僕の大好きなマスター 2

 

この季節に届く通知の中で、一通、必ずオビ=ワンに同じ台詞を言わせるものがあった。

「ああ、アナキン、お前、覚えてるか? ここに来た当初ときたら、お前ときたら本当にプレッシャーに弱い子で……」

嬉しそうに思い出話をするオビ=ワンの手に持つのは、テンプルで行われる小さなパダワンたちの運動会への来賓招待状だ。

アナキンは、確かに、この師のパダワンとなった年に行われた運動会で、吐いた。

しかし、それは、アナキン自身のプレッシャーによるものなどでは、決してない。

マスターになりたてのオビ=ワンは、アナキンが競技に出ようとするたび、「落ち着け」だとか、「大丈夫だ!」とか気を揉んで、レッシャーまみれのフォースで小さな弟子に集中攻撃をした。

アナキンが選ばれていた選手リレーの時など、3つも前の競技から、オビ=ワンはすっかり落ち着きをなくしていた。

小さかったアナキンは、胃だって、それほど丈夫ではなかった。

整列して待つ間に、とうとう真っ青になり、吐き戻したアナキンには、罪はない。

オビ=ワンは、例年通りの言葉を口にする。

「それでも、ちゃんと走って、勝ったよな、アナキン。ほんと、お前は凄い子だったよ」

「マスターが応援して下さっていたおかげです」

「懐かしいなぁ」

「今年は、行かれます?」

今年、アナキンは、その運動会の手伝いをするよう言いつかっていた。

オビ=ワンは、評議会入りしたその年は、義理で運動会にも顔を出していたが、それ以来行っていない。今年はどうするつもりなのか、弟子は、とりあえず尋ねてみる。

「……アナキン、お前は、行くんだったよな?」

「ええ、お手伝いを言いつかっているもんですから」

「じゃぁ」

オビ=ワンの答えなど、100パーセント決まっている。

 

運動会当日、今年のマスターの中には、オビ=ワンほど、弟子にプレッシャーをかけるマスターはなく、運動会はつつがなく進行していた。

小さなパダワン達が、走ったり、踊ったりしてみせる中、アナキンは、その運動会の中の余興みたいなものである、ジェダイによる借り物競走に参加させられることになっていた。

集まったマスターたちは、お互いに、「楽にやろう」と、牽制しあっている。

来賓席にいたはずのオビ=ワンが、いつの間にか、アナキンの側にいた。

「あのな。アナキン……」

ドキドキと不安定なオビ=ワンのフォースに触れ、アナキンは、嫌な予感に囚われる。

オビ=ワンの「落ち着け」攻撃は、翌年の運動会までに克服した。

あのプレッシャーに巻き込まれようとも、今のアナキンなら、吐き戻すような柔な精神力ではない。

しかし、師は、未だ、アナキンが競技に出ようとすると、胃の中を洗いざらいひっくり返したくなるほど、気を揉んで、アナキンをいたぶる。

しかも、今日のオビ=ワンは、何が言いたいのか、もじもじと口を開かない。

すると、側にいた別のマスターがオビ=ワンに声を掛けた。

「よう! オビ=ワン。お前、何を借り物競走の品に選んだんだ。簡単なのを選んどいてくれただろうな?」

「なんだよ。マスターケノービも借り物を書いたのか。じゃぁ、今、その内容を教えろよ。そうしたら、俺が一番だ」

笑うマスターたちの間で、困ったように微笑むオビ=ワンが微かに頬を染めているのに気付いて、アナキンは、オビ=ワンが何を書いたのかわかった気がした。

しかし、この師匠、どうして、それを弟子が間違いなく引くと思いこんでいられるのが不思議だ。と、アナキンは、ちらりと思う。

あまりにマスターたちにからかわれるので、オビ=ワンは、逃げ出した。

「頑張れよ。アナキン」

いじましく視線を残して師が立ち去るのに、アナキンは、引きつる胃に耐えながら微笑み付きで頷き返す。

 

 

競技途中、アナキンは、借り物のカードを開いて、しばし迷った。

カードには、マスターウインドゥの文字で、「友」

しかし、アナキンは走り出すと、来賓席のオビ=ワンを攫い、姫抱っこのまま、トップでゴールを切った。

係員に、カードを見せ、承認も貰う。

アナキンの腕に抱かれたままのオビ=ワンが、赤くした目元で、アナキンに、そっと尋ねた。

「アナキン……カードにはなんと?」

「恥ずかしくて言えません……でも、大事な人のことを表す言葉です」
 精悍な顔に、ハンサムな笑顔を浮かべたアナキンの言葉に嘘はない。

ただし、オビ=ワンが作ったカード、「恋人」をアナキンが引いたと誤解させるには十分な返答には違いない。

 

 

今日から、オビ=ワンにとって、秋の運動会の通知は、「幸せ記念日」という思い出がよみがえることになった。

 

 

END

 

だから、どうなのよ?(笑)