スパナチュ小話 11〜15
*今月のスローガン
不意に顔を上げたディーンがサムに聞いた。
「悪魔ってどんな奴だと思う?」
「どんなって……」
あまりに基本的な質問を投げかける兄に、サムは戸惑い、訝しげに首をかしげた。
しかし、モーテルのベッドにだらしなく寝そべるディーンは大きな目でじっとサムを見つめている。
なんだか胸が落ち着かなくてサムの口は勝手に早口にしゃべりだす。
「どんなって、兄貴。兄貴の方がよく知ってるじゃないか。悪魔、奴らは最低だ。強欲で嫉妬深く、人の弱みに付け込む悪意に満ち、約束は守らず、暗黒の喜ぶ悪辣な快楽主義者だ」
ディーンが流し目をサムに送る。
「サミー。俺、毎月お前が決めるスローガンが暑苦しくて嫌なんだ」
「……オッケー。ディーン。さすがに今月のはまずかったと俺も認める」
サムは、パソコンの蓋に貼ってある「悪魔に負けるな、奴らを追いこせ!」シールをピリピリと剥がす。
しかし、
「違うのを考えるよ」
弟は懲りない。
*ディーンの弟
別行行動中に、サムが姿を消した。心配したディーンが、懸命に痕跡を追っていると、オカルト系の掲示板に短い伝言が残された。
「ミスターウィンチェスター。あなたの弟を迎えに来てください。早急に迎えに来ていただければ、法に訴えるようなことはいたしません。先日、悪魔を誘拐した者より」
*うん?
考古学教授の下へ、偽学生を装って近づいた兄弟に、教授は嬉しそうに古い壷をみせていた。
「ほら、これだ。この模様が神話の一部を表していてね」
教授は模様を指し示しながら、ディーンへと壷を手渡すと、その手つきに注意を与えた。
「気をつけてくれたまえ。なにしろこれは数百年じゃきかない代物なんだからね」
「わかってます」
ディーンはにっこりと笑顔を返した。
「俺だって教授の元で考古学を勉強させてもらってます。勿論、新品同様に大切に扱います」
*嫉妬深い
「しまったよ。今朝、鏡を割っちまったんだ」
バーで隣あった男は、しきりにディーンに自分の身に起こるだろう不幸を嘆いていた。そういう因縁めいたことに関しては詳しいディーンも、鏡を割ると7年悪運に取り付かれるという伝承があることは知っている。
「そりゃ、飲んで厄を落とさないとな」
ディーンは男の肩を叩き、グラスを合わせる。
「平気だよ。俺のおばさんは、鏡を割ったけど7年も悪運は続かなかった」
「本当か?」
グラスを煽った男はすがるように突然割り込んだサムを見上げた。
そんな叔母など持たないディーンは弟に怪訝な顔をする。
「うん。だって、叔母さん、その日のうちに死んじゃったからね」
サムは、さりげなくディーンを男から引き離した。
*いや、ディーン、怒られてるのは車の止め方だから。
とある事件に関係で、ディーンはご自慢の車に、山盛りの子供を乗せる破目になっていた。騒がしい子供たちが暴れまわるので、ディーンは歩行者を見落とすところだった。
「危ない。ディーン!」
サムの膝の上にまで子供は2人乗っている。注意されて、ディーンは切れそうだ。
けれど、事故の被害者になるはずだった歩行者の老人が、先に切れた。
老人は、急ブレーキにも大はしゃぎの子供たちをじろり睨みつける。
「なんて煩い子供たちなんだ!」
そして、切れそうなディーンと、それを留めるため羽交い絞めにしているサムをきつく見据える。
「それも、こんなに沢山! だいたいお前さんら、止め方も知らんのだろう!」
「サム、くそっ! 離せ! 誤解されたまま黙ってられるか! おい、爺さん、この子供は、俺が生んだんじゃねぇ!」