スパナチュ小話 16〜20

 

*メアリー、ごめん。俺は子育てを間違った。(ある日のメモ4の別バージョン)

 

ディーンはサムと額がくっつくほど頭を寄せ合い、クリスマスプレゼントの相談をしていた。

「サム、何が欲しい? 俺もさ、せっかく再会した家族と始めて迎えるクリスマスだし、プレゼントを渡してやりたいんだけど、22にもなった弟に何を贈ったらいいのかわかんなくてさ」

「……えっ、……言ってもいい?」

サムが少し困った顔をする。ディーンは得意顔で任せろと請合う。

「……あの、さ。あの……欲しいのは、ディーンって、言うか」

兄弟は真っ赤になって、テーブルで黙り合う。

 

ジョン・ウィンチェスターは、サムの頭に銃口を押し付けた。

「サム。確かに、俺の育て方は間違っていたかもしれない。だから、今から教えてやる。復唱しろ。いいな。22歳の弟が欲しがるクリスマスプレゼントは、26歳の兄じゃない。22歳の女の子だ」
銃は、カチリと音を立てる。

「イエッサー。ダディ。僕が欲しいのは、22歳の女の子です!」



*恨み

 

怨霊がいるというその建物は、2階の壁が殆ど無いような有様に朽ち果てていた。立っていること事態が不思議だ。1階の捜索を終えても、怨霊の原因となっているものが見つからない。

仕方なく兄弟は2階へと上がった。

「あ、サム。そのままもう少し後ろに下がってくれ」

所々穴の開いた天井を見上げていたサムに、ディーンが指示する。しかも、サムが方向を変えて下がろうとすると、後ずさりしろという。サムは、ディーンの意図がよくわからなかったものの、自分の知らないハント事情があるのだろうと、後ずさった。

「もう少し、後ろ」

「あ、うん」

指示のまま後ずさるサムの踵は空を踏みそうだ。

「……ディーン? まだ? もう俺、落ちそうなんだけど?」

「サム。もっとだ。お前、俺の朝食から卵を掠め取ったろ」

 

頭の良くなる食べ物

 

「サム。サミー。だめだろ。これは、頭の良くなる食べ物なんだから、残しちゃいけないって教えたはずだ」

ウィンチェスター家の長男は、小さな弟がプレートの上にピーマンを避けるのをたしなめた。

弟は顎にぎゅっと皺を寄せ、むっとした顔で唇を引き結んでいたが、兄が決して食べ終わるまで許さないことを知っていたので諦めた。

「よしよし。いい子だ。サミー。ほら、ちゃんと食べられた」

「……うぇぇ……まずい……」

「うん。うん。わかってる」

 

それから1月経ち、弟の皿にはまたピーマンが載っていた。サムは試練の時だ。

「ディーン。僕さ、わかったんだけどさ、ピーマンは、頭の良くなる食べ物なんかじゃないよ!」

「何を言ってるんだ。お前はピーマンを食べたおかげで、頭のよくなる食べ物じゃないってわかるようになったんだ。ほら、 やっぱり、ピーマンは頭が良くなる食べ物さ! サミー。お前はもっと頭がよくならなきゃいけないからな、俺の分も食べな」

「ディーン、ディーンが嫌いなだけだろ!」

 

 

*なんなら、呪い殺してみるか?

 

サムには、時々雑文を書いて投稿する趣味がある。

「あ〜、今回もダメだった。いつか俺の書いたものが掲載されるチャンスってあると思う? 兄貴?」

「うん? あるだろ」

ディーンは請合った。

「選者の奴らだって、いつまでも生きてるわけじゃないからな」

 

 

*サムは将来有望。

 

今回の事件は素人劇団で起こっていた。

劇の幕が開ける二日前、弁護士役の役者が怨霊に殺された。兄弟は、ハンティングのため劇団の内部へと入り込んだのだが、そこで、サムが弁護士を目指して勉強中であるということが今回役に立った。

専門用語の多い役柄に、素人の役者たちは代役を務め切れなかったのだ。

二日後、狩りは終わっていたが、難病チャリティーをも兼ねた劇への出演を断ることは躊躇われ、サムは舞台に立っていた。

台詞が全部入っているわけではないが、サムは弁護士役を熱演した。それは、迫真の演技だった。

客席で弟を笑ってやれと見ていたディーンすら、劇の展開を懸命に追った。被告の悲しみ。苛烈な追求をする検事。サムはそれに立ち向かう。素人役者も、そこで起こるドラマに呑み込まれた。

舞台と客席は、一時それが劇であることすら忘れた。

 

答審の時が来た。サムは、陪審員役の役者たちを熱い目で見つめる。

陪審員役者たちは、「有罪」と宣告するはずだった。
が、叫んでいた。

「無罪!!」