SP小話 6〜10
*さぁ、逃げろ!
カード詐欺の現行犯で、ディーンが捕まった。
「なぁ、もし、将来これと同じことが起きたらお前を弁護士に雇ってやるな」
腕をねじられカウンターに押し付けられている状態だというのに、ディーンはサムを真剣に見つめる。
サムは、こんな馬鹿馬鹿しい展開とは、すっぱり縁が切りたかった。
「ちょっ! 兄貴、そんなこと言ってる場合じゃなくて! なぁ、とにかく逃げよう! こんな状況で捕まっちゃ、弁護士にはどんな勝ち目もない!」
「だからじゃないか。お前がどんな弁護をしてくれるのか、ぜひ聞きたくってね」
*しょうがない面倒をみてやるよ
今日も酒場でディーンはモテモテだ。
「ん? 俺が何故一人に決めないかって?」
陽気にはしゃぐディーンは、聞いてもいないのにわざわざサムのテーブルに戻ってにやにや笑いながらグラスをあける。
零れるよと、サムはパソコンの蓋を閉じた。サムが渋い顔をしているせいで、余計にディーンの機嫌は上々だ。
「んん? どうした? この秀才の頭はこんな簡単なこともわからないのか? いいか。サム。そんなことしたら、沢山のガールフレンドたちがとても悲しい思いをするじゃないか」
どうしてそれほど自信満々になれるのか、ディーンは嬉しそうにサムの背中を叩く。後ろを振り返り、くすくす笑っている女の子たちに手を振る。
サムは、人悪く笑いながらディーンからグラスを取り上げ、席を立った。
「……へぇ、ディーンはそんなにも何回も結婚を繰り返す気なんだ。そりゃ、腕のいい弁護士をみつけないと、慰謝料で首が回らないね」
*がんばった。
運転席に座るディーンがさっきからずっと咳をしていた。
「大丈夫、ディーン? でも、昨日に比べれば、ずっと楽に咳をするようになったね」
「まぁな、夕べお前がぐーすか寝てる間も、俺は一晩中練習してたからな」
*人生って。
「では、そうだね。ちょっと難しい話をしてしまったから、次は簡単な質問をしようか。サミー。神様の家は、どこにあると思うかい?」
「はい。うちのトイレです」
「なんだって?」
「だって、僕がトイレに入ってると、兄貴がドンドン、ドアを叩きながらわめくんだ。『ああ、神様! まだそこにいるのか!!』って」
*チビは顔を洗うのが嫌い
「サミー、お前、今朝顔を洗ってないだろ? そんなんじゃ今日の朝食を当てられるぞ」
ディーンは父親を待っているモーテルのベッドで寝そべり、TVアニメを見ながら弟に言った。
しかし、なにやら小難しそうな絵本を読んでいるチビサミーは、ディーンに呆れた顔をみせる。
「絶対に当てられないよ」
「は? お前、顔に卵がついてるぞ」
「だって、これ昨日の朝食のだもん」
テレビアニメがエンディングテーマを流す中、サムはまたなんでもない顔をして絵本の続きを読み始めた。