僕の大好きなマスター
アナキンの師には、いくつか好きなものがある。
その一つ、アナキンのローブ。
その一つ、アナキンの使うクッション。
そして、これが大本命だが、師は、アナキンがとても好きだ。
それは、アナキンが、テンプルへと呼び出された昼下がりのことだった。
急な呼び出しに、慌てて用意をし、飛び出すジェダイナイトを機嫌良く師は送り出した。
今日は、とても天気のいい日だった。
師は、アナキンのいない隙に、やりたいことあった。
挨拶も忘れ、飛び出した精悍なジェダイナイトを見送ったオビ=ワン・ケノービは、まず、弟子の部屋に押し入った。
子供の頃と変わらず、床の上に散らかる工具にぶつくさと文句を言いながら、師は、目当てのものを手に、嬉しそうな笑みを浮かべる。
手に握りしめたのは、アナキンが忘れていったローブだった。
オビ=ワンは、アナキンがそれを忘れて飛び出していくのに、あえて注意をしなかった。
ローブを手に、オビ=ワンは、リビングに向かう。
リビングには、オビ=ワンの好きなアナキンの使うクッションが待っている。
鼻歌でも歌い出しそうに幸福な顔をしたオビ=ワン・ケノービは、十分に光の差し込むリビングで、アナキンのローブを抱きしめ、クッションに頭を埋めて、お昼寝としゃれこんだ。
この後、天気が急変することなど、オビ=ワンは知らない。
アナキンは、急に降り出した雨に、ローブを忘れたことに気付いた。
ずぶぬれで、テンプルに向かい、文句を言われる煩わしさに、家へと戻る。
急ぎ足で、リビングを横切ろうとして、なんとも幸せそうな師をみつけた。
師は、アナキンのローブとクッションに、緩んだ口元からよだれを垂らして、すっかり寝入っている。
多分、眠った時は、温かかったのだろう。
日の陰った今、師は、身体を丸め、胎児のような形をして、アナキンのローブにしがみついている。
アナキンは、あまりにもかわいらしすぎる師の態度に、小さくため息をついた。
自分の部屋に引き上げ、掛け布団を剥いでくる。
オビ=ワンにそっと着せかけ、それから、師を呼んだ。
「マスター。すみません。マスター」
オビ=ワンは、嫌そうに首を振り、アナキンのローブをきつく抱きしめた。
「マスター。起きてください」
アナキンは、薄く開いたままのオビ=ワンの唇をそっと奪う。
息苦しさと、違和感に、オビ=ワンの目が、ゆっくりと開いた。
だが、師匠は、事情がわかっていない。
ただ、寝顔を弟子に見られたと、慌てたようによだれが伝う口元をぬぐう。
惜しいかな、髭が濡れたままだった。
「すみません。マスター。お休みのところを」
「あれっ、お前、アナキン!」
慌てて飛び起きたオビ=ワンの柔らかな髪は、寝癖がついていた。
アナキンは、それを目に留めながら、神妙に、手を差し出す。
「申し訳ないのですが、雨が降って来たんです。マスターの下敷きになっている俺のローブ、返して頂いていいですか?」
アナキンのローブは、オビ=ワンの下敷きというよりは、大事に大事に、師匠の胸へと抱かれていた。
おまけに、よだれのシミ付きだ。
しかし、アナキンは気付かない振りをした。
「こんなところに置きっぱなしにした俺も悪いですけど、マスターも、人のローブを踏みつけにしないでくださいよ」
軽口を叩く弟子は、オビ=ワンが、恐る々々差し出したよだれのシミ付きローブに袖を通す。
はっきりと見えるシミの形に、オビ=ワンが赤面した。
「あっ、あの……アナキン……」
「なんですか? マスター、俺、急いでるんで、もう行かなくちゃならないんですけど」
早足で歩く弟子の後を、アナキンの上掛ける布団を手にしたままのオビ=ワンが付いていく。
「アナキン、あの……アナキン」
「急いで戻ります。マスター」
アナキンは、雨の中に飛び出した。
大降りになっていた雨に、ローブのシミは、すぐに隠れる。
オビ=ワンは、ほっとした。
「ああ、アナキン、行っておいで」
無意識らしいが、オビ=ワンの手は、しっかりと、新たなアナキングッズである掛け布団を握りしめている。
オビ=ワン・ケノービの大好きなモノ。
それは、彼の弟子。
昼寝を起こされるのだったらば、キスで起こして貰いたいと思うほど、この師匠は乙女だが、鈍感なので、実際自分がキスで起こされたのだということに気付いてない。
END
どうなのよ?(笑)