ある日のメモ 2

 

はっと気がつくと、ディーンはベッドの縁へと仲良く腰掛けた弟に覗きこむように目を見つめられていた。訳がわからないが、サムの顔はすこしだけ照れくさそうだ。

「ディーン……」

なんだ?と、気軽に返事を返すには、ディーンを陥った状況は異様な雰囲気だった。なんというか、サムの態度が甘いのだ。確かに元からサムはやさしい人間ではあるが、少なくともディーンはこの至近距離で、サムにこんな甘ったるい視線を向けられたことがない。下手をすれば鼻先が触れ合う距離だというのに、サムはしっかりと自分を見つめ、唇は何かの準備のようにうっすらと開いている。しかも、開いた唇はゆっくりとディーンに近づいてきていた。そこから何かが起こることを想像できるとしたら、ディーンには1つしか思い当たらない。そんなことを許しあう関係の名もまただ。

柔らかく唇が重なる。サムの手がそっとディーンの頭を抱き、キスをしながら髪を撫でる。あまりの事態に間抜けにもぼんやりと開いたままになっていたディーンの口は、サムが柔らかく噛むようなキスを繰り返すうちに、弟の舌まで受け入れてしまった。唇の表面を気持ちよく擽られ、そのまま歯の表面を、どうしてもっと開けてくれないの?と尋ねるようにそっと舐められ、やっとディーンは、サムを突き飛ばした。

「ディーン?」

ベッドに手をついてのけぞったサムは、驚いたように目を見開いてディーンを見た。ディーンは慌ててキスで濡れた自分の唇を拭った。

「何をするんだ!」

「ん? どうしたの? また恥ずかしくなったの?」

強く突き飛ばしたはずなのに、サムは怒ってはいなかった。まるで可愛くて仕方がないとでもいうように目を細めた柔らかな苦笑を浮かべると、そっとディーンの手を握った。全く強引さのない自然な接触は、振り払うのが不自然なほどだ。ディーンの目が信じられないと握られた手と、弟の顔の間を何度も視線を走らせても、サムに動揺はない。

「落ち着いて。ディーン。リラックス。照れくさいんなら、目を閉じよう」

いつのまに弟は兄をリードする立場に立ったのか、サムの大きな手がディーンの目の上を覆った。

「まだ、目を開いてるね。睫がくすぐったい」

サムは、兄に緩やかな目隠しをしたまま、もう一度唇を重ねる。サムのキスなど、ディーンは想像したこともなかったが、優しいくせにしっかりと求めてくるそのやり方はかなり良くて、相手が見えていないことも手伝いディーンはつい流されそうになった。

「待て。サム。待て」

「悪いけど、待たない。待ってもディーンは混乱するばっかりだし」

確かにディーンは混乱していた。

俺はいつの間に、弟と乳繰り合うような、そんな淋しいヤローになったんだ?

ディーンに思い当たることは何もなかった。だからといって、記憶喪失というわけでもない。ディーンは夕べ食べたものだって思い出せる。フライドチキンと、ビール。ポテト。ああ、そういえば、野菜を食えとサムが言って差し出したサラダは押し返した。サムのスープに胡椒を振りまいて、怒らせた覚えならディーンにはあったが、弟のペニスをありがたくしゃぶった記憶など神に誓って全くない。それなのに、サムはでかい体を有効に使い、ディーンを包み込むように抱きしめるとそっとベッドに押し倒す。

モーテルのベッドは、困惑のあまり休息が欲しくなっているディーンにとってなかなかナイスな寝心地だった。気持ちがいい。覆いかぶさるサムの体温もちょうどいい。思わずリラックスしてしまいそうになる甘ったるいムードのサムは両手で頬を包むようにして、口内を隈なく舐めていくキスをする。サムは固くなった自分の股間をそっとディーンの腰へと押し付け、セックスの興奮へと誘い込もうとしている。

「ディーン……」

ついばむようなキスを頬にいくつもされれば、ディーンは照れくさくくすぐったいような快感を感じた。あまりにサムが、好意を前面に押し出した触れ方で事を進めていくせいで、腰に押し付けられているジーンズの前が不自然に固く高ぶっていても、それほど危機感を感じない。いや、それどころか、こんなスイートなセックスはディーンにとってかなりごぶさたのご馳走で、なんだか気持ちの悪い状況だったが、ディーンはこのご馳走を食っちまってから考えてもいいんじゃないかという気分になっていた。

きっとサムのセックスなんて、途中で飽きちまうようなチンケなもので、その時に笑ってやればいいんじゃねぇ?

優しくまさぐる暖かな手の気持ちよさや、弟のセックスに対する覗き見的な好奇心が倫理観の薄いディーンをそそのかす。


ディーンが真面目に考えることを放棄してしまうと、それをサムは察したようだった。もう平気?とでもいうように穏やかな目をしてディーンの目尻にキスをすると、大きな手を伸ばして、ディーンのジーンズの前を開けた。

一瞬さすがに、ぎゃっと思ったディーンだったが、サムは嬉しそうな顔をしてディーンのペニスを下着の上から撫で始める。予想もしない速度でむくむくと大きくなっていくペニスにディーンが驚いているというのに、サムは平気でしディーンへと提案した。

「ディーン、また濡らして汚すの嫌だったら、脱ぎなよ」

まさか、もう洩らしてるだって?と、少し体を起こしてみれば、自分の下着は確かに恥ずかしい染みでグレーを一部濃い色を変えており、サムの指がその染みをくりくりと撫でれば、敏感なペニスの先端にぞくぞくとした快感を覚えた。

ディーンはいくら汚してしまっているとはいえ、さすがに下着を脱ぐのには抵抗があった。けれど、サムの手が与えてくる快感を手放すのも惜しかった。

だが、どうやら、サムはディーンが汚すことを嫌がるのでなければ、ヌードにならなくても現状でも不服はないようだ。ぴっちりとペニスの形に盛り上がる布地の上からサムは飽くことなく勃起したディーンのペニスの形をなぞる。大きな手は着衣の上からディーンの腿を緩やかにまさぐる。

それは、とうとうディーンの方がじれったさに直接握って欲しいと思うまでそのままで、ディーンは自分からジーンズと一緒に下着まで蹴り落としてしまった。そして、ディーンは、サムに握ってくれと腰を押し付けようとしたところで、さすがにこれは弟にもサービスしてやるべきなのかもしれないと思った。

先ほどから、気持ちのいい思いをしているのはディーンばかりだ。あんなにもジーンズの前をパンパンにさせていたというのにサムは何の要求もしない。

 

ディーンはちらりとサムの股間を伺い見た。やはり、前はきつそうだ。いや、サムの股間はディーンのものを扱き始めてから、更に大きくなったように見えた。

サムは、ディーンが欲望に急かされるままに、押し付けたペニスを柔らかく握って気持ちよく扱いてくれている。それは、ディーンが思わず、鼻に抜けるような甘い声を洩らしながら、腰を揺すってしまうほどで、その上サムは、引き寄せたディーンの肩や首に飽くことなくキスを続けるような甘い行為を続けていた。こんな汗の匂いがするほど肌を近く体を擦り付けあって抱き合っていれば、もう、肩だろうが、足だろうが、ペニスだろうが結局は同じ皮膚じゃないか?とディーンは、唾を飲み込んだ。

弟の体だ。近くに感じる熱くなっている体温に嫌悪感を抱く隙はない。それどころか、側にあって一番落ち着く。多分、世界中で一番。

ディーンはサムのジッパーへと手を伸ばした。すると、サムが笑う。

「どうしたの? サービスしてもいい気になった?」

「……俺だけってわけにいかないだろ?」

嬉しそうに笑った顔がまっすぐに覗き込んで来て、先ほどから何度も声を飲み込むような快感を味あわせられ、今だって口からは湿った息を吐き出しているディーンは恥ずかしくなって顔を背けた。サムが額にキスを落とす。

「別にいいんだよ」

サムは言う。サムはディーンに行為を強要せず、勿論、してもらうだけで済むのであれば、確かにディーンにとってもそれは都合はよかった。思わずほっと息を吐き出した口に、サムがちゅっとキスをする。

「ディーン、ディーンがこうして許してくれているだけで、俺は十分」

しっとりと見つめてくる視線は、熱っぽく真摯に愛を打ち明けており、ディーンは、うちの弟はいつのまにこんなタラシ方をマスターしたのだと、愕然とした。そして、そんなサムにキスをされ、そのやり方に、参ってしまいそうになっている自分がディーンは信じられない。

「ああ、もう、好きにしてくれ!」

ディーンは、真面目に考えるのが面倒くさくなり、何もかも放りだした。実は、考えて、出した結論と対面するのが怖い。

「気持ちよくしてくれるんなら、何だっていい!」

OK。ディーン」

 

 

自分で脱いだとはいえ、下半身だけ裸の体をきれいに折り曲げられ、尻の穴に舌を突っ込まれながら、ディーンは自分でも信じられないような声を上げていた。

「もう、いや、…いやだ、サム」

「まだ、ダメ。ディーン。ディーンは、痛いの嫌いだろ?」

「いや、いやだ、いやだ、……サム」

膝裏を掴んで自分の肩へと兄の足を担ぎ上げているサムは、体の幅の分だけ大きく開かれたディーンの足の間で、熱心にディーンの穴を広げている。

弟が、足首を掴んで、体を引き寄せた時、ディーンはまさかサムが自分の肛門を舌で舐めたがるなんて思いもつかなかった。ゴムはあるのか? いや、それ前にジェルで濡らすくらいはしてくれ。無意識にディーンの目がベッド周りの小物を探っているうちに、サムは、尻へと顔を埋めた。

「ちょっ! お前!」

冷たい舌で表面の皺を擽られ、驚きのあまり、ディーンの足はサムを蹴った。しかし、一発目は謹んで蹴られてくれたものの、二発目以降は、サムは足首を掴んで全く平気でかわしている。口元をにっと広げる笑いを浮かべたサムは、真っ赤になっているディーンの顔を覗き込んでこれだけは譲れないと、言った。

目はディーンの様子を面白がっている。

「ディーン。ディーンが、嫌がるの真に受けて、俺がしないと、後で不機嫌になるじゃん」

 

サムの舌が、ディーンの白い尻を舐めている。唾液で濡れた窪みには、弟の指が2本埋まっている。指で広げた穴の間に、舌を差し込んで、サムはたっぶりと内を濡らしていく。

ディーンは、そんなところを舐められて、びくびくと震える自分の体が信じられなかった。しかし、腸内の粘膜を擦っていく指の動きに、腰が捩れる。

「……ァ!……っ」

大きく開けられた肛口の縁を舌先が擽れば、勃ったままのペニスから、腹へとぽたりと先走りが落ちていく。

 

「どう?」

サムは、ディーンの尻へと顔を埋めたまま口を利いた。指で深く掘り広げられている場所に熱い息を吹きかけられ、ディーンは声を上げていた。

「あ! あ! ……くそっ! いいっ!」

はぁはぁと汗で濡れた胸を喘がせるそんなディーンの態度に納得がいったのか、サムの手が伸びてジェルを取り出し、ディーンの尻を内側も外側ももっとぬるぬるにした。

「あ〜。もう、そんな目して見ないで」

情けないような声を出してサムはディーンの額の汗を拭うと、焦った動作でゴムをつけた。ディーンの足を抱え直す。

「入れるよ。ディーン」

もう、さっさと何でも入れてくれというのが、正直なディーンの気持ちだった。尻の中を弟に弄られるのがこれほど気持ちいいなんて、一体どんなトリックだと言いたくなる。
今すぐにでもいきたいペニスは、サムが入れてくれるものなら、なんだって喜びそうだ。
ぬるぬるになった尻の穴に押し当てられたペニスの先が、重くディーンの中へと押し入ってきて、ディーンは苦しさに呻いた。けれど、ディーンは自分からサムを引き寄せるように抱きしめ離さない。
拡げ、深い場所へと進んでくるサムのペニスに、期待があるのだ。絶対に、これは、自分を気持ちよくしてくれる。

サムは、慎重な挿入を続けながらも、しがみつくディーンの髪に、何度も、何度も、嫌になるほどキスを繰り返している。

「好きだよ。ディーン。好き。……好き」

こんな風にセックスするサムのものが、ディーンを気持ちよくしないはずがない。

 

入ってくるでかいペニスが最奥へとたどり着く前に掠った場所で、ディーンの足はサムの腰をぎゅっと締めた。

「……っ……ぁ、……サム」

ディーンは自分から口を開けて、サムにキスをねだった。サムは、ディーンの髪を撫でつけながら、何度でもキスをくれる。

サムの腰が動くことで湧きあがる快感に、ディーンの足はますますサムの腰へと絡みついた。

軽々と掬い上げるように尻を持ち上げられ何度か突き上げられると、ディーンは、自分でも信じられないくらい簡単にいってしまう。

「……ッいく!……ア、っあ、あ!」

サムは、ディーンが快感をもっと味わえるようにと、長い射精を続けるペニスに手を添えて扱いてくれる。

頬を撫でながら、尋ねてくる。

「……続けて平気? ディーン?」

 

だが、続くセックスで、まだ余裕でいかないサムに、さっきよりもより高い頂点でいかされたディーンはふらふらのくせに、むかむかと腹が立ってきた。おかしいのだ。サムがこんなにテクニシャンだなんてことはあり得ない。腰を抱えて、こんなにハンサムな顔で笑うなんておかしすぎる。俺ばっかりがいかされて、こいつがまだいかないなんて、あり得ない。

ディーンはバックからサムに突っ込まれ、胸を喘がせながら叫んでいた。

「これは夢だ! サム、テメーは、でかいだけのテクナシのはずだ!」

 

大声過ぎる兄の寝言に、びくりと驚き、パソコンの画面から顔を上げたサムは、きょときょとと周りを見回す寝癖のディーンを目を細めてじっと見た。

ジン事件以来、ディーンは夢の国でお好みのアナザーワールドを作り上げることが上手になったようで、あまりにも幸福そうに眠るため、サムはディーンの睡眠を邪魔しないよう、兄が眠ると音を立てないように作業を続けていた。

しかし、今日の昼寝で兄はどんな夢を見ていたのか。

どうやら夢の出演者であったらしいサムは、でかいだけのテクナシだという名誉毀損もはなはだしいディーンの寝言のわけが是非聞きたかった。

ディーンは、がしがしと頭をかきながら、寝言の原因になったことが夢であったことにほっと肩を落としている。

サムと目が合うと、一瞬真っ赤になって目をそらし、それから、もう一度顔を上げたときには、にやにやといつものからかうような顔でガードを固めながら、こちらの様子を伺ってくる。

「サム。サミー坊や……俺、なんか言った?」

「ディーン、俺がデカイだけのテクナシかどうか体験してみる?」

 

パンツの中が、べっとりと濡れてしまっているディーンは、恐い顔で笑っている弟を相手にどう切り抜けようか、じとりと汗が浮かんだ。

 

 

END

 

……スパナチュは、王道ネタをやりたくなる魅力があると思う。