アンドロイドの恋人(朝のお出かけ編)

 

私の名前は、オビ=ワン・ケノービです。あっ、すみません。これは、私の旦那様であるアナキン様がお呼びになるときの通称でした。

私の正式な名前は、O1です。

登録名には、アルファベットと数字を組み合わせなければならない決まりだそうで、アナキン様が色々考えた挙句、私のモデルでいらっしゃるケノービ様にちなみ、こう名づけてくださいました。

私の仕事は、アナキン様を元気付けてさしあげること。

ええ、元々高性能セクサロイドなので、ソレも含めてのことなんですけど。

 

「オビ=ワン。オビ=ワン。オビ=ワン!」

「アナキン……」

アナキン様の憧れの人であるオビ=ワン様とそっくりな私をアナキン様は、とても愛してくださいます。アナキン様がお出かけになる前などは、それはもう離れがたいと思ってくださるようで、大抵、この抱っこちゃんスタイルになります。あっ、しがみついているのは、アナキン様です。

「……アナキン。迷惑なんだ。離れてくれないか?」

アナキン様との応対は、オリジナルであるオビ=ワン・ケノービ様の行動様式を基本としております。そのため、腰にしがみついて、顔を摺り寄せているアナキン様を、私は呆れた顔で見下ろします。

アナキン様は、銀河に名高いジェダイナイトだということですが、本当にかわいらしい方です。ですから、私自身の希望を申しますと、すぐさまアナキン様の頭を撫でて差し上げ、ご主人様が満足なさるまで、膝枕などして差し上げたいところなのですが、それでは、リアリティがないと、アナキン様がおっしゃるので、私はため息などをつきながら、腰に顔をこすり付けているアナキン様を長い間見下ろし、そして、やっと、その髪にそっと触れます。

しかし、ここがポイントなんだそうなのですが、アナキン様が、はっと、顔を上げられた時には、恥ずかしそうに目を伏せて、すぐさま手を離すのです。誤魔化し方は、わざとらし方が良いとされております。

表情は、分類5の緊張し少しこわばった頬。目元は赤くしながらも、目自体は、つんと冷たく、堅固に、です。

アナキン様のご注文は難しいです。元々私にプログラミングされているセックスソフトでは、こういった場合、まるでママのように赤子と化して駄々を捏ねるご主人様をあやし、可愛がって差し上げることが選択順位の優位なのです。あっ、ぐずって泣き出したご主人様のおしめを替えて差し上げるというのも結構高い順位にあります。結構、こういうのがお好きな方が多いんです。

アナキン様は、情けなく眉を寄せ、見上げてきます。

「……オビ=ワン、撫でてくれないんですか?」

「なんで私がそんなことをしなければならない……」

私は、撫でていたはずの手を背中に隠し、嘯きます。その時、背中で手をにぎにぎするのが、オリジナルの基本行動です。私は、情報収集の際、それを発見しました。

「アナキン。お前、さっさと行かないと、遅れるぞ」

オリジナルは、決してアナキン様を抱き返したりしませんので、私も、アナキン様に腰にしがみつかれたまま、床に膝をついている若者を見下ろします。言葉も冷たさを装って言い捨てます。

しかし、頬は赤いのです。

「嘘つき。マスター、今、俺の髪に触ったじゃありませんか!」

「触るもんか。お前の勘違いだ」

わざとらしい、大いに呆れたというため息を一つ。

「オビ=ワンの嘘つき。嘘つき。嘘つき!そんな嘘をつく人には……」

 

私は、恐る恐るアナキン様を伺うように見ます。

けれどもあくまでも、ジェダイとしての品格を忘れない程度にです。

大げさに恐がっては、アナキン様のご不興を買います。

わがままな弟子が、また何を言い出すのか。という私の表情に満足そうなアナキン様は、にんまりと幸せそうに笑われました。ご主人様が幸せなことは、私にとってもとても嬉しいです。

「そんな嘘つきのオビ=ワンは、お尻ペンペンの刑をします。下だけ脱いでください」

「えっ!?」

ここから先は、私も、オリジナルのサンプルデーターを未取得なため、アナキン様のご希望と、自分の中にインストールされているデーターを元に行動することになります。

きっとこの場合、オリジナルの行動は、アナキン様の頭をひっぱたくだと思われるのですが、勿論アナキン様のご希望が優先されますので、そうはしません。また、私の初期データーでは、こういった場合、素直に、もしくは、乗り気で脱ぐというものが上位選択肢なのですが、アナキン様との交流を通し学習した私は、恥じらいをメニューとして選び出します。

「……い、嫌だ」

私が、馬鹿を見るような目でアナキン様を見つめたりせず、頬を赤くし、少し脅えているようにも見せると、アナキンさまの脈拍が速くなります。

さらに、私は、未だ腰にしがみつくアナキン様を引きずったまま、落ち着きなく一歩後ろに下がります。

あっ、言い忘れましたが、私は勿論市販品などでなく、とある任務でダミーが必要となったオビ=ワン・ケノービ様のため安価だった人型セクサロイドから改造して作られ、任務終了後、廃棄されようとしていたのですが、それをアナキン様が入念に改良されたアンドロイドなのです。最初の任務をこなすために改造された際、バトルドロイド並みの身体能力も付加されました。ですから、アナキン様が腰にしがみついていたところで、軽々と後ろへと動くことができます。

アナキン様は、強気の顔で私を見上げます。

「何が嫌ですか。だめです。オビワン。あなたは嘘をつく癖があるから、罰を与えて矯正します」

私に床の上をずるずると引きずられている情けない姿なのですが、アナキン様はハンサムな表情のままでした。あっ、そういえば、一度、背中からアナキン様に抱きつれたままオビ=ワン様が、ずるずると部屋の中を歩き回っていてらっしゃるのを拝見したことがあります。オビ=ワン様もずいぶん力強い方です。

「いやだ。ダメだ。……そんな……アナキン」

宇宙に名高いジェネラルケノービが、困惑の表情をみせ、頼りなくアナキン様を見つめます。

これは、一度もオリジナルから採取したことのない表情なのですが、アナキン様にとても好まれています。

「だめって。……そんなかわいい顔してみせたところでだめです。オビ=ワン」

「でも、尻を叩くなんて……」

そう言った私の手は、悔しさを装いレギンスに皺が寄るほどぎゅっと掴んでいます。それは恥じらいの表現方法でもありますが、出掛けの時間のないときですから、アナキン様が次の行動に移りやすいようにという配慮でもあります。

「何? この手は? 自分で下げる準備?」

勿論、アナキン様はそのきっかけを上手く掴んで、ちろりと意地の悪い表情で見上げます。

目は、下げないの?と、促しています。

しかし、違うのです。ここで、素直に下げてしまっては、アナキン様の呼吸回数が平常値に戻り、「シラけた」となります。私は、ぎゅっと唇を噛んで、小さく首を振ります。

「違う。……そんなんじゃない。アナキン……」

「じゃぁ、なんで?」

 

いや。嫌。いや。嫌。

とにかく、アナキン様は、もじもじと嫌がるオビ=ワン様が大好物です。

ですから、私は、34歳の髭面で、もじもじと、小さく首を振り続けます。

いや。嫌。いや。嫌。
アナキン様がため息をつきます。

「……しょうがないなぁ.。オビ=ワンは……」

アナキン様が私の目を見上げます。

「オビ=ワンはお尻を叩かれるのが嫌なんですよね?」

私は、小さくこくりと頷きます。

オリジナルが時に恐怖のジェネラルと呼ばれる交渉人であっても、ここは、「こくり」です。

目じりに皺が寄る年であろうと、コクリです。

「じゃぁ、お尻は叩かない。でも、代わりに、あなたのお腹にキスをさせて」

アナキン様が要求されていることの内容に気付きながらも、私は、オリジナルの天然ボケを装って、明らかにほっとした顔で、腹を突き出します。

「そんなの、キスすればいいだろう?」

私の声には、笑いさえ含まれます。

セックスすることがお仕事の私にとって、実は、このあたりのオビ=ワン様を装うことが反対に恥ずかしかったりします。

「マスターってば!」

楽しげに笑ったアナキン様が、私のベルトを外しだします。

私は、慌ててその手を押さえます。

「何をするんだ。アナキン!」

「俺は、直接あなたの腹にキスするんです。そんなの当たり前でしょう?」

 

イヤイヤイヤ。ダメダメダメ。でも、でも、でも。

 

散々アナキン様の手を煩わせ。

ですが、勿論、アナキン様の出勤時間を計算している私は、焦らしに焦らしたアナキン様の前で、『……本当はイヤなのに……』という雰囲気を十分にかもし出しながら、レギンスを下ろし始めます。

アナキン様の小鼻が膨らんでいます。

ちろりと、アナキン様を見つめ、はぁっと、せつないため息を付きながら、私は、ゆっくりとレギンスを太腿へと下します。

「ほら、キスしろ」

やけくそのように言い捨てるのがアナキン様のお気に召します。

アナキン様の荒い鼻息が腹の毛をくすぐります。

「いいえ、まだ、下着があります」

「腹なら出しただろう?」

オリジナルお得意の嫌そうな物言いは大分得意になりました。

アナキン様の目がきらきらと光っています。

「だめです。ちゃんと下着も下して、そして、チュニックを捲ってくれなきゃ、俺はキスしません!」

 

ずるり。

 

きっぱりとアナキン様がそうおっしゃったら、私は、思い切りよく下着を下します。

面倒ごとが長引くと、オリジナルのオビ=ワン様は、時々、それまでからは、信じられない暴挙にでるのです。

小さな例えですが、オビ=ワン様は、アナキン様がこつこつと作り上げていらっしゃったメカをひっくり返したとき、最初はネジを拾い、ビスを留め、と、なさっていたのですが、次第に面倒になったのか、全てをゴミ箱へポイっと捨て、何事もなかったかのように、力技で片を付けられたのです。ここではその時拝見したオビ=ワン様の行動様式を参考にさせていただいております。

そして、こうすると、アナキン様の興奮度は一時的に下がるのですが、その後、金髪のジェネラルがチュニックの裾を震える手で持ち上げ、顔を真っ赤にしたまま、頑なに俯いていると、すぐに脈拍は速くなります。

鼻息の荒さも元通り。

「オビ=ワン……」

アナキン様は、金色に光る私の陰毛を見ながら、うっとりと目を細めていらっしゃいます。

視線が少し上向きですので、腹毛を見て、うっとりされていらっしゃるのかもしれません。

私は、床に視線をさまよわせながら、身体を硬くし、簡素なジェダイ服のチュニックの裾をぎゅっと掴んでいます。

清潔な白のチュニックには完全に皺が寄っています。

震える手は、時間とともに、持ち上げていた裾の高さを保てなくなり、次第にずるずると降りていくのですが、はっとしたように、もう一度持ち上げます。

オビ=ワン様は、多くの場合、ズルを好まれません。

きっと、下半身を晒していたとしても、あの公正なお人柄は、ズルはされないでしょう。

裾を持ち上げたとき、ぎゅっと噛み締められた唇に、アナキン様の視線が熱いです。

このとき、ふさふさと茂っている金色の陰毛の中で、ほんの少しペニスが勃起していると、更にアナキン様が喜ばれます。

「オビ=ワン、好き……」

我慢できないとばかりに、私のペニスへと指が伸びてきて、私は、腰を捩ります。

「触っていいなんて言ってない」

せめて最後の砦とばかりに意地を張った声を出します。

「マスター……」

感極まったような声をアナキン様が出され、ぎゅうっと、腰を抱きしめられ、お腹にたくさんのキス。

キス。キス。キス。

「……もういいだろう……?」

「一回だなんて、約束はしませんでしたよ」

アナキン様は、約束を大事にされる方なのです。

すりすりと愛しげに、アナキン様は、私のおなかに顔を摺り寄せていらっしゃいます。

「アナキン……」

私は、恥ずかしそうに身を捩りながらもアナキン様の頭を抱きしめます。

「オビ=ワン……」

キス。キス。キス。

いつの間にか、アナキン様の手が、むき出しのオビ=ワン様の尻を揉んでいます。

 

 

 

「おい、……置いていくぞ……」

あっ、今日は、オビ=ワン様もアナキン様と一緒にご出勤だったようです。

ローブに袖を通し、もう外出の準備が整ったオビ=ワン様が、ドアの前に立っていらっしゃいます。どこり。と、大きな音がしたのは、タッチ式に変更されたドアを蹴り上げられたせいかもしれません。相変わらずワイルドな方です。

死んだような青い目が、私たちをじいっと、見つめています。

「おはようございます。オビ=ワン様。もう、おでかけなさいますか?」

私は、むき出しになっている下半身にアナキン様を巻きつけたまま、恐ろしく機嫌が悪そうで、しかも、顔色の冴えないオビ=ワン様にご挨拶しました。オビ=ワン様は、私のセカンドユーザーでもあります。……一度も私をご使用になったことはございませんが。

私は、失礼し、オビ=ワン様にお会いしたら必ずするようにとアナキン様から言われている身体の計測を内緒で高性能の電子アイを使ってさせていただきました。

髪の生え際よし。皺の数よし。肌の張り具合よし。髭の分量よし。肩幅よし。胸周りよし。

……いけません。私と、オビ=ワン様の間で、身体数値に差があります。

私の体には、アナキン様の複雑な関係のお友達によって、微細であればメタモルフォーゼすることも可能な能力が組み込まれておりますので、さっそくオビ=ワン様に数値を合わせます。

「……あっ」

抱き込んでいたお腹が、ぽこんとせり出し、アナキン様がくすりと笑います。

「へぇ。マスター、そうなんだ。Ob1?」

アナキン様が、私の耳元で囁きます。

「ええ、そうなんです」

 

 

「何を笑ってるんだ! このアホがっ!」

オビ=ワン様が、部屋のなかにずかずかと入り込み、アナキン様の首根っこを掴みました。

肩を竦めるアナキン様をずるずると引きずっていきます。やはり力強い方です。

そしてドアまで引き返したオビワン様は、少し困ったような顔で私を振り返られました。

「ごほん。あ〜。Ob1。お前に罪がないことは十分に分かっている。このアホがいけないことは十分にわかっているのだが、そのレギンスを上げてくれ」

頬を赤くし、頼むオビワン様のご様子は、きっとアナキン様の下半身が激しい主張をなさるに違いない表情で、私は、すかさずサンプリングさせていただきました。

「はい。オビ=ワン様」

そつない返事を返しながらも、私は、アナキン様の様子を伺います。アナキン様が、小さくウインクをしたので、私は、オビ=ワン様のご機嫌を損ねないよう急いでレギンスを引っ張り上げ、落ち着かない様子のオビ=ワン様の視線から、わずかにですが勃起したままのペニスを隠しました。

そして、オビ=ワン様たちの後を追います。

「……あ、あの、オビ=ワン様、お出かけになるのでしたら、アナキン様のお見送りをしたいのですが。よろしいでしょうか?」

振り返ったオビ=ワン様は、げんなりと顔を顰められます。

「いつものアレか?」

オビ=ワン様は、同じ顔をしたセクサロイドである私が話しかけているというのに、きちんと相対してくださいます。本当に、公正なすばらしい方です。

「ええ、あの、はい。そうさせていただくと、アナキン様が喜ばれますので……」

私は、アナキン様の背中を見上げました。

アナキン様の肩が楽しげに揺れています。
「あの……よろしいでしょうか?」

アナキン様がオビ=ワン様に、思い切り蹴っ飛ばされました。

 

「アナキン。気をつけて」

私は、スピーダーの運転席に座るアナキン様の頬へと髭面をすり合わせ、キスをします。

「ええ、俺は留守になっちゃいますが、オビ=ワンも、一日楽しんで過ごしてください」

キスを返してくださるアナキン様の隣には、この世の終わりだと言わんばかりの表情のオビ=ワン様が座ってらっしゃいます。

「浮気しちゃイヤですよ。マスター」

「そんなことするわけないだろう?」
キスキス。
いちゃいちゃ。
お髭でモフモフ。
モフモフ。モフモフ。モフモフモフ。

二人きりのお見送りでしたら、これが5分も続くのですが、今日は、オビ=ワン様が我慢の限界だと天が割れるような怒鳴り声を上げられました。

「アナキン!今すぐ、スタートさせろ! 5分でテンプルに着け!でなきゃ、ここから飛び降りてやる!」

 

アナキン様の唇に、にやりと人悪い笑みが浮かびました。

「ラジャ。オビ=ワン」

スピーダーは、唸りをあげ、いきなり最速へと加速しました。

青空には、Gに苦しむオビ=ワン様の悲鳴が聞こえます。

アナキン様は楽しそうに笑ってらっしゃいます。

今日もまた、アナキン様はお元気に出勤されました。

私は、勤めが果たせて、大変幸せです。

 

 

END

 
                                  誰かが、あっはっはっ!って笑ってくれることを希望しつつ。