を寄せ笑っていたオビ=ワンの表情が凍りついたことに弟子が気付いた時には、もう遅かった。

幼い日には奴隷ではあったもののジェダイとしての締め付けも知らずに育ったアナキンは、自分を見つめるオビ=ワンの視線に含まれる気持ちに気付けたのだ。だから、弟子は、師匠に言わせれば、中身がないから背が伸びるのだという頭でしばらくは本気で悩み、結論を出すと誇らしい気持ちで胸を高鳴らせることすらして囁いた。自分にはオビ=ワンの気持ちを受け入れる余地があるのだと。

アナキンは、本当に、極まれにだが、じゃぁ、あんな目をして俺を見なければ良かったんだ。と、オビ=ワンをなじりたくなる夜がある。

それよりもっと多くの夜を、何故、師匠の危うさに気付いてやれなかったのか。と、自分をなじる。

 

諦め悪くいつまでもアナキンのペニスへと口付けていたオビ=ワンが、やっと口元を拭った。

それでもペニスを掴んだ手を離そうとはしない。すっかり衣装の紐を解き、アナキンの太腿へと乗り上げている師匠は、自分の口髭を濡らすアナキンの先走りを指で拭い、いやらしく舐めながら、アナキンをどうしてやろうかと酔った頭で楽しそうに考えているようだ。強くペニスを掴む指の力は、そう簡単には許してやるつもりがないという師匠の気分のあらわれだ。口の中で舌を動かし、オビ=ワンは自分の作り出す小さな快感を味わっている。

 

アナキンは、自分の上に乗っているオビ=ワンの太腿へと手を這わせた。

じりじりと奥へと指を這わしていけば、オビ=ワンの体がぶるりと震える。肌は汗で湿っていた。酒のせいもあり、体温は高めで、いつもより体臭が濃い。

オビ=ワンの手が、アナキンの腕を叩いた。

「誰が触らせてやると言った?」

憎々しいこの顔を、一体どれだけの男が見たのだろう。傲慢で挑発的な表情は、戦地でなら、相手の焦りを誘う。だが、ベッドでは嗜虐心を煽る以外の効用があるようには思えない。

しかし、師匠は、この状態で手綱を握れるだけのキャリアがあった。まるで恵んでやるように、オビ=ワンは、アナキンの手を取り、自分のペニスへと触れさせた。

場にそぐわぬほど、にこりと、笑う。

「触りたいんだろう?」

アナキンは、深い酔いの為中途半端にしか勃起していないオビ=ワンのペニスに触れた。手に握って扱いてやれば、オビ=ワンは自分から腰を振ってアナキンを煽った。柔らかなオビ=ワンの尻と、ペニスの後ろにあるもっと柔らかな二つの玉が、アナキンの太腿にこすり付けられる。白い太腿はアナキンの足を強く挟み込んでいた。

オビ=ワンはアナキンにペニスを扱かせながら、キスをして欲しがる。

そしてキスに飽きると、アナキンの上から足を大きく開いたまま降り、自分で膝を抱かえてみせる。

開かれた股の間の赤くなって窄まっている尻の穴は、アナキンから丸見えだった。

オビ=ワンは、隠すためでなく、それよりも見せ付けるために、自分の手をそこへと動かした。

指が、尻の穴の縁へと置かれ、そこでゆっくりと皺を引き伸ばしていく。

「アナキン。おいで」

 

弟子の告白を聞いた師匠は、暫くまるで何もなかったかのように振舞っていた。

さすがのアナキンも、自分の声が聞こえなかったのかもしれない。と、思うほどには馬鹿ではなかったが、師匠が気持ちを落ち着けるためには時間が必要なのかもしれないと、幸せな誤解をするほどには、まだ子供だった。

だから、その期間が、三月を過ぎ、半年を過ぎ、一年を過ぎる頃には、弟子は、師匠が自分から目を反らす違和感に悔しさこそ感じたものの慣れてしまった。若いアナキンには学ぶことが多くあり、また、簡単に手に入る刺激もたくさんあったのだ。アナキンは、オビ=ワンの気持ち汲み、『受け入れた』つもりだった。

だから、何も、自分から持ち出すべき話ではないと。

そして、アナキンが、ナイトの位を授与する頃になると、オビ=ワンの視線が、また自分へと戻り、そこに離れがたいほどの熱情を感じると内心アナキンは溜飲を下げていた。

(いままでよく我慢しましたね)

しかし、そこで若いナイトは驚愕する。

 

何気なく開いた共有のボイスメッセージに、オビ=ワンを「プッシーちゃん」と呼びかける男の声が残っていた。猥雑な口調は口の悪いオビ=ワン以上にスラングに長け、思わず赤面したアナキンは、隣に立つオビ=ワンの首を締め上げるようにして問い詰めた。オビ=ワンは至極簡単に、関係を認めた。

「わかった。……じゃぁ、これからは、お前と共有のものは使わないようにする」

アナキンは、それから、見せ付けられるように幾度もオビ=ワンの男を目撃した。

それは、全て、自分に似ていた。

いや、オビ=ワンに言わせれば、「お前は、私が好きになるタイプによく似ているな」と、言うことになる。

長くは続かない付き合いばかりだというのに、オビ=ワンはそのどれもアナキンに隠さなかった。

それどころか、終われば、アナキンに慰めを求めた。酔った師匠はアナキンに言った。

「お前、あいつと似てるな……なぁ、……私としてみたくないか?」

プライドの傷つけられたアナキンは、師匠を殴った。しかし、床へと吹っ飛ばされるほど酷く殴られながら、オビ=ワンは殴り返したりしなかった。

やりたくないのならいい。と、赤く腫れた頬もそのまま、一旦自室に引き上げる。だが、更に酒臭さに包まれ、夜中にはまた、意地汚く現れて誘うのだ。

「なぁ、アナキン……」

 

アナキンは、腕の中にオビ=ワンを抱き込み、師匠の尻穴へと固いペニスの位置を定めた。

ずぶりと、オビ=ワンの唾液で濡れたそれを押し入れれば、無理に体を開かれる違和感に、一瞬、師匠の体が逃げる。

アナキンは、オビ=ワンの肩を掴み、逃げるのを許さなかった。それどころか、無理やり唇を合わせる。

さすがにその時のオビ=ワンに、キスに応える余裕はなかった。腹の中の異物に早く馴染もうと、懸命に繰り返している深い呼吸は、全てアナキンが吸い上げた。

アナキンは、無理やり師匠の口を塞ぐ。もがく師を決して逃がさない。

実のところ、誘う師匠の姿にどれほどの色気があろうと、アナキンは、こうやって立ちすくむオビ=ワンの姿こそに強く欲情した。

もし、あの告白がうまくいっていたら。と、夢想するのだ。

もし、……多分、それは、……。

オビ=ワンは、アナキンを受け入れながらも、戸惑いを捨て切れなかったに違いない。

アナキンは苦しいキスを嫌がるオビ=ワンの唇を覆ったまま、柔らかな金髪を撫でる。

……きっと、こんな風に。

正しいジェダイの継承者であるオビ=ワンは、アナキンと体をあわせるたびに、罪を感じ、いつでも終わりを用意したまま、心を強張らせ過ごすのではないか。

しかし、尻の穴を膨らんだペニスの体積で穿たれることに馴染んでしまえば、こわばっていたオビ=ワンの足は、アナキンのたくましい腰へと回され、濡れたペニスをアナキンの腹にこすりつけるようにして、腰を揺らしだす。しかし、酔いの深いペニスの固さは、アナキンの半分もない。

「んっ、……いい。……アナキン」

自分から持ち上げられた尻は、陰毛のざらりとした感触をアナキンに与えていた。

そこをこすり付けることになんの恥じらいも見せない柔らかい師匠の尻肉を掴んでアナキンは更に奥を突き上げてやる。

「んっ! んっ!」

オビ=ワンはむずかるような声を上げて、もっとと、アナキンに催促した。

「マスター、恥ずかしくないんですか? こんなに大きく足を開いて。尻の穴だって、こんなにどろどろに汚して」

 

穏やかで粘り強い気質のオビ=ワンはジェダイ以外の多くの人にも信用されていた。

作戦中、跳ねっ返りの弟子の手綱を上手に取る様子は尊敬を集めていた。それなのにオビ=ワンは、こと、極プライベートな関係としてアナキンと向かい合うとき、何もかも、それは思考することさえも拒否するように、何もかもを放り出した。

任務中のベースキャンプであれば、気分よく酔っ払い、よくしゃべるオビ=ワンを知っているだけにアナキンは軽い混乱に陥る。

自分をじっと見つめてくれていた師匠はどこへいったのか。いや、もう、そんなはるか彼方の幻想はいい。せめて、頼りがいのある、分別臭い師匠はどこへいってしまうのか。

 

「アナキンっ!アナキンっ!」

オビ=ワンは、狭い尻穴を何度も擦られ、もう、快感が堪えられないでいた。

いきたいのだ。とてもいきたい。しかも、絶対にいけるはずな程、強い刺激に喉は苦しく干上がり、ばくばくと心臓は波打っている。

尻の中は、もうどこを突き上げられてもたまらない快感で、アナキンにしがみついていないことには、体がばらばらになりそうだった。

それなのに、下腹にたまる射精感は、もぞもぞと重苦しく、いつまでもわだかまり、オビ=ワンに終わりの快感を与えない。

オビ=ワンは、余裕なくアナキンに、もっと強い快感を。と、ねだりながら、しかし、それが与えられることによって、もっと辛くなっていった。

とにかく出したくて、アナキンにあわせ、懸命に腰を揺する。

体中が熱くて、このままでは気が狂うと思うのに、神経の接続が間違ってしまったかのように尻で味わう快感がペニスへと直結しなかった。

射精できない不快感に、オビ=ワンは自分が涙をこぼしているのも自覚していた。

泣けてくるのだ。すごく、いい。のだ。なのに、苦しいほど溜まった性感が射精に結びつかず、もやもやとしたものが、重く下腹に沈殿していく。その不快感は耐え難く、与えられた快感が強いほど、オビ=ワンは混乱の度合いを深める。

「いやだっ!アナキン……あっ、っぁあっ!! あっ、ん、……っと、もっと!」

 

オビ=ワンはぐずぐず泣きながら、アナキンの上に圧し掛かり、力の入らなくなった腰を懸命に使った。
肌はピンクに染まっているが、渇いた唇からオビ=ワンの吐き出す息はせわしなく、最早聞いているだけでせつない。

髪が顔に張り付き、寄せられた眉の間にできた皺は、とても辛そうだ。

ベッドのシーツにはオビ=ワンが足掻いた分だけの皺が寄っていた。

苦しさのあまり立てられたオビ=ワンの爪が、また一つアナキンの肌に赤い跡を残し抉る。

「んっ、あっ……んっ……ん」

懸命に尻を振ってはいるが、過負荷となっている快感は、もはや、オビ=ワンを苦しめているだけだろう。

どうして、オビ=ワンがこんなセックスばかりをしたがるのか。

それでもいきたがる師匠のために、アナキンはせめて、充血し腫れあがっているオビ=ワンのいい部分を刺激するように、腰を突き上げてやっていた。

しかし、その快感が辛くて、オビ=ワンがまた涙をこぼす。

 

もう、どうにもいけなくて、疲れきったオビ=ワンが、やっと、自分を許した。

「……出していいぞ。アナキン」

ふらふらの体からは、力が抜けた。ぐらりと揺れる。

アナキンは、そっとオビ=ワンをベッドへと寝かしてやり、できるだけ手短にすますことの出来るよう、スピードのある挿入を繰り返す。

アナキンのペニスを飲み込むオビ=ワンの肛口は、赤く腫れてしまっている。

 



 

「……アナキン、こんな私が、お前のことを好きになって……すまない……」

アナキンのいいように揺すり上げられるオビ=ワンは、腕で目を隠してしまっていた。

涙で汚れた顔を拭う振りでアナキンの視線を避けている。

 



 

二日酔いと、ジェダイの品格にふさわしくない爛れたセックスで、疲れきった体が、そろそろとアナキンの腕の中から起き出そうとしていた。

アナキンは驚かせないようにその背中をそっと抱きしめて、肩へと小さなキスをした。

師匠の丸い肩は、緊張で強張っている。

昔の失敗を繰り返さないためにアナキンは、もう声にはしない。

 

『あなたが、まだ俺のことを愛してくれていることに気付いていてごめんなさい』

代わりにキスを。

『俺まであなたのことを好きになってごめんなさい』

キスを。キスを。

 

きっと、アナキンはまた、一月もすれば自分似の男と鉢合わせるのだ。そして、任地では気さくで話好きの師匠と、上手く作戦をこなす。

 

何も言わないアナキンに、体は強張らせたままだったが、オビ=ワンは預けた背を翻して逃げようとはしなかった。疲れで色を白くしている体は大人しく抱かれている。
アナキンは努力し、師を抱く腕に入りそうになる力を込めない。


言わない。だから、
せめて……。

 

END