柔らかい肌(後日)

 

ショーンは、自分の腰のあたりにあるヴィゴの頭を思い切り張り飛ばしたい衝動に耐えながら、間接照明しかなかったはずの、部屋に出没したデスク用蛍光灯の光に、照らされ、立っていた。

ショーンの眉の間には、盛大な皺が寄っていた。

目は、剣呑に吊り上り、頬は、硬く強張っている。

ショーンは、なんだって、自分はヴィゴを選んだんだと、後悔していた。

「どう?まだ、痒い?」

ヴィゴは、にこやかな目をして、ショーンを見上げた。

ショーンは、明日の飛行機に乗って、帰国することになっていた。

帰国すると言っても、たかだか、一週間だ。

それなのに、この馬鹿は!その一週間の間に、ショーンが不貞を犯すと言い切り、大事な股間の毛を剃った。

一月も前の、浮気をネタにねちねち言うヴィゴは、うるさかった。

まさか本気でやるとは思わず、言いくるめられ、下半身を剥かれたら、本当に剃られた。

その時も、恥かしかったが、その後の痒さに、ショーンは、思い切り頭にきていた。

ヴィゴは、デスクライトの位置を調節しながら、短く生え揃ってきた毛を掻き分けて、点検している。

「大体全部、生えてきたかな?もう、そんなに痒くはないだろ?ショーン?」

「…ヴィゴ…」

「あんまり痒がって掻くもんだから、そっちで皮が剥けたりして、怪我するんじゃないかと、心配したぞ」

「…あのな、ヴィゴ」

ショーンは、夜とはいえ、リビングで、股間だけを剥き出しにされ、ヴィゴにじっと見られている自分に、ほとほと嫌気が差していた。

遅い夕食を2人で取った後、ヴィゴにいきなり、ズボンを下ろされ、股間に向けてライトをつけられた。

その時、ショーンは、もっと恥かしさを感じるかと思った。

だが、怒りの方が、先にたった。

「短い毛が、一杯つんつん生えてて、葱坊主みたいだ。かわいい」

ヴィゴは、ショーンの股間に頬擦りした。

「…剃刀で剃ったから、意外に毛が固いな。頬擦りするには、ちょっと痛い…」

思い通りの感触でなかったのか、顔を顰めたヴィゴは、ショーンのペニスに、チュっとキスした。

ヴィゴのがっかりした肩を、ショーンは、大きく叩いた。

「ヴィゴ…俺は、本当に、浮気防止のために、こうされたんだろうか?」

「…さぁ?どうだろう?でも、こうなってれば、さすがのショーンだって、浮気できないだろ?」

ショーンは、如何さま臭い恋人の表情に唇を引き結び、ヴィゴの髪を鷲掴みにした。

「ヴィゴ…」

「痛てて。ちょっ、ショーン。痛いよ」

「痛くて当然!2日の俺の苦労を考えてみろ。そんな見る奴なんていないと、思いながらも、つい、トイレに行くにもこそこそこそこそ。その上、痒くて、何度も、何度も打ち合わせから席を外して、リジに年のせいか?って、聞かれたし、サー・イアンには、真顔で悪い病気か?と、たしなめられたんだぞ!」

ショーンは、ヴィゴの髪を引っ張って、ずっと股間に位置していた、ヴィゴの顔を自分と同じ位置にまで、引きずり上げた。

ヴィゴは、肩をきゅっと寄せ、持ち上げられる猫のようだ。

痛そうに顰められているくせに、その目は、楽しそうだった。

「…見せてやればよかったのに」

「何を!」

「悪い病気じゃありませんって、つるつるのあそこを見せてやれば、みんな、すぐショーンが痒がってるだけだって、わかってくれたんじゃないか?」

ショーンは、噛み付きそうなほど近くまでヴィゴに顔を寄せ、唸った。

「…何、考えてるんだお前…」

「いや、ダメだ。そんなやっぱり、こんなかわいいショーンのペニスを人前で晒すなんて、そんなこと出来ない!」

真顔になったヴィゴの手が、出しっぱなしのショーンのペニスを掴んだ。

ショーンは、ヴィゴの髪から手を離し、代わりに両手で、頬をつねった。

「そういう問題じゃない!」

「いふぁい。…ショーン」

「痛くしてるんだ」

「でも、ショーン…」

ヴィゴは、握り締めていたショーンのペニスをむずむずと動かし、そこからもっと奥へ手を差し入れると、短い毛が生え揃ってきているショーンの股の間を指で触った。

「…ああ、よかった。こっちの方も、生えてきてる」

ショーンは、思い切り指に力を入れ、ヴィゴの頬を強く抓った。

「ヴィゴ。言いたいことは、そんなことか?」

「だって、ショーン。あんた、絶対に俺の前で、パンツを下ろそうとしないから…」

「当ったり前だ。あんな撮影所のトイレで、人のこと散々な目にあわせやがって」

「そんな、ショーン。あんただって、楽しんでたじゃないか」

ショーンは、とうとう頬を抓る指に捻りを咥えた。

「痛い!痛い!ショーン!」

「ポケットに、痒み止めと、コンドームを持ってた男に言われたくない!」

ヴィゴは、ショーンの手首を強く掴み、ショーンに手を離させた。

ヴィゴに触られたショーンの手首は、酷く痛かった。

「しょうがないじゃないだろ?ショーンの好きになったのが、そういう男なんだから」

ヴィゴは、手首を摩るショーンに、にやりと笑った。

「俺は、ショーンよりずっと、真面目にトレーニングルームに通っているんでね。トレーナーが、いろいろ面白いことを教えてくれるんだ。そうやって、手首を握られると、レスラーだって、思わず手を離すそうだぜ?どうする?もう一度、俺のこと抓る?」

ショーンが、上げようとしたズボンを、ヴィゴの靴が踏んだ。

 

「いつもより、ずっと毛が沢山生えてるみたいな感じだな」

ヴィゴは、ショーンをソファーにうつぶせにさせ、尻の肉を掴んで、大きく左右に開いていた。

ショーンは、恥かしさで、頭の中が、真っ白になっていた。

「まぁ、もともと、ショーンは、ここに沢山生えてるわけじゃないけど、でも、こうやって、短くても、つんつん一杯生えてると、これが、あんな風にぺしゃんとポリュームダウンするのが、信じられない感じだな」

デスクライトは、ショーンの尻の間、ちょうどそこに当たるように位置を調節されている。

「…ヴィゴ…てめぇ」

「なんだい?ショーン。点検してやってるだけだろ?ショーンが、自分で確かめてないって言うから。俺がちゃんと生えてきてるかどうか、調べてやってるんじゃないか」

ショーンは、この間も破れそうなほど強く掴んだクッションを、今日も強く掴んだ。

「…誰が頼んだ…」

「優しい俺が自主的に行動してる」

「人の足の上に乗り上げて、間接技かける奴が優しいのか!」

ヴィゴは、構わず、ショーンの尻をもっと大きく開いた。

「ショーン。剃ると毛が増えるってのは、本当かな?穴の周りの毛が、前より少し多くなった気がするんだけど」

「知るか!」

「だって、ショーン。ほら、この辺。前は、産毛みたいなのしか生えてなかったと思うのに、結構しっかりした毛がつんつんと」

ヴィゴは、ショーンの肛門に指を置き、ぎゅっと寄った皺に生えた毛の感触を楽しんだ。

「ショーンもわかる?ほら、結構沢山短いのが生えてるだろ?」

ショーンの口から、唸り声が上がった。

振り返った顔は、真っ赤だ。

「触るな!ヴィゴ!!」

「何、怒ってるんだ?ショーン。触らなきゃ、セックスできないだろ」

ショーンは、目を吊り上げた。

「お前、する気なのか!」

「そりゃ、するさ。明日から、ショーンは、一週間も禁欲生活に入るんだぞ。しといてやらないと、こんな恥かしい状態なのに、ショーンが、ついふらふらと道を踏み外して、恥じをかくことになったら、かわいそうだ」

ショーンの中に、ヴィゴの親指が、侵入を始めた。

ショーンは、無理を承知で、ヴィゴを振り落とそうともがいた。

 

ヴィゴは、ショーンに、いつもの倍は時間をかけて愛撫を施した。

頭にきまくって、隙があればヴィゴを蹴り飛ばそうと構えていたショーンが、とろとろになって、もう、どうにでもしてくれと言いたくなるほど、丁寧に、丹念に、ショーンの体の細かいところまで、愛撫して回った。

足の指、一本、一本だって、口に含んで舐め回した。

生えかけの毛で、敏感になっている股間は、まだ、すこし残る痒みを利用して、爪の先で、小さく掻きながら、ショーンのいい部分を外側から押して、快感を味あわせた。

ゼリーを塗り込まれ、ゴムのついたヴィゴのペニスが、体内に入り込んできた頃には、ショーンは、顎を反り返らせて、声を上げるほどになっていた。

 

ヴィゴは、正常位で、ショーンと繋がっていた。

こうすると、ショーンの短い毛が、ほぼすべてヴィゴの体で味わえた。

剃刀でそり落とした陰毛の先は、どうしたって鋭くなっており、それが絶えず結合状態のヴィゴを刺激した。

「ざりざりする」

ヴィゴは、ショーンの耳に舌を差し込みながら、囁いた。

「ちくちくもするよ。ショーン。どうして?俺のこと苛めたいのか?」

深く誘い込むような動きのショーンに、ヴィゴが腰を押し付ければ、短い毛は、ヴィゴの肌をつんつんと刺した。

ショーンは、自分の髪に指を差し込むようにして、顔の上半分を隠してしまった。

唇を硬く閉じたが、息苦しいのか、すぐに開いてしまった。

「かわいいね。ショーン。こんなにかわいいんだったら、いつも、こうやって、剃ってあげようか?」

ヴィゴは、ショーンの尻を持ち上げて、たっぷりとついた肉の間で、ペニスを抜き差しした。

生えかけの毛が、まばらなショーンと言うのは、どうにも猥雑で、ヴィゴは酷く興奮していた。

いつもの薄目のヘアーに、ショーンから漏れ出した先走りを塗りつけて、かき回してやるのも、なかなか楽しかったが、こういうのも、すごくよかった。

なぜだか、毛がないというだけで、いたいけな感じがする股間で、大きくなっているペニスが揺れるのだ。

ヴィゴが突き上げるたび、ショーンは、そんな股間を晒したままで、ぬとぬととペニスを濡らし、それはとても淫らな眺めだった。

殆ど生えてないように見える短な毛の尻穴に、ペニスを抜き差しするのも、ヴィゴの嗜虐心を満足させる。

「もう少し、濃い色の体毛だったら、もっと楽しかったかもな」

「…じゃぁ、そういう奴と、楽しめばいいんだ」

「ショーン。違うだろ?ショーン相手だから、楽しいんだ。でも、あんた、毛の色も薄いから、せっかくこれだけ生え揃ったってのに、光の加減じゃ、全く生えてないように、見えるから」

ショーンは、少しだけ、掌を退かして、緑の目を見せた。

「…お前…ロリータか?」

目は、困惑げで、しかも、怒りに近い感情を浮かべていた。

「ショーン。あんたは、すぐ早とちりする。誰が、ロリータなんだ。あんたのどこを見て、俺に子供好きだと言わせるんだ。このでかい尻。悪さしまくったペニス。毛がないからって、いきなりかわいこぶるな」

ヴィゴは、ショーンの腿を抱き、快感に対して、熟練している体を揺さ振った。

ショーンは、早い速度で、直腸を擦り上げるペニスに、短い声を幾つも上げた。

ペニスは、もう、射精直前で、酷く硬くなり、小さく震えていた。

「ショーン。わかってると思うけどな。絶対に、浮気するんじゃないぞ」

ヴィゴは、ショーンの唇を塞いだ。

苦しがってショーンが首を振って嫌がっても、ショーンがいくまでキスを続けた。

 

「さぁ、汚れた体を綺麗にしょうか」

ヴィゴは、ソファーの上で、ぐったりしているショーンの手を引いた。

ショーンは、うっとおしげな目でヴィゴを睨んだ。

「タオル」

取って来いと、ショーンは、ヴィゴに顎をしゃくる。

「だめだ。あんた、明日、空港に行くんだぞ。幾ら、セクシー俳優だからって、セックスした体のまま、飛行機に乗るんなんて、そういうのは、いけない」

ショーンは、ヴィゴの手を振り切って、ソファーにうつぶせた。

すっかり疲れていた。

帰国前にどうしても、というヴィゴの甘言に唆され、つい、家にきてしまったショーンだったが、キスくらいで、今晩はホテルに戻るつもりをしていた。

なんと言っても、明日は、帰国するための飛行機に乗らなければならないのだ。

「お前が、人の清潔さについて語るな。ヴィゴ」

「いけないな。ショーン。まだ、これからが、楽しいってのに…」

ヴィゴの笑う声に、ショーンは、嫌々顔を上げた。

案の定、ヴィゴは、にやにやと唇を大きく引き上げ笑っていた。

「ショーン。その生えかけの毛に、シャボンをつけたら、すてきなブラシになるだろうね」

「………なるもんか」

あまりにばかばかしいヴィゴの提案にショーンは、ぐったりとソファーへと体を落とした。

「なるさ。なるに、決まってるだろ」

ヴィゴは、諦めず、ソファーにしがみつくショーンを引きずるようにして、バスルームに向かった。

 

 

END

 

                             

 

 

生えかけのショーン。

実は、剃毛そのものより、こっちの方が、好きだったり。