百合カプ物語 3

 

ひまわり

 

夏の庭に連れ出され、ショーンは、真上で、にらみを利かせている太陽に、目を眇めた。

雲は、多く出ていたが、太陽は決してそれに、負けていなかった。

「だから、帽子をかぶってけって、言っただろう?」

ヴィゴは、麦藁帽子の下から、歯を見せて笑った。

麦藁の下で笑う口元の不ぞろいの歯が、眉を顰めたままタバコを取り出すショーンから、まる見えだった。

「待っててやるから、帽子を取って来いよ。ショーン」

「いい」

ショーンは、額で手を翳し、ヴィゴに向かって顎をしゃくった。

さして、うまくもないタバコをふかした。

「で、どこに行くんだ?ヴィゴ」

「うちの畑だよ。ちょっと楽しいものを作ったんだ」

ヴィゴは、にやにやと楽しそうに笑って、ショーンの前を歩き始めた。

ショーンは、跳ねるような足取りのヴィゴに、小さく肩を竦め、後ろを付いていった。

 

「どのくらい歩くんだ?」

もうだいぶ歩かされ、ショーンの額には、汗が浮かんでいた。

家を出る時に加えたタバコは、とっくに吸い終わっていた。

「後、ちょっと」

ヴィゴの足取りは、軽かった。

裸足の足が、ぺたぺたと土を踏んでいた。

「車を呼んだほうが良くないか?」

「ショーン、あんた、絶対に運動不足だぞ。そんなに楽ばっかりしたがってると、すぐに爺になるぜ?」

ヴィゴは、速度を落とし、ショーンの隣に並んだ。

しかし、ショーンばかりが、楽をしたがっているわけではなかった。

もう、歩き始めて、15分は経っていた。

散歩に誘われたのなら、まだしも、すぐそこまでなんだ。と、ショーンは、ヴィゴに連れ出されただけだった。

ヴィゴの目が、なにかをたくらんでいかにも楽しげだったから、つい、腰を上げてしまったのだ。

ショーンは、目の上に掌でひさしを作った。

「帽子を持ってくればよかった」

浮き出した汗が目に入り、ショーンは、眉を顰めた。

「だから、待っててやるって言ったのに、ショーンが、いいって、言ったんじゃないか」

ヴィゴは、自分が被っていた麦藁帽子を脱いで、ショーンに被せた。

ショーンの目元に影が落ちた。

「立派なファーマーに見えるぜ?ショーン」

「ついでに、タオルも寄越せ。ヴィゴ。・・・一体どこまで行く気なんだ」

ショーンは、ヴィゴに向かって手を伸ばした。

だが、ヴィゴのポケットには、タオルなど入っていなかった。

ショーンは、ヴィゴのTシャツを引っ張り、そこに顔を擦りつけた。

ヴィゴのTシャツにべっとりとショーンの汗が付いた。

「帰ったら、冷蔵庫のビールは、俺の独り占めな」

「ショーン。あんた、持ち込んだビールを、全部自分で消費してないか?」

ショーンは、ヴィゴのTシャツを引っ張ったまま、にやりと笑った。

「暑いとビールが美味い」

ヴィゴは、広い牧場を横ぎり、とうとうショーンを目的の場所へと連れて行った。

 

ショーンは、驚きや、感動というより、呆れたような声を出して、ヴィゴの名を呼んだ。

「・・・ヴィゴ」

ヴィゴは、もっと楽しげな声が聞けると思っていただけに、ショーンの態度にはショックを受けた。

「なんだよ。ショーン。面白いだろ?」

「いや、確かに、面白い。面白いけどな。でも、こういうとこに連れてくるなら、もっと適任な相手がいるだろう?」

ショーンの目の前には、広大なひまわり畑が広がっていた。

かなり高いほうであるショーンの身長を越え、ひまわりは、太陽に向かって、大きな花を広げていた。

「一体、どれだけ植えたんだ?」

「さぁ?迷路を作りたいといったら、でかい樽に一杯、花屋が種を届けにきたんだ」

「なんで・・・」

ヴィゴが奇抜なことに熱意をみせて取り組むのは、これが初めてではなかった。

しかし、ショーンは、かなりの面積を埋めるひまわりの群生に呆然と言葉を切った。

「ショーン、覚えてないか?指輪の最初に、ホビットたちが、とうもろこし畑の中を逃げるシーンがあっただろう?ああいうのって、やってみたくならないか?」

「・・・べつに・・・」

ショーンは、自分が特別現実的なタイプだと思ったことはなかった。

だが、こういう遊びを本気で実現させるだけの熱意も無かった。

ヴィゴは、迷路の入り口らしいひまわりの前に立ち、すこしつまらなさそうな顔をした。

裸足の足が、土の上に落ちている大きなひまわりの葉を踏んだ。

ショーンは、小さく苦笑した。

「なぁ、こういうのって、どうやって作るんだ?」

ショーンは、ヴィゴへと近づきながら声をかけた。

とたんに、ヴィゴは、目を輝かせた。

「種を植える前に、設計図を作るんだ。道の部分に種を植えないようにして、大雑把に撒くんだが・・・途中で、余分なのを、間引いたり、結構楽しい作業だったぞ」

「ご苦労だったな」

ショーンは、帽子をなくして、汗を浮かべているヴィゴの額をほんの少し撫でた。

「なぁ、これの中には、途中で、クイズがあったりするのか?」

ショーンは、やっと、ひと一人分やっと道になっているひまわり畑に頭を突っ込みながら聞いた。

ヴィゴは、悔しそうに、舌打ちした。

「・・・そうすりゃ、よかった。しまったよ。ショーン、これは、ただの迷路でしかない」

ヴィゴは、二度、三度と舌を鳴らした。

ショーンは、くしゃりと笑顔になった。

「ゴールしたら、景品が貰える?」

ショーンは、ヴィゴへと手を伸ばした。

「ショーンが期待するみたいな、豪華商品はないけどな」

ショーンは、ヴィゴの手を握った。

二人は、ひまわりの迷路に足を踏み入れた。

しかし、中は、みっしりと埋まったひまわりのせいで、やたらと視界が悪かった。

背丈以上のひまわりに、二人は、すぐに、方向を見失った。

ショーンは、不安そうな顔になった。

「ヴィゴ、お前、ちゃんとゴールまでの道を覚えているだろうな?」

「どうだろう。ショーン。でも、答えのわかっている迷路なんて、つまらないだろう?」

ヴィゴが笑うのに、釣られてショーンも笑った。

狭い道だというのに、まだ、二人は仲良く手をつないだままだった。

 

「なぁ、ヴィゴ。お前、永遠にゴールできないように、作ったんだろう・・・」

「おかしいな。結構簡単な迷路にしたつもりだったのに・・・」

何度か、ひまわりの壁にぶち当たり、角を曲がった後だった。

二人が、袋小路にはまり込んだのは、これで2度目だった。

ショーンは、もう、ヴィゴの手も離してしまっていた。

いらいらと迷路の中を動き回っていた。

「・・・暑い」

太陽は確かに二人の背よりも高いひまわりたちに、さえぎられていた。

だが、かわりに風も、ひまわりたちに、さえぎられてしまっていた。

「くそ!暑いぞ!!」

ショーンは、ひまわりを蹴り飛ばしながら文句を言った。

ヴィゴは、ショーンに肩を竦めた。

「ショーン、そんなにいらいらするな。怒ってみたところで、事態にかわりは無いんだ」

「でも、いらいらはするだろう!畜生!なんて蒸し暑いんだ!!」

ショーンは、被っていた帽子でしきりと自分を扇いだ。

しかし、むせ返るような植物の間の狭い道では、その程度の風など、無いも同然だった。

「ヴィゴ、どうせやるなら、ガーデニング程度にしておけ!」

「わかった。今度は、バラでトンネルでも作ることにする」

「ああ!全くもう!!」

汗に濡れた頭をぐしゃぐしゃと掻きむしったショーンは、悪びれないヴィゴを振り返り、強く肩を掴んだ。

「ごめんなさいって、言え。ヴィゴ」

ショーンの額には、汗が筋を作って流れ落ちており、暑さのあまり目は吊り上がっていた。

ヴィゴは、自分のTシャツをめくり上げ、ショーンの顔を拭った。

「ごめんなさい」

ヴィゴは、チュっと、ショーンの頬へとキスをした。

「・・・これでいい?ショーン?」

ヴィゴが、拭いたはずのショーンの顔から、また、顎へと水滴が流れ落ちた。

ヴィゴは、首をかしげた。

そして、自分にも落ちてきた水滴に、にやりと唇を曲げた。

「恵みの雨だぞ。ショーン」

蒸し暑かったのは、植物の間にいたばかりではなかった。

夕立が、ひまわり畑に襲い掛かった。

振り出した雨は、すぐに大粒の豪雨になった。

「ショーン、ひまわりが傘の代わりになるかな?」

「考えるよりまず先に、逃げ込めよ。ほんとに・・・ヴィゴは・・・」

ショーンは、空を見上げるヴィゴの腕を引っ張った。

 

雨は、思ったよりも長く降り続いた。

ひまわりの傘程度では、二人の肩は濡れるのを防ぐことができなかった。

二人は、濡れながら、じっとお互いのことを伺っていた。

何もすることのない、時間に、お互いが何かを期待していることなど、実は、二人ともわかっていた。

後は、どちらが先に、口火を切るか。という問題だけだった。

ショーンは、くしゃみをしたヴィゴに麦藁帽子をかぶせた。

麦藁は、もう、ぐっしょりと濡れており、帽子のふちからぽたぽたと水滴を落としていた。

しかし、ヴィゴは、嬉しそうな顔をした。

「ショーン、ついでも、もっと側にこないか?」

「・・・じゃぁ、ヴィゴ。ちょっと退いていろ」

ショーンは、自分が傘にしていたひまわりをヴィゴのひまわりへと近づけた。

ひまわりの花が受け止めていた雨水が、ぼたぼたと地面を打った。

「思ってたより、力がいるな」

「まぁ、それだけ茎が太けりゃな」

しかし、大輪の花を咲かせているひまわりが花を寄せ、ヴィゴと、ショーンは、さっきまでより多くの面積を手に入れた。

「・・・ショーン」

小さくショーンの名を呼んだヴィゴに、ショーンは、顔を傾け、キスで応えた。

強く唇を押し当てるショーンに、ヴィゴは、柔らかなキスを返した。

ショーンの手は、ひまわりの茎を曲げておくのに使われていた。

だから、ヴィゴは、ショーンの分も補えるよう強く体を抱きしめた。

二人は、雨のせいで、少し冷たくなっていた体を、押し付けあった。

ショーンが強く顔を押し付けるせいで、ヴィゴの鼻がつぶれた。

鼻から甘い息の音をさせ、ショーンの舌が、ヴィゴの舌に絡みついた。

ヴィゴの手が、ショーンの金髪をかき混ぜた。

「雨さえ降ってなければいいのに・・・」

離した唇をすぐ追いかけるせわしないキスの合間だった。

ヴィゴの言葉が、ショーンには、聞き取れなかった。

「・・・なに?・・・ヴィゴ?」

ショーンは、ヴィゴの唇に噛み付くようなキスをし、そのすぐ後には、ヴィゴの耳の下へと唇を押し付けていた。

手は、傘代わりのひまわりを押さえておくのに使われていたので、足をヴィゴへと絡めていた。

「こんなにショーンが、その気になってるとは思わなかった・・・」

ヴィゴは、ショーンの尻を掴んで、高ぶったショーンの股間を自分のものへと擦り付けた。

硬くなっているものを押し付けあうために、ショーンが腰をゆすった。

「久しぶりに、外で出来るチャンスだってのに、こんなに地面が濡れてちゃ、ショーンをいいようにしてやることもできない」

「・・・じゃぁ、立ったままやるってのは。ヴィゴ?」

ショーンのキスは、ヴィゴの顔中を這いまわっていた。

ショーンに押し上げられ、ヴィゴの麦藁帽子は、地面に落ちてしまった。

伸びかけのショーンの髭が、ヴィゴの頬を擦った。

「ショーン、それ、やられるの、俺だろう?」

ヴィゴは、苦笑した。

ショーンの顔を捕まえて、せわしないショーンを押しとどめるように、ゆっくりと唇を近づけた。

薄い唇に何度か触れるだけのキスを繰り返し、その後は、唇の肉を甘噛みする。

「・・・ヴィゴ」

唇を開け、待っているショーンは、何度もキスするヴィゴの唇を舐めた。

やっと、ヴィゴが口を開いて、舌を伸ばした。

絡めとろうとショーンは、ヴィゴの舌を待ち受けた。

「ヴィゴ。されるのは嫌?」

「俺、あの体位嫌い」

ヴィゴは、ショーンの舌を簡単にかわして、歯列を舐め、上顎を擽った。

ショーンは、悔しそうな目をしたが、すぐにうっとりと目を閉じた。

ヴィゴは、ショーンの尻の肉を揉み始めた。

キスはまだ続いた。

「でも、ヴィゴ。俺も、こんなことで、されるのなんて、絶対に、嫌だ。ヘンな虫に刺されるかもしれない」

「じゃぁ、これ、どうする?」

ヴィゴは、硬くなったペニスをごりごりとショーンに押し付けた。

ショーンが、ひまわりから手を離した。

いつの間にか雨の振りが緩くなっていた。

ショーンの手が、ヴィゴを押しのけ、濡れてはずしにくくなっているジーンズのボタンをはずした。

下着を押し下げ、勃起したペニスをつかみ出す。

ショーンのペニスは、雨の水分だけとは言いがたく、濡れていた。

「ここは、妥協する。・・・あとで、もう一回できるか?」

ショーンは、ヴィゴのジーンズへとペニスを押し当てた。

手は、ヴィゴのジーンズのジッパーを下ろしていた。

「努力するとも」

ヴィゴは、ショーンのペニスをしごきながら、口元に笑い皺を刻んだ。

 

 

ヴィゴは、麦藁帽子と、ジーンズだけの姿だった。

Tシャツは、汚れてしまって、着ていることが出来なかった。

ヴィゴの足は、急ぎがちに進んでいた。

後ろを歩くショーンは、ぼんやりと満足げだ。

「最初から、こうすればよかった!」

ヴィゴは、迷路を抜けることをあきらめ、ひまわりの壁を押しのけ、直線に進んだ。

あれほど、この季節になるのを楽しみに迷路を作っていたにもかかわらずだ。

ショーンは、腰を震わせ、ヴィゴの肩を咬むようにして射精した。

小さくヴィゴの名前を呼んだ。

ヴィゴだって、ショーンの手を汚した。

だが、そんな風にされて、もう、お終いなどと言えるほど、ヴィゴは枯れていなかった。

もう、ひまわり畑の端は、ヴィゴの目の前だった。

「でも、ヴィゴ。やっぱり、こんなズルをすると面白くもなんともないな・・・」

ショーンは、あれほど、暑いだのなんだのと文句を言っていた。

なのに、ヴィゴの肩に手をかけ、そっと頬へとキスをした。

「・・・せっかく、ヴィゴが用意してくれたってのに」

ヴィゴは、立ち止まり、ショーンを振り返った。

「もう少し、迷いたい?」

ヴィゴは、唇を曲げたような笑い方をした。

ショーンを前にすると、ヴィゴは、ついこんな笑い方になった。

ショーンにすっかりやられている自分にほんの少し腹が立つのだ。

「いや、明日早起きして、日が昇りきる前に、もう一度ここに来よう」

ショーンのほうが、先にひまわり畑を抜け出した。

「・・・これから、ゴールした景品を先渡ししてくれるんだろう?」

二人は、また、強く照りつけだした太陽の下を、汗を流しながら、家へと向かった。

 

 

                         END

 

            

 

 

お題の「ひまわり」は、大好きなサイト様で、あがっていた8つのお題のうちから、頂きました。