ある日のメモ 4
今晩のディーンがナンパの話題にしているのは、クリスマスのプレゼントだった。少し顔を斜にした整った顔立ちが繊細な印象で見える角度でビールを飲むディーンは、時々短い髪をかき上げ、自分がスイートかつホットな男だということをアピールしながら、目の前のスレンダーくせに胸はばっちりの金髪に微笑んでいる。
「そろそろクリスマスのプレゼントを用意しなきゃって思ってるんだけど、22歳にもなった弟に何を贈ったらいいのかなんて、俺には全くわからないしさ」
君のいいアイディアが聞きたいんだと言われている彼女は、質問も、今夜のお誘いも満更でもない顔だ。
CDは?だとか、セーター?だとか、私も指輪が欲しいわだとか。
彼女はだんだんと体をディーンへと密着させ始め、ディーンの目もちらちらと彼女の胸に出来上がるふっくらとした盛り上がりとその谷間の落差を楽しんで、ベッドでも気持ちよくいちゃつけるのか見極めるための前戯のような会話が二人の間で盛り上がり。
すると、きれいにウエーブした金色の髪がかかる彼女の肩を叩く手があった。
驚いて振り向くと、こちらも、少し困惑気味の隣のテーブルの女性が顔に邪魔するつもりはないんだけどとでもいうような笑みを浮かべ、メモを渡してきた。
不審に思いながらも、彼女はピンクの爪でメモを開く。
『26歳の男の子を希望』
は?と、隣のテーブルをもう一度見ると、彼女は、またその隣のテーブルをくいっと指で指し示す。そして、そこに座る女性も面白そうに笑いながら、また、隣の。
意味不明のメモの文字は、何度見ても
『26歳の男の子を希望』
様々な女性たちの指し示す指の先を見れば、メモを書いたのは、壁際のテーブルに座る、鍛え上げた体もセクシーな若い男のようだった。若い男は、彼女に小さく手を振る。親しみの湧くような笑顔を浮かべる。彼のようなおいしそうな体つきの男がゲイだというのは惜しい。
けれど、彼女は目の前のきれいな男から、やたらと男っぽいセックスアピールを感じていた理由に納得した。
「……ねぇ、ディーン。あなたって、何歳だって言ってったっけ?」
「ん? 何? そんなにも俺に興味を持ってくれちゃった?」
ディーンは、彼女が握りつぶしたメモには気付いていたものの、こういう場所で回ってくるメモなんてろくでもないものに決まっていると、失礼のないよう彼女がきょろきょろとすることすら見ないふりで済ませていた。ディーンにとって、一晩を過ごす彼女が、ビッチと罵られるのであるなら、その方がずっと楽しい夜が過ごせる。
ディーンは笑顔で彼女の質問に答える。
「26だよ。どう? お気に召すかな?」
彼女は、がたりと席を立った。
「おしゃべりしたいだけなら、口説いてくんな! タコ!」
ディーンは、ぼりぼりと頭を掻いていた。
「や、マジで、悪い。サミー。プレゼント、何がいいのかわからなくて、こないだバーで口説いてた娘にでも相談して決めようと思ってたのに、彼女、いきなり怒鳴って出てくし」
その原因であるメモを回したサムはおくびにもそんな悪事を働いたことなど感じさせぬ顔で、兄の謝罪に嬉しそうな笑みを浮かべる。
「いいって。ディーン。今更、プレゼントの欲しい年でもないしさ。それより、兄貴とこうして一緒にクリスマスが過ごせるってだけで、俺、結構っていうか、……あ、うん。正直に言うと、かなり幸せ……だし」
照れた弟がかわいくて、ディーンはまだモーテルのドアの前だというのに、ぐいっとサムの肩を抱き寄せ、ぐりぐりと頭を撫でる。
「ああ、くそっ! サム。サミー! 俺も、お前とクリスマスが過ごせて幸せだよ。そうだよな。やっぱ、クリスマスは、家族と一緒に過ごすもんだよな!」
ディーンの顔が赤い。恥ずかしそうに弟と目が合うと、ふっと目を反らしてしまう。
けれども健気な弟を持つ兄としては。
「……サム。プレゼント、何がいい? やっぱ、やるよ。何でも好きなものやるから、言えよ」
サムの希望のクリスマスプレゼントは、あくまで「26歳の男の子(ディーン)」だ。
END
サムたんは超聴力(S2 ハリウッドの亡霊)
兄弟の年が合ってない可能性が高いです……。すみません。