僕の大好きなマスター 6

 

食事の用意に立つジェダイナイトの後ろには、よく師匠が付きまとっていた。

「マスター、ちょっと退いてください」

「あっ、そこにいるなら、塩とってくれません?」

いいように弟子に使われながらも、師匠は、そこから退こうとはしない。

いくつかの下ごしらえが終わって、弟子の動きがのんびりしたものに変わってくると、師は、鍋の中をのぞき込む振りで、弟子の背中に張り付いてしまう。

「なぁ……アナキン」

「なんですか? 腹が減りました?」

アナキンは、背中に張り付く師に慣れてしまっていて、邪魔にもせずに、鍋の中からスープを掬い出し、すこし冷ますとオビワンの口元へと運ぶ。

「……薄い……」

ただし、あくまでオビワンが背中から離れないため、アナキンは、自分の服を汚さないようとても慎重にスプーンを傾ける。

師は、顔を顰めている。

「……アナキン、味がしない」

「マスター、昨日は、俺の味付けが濃いって怒ってたでしょ?」

「お前、あれはいくらなんでも!」

「だから、今日は、薄味なんです。ちょうどいいじゃないですか。昨日、体重計乗りながら、病気の心配してたんだし」

眉を寄せたまま、塩に手を伸ばしそうな師に、アナキンは、背中へと手を回し、自分の背に当たっているオビワンの腹を撫でた。

「薄味の方がよくないですか? それとも、今日のデザートは中止にしましょうか?」

「ばっかっ! お前っ! 馬鹿!」

近頃、少しせり出してきた腹を掴まれたオビワンは、アナキンの手を逃れ、一瞬身体を逃がした。

だが、またすぐにアナキンに張り付く。

さすがに弟子に腹の肉を掴まれてしまったことにショックを受けたのか、師は、味付けの薄さについては文句を言わなくなったが、ぴったりと弟子の背中に張り付いて離れない。

「マスター。俺の服によだれを垂らさないで下さいよ」

食事を作るアナキンの背中にしばらく張り付いていると、オビワンは、意識しているのか、そうでないのか、弟子の洋服に歯を立て始めた。

柔らかく噛む歯は、決して脅威を与えなかったが、その癖は、まるで口寂しい幼児のようで、アナキンは、苦笑が隠せない。

「もうちょっと待ってください。あと少しで出来ますから。マスター」

「……なぁ、アナキン」

師の手は、アナキンの腰の辺りの洋服をしっかりと掴んでいる。

「はい?」

「それ、何日分になる?」

オビワンは、アナキンの背後で弟子の肩に顔を擦り付けていた。

「マスター、それ、やめてください。顔がかゆいんだったら、ちゃんとタオルとか、そういうので擦ってください。人の服をタオル代わりにしない」

それから、アナキンは、鍋をかき回しながらのんきに答えた。

「そうですね……マスターがやけ食いでもしなければ、3日くらいは」

師匠は、もう、これは癖としかいいようがないのだが、まだ、アナキンの服に鼻を擦りつけている。

やられるアナキンはこそばゆくて迷惑なのだが、これは、オビワンの甘え方だ。

アナキンは、肩越しに手を伸ばして、オビワンの鼻を掴んだ。

「ほら、やめて。マスター」

オビワンが、やっと顔を上げる。鼻の頭が赤くなっている。

「お前が帰ってくるのは?」

「う〜ん。5日後くらい?」

弟子は、スープの鍋を持ち上げた。

「マスター、危ないからちょっと離れて。ついでに、皿出してください」

オビワンは、唇を尖らしているが、ちゃんと皿を取り出す。

「マスター。一人になって、ちゃんとこの味のまま食べてくださいよ」

アナキンは、自分の皿から掬い上げたポテトをスプーンに乗せて着席したオビワンの口元に運ぶ。

オビワンは、むすっとしたままそれに向かって大きく口を開け、食べた。

弟子は、もぐもぐと口を動かす師を甘く見つめながら、にっこりと笑った。

「俺、帰ってきたら、久し振りにマスターの手料理とか、食べたいんですけど?」

 

 

ごく自然にいちゃいちゃしてるんですけど、わかってますか? 師匠?

ついでに、弟子にいいように使われているようですが、それも、わかってますか? 師匠?

 

END