SPN小話1〜5
高学歴の弟
簡素なモーテルの一室で久しぶりの再会を果たした親子は、じっと黙り込んでいた。
険悪なムードの中、父親が顔を上げる。
「……サム。それがお前の願いなのか? ディーンと真剣に付き合って行きたいと、それが!?」
父は悪魔でも射殺しそうな目で息子を睨んでいた。
「……ああ」
サムは、床を見つめたまま口を開く。
「顔を上げろ。サム。俺たちは家族なんだぞ。おい、俺を見て、まだそういうのか。こっちを見ろ。サム!」
どんっとテーブルを叩いた音に、サムは顔を上げ、じっと父親を見つめる。
「悪いけど親父……兄貴のがずっと好みだ」
がんばれお兄ちゃん!
サムは新しいパソコンを選び、店員に梱包を頼んだ。
「これ、兄貴の誕生日プレゼントにしようと思って」
学生が手にするにしては高額すぎるパソコンを手際よく箱詰めをする店員は、サービスだとリボンをくるくると掛けていった。
「へぇ!すごい、きっとお兄さん、びっくりするよ!」
弟はくすくすと楽しげに笑って言った。
「うん。だと思う。兄貴、皮ジャンをプレゼントしてもらうつもりで、わざわざ自分の金で上乗せまでしたからね」
高学歴になる予定の弟
「サミィ。今日の午後は、訓練の予定だったろ。どうして、野球になんて行ったんだ。せめて、なんで俺に行く先を言わない!」
小さなお兄ちゃんは、小さな弟を真剣に叱っていた。
「だって……」
弟は、拗ねたように唇を突き出した。
「僕、野球に行きたかったんだもん」
教育の必要アリ。
「へぇ、そりゃぁ、不思議だ」
今晩もまたディーンは、バーのカウンターにもたれ掛かりながら美人バーテンダーに話しかけていた。
「でしょう? うちの子、一度だってオスを近づけたことがないのに、妊娠したの!」
美女へのナンパはもう、ディーンの病気のようなもので、サムも半ば兄を教育することを諦めている。
「不思議だなぁ。処女懐妊? ……実は、君も?」
ディーンは、自分の魅力をよくわきまえていて、大きな目をうっとりさせながら、どう見ても処女とは思えぬ彼女の瞳を覗き込む。
「……調べさせてくれる?」
そこに、サムの足元に擦り寄るようにしながら、一匹の猫が彼女へと近づいていった。
ラフな話題のふり方からしても、誘い乗る気がありありの女性をディーンから引き離したくて、サムはテーブルから声をかけた。
「ディーン。それ、雄」
「バカだな。サム。ありえない。こいつは、処女懐妊した猫の弟なんだぜ。弟」
女性がびっくりしてまじまじと見つめてしまうほど、ディーンは真顔で弟をたしなめる。
「へぇ、……そうかな?」
サムはうっすらと笑い、すると兄の背中には悪寒が走った。
緊急連絡
「親父! 親父! どうししょう! 兄貴の連れ込んだ女がゴムを誤飲した!」
携帯を始終留守電にしている父親も、サムからのこの連絡には慌てた。
しかし、通話のボタンを押す前に、サムからの伝言は切れる。
父は、自分の決めたルールを破り、ダイアルしなおそうとした。
すると、また、サムからのコールがある。
「あっ、親父。心配かけてごめん。も、一個あったから、大丈夫」
父は、押し黙ったまま伝言を聞いた。
父には、留守電の向こうから聞こえてくる高い声にも、聞き覚えがあった。