スパナチュ小話(兄弟と牧師さん)
*罪の告白
ふらりと教会に立ち寄ったディーンの顔に憂いがあるのに、ジムは、この親友の子供を心配した。
「ジム。今、罪の告白をしてもいいかな?」
「……いいが。どうした? ディーン」
「……ああ、大したことじゃないんだけど」伏せていた顔を上げ、ディーンは躊躇いながらも口を開く。
「ジム。いや、牧師様、俺は、告白します。俺は弟にキスを許しました」
「それですべてかね?」
牧師という職業柄、ジムはいろいろな告白を聞く。
「いいえ。牧師様。まだ全てではありません。弟は俺の太腿に手を置きました」
ディーンの眉がせつなげに寄せられている。
「……それから?」
「それから、……弟は俺のジーンズと下着を引き摺り下ろして」
ディーンの組んだ手が震えており、ジムは勇気付けるように頷く。
「弟は自分のものをジーンズから引っ張り出すと、俺の手に押し付けたんです」
「それで?」
「親父が部屋に入ってきました」
ジムはバンっと机を叩いた。
「ああ、いつもあいつは間が悪い!」
*教え
ジムは、友人でありハンター仲間でもあるジョン・ウィンチェスターに頼まれ、近頃心配な方向に吸引力のある色気が出てきたディーンに生活の乱れを戒める話をしていた。
「だからな、ディーン。どこに行こうと常に、ジョンとメアリーの息子であることの誇りを忘れないように。お前はまだ未成年なんだから街をふらつきながら煙草を吸うな。だけどな、もう小さい子供でもないんだから、酒場でハーフパンツはやめろ。自分の部屋っだっていってもお前たちが寝泊りするのはモーテルなんだ。安心せず乱れた格好で下品なTVを見るのは控えろ。それからだ。これが、最も重要な話なんだが、……、あのな、ディーン。もし、ジョン待ちの酒場で、男に付きまとわれたら、自分自身によく聞いてみろ。果たして一時間の快楽が、お前の一生を台無しにしてもいいのかどうかと。わかるだろ、 ディーン? 何か質問はあるか?」
ディーンは大きな目を不思議そうに見開いて尋ねた。
「なぁ、ジム。サムは一時間ももたないんだけど、あいつ、病気?」
*なるほど最初はそうだったんだ。
最初、ディーンは言い出しにくそうにしていたが、それでもジムが何度か促すと、彼は少し照れくさそうにしながら、とうとう弟とセックスしたのだと打ち明けた。
「どうして、そんなことになったんだ!」
ジムは、あまりのショックに大声を出した。あの、かわいかった子供たちが……。子供たちが……。
「大変だったんだぜ?」
だが、ジムの驚きにディーンは頓着しない。いや、なんだかジムが事の顛末を知りたがっているとでも誤解しているように、照れくささの中にも輝くような笑みを覗かせている。
「酒場で仲良くなった3人がいい奴でさ。サムのこと押さえつけといてくれたんだ」
*……そうか、やっぱり、知って……るんだよな。
親友の息子からとんでもない告白を受けた牧師は、悩みに悩んだ末、もしかしたらウィンチェスター家の兄弟が間違った関係になってしまったのは、彼らが性欲を満足させるため、まず最初に習うべき方法を学ばず、一足飛びにセックスについて知ってしまったからではないかという一点の光明を見つけた。
そこで、まず扱いやすそうな年下のサムを呼び出し、マスターベーションという方法を教えてやることにしたのだ。
「だめだよ。そんなの、ジム。そんなことして、いざって時に出来なかったら、僕がどの位ディーンに罵られるか想像してから話をしてよ」
*酷い奴だな……お前
不幸な生い立ちをしたウィンチェスター家の兄弟の関係について長いこと悩んだジムであるが、とうとう決断を下し、聖書を引き合いに強引にディーンとサムの関係を禁じ、すっかり兄弟に嫌われてしまっていた。特に、近頃めきめきと育った、つまりは性欲が旺盛になり、兄を好きなように乗りこなせるようになったらしいサムは、大好きな兄とのセックスを禁じられ、ジムに対して敵意を隠さない。
今回、ジョンと一緒のハンティングに参加したジムは、サムと行動を共にしていた。
突き止めた墓場で、レアな死体が本当に今回の怨霊の正体か確かめるため、下半身のそれも特殊なところに施された刺青を確認しなければならなかった二人は、死体を裸にするという、決して陽気にはなれない作業をしなければならなかった。
あれ以来、サムは一言もジムに口をきかない。なんとか場を和ませようと、ジムは冗談を口にした。
下着を剥いだ死体のペニスには、鮫の刺青が為されている。きっと巨根であることが自慢だったのだ。
「ほら、見ろよ。サム。俺のと似てる」
サムがちらりと目を上げた。
「死んでるところが?」