百合カプ物語 ─2─
「ああ、ショーン、動かないで」
ヴィゴは、ショーンの周りを嬉しそうにくるくると回った。
手には、リボンを持っていた。
「あんたさ、ほんと、こういうの、好きだよな」
ショーンは、穏やかな日差しが差し込むリビングで椅子に座っていた。
あきれた様なため息を遠慮もせず付く。
すこし上を向き加減の顎のラインに、退屈という言葉が見え隠れした。
「誕生日くらい、俺の趣味に付き合ってくれよ」
ヴィゴは、ショーンの肩へとリボンを回した。
ショーンは、行儀よく揃えた足からはじまり、順に上に向かって、真っ赤なリボンを巻き付けられていた。
上質な肌触りのリボンは、ショーンの行動を拘束する。
「なぁ、ヴィゴ。煙草が吸いたい」
ショーンは、身動きもままならない窮屈な状態で、満足げで嬉しそうなヴィゴの顔を見上げて言った。
ヴィゴは、自分のミスに気付いて、顔を顰めた。
小さく舌打ちをする。
「しまった。腕が動くようにしておいてやるべきだったな」
「いや…あのな、そんなに長い間、こんな目に合っていたくないから、それは、いいんだ。今、腕が動かないことくらい、我慢してやる。それより、煙草を咥えさせてくれ。あと、ちょっとで終わりなんだろう?」
ショーンは、少し口を開き気味にして、顎を上げた。
ヴィゴは、口寂しそうなその唇に、チュッとまず、キスをした。
青い目が、至近距離の緑の目をじっと見詰める。
「ショーン。煙草…机の上に置いたんだっけ?」
「違う、ソファーの上。左端の方。勿論、火をつけて寄越せよ」
タキシードまで着せられ、とても高価な商品のように、ラッピングされているショーンは、ヴィゴが戻ってくるまでの間、小さく身じろぎしながら待った。
ヴィゴが側にいる間は、リボンが綺麗に結べないと、動くことも許されなかった。
ヴィゴは、自分の口に煙草を咥え、ライターを近づけた。
寄せられた手の中で、煙草に火がつき、ヴィゴが息を吸い込むと、ちりちりと包み紙が燃えていく。
「早く寄越せ」
細く昇った煙の匂いに刺激され、ショーンは、大きく口を開くと、ヴィゴへと催促した。
ヴィゴの唇が、煙草を咥えたまま、楽しげなカーブを作った。
「ショーン、吸いたい?」
「当たり前だろう。それは、俺の煙草だ。さっさと、寄越せ、ヴィゴ」
「じゃぁ、一回分のディープなキスで取引しよう」
ヴィゴは、指の間に煙草を挟むと、顔を傾け、ショーンへと唇を寄せた。
ショーンが、口を開く。
煙草の味がする苦い舌が絡まり、ショーンは、その味を求めるように、更に奥へと舌を伸ばした。
ヴィゴは、ショーンの肩に手をかけたまま、ゆっくり、ショーンのキスを味わった。
ショーンは、ヴィゴの口の中にある、煙草の味を味わい尽くそうとでもいうように、歯の裏までも舐めていく。
肩口で燃えている煙草の匂いに、ショーンの鼻がひくひくと動いているのを感じて、ヴィゴは、ショーンから離れた。
「サンキュー。ショーン。どうぞ。なんだったら、もう一本付けようか?」
「一本で十分。でも、まだ、かかるようなら、これを吸い終わったら、もう一本サービスしてくれ」
唇に与えられた煙草に、ショーンは、満足そうな顔をして煙を吸い込んだ。
「いや、もうちょっとで終るから。あとは、首の辺りで、綺麗にリボンを結ぼうかと。
…なぁ、ショーン。やっぱり、あんたの頭の上でリボンを結んだら変だよな?」
「ヴィゴ。俺は、あんた程、美的感覚があるわけじゃないけどな。でも、言わせて貰えば、かわいい子供でもない限り、リボンを結んで、納得のいく出来栄えのものが出来上がる確立なんて、殆ど無いと思うぞ」
呆れ顔のショーンは、短くなりつつある煙草をヴィゴに向かって、突き出した。
ヴィゴは、受け取り、灰を落とす。
自分でも一口吸って、ヴィゴは、また、ショーンの唇へと煙草を戻した。
ヴィゴは、慎重にショーンの首元で、リボンの形を整えながら言った。
「いや、ショーン。あんたは、例外的に、すばらしい出来栄えだ。こんなプレゼントがもらえる俺は、世界で一番幸せな男だと断言することができるね」
ヴィゴは、ショーンの頬へと口付けを贈った。
ショーンの目が、冷たくヴィゴを見た。
「……俺の持ってきた酒に散々けちをつけて、こんなことを始めた奴に言われたくない」
「だって、ショーン。アレ、全部お前の好きな銘柄ばかりじゃないか。ただ、単に、俺の誕生日って名目で、飲みに来ただけだろう?」
「…どうかな?まぁ、ヴィゴがそうやって、思っているんだったら、それでいいんだが」
ショーンは、もう一度、灰を落とすよう、ヴィゴへと煙草を突き出した。
ヴィゴは、自分の作品の出来栄えを満足そうに眺めながら、ショーンの唇から、煙草を受け取った。
「さて、じゃぁ、プレゼントを受け取ることにしようか」
ヴィゴは、リボンでぐるぐる巻きのショーンを愛しげな目で見つめると、自分で結んだリボンを解き始めた。
ショーンの体を腕の中に抱きこみ、ゆっくりとリボンを外していく。
ヴィゴは、何度もショーンの金髪に、キスを繰り返した。
「俺だけのためのプレゼントだよな」
愛しさで窒息しそうな胸から思いを吐き出すように、ヴィゴは、小さく呟く。
ショーンは、大人しくヴィゴに抱かれながら、リボンの拘束がなくなることを待っていた。
「今まで、こんな馬鹿げたことを思いつく奴と付き合ったことがないから、自分がプレゼントになったのは初めてだね」
「…ショーン」
ヴィゴは、赤いリボンを手に握ったまま、ショーンの唇を塞いだ。
「…ショーン。ショーン」
ヴィゴは、キスを繰り返す。
ショーンは、柔らかくヴィゴの唇を挟みながら、囁いた。
「ハッピーバースディ。ヴィゴ。キスは後でも出来るから、まず、リボンを解いてくれ」
ショーンは、リボンが絡みつく足をヴィゴに向かって差し出した。
ヴィゴは、跪いて、ショーンの足へとかけられたリボンをくるくると解いた。
自由になったショーンは、椅子から立ち上がった。
少し小首を傾げ、自分を見つめるヴィゴをじっと見つめた。
ヴィゴの目は、タキシード姿のショーンをうっとりと鑑賞していた。
ショーンは、にいっと唇を上げて、大きく笑った。
「なぁ、ヴィゴ。まだ、俺はラッピングされているような気がするんだが?」
ショーンは、男ぶりを上げているタキシードの襟に触れながら言った。
ヴィゴの目が、嬉しそうな色を浮かべ、上目がちになった。
「…酒はいいのか?」
ショーンは、自分でボタンを緩めながら、ヴィゴに言った。
「あれは、お前をうまく誘えない時のための、景気付けに持ってきたんだ。今、もう、誘えたんだ。必要ないだろう?」
ヴィゴは、ショーンの背後に回り、タキシードの上着を脱ぐ手伝いをした。
深い黒の光沢が、ショーンの体から、脱ぎ落とされる。
ヴィゴは、ショーンの背中を抱くようにして、前へと手を回し、Yシャツのボタンを外した。
糊の利いた絹の肌触りは、肌に優しい。
ヴィゴは、ショーンの肩へと顔を埋めたまま、信じられない思いで聞いた。
「ショーン。俺は、今、誕生日プレゼントを貰ってもいいのか?」
太陽は、まだ、優しい光を部屋の中へと投げかけていた。
ショーンは、ヴィゴの腕の中で、ボタンを外されながら、にやりと笑った。
「ヴィゴ。サービスしてやるから、楽しみにしていろ」
ヴィゴは、ショーンの耳の後ろへとキスを繰り返した。
ショーンは、ヴィゴの手に助けられながら、自分にされた包装をどんどんと脱ぎ落としていく。
ヴィゴは、ショーンの肌へとキスを落とした。
「最高のプレゼントだ。ショーン」
ショーンは、背中に顔を埋めるヴィゴを振り返り、深い口付けを贈った。
2人は、ベッドへともつれ合うようにたどり着いた。
まだ、上着も脱いでいないヴィゴを笑いながら、ショーンがヴィゴの服を脱がす。
積極的なショーンは、ヴィゴの胸へとキスを繰り返し、ヴィゴがTシャツを首から抜くと、その首筋へと何度もキスを贈った。
ヴィゴは、ショーンの頭を抱いた。
ショーンの唇が、ヴィゴの肩を辿るのを味わった。
「ヴィゴ。すこし、痩せたな」
「ショーン。こういうのは、痩せたとは言わない。締まったといってくれ。日ごろのトレーニングの成果なんだ」
ヴィゴの胸には、十分な筋肉があり、確かに、華奢だということは、全く無かった。
鍛えられている胸の上にある乳首を唇に挟み、ショーンは、チュウっと、吸い上げた。
「でも、この間あったときと、すこし、イメージが違う。…なんていうんだ?かわいらしい?ああ、まぁ、そんな感じだ。すごく繊細な感じに見える」
「…俺は、もともと繊細なんだ」
ショーンの手が、ヴィゴの腰を撫でながら、しつこく乳首を吸い上げた。
ヴィゴは、ショーンの短い髪をかき回さずにいることが出来なかった。
ヴィゴの声に、吐息が混じる。
ヴィゴは、恋人の滑らかな背中を撫でながら、形のいい耳に歯を立てた。
「ショーン。俺も、ショーンのことが味わいたい」
ヴィゴは、ショーンの体を起し、首筋に顔を埋めようとした。
ショーンは、ヴィゴの腹へとキスを続けながら、抵抗を示した。
「ヴィゴ。まぁ、ちょっと、待ってろ。お前は、今日、誕生日なんだろ。いい気持ちにさせてやるから、大人しくしてろ」
ショーンは、ヴィゴのジーンズに手をかけながら、恋人の臍へと、甘いキスをした。
ヴィゴは、ベッドボードに寄りかかりながら、ショーンの金髪を撫でていた。
ショーンは、ヴィゴのペニスを口に含み、しきりに頭を動かしていた。
ショーンの口の中は、信じられないほど気持ちよくヴィゴを愛撫した。
舌が、くるりとヴィゴのペニスを包み、吸い上げながら、舐め上げてもいった。
ショーンの滑らかな上顎が、ペニスの先端を優しく擽る。
「…ショーン」
ヴィゴは、ショーンの項を何度も撫でた。
上体を倒して、滑らかな背中に、キスをした。
「…ショーン。気持ちがいい」
「そう思ってもらうために、している」
ショーンは、キスの形に寄せた唇で、べったりと濡れたペニスの先端に何度も唇を寄せた。
唇の間からは、小さく舌が覗き、悪戯に、ペニスをぺろりと舐めた。
ショーンは、窄めたままの唇の中に、ヴィゴのペニスを迎え入れた。
温かな口内が、強くヴィゴを締め上げた。
ペニスの裏側に張り付いた舌が、届く限りの根元まで伸ばされ、ペニスをべっとりと舐め上げた。
ショーンの片手は、ヴィゴの太腿に緩くかけられていた。
もう、片方の手は、ヴィゴの股の間を探り、垂れ下がった二つの玉にじゃれ付いている。
「ショーン。もうそろそろ、俺にもさせてくれ」
ヴィゴは、せつないような声を出した。
今日のショーンは、余りに熱心で、ヴィゴはショーンの口の中へと、味のある体液を零し始めている自覚があった。
ショーンは、口元を汚したままで、ヴィゴを見上げた。
「今日は、俺にさせろって、言っているだろう?」
ショーンは、ヴィゴの足に乗り上げた。
ヴィゴは、ショーンにベッドへと押し倒された。
ショーンは、ヴィゴのペニスを舐めている間に立ち上がった自分のペニスをヴィゴの腹へと擦りつけた。
「…えっと…なに?ショーン?」
ショーンは、ヴィゴのペニスを手で握り、ヴィゴの足の間に、自分の足を入れた。
「それは…え…っと、…あまり…」
ショーンは、自分の体の幅へとヴィゴの足を開こうとしていた。
ヴィゴは、かなりの緊張に、心臓がドキドキと音を立てた。
「心配するな。ヴィゴ」
ショーンは、泣きそうな目をしているヴィゴを見下ろし、くすりと笑った。
口元に浮かんだ笑いを隠すため、ショーンは、しきりと顎を撫でた。
ショーンは、強引にヴィゴの足の間に、体を割り込ませると、ヴィゴの足を緩く撫でた。
ヴィゴの足は、緊張のあまり、肌が泡立っていた。
「…どうしても?」
大きく見開いたヴィゴの目が、ショーンを見上げた。
「かわいいなぁ。ヴィゴは」
ショーンは、ヴィゴの強張った頬へと口付けながら、体を重ねた。
ヴィゴの髪を撫でながら、仕切りとキスを繰り返す。
「ヴィゴ。あんたが、入れるほうが好きなのは、知ってるよ。でも、今日は、後のことを考えて、まず、だなぁ…」
ショーンは、ヴィゴの体の上で、自分の体を動かし始めた。
お互いの立ち上がったペニスを擦り合わせた。
滑らかな腹の肌に押しつぶされたペニスは、じんっとした快感を2人へと与える。
ショーンは、2本分のペニスを手の中に握り、ゆっくりと腰を動かし始めた。
ヴィゴのペニスは、ショーンの唾液で濡れており、動きはとても滑らかだ。
「気持ちがいいだろう?ヴィゴ?」
「…これが、サービス?」
「そう。これが、サービス」
ショーンは、見開いているヴィゴの目尻へとキスをした。
「なぁ、ヴィゴ。濃厚なのは、もっと暗くなってからな。それまでは、あそこじゃない場所で、あんたのこと気持ちよくしてやるよ。こういうのも、たまにはいいだろう?」
ショーンは、ろこつな動きで、ヴィゴの体を刺激した。
ヴィゴは、いやらしい動きをするショーンの腰を両手で抱き、もっと激しく動かして、お互いの快感を煽った。
ヴィゴは、ショーンにタキシードを着るよう言いつけられた。
日は落ちていた。
時計は夕食の時間を指し示していた。
ショーンは、ヴィゴに内緒で、バースディディナーの予約をレストランに入れていた。
ヴィゴは、上着に袖を通し、同じように、正装する恋人の姿を眺めた。
ショーンは、ヴィゴのために髪を撫で付けていた。
ヴィゴは、うっとりとその姿を眺めた。
ショーンが、靴を履き替え、その足もとに落ちていたリボンを拾い上げた。
後は、出かけるだけのヴィゴへと、ショーンは椅子に座るよう言った。
「何をするんだ?」
セックスの余韻でぼんやりと幸福なヴィゴは、椅子に座り、楽しげに笑うショーンを見上げた。
ショーンは、引きずるほど長いリボンを手繰り寄せ、乱暴に、ヴィゴへと巻きつけた。
きちんと巻いてから始めなかったせいで、ショーンの体にも赤いリボンは巻きついた。
あれほど美しくヴィゴが結んだ蝶々結びが、ショーンにはできなかった。
リボンは、ヴィゴの首元で固結びになった。
「すこし、痛い…かな?ショーン」
ヴィゴは、首に巻きついたリボンのせいで、軽い呼吸困難に陥った。
ショーンは、鼻を鳴らすと、結び目に歯を立てた。
解いたリボンを今度は、もっと結びやすいヴィゴの頭の上で縛り出す。
「何がしたいんだ?ショーン?」
ヴィゴは、笑いながら、ショーンを見上げた。
ショーンは、機嫌が良さそうだ。
「俺の誕生日のプレゼントを作ってるんだよ」
「誕生日って、ショーンのは半年以上先だろう?」
ヴィゴの頭は、赤いリボンで結ばれてしまった。
「でも、俺も、これが欲しいんだ。だから、誰にも盗られないように、今から、用意しておくんだよ」
レストランの予約時間が近づいていた。
しかし、ショーンがヴィゴの頭の上で結んだ結び目が解けなかった。
ショーンは、また、ヴィゴの頭にある結び目を歯で引っ張ることになった。
「早く、解かないと。ショーン」
「分かってるって、もうちょっと待ってろ」
やっと結び目が解けた。
ショーンは、ヴィゴの頭にキスをした。
「ヴィゴ、誕生日おめでとう。また、ひとつ爺になりやがったな」
「あんたより、一つ年上なだけだろう」
甘いキスを繰り返し、結局2人は、予約に遅れた。