トロントの隙間

 

酒場の薄暗い廊下には、ヴィゴが待ち受けていた。

ショーンは、思わず足を止めた。

「ヴィゴ……」

二人の間には、まだ、二歩分距離がある。

ヴィゴは、口元にはにかんだような笑顔を浮かべているくせに、大層下品なことをショーンに聞いた。

「何を、出してきた? ショーン」

ショーンは、にやりと返した。

「トイレ行って、何を出してきて欲しいんだ? ヴィゴ。花でも出してきたって言ったら、笑えるか?」

ショーンは、残り二歩分を詰めようとはせず、壁にもたれ掛かった。

ショーンの顔には、楽しそうな笑みが浮かんでいる。

だが、それ以上は、ヴィゴに近づかない。

代わりに、ヴィゴが、凭れていた壁から身を起こした。

「違うだろ。ショーン。俺に会えた感激で、思わず漏らしちまいそうになったもんを出してきたんだろ?」

ヴィゴは、ゆっくりとショーンに近づく。

ショーンは、ズボンの前をぽんっと叩いた。

「それは、まだ、溜めたまんまだぜ?」

「一発出すと、次に時間がかかるから?」

ヴィゴは、せつない目をしてショーンのすぐ側まで近づき、ショーンの前髪をかき上げた。

「飲み過ぎたのか? ショーン」

ヴィゴの鼻が、ショーンの口元に寄せられた。

「いいや、すっかり、楽しくはなってるがね」

ショーンが、馬鹿にするなと、笑いながら、ヴィゴの顔を押し返した。

ヴィゴの指が、顔の形を確かめるように、ショーンの顔をなぞっていく。

ショーンは、擽ったそうに、笑った。

「お前まで、こんなとこに逃げ出して来たら、変に思われるだろ。ヴィゴ」

「違うね。二人して飲み過ぎだって、思われるだけで」

「二人して、ゲロ吐いてるってか?」

そうそう。と、いう返事の代わりに、ヴィゴは、そっとショーンの唇を奪った。

柔らかくショーンの唇を挟む。

ショーンは、嫌がりもせず、ヴィゴにさるがままになっていた。

ショーンは、人の声が反響する廊下の端に目を配ることもしない。

ここは、誰が来るともしれない、酒場のトイレ前だ。

ヴィゴは、少し感動した。

だが、それを見せれば、この男がどれほど厚かましくなるかと知っているので、憎まれ口を利く。

「もうちょっと、感激して見せたらどうだ? ショーン」

ヴィゴは、壁に手を付き、ショーンの上に覆い被さるようにしながら、キスの合間に、ショーンをなじった。

ショーンは、ヴィゴに唇を噛まれるままに、そっと笑顔をそこに載せた。

「感激を押さえ込むので精一杯なんだ。察してくれ。……ヴィゴ」

口説くように、ショーンが甘く囁く。

「ただ、酔っぱらってしんどいだけだろう?」

また、ヴィゴの唇が、ショーンに優しい口付けを与える。

お互いを経だつ距離がない、今、接触は甘いばかりだった。

ヴィゴは、ただ、ひたすら、愛情を込めて、ショーンに口付けを与える。

優しい、優しいキスばかりだ。

この場所が、もしかしたら、誰かのくるかもしれないということが、これでも、ヴィゴの行動をセーブしていた。

まるで押さえ込むように、壁際に友人を追いつめ、キスをするのは、感激の再会なら、ぎりぎりの線だろう。

ショーンは、力の抜けたような甘えた笑いを顔に浮かべた。

「……飲み過ぎたの、ばれたか?」

「感激のあまりか?」

「そう。……、ヴィゴに会えたのがとても嬉しかった」

ショーンの足が、ヴィゴの足を割った。

あの怠け者のショーンが、ヴィゴの首に、腕を回して、口付けを求める。

顔が傾けられ、緑の目が伏せられていた。

ヴィゴは、ショーンに質した。

「ショーン、ここどこだか、わかってるか?」

「分かってる。……でも、ここに、ヴィゴがいる」

ショーンの唇が、ヴィゴに押しつけられる。

ショーンは、舌を伸ばして、ヴィゴの唇を舐めた。

「ショーン……」

思わず、ヴィゴは、場所柄をわきまず、きつくショーンを抱きしめてしまった。

さらうように腕の中にショーンを抱き込み、激しくショーンの舌をむさぼる。

鼻と鼻がぶつかりあって、押しつぶされた。

ショーンも噛み付くように、ヴィゴを求める。

「ヴィゴ……ヴィゴ。……ヴィゴ」

「……ショーン……」

廊下を曲がったところには、大勢の人の気配がある。

時々上がる女性の嬌声。

それにさざめく男達の笑い。

ショーンが、ヴィゴの腰に手を回した。

立っていられないとばかりに、縋り付いてくる。

ヴィゴは、ショーンの尻を掴んで、引っ張り上げた。

そのまま、柔らかい尻肉をきつく掴む。

「……んっ」

ショーンが、唇を離し、喘いだ。

ヴィゴは、追いかけ、また、唇を塞ぐ。

押しつけあう、股間が、硬くなりつつあった。

ヴィゴは、腰を揺すって、ショーンのペニスを刺激する。

「……ヴィゴ」

硬くなりつつあるものが擦れあって、ショーンが、ヴィゴを睨んだ。

しかし、ヴィゴは、両手で掴んだショーンの尻を大きく開いた。

指先で、ズボンの縫い目を辿る。

忘れることのない、ちょうどその場所をぐりぐりと指で刺激する。

「ヴィゴっ!」

「ショーン。ここに、入れたい」

ショーンの肩に顔を埋め、ヴィゴは、ショーンの足の間に、膝を入れた。

そのまま膝を上げ、ヴィゴは、太腿で、ショーンの股の間をぐいぐいと突いた。

ズボンのなかで、やらかなショーンの陰嚢が、ヴィゴによって潰された。

顔を赤らめたショーンが、ヴィゴを睨んだまま、足を閉じようとする。

「そんなに締め付けるのはやめてくれ。ショーン。いっちまうだろう?」

ヴィゴは、ショーンの耳に囁いた。

湿った息が、ショーンの赤くなった耳へと掛かる。

ショーンが焦ったように、腰を引こうとした。

だが、すぐにぐいっと、身体を押しつけてきた。

「いったら、回復が遅いんだろう? 我慢しろ。ヴィゴ」

ショーンの声にくすくすと笑いが混じる。

ショーンは、ヴィゴに身体を預けた。

ショーンがヴィゴの耳を噛む。

「ヴィゴ。後で、って楽しみをわかちあえると幸せなんだがな」

「言うねぇ。ショーンときたら」

ヴィゴは、ここでできる接触の限度をわきまえていた。

そして、彼の恋人も、ヴィゴがそこまでの恥知らずではないと認めてくれていた。

ショーンが、ヴィゴにキスを求める。

柔らかくついばむキスを長く。長く。

ヴィゴは、甘えるようなそのキスに応えながら、ショーンの髪を撫でた。

「そんなに煽ってくれて、漏らしたら、どうしてくれる? ショーン」

「トイレはあっち。……さぁ、そろそろ席に戻るか。ヴィゴ。お前が、ゲーゲー吐いてたってばらしといてやるからな」

ショーンは、撫でられていた髪をかき上げ、はじめてちらりと廊下の端へと目線を投げた。

今のところは、誰も来ない。

しかし、ショーンは、あっさりとヴィゴから身体を離した。

それは、あっけないほどだった。

だが、それは、後でという約束が確実に果たされることを信じているからこそできる動きだ。

しかし、ヴィゴには、すこしもの足らなかった。

「ショーン」

ヴィゴは、小さく指でショーンを招いた。

顔を寄せたショーンに、チュっと、小さなキスをし、ショーンのズボンの前に触る。

ショーンのそこは、形が変わっていることを、僅かにみせつけていた。

「ショーン。席に戻るのは、ちょっと待て。上着を取ってきてやる。俺が、ショーンがゲーゲー吐いてたって言っておいてやるから、心配するな」

ヴィゴは、ショーンのペニスをもっと揉み込み、本当に人前にはでられない姿にする。

「ヴィゴっ!」

「再会に感激してるんなら、やはり、態度で示して貰わないとな」

ヴィゴは、にやりと笑って、今度は、自分があっけなくショーンから身体を離すと、廊下をすたすたと戻っていった。

「……本当に、ヴィゴは」

残された、ショーンは、すこしの寂しさを感じる。

毒づくが、その声が甘い。

「感激してるに決まってるだろ……」

本当に、本当に、甘い声が、酒場の廊下に漂った。

 

 

End

 

 

ちょっとした妄想(笑)