お兄ちゃんって呼んで?
ベッドに転がりながらなんとなく寝るまでの時間をお互いに潰していて、そのうち、サムが爪の伸びたディーンの足に気付くと、二人の距離はさらに縮まった。元々狭苦しくも一つのベッドにわざわざ二人で寝転がって、ディーンは腹ばいになっているサムの背中にもたれかかるようにして隣のベッドに足を投げ出していたのだ。オカルトドラマに夢中のディーンは、自販機で買ったポップコーンを緩い口からぱらぱらと弟の背中へと零していて、サムは背中が痒くなってきている。
「足の爪切ってやろうか? お兄ちゃん」
サムは、読んでいた本から顔を上げて、ディーンの足を指差した。しかし、ディーンの反応は思いがけないものだった。口へと放り込もうと手に握っていたポップコーンもそのままに、いや、それどころか、間抜けに開いた口もそのまま、信じられないことでも聞いたように、大きく目を見開いて弟を見下ろす。
テレビでは、激しい効果音と共に、ギャー!と叫んだカップルがものすごい形相になって駆け出した。その声にまるで固まったようだったディーンがビクリと飛び上がる。
そんな兄に思わず笑いはしてものの、サムは、まさか、自分の発言でディーンが固まるなんて思いもよらず、兄の足を捕まえるため伸ばしていた手の所在に困ってしまった。
「脅かすなよ。サム」
「脅かしはしてないだろ。テレビにビビッて飛び上がったのは、兄貴の勝手」
何故だか目を反らしがちなディーンの様子を怪訝に思いながらも、身を起こし、背中の食べカスを払いのけたサムは、ディーンの様子を確かめながらも、足を引き寄せ足首を掴んだ。嫌がるでもない兄の様子に、ベッドの下に放ってあるカバンを引き寄せ、爪切りを取り出す。
「ね、兄貴、さっき、何で固まったの?」
サムは深爪にならないよう慎重に爪を切りながら、テレビにも意識を戻しもない兄を見上げた。
ちらりと目の端に映った画面では男の方が、殺られてしまった。結構スプラッタだ。ディーンは、わざとらしくむしゃむしゃとポップコーンを食べだし、弟の視線を避けようとする。口の端から、また食べかすが落ちた。
「ん? 俺、固まったか?」
「うん。もう、コッチコチに固まったね、ディーンは。……何? お兄ちゃんには爪切られるのに何か嫌な思い出でもあるわけ?」
切り終わった片方の爪先にチュッっとキスをして、もう一方の足を取り上げたサムは、また真剣になって残った爪を切り始めた。だが、うるさいや、詮索するなと文句を言うだろうと思っていた兄の返答があまりに遅くて、不審な気持ちになり顔を上げる。
「……何? どうしたの?」
見上げた先では、ディーンが目元を真っ赤にしていて、サムは、どう兄に反応すればいいのか戸惑った。
テレビのヒロインは金切りで絶叫中だ。すごい肺活量だが、ディーンは真っ赤になったまま、じっと自分を見つめていて、サムは、ディーンが一体どうしてしまったのか、全くわけがわからない。
こういう場合、とりあえず作業を続けようと、ディーンの足首をきっちり掴んで、サムは爪切りの作業に戻ろうとした。
すると、ディーンはちらちらと弟のことを盗み見るようにしながら、ぺろりと唇を舐める。
「……サム……あ、……サミィ、なぁ、もう一回、お兄ちゃんって呼ばなぇ?」
「……はぁ?」
顔を上げたサムは、ディーンを見上げた。
「だから、俺のこと、お兄ちゃんって」
「俺、そんな風に呼んだ?」
「呼んだ。……すっげぇ、よかった」
「…………え?」
急にディーンが弟を押し倒すように抱きついて来て、サムは頭や額に大量のキスをされた。どうせディーンの見ていたドラマが終わったらするつもりだったセックスだったが、まさか、こんな唐突な始まり方をするとはサムは思っていなかった。
もうディーンは爪きりを持ったままのサムに馬乗りだ。テレビでは、まだヒロインが血まみれで、階段を駆け上がっている。予定より30分も早い。
ディーンは、ジーンズの尻をいやらしく押し付けるように動かし、サムを見下ろしながら弟が自分を呼ぶ時を待っている。
期待に満ちた兄の目がきらきらしていて、たかが呼び名だが、サムはそれを口にするのが怖かった。けれど、
「……お兄ちゃん?」
「くわっ、畜生! サミィ、お前、すっげぇかわいい」
元々ディーンの家族愛は度を越しているところがあるが、二十歳を越えて、かわいい、かわいいと頭を撫でられたり、頬ずりされるのは、弟としては遠慮したい部類のスキンシップだった。しかし、サムにお兄ちゃんと呼ばれることは、ディーンにとって確実にヒットする部分があるようで、ディーンは自分から、さっさとシャツまで脱ぎだす。
忙しなくサムが脱ぐのを手伝うディーンは、頭をTシャツから抜いたばかりの弟の唇に限りなく近く唇を寄せ、もう一度呼ばれることを待っている。
「……お兄ちゃん」
なんだか、暗鬱な気持ちになりながらサムはディーンをそう呼んだのだが、ディーンは齧り付くように弟の唇を求めてきた。積極的な舌が、サムの口の中へと潜り込み、歯を、粘膜を、強引に舐め上げていく。
サムが逃げ出さないよう押さえつけておくためか、ディーンはまだジーンズを足から抜いてはいないが、全開に下ろされたジッパーの間からは、すっかり硬くなったペニスが下着を押し上げ、それでディーンはサムの股間をノックする。
だが、硬いジーンズ越しでは、やはり気に入らないのか、ディーンはサムの前ボタンも外し、柔らかな下着の布だけを挟んで擦り合わせはじめた。ディーンのものはかなり硬く、熱い。
ぐいっと寄せられた顔の中で、柔らかそうなぶっくりした唇が猛烈にキスをねだっていて、性急すぎる兄についていけないサムは顔の前で腕をブロックして、ディーンを押し留めた。
「何? 何? 何? 何で、兄貴は急にそんな興奮してるわけ?」
「なんだよ。サミー、キスさせろよ」
はぁはぁと息を荒げるディーンは、強引にサムの腕を掴んで押しのけようとしている。
「いいよ。それは、いいけど。兄貴、なんで、そんなに興奮しちゃってるの?」
確かにセックスが始まってしまえば、サムの兄はよく獣モードだが、それは、サムがいつまでも萎えていれば、きつい蹴りを入れてさっさとベッドから降りるという類のものだった。やりたくなればディーンは、自分から弟のものに擦り合わせてはくるが、サムのノリが悪いなら、とっとと見切る。ディーンの獣じみ方は、そういう類のものなのだ。おかしな呼び名で呼ばされるせいか、なかなか大きさの増さないサムに、下着の色を変えるほど漏らしてしまっているものを擦りつけ続けて益々興奮していくなんて、全く変だ。
ちらりとディーンは視線を外した。
「……言ったら、お前、……引くぞ、サミィ」
「いや、兄貴、俺、もう十分引いてるから」
ディーンは顔面をブロックしていたサムの腕を、力任せに解かせると、弟の口に齧り付いて強引なキスを止めようともしなかった。
ディーンの勃起の先は冷たく濡れてサムの腹へとせっつくように押し付けられていて、サムは仕方なく熱い湿気のこもっている兄の下着の中へと手を突っ込む。
もうディーンのペニスはコチコチだ。
「お兄ちゃん、あんた、今日、ちょっと変だよ?」
たかが握っただけのものが、いきなり手の中でびくびくと震え出して、サムは、あっけに取られた。
「……っい、ダ、メっ! う、っ、くそっ、あ、あ、いくっ、イク、サミー!!」
ディーンは下着の中へとベットリと射精し、大きく息を吐き出している。ビクビクと震える腰は、まだ、ジーンズだって脱いではいない。何度も胸を大きく膨らませ、激しい呼吸をしていたディーンは、早すぎる射精に悔しそうな毒づきをこぼしたものの、小さく満足そうなため息を吐き出した。
サムは、ただ握っただけの兄のペニスが射精してしまって、どうしようかと思った。思ったが、ふといい考えが浮かんだ。
「お兄ちゃん、ちょっと俺の上から降りて、四つん這いになってくれない?」
自分の年で、兄をお兄ちゃんと甘えたように呼ぶのには、かなり抵抗を感じるのだが、バカみたいに、ディーンはサムの「お兄ちゃん」という呼びかけに反応するのだ。精液の臭いをぷんぷんとさせている濡れたグレーの下着は、サムが量販店で買い込んだお揃いのものだが、中がねっとりと濡れているというのに、ディーンのペニスはビクリと重さを増す。
「なんでだ?」
一応ディーンは疑問をぶつけて来たが、それでもノロノロとサムの上から降りると、素直にベッドの上で四つん這いになった。サムの口は思わず緩む。
サムは、ディーンの大きな尻からジーンズを剥ぎ落とし、盛り上がった尻をぴったりと包んでいるグレーの谷間を人差し指で撫でていった。そしてぎゅっと皺を寄せたあのかわいらしい窪みがあるはずの場所で、指を強く押し当てる。
「なんで?って、そりゃぁ、お兄ちゃんのここで俺のことかわいがって欲しいから」
指の場所はジャストヒットでやはりあの場所で、柔らかな下着の越しに、肛門の表面を擦るように動かしてやると、ディーンはポップコーンのカスだらけのベッドに肘をついてぎゅっと尻の位置を上げた。ついた肘から先は、まるで祈るような形に指が組み合わさり、そこにディーンは頭を埋めてしまっている。耳が赤い。
「今日はとっても素直だね」
「……俺はいつだって、素直だ。お前みたいにねじくれてない」
籠った声は、少し尖っていた。けれど、気持ち悪く濡れた下着を脱ぎもしないうちから、また前は押し上げられ、ディーンが興奮し始めていることを示している。
「うん。そうかも。でも、ディーン、俺にお兄ちゃんって呼ばせる理由、まだ言ってないよ?」
指先に力を入れれば、乾いた柔らかな布が尻の穴の内部へと潜り込む。もじもじと大きな尻が揺れて、サムはそこばかり弄るために、変な形に窪んでしまった下着をディーンの尻からずり下ろした。
下着の中に籠っていた熱と匂いがディーンの股座からサムへと漂う。
「やらしい匂い」
下着の中で漏らされた精液は、ディーンのペニスも陰毛も、そして、ずり下ろした時に太腿さえ、ねとりと濡らしていた。
しきりに腰をもじもじと動かすディーンに、サムは、さっさとセックスジェルへと手を伸ばし、手のひらへと搾り出すと、それを白い尻の合わいに塗りたくる。もう一度手のひらに絞りだし、今度はそれを指先で掬うと、濡れた指できゅっと締まった尻の穴をこじ開けた。
さっきは、傷つきやすい粘膜を乾いた布なんかで擦って、苛めてしまったから、サムはその分の湿り気も返してやるように、丁寧に赤い粘膜へとジェルを塗り込めていく。
肛口の浅いところばかりを指でぐにぐにとこね回され、ディーンは、腰のもっと深いところに、じんっと物足りなさに似た疼きを感じた。
「ディーン。お尻がすっごい動いてる」
「……ディーンって、呼ぶな」
サムは、思わず苦笑した。
「なんだよ。兄貴、本気なわけ? 今日は、どうしても、お兄ちゃんって呼ばれてやられたいの?」
『お兄ちゃん』はたかが兄を呼ぶ、呼びかけの一つだというのに、ディーンの尻はサムがそれを口にすると、ぎゅっと指をきつく締め付けてきた。力の入った白い尻の中ではぬるり熱い粘膜が、きゅうきゅうサムを締め付けている。
サムは、きつく自分の指を締め付けてくる肉壁の表面をそっと擦るようにしながら、慎重に指を進める。
「ディーンの変態」
「お前の方が、ずっと変態だ。そこばっか、見るな」
指は第二関節まで埋まったところだ。このまま弄り続ければ、小さなディーンの穴がたっぷりと3本の指まで飲み込む。
「……え〜?今日は絶対、兄貴の方が変だって」
「……兄貴じゃない」
「えっ?」
「サム、呼べよ。俺のことお兄ちゃんって呼べよ。呼べってば、サム!」
腕の中に顔を埋めたままのディーンは決して顔を上げなかったが、項を真っ赤にしながらも、かなり本気の声で怒鳴っていて、サムは、ディーンは本気で『お兄ちゃん』と呼ばれながらやりたいのだと、眉間に深い皺が寄ってしまった。
お尻に弟の指をくわえ込んで、真っ赤になっているこんなにも可愛い兄を見下ろしているというのに、サムの目付きは胡乱になってしまう。
……しかし、弟は愛する兄のためなら腹を括るのだ。
「OK。ディーン。……ほら、お兄ちゃん、もう少しお尻の力抜いてくれなきゃ、俺、優しく穴ん中、ほじれないじゃん。なんで? 今日は痛くして欲しいの? お兄ちゃん」
「お兄ちゃん、俺の挿れるからね。ちゃんとお尻の力抜いてよ」
「いいよ。お兄ちゃんのなか、……すっごくいい」
「お兄ちゃん、……大好き」
いつにも増して反応のいいディーンの腰を背後から持ち上げるようにしながら、肛口ががっぱりと開いたままになってしまうほど、激しい抜き差しを繰り返していたサムは、自分がいつの間にかディーンの熱に煽られるようにして言ってしまった台詞に背筋に冷たいものが走るのを感じた。
(お兄ちゃん、大好きって、うわ……俺、今、ものすごく、変態臭かった)
しかし、サムの発言は、ディーンには全く問題なかったようで、真っ赤になって泣きながら、挿れられたまま自分で自分のペニスを扱く痴態まで見せている。
「……っぁ、ぁ、あ、あ。サム。サム。サミィ!」
もうここまでくれば、ディーンに気持ちよくいってもらいたいと、サムは気力を振り絞ってディーンに呼びかける。
「お兄ちゃん、いきそうなの?」
うん、うん、頷くディーンの素直さは、もう何にも考えられないほど感じている証拠で、確かに今日のしめ具合ときたら最高なのだが、どう聞いても変態臭い自分の台詞にサムは寒すぎるこのプレイはもう二度とごめんだと思っていた。
「お兄ちゃん、いいの? ここがいいの?」
「ここ? ここがいいの? もっと、擦って欲しいの? お兄ちゃん」
正直、自分の台詞にへこみそうな気分を、それでもサムは懸命にテンションを保って、ぐじゅぐじゅと濡れた熱い粘膜を丹念に突き上げ、擦り上げる。
「ぅ……ん、ッあ、あ!……あ」
ディーンの中はトロトロに溶け、ブルブルと震えながら、射精直前の緊張で、痛いほど締め付けだ。
「ね、……お兄ちゃんのイクとこみせて?」
「サム、いく。サム。お兄ちゃん、もう、イク、っく、ダメだ。あ、あ、ああああっ!」
ディーンは反り返るようにしてイったが、
サムは、……ディーンが自分をお兄ちゃんと呼びながら、激しくいく姿に、思わず萎えた。
「悪かったって言ってるだろ。前に言ったろ。結構子供の頃から、俺、お前のこと好きだったって」
ディーンは、ベッドボードにぐったりと凭れかかるようにして座り込んでいるサムの半勃ち程度に萎えてしまったペニスを扱きながら、けろりと弟を見上げていた。
だが、サムは、ティッシュで拭っただけの満足げにツヤツヤしている尻を見せ付けられ、再トライするか?と聞かれたというのに、先ほどのディーンが目の前にちらつき、チャレンジできずにいる。
「ぎりぎりお前が俺のことお兄ちゃんってかわいく呼んでくれてて、兄貴って言い出す前くらい、あの辺りで、やたらとお前のこと意識しちまって」
シーツに寝そべって、実に気軽に機嫌よく弟のペニスを扱くディーンは、「お前にお兄ちゃんって呼ばれると、あの頃のお前とやってるような気分になるっていうか、あの頃の最悪だった俺のこと、お前に抱いてもらってるって感じっていうか」と、照れくさそうに頭を掻く。それはなんだか心がじんとするような話のようだが、サムのものは、兄の手に擦られても半勃ち以上に大きくならない。
けれど、ディーンはそんなものに優しく小さなキスをする。
「あの頃のサミィってさ、痩せっぽっちのヒョロヒョロで、頭がいいのに、結構それ隠してて」
「わざわざやらしい言葉の書いてある百科辞典のページ開いて置いとくと、お前、こっそり読んでてさ」
「俺が部屋入ると、おまえ、慌てて自分の部屋に駆け込んで、あいつ、今何してるんだ?とか」
ディーンは、熱っぽく弟を見上げている。
懐かしい思い出は、確かにサムをそそった。二人きりで部屋へとよく取り残されていたあの頃、サムだって、負けず劣らず、ディーンのことを意識していた。ただ、サムは幼すぎた。だから、自分の不満が性欲と関係したものだとは気付かず、独占欲は、酷い敵意を兄に向けるという形を取っていた。今だって、あの頃だって、ディーンは最高で、そんなディーンが自己嫌悪を感じる必要などどこにもなかった。サムはあの頃のディーンに謝りたい。
だが。
「なっ、だから、サム。明日も、俺のこと、お兄ちゃんって呼びながらしねぇ?」
「……お兄ちゃん、大好だから、お願い、……それだけは、もう、許して……」
END
ホントの兄弟なのに、兄弟プレイ(笑)