誕生日のちょっとしたこと

 

電話がかかる約束の30分前にショーンは、ごそごそと動き始めた。

ショーンの手からベッドの上に放り投げられたものは、ティッシュ。ゴム。ジェル。そして、バイブレーター。

少し頬を染めながら、しかし、本人は、至って何気ない顔のつもりでベッドの上へと手荒にそれらの物を投げ出して、ショーンは、机の上においてあった大量のカードの中から一枚を選び出した。

優しい目が眺めるカードには、読解力を要する芸術的なハピーバースディの文字。

柔らかく目元を緩めているくせに、きゅっと引き締めた口元を覆うひげを撫でながらそれを見つめていたショーンは、急に、チュっと、音を立てるキスをカードにした。

「!」

キスの音が思ったより大きかったことに慌てたショーンが、少さく周りを見回す。

ここは、ショーン一人のために用意されたホテルの部屋だ。勿論、誰もいやしない。

無人であることなどわかりきっているのに、目元に照れくさそうな皺を刻んだ強面の俳優は、短くした髪を以前の癖でかき上げ、そんな自分のしぐさに、小さな舌打ちの音をさせた。

目の緑に照れが見える。

それから、ショーンは、頬に上った赤みを消そうとでもいうのか、しばらく天井を見つめながら、ぼんやりとベッドの脇に立っていたのだが、カードを手に持ったままやわらかな色合いのベッドシーツの上へと勢いよくどさりと転がった。

わざわざ弾むように、ベッドに転がるのだから、ショーンは、やはり照れくさいのかもしれない。

 

寝そべったショーンは、目を瞑った。緑の目が瞼に隠されると、その顔の整い方に、目を奪われる。

だが、ショーンは、眠ろうというわけではないようだった。

ショーンの手が、自分がベッドの上へと投出したモノ達に触れていた。確認するように、一つ一つのモノに触れていく。

ボックスティッシュの角に触れて、大きな手が一度引っ込められた。だが、また伸びる。

瞑った目の下で、そのモノが何であるかを想像しているように、手は、対象物に丁寧に触れていき、納得するとショーンが頷く。そして、手は、次のものへと伸ばされる。

穏やかに身体を伸ばしたショーンの手が、今、いやらしいピンクでプリントされたセックスジェルのチューブの形を確かめていた。

そのとなりには、結構な大きさのバイブレーター。

全てを確認し終えたショーンは、やっと目を開け、ずるずると身体を起こした。着ているトレーナーの背中がめくれ上がっている。

ショーンは、クッションを積み重ねてそれを背もたれすると、小ズルイような表情を浮かべてジーンズのジッパーを下げた。

しかし、その顔の中で、何度も唇を舐める舌の動きが、表情に疚しさを付け加えている。

 

色あせたブルーのジーンズの前を開けたショーンは、下着の中に手を入れて、中に息づく小さくて、柔らかなものを取り出す。

部屋の中は、ずいぶんと明るい。

照明の加減もあったが、まだ、外に陽の光が残っていた。

それが、レースのカーテンを通して、居心地よく調えられたホテルの部屋を明るくしていた。

その中で、少し肩を丸め気味にして、ショーンの長い指がペニスを弄っている。

興奮を見せず、小さく柔らかだったものが握られ、扱かれたことによって、ドクンと、張りを増していた。

ショーンは熱心にペニスの先に指先で丸を描くようにしてぐりぐりと撫で回している。

鈴口に、ぽつりと透明な液体が溜まりだした。

きれいな指先が、それを亀頭全体に塗り広げる。

年のことを考えれば、どうにも色気のあるピンクの唇が、薄く開いて、まだ手に持っていたカードへともう一度キスをした。

そして、ショーンは、カードを枕の上に置く。

ショーンの手が、ペニスだけでなく、下の袋にも伸び、両手がオナニーのために熱心に動き出す。

くちゅくちゅと幹を扱く指が、ペニスをしっかりと掴んでいた。

指先が、すこし濡れている。

玉を弄る指は、柔らかな金の陰毛の中で緩やかに動いていた。十分に玉を愛撫するためか、少し腰が浮き気味だ。

薄く開いた口から、湿った息が吐き出されている。

 

「んぅ……ん」

小さな声が漏れて、ショーンはペニスから手を離すと、ごそごそとシーツの中に潜り込み始めた。

誰もいないと、はっきりわかっているというのに、シーツから出た目が辺りの様子を探っていた。

シーツに皺を寄っている。

下半身を中心に寄る皺に、シーツの中でショーンが、ジーンズをずり下げているのを見て取ることができた。

もぞもぞと尻が動いている。

どうやらジーンズをずり下げただけらしい短時間の後、ショーンは、シーツから手を出した。

ティッシュを一枚引き出すと、ジーンズの表面にほとんど汚れを移してきた手を拭う。

ティッシュを丸めたショーンはシーツの上に散らばっているオナニー道具を乱暴に引き寄せた。

長い指が、ゴムのパッケージを口へと運び、白い歯が包みを切る。

出てきたブルーのゴムを、ショーンは器用にバイブに被せた。

それをシーツの中へと引きずり込むと、今度、ショーンの手はジェルのキャップを外す。

甘い匂いが部屋の中に広がる。

ここでもう一度ショーンが辺りをうかがった。

しかし、部屋の中に誰もいるはずがないのだった。この部屋の鍵を持つのは、ショーン一人であり、もし、誰かいたのだとしたら、それは、不法侵入者だ。

それでも、ショーンは、自分の行為が恥ずかしいのか、何度でもあたりを伺う。

いっそ、誰かがいることを期待しているのではないのではないかというほど、何度でもショーンは辺りを気にしている。

 

指先に、透明感のあるピンクが絞りだされた。

シーツが汚れないよう、ショーンの手がシーツを大きくめくり、ジェルに濡れた指が、シーツの中へと潜っていった。

一瞬めくれたシーツの中では、やはり、ショーンのジーンズが絡んだままだった。

中途半端に下げられた下着も太腿に絡んでいる。

腹に付くほどという表現は過剰だが、だがそれに近く立ち上がっているペニスが、シーツの中で隠れていた。

だが、手は、そちらではなく、丸みのある尻の方へと向かっている。

眉の寄ったショーンの顔の中で、唇が開いていた。

ゆっくりと息の吐き出されている口から、くぐもった声が聞こえた。

手の動きに押し出されるように、唇から声が漏れる。

尻の間で蠢いているらしい手は、ショーンの尻穴を解しているらしかった。

ショーンの眉に間に寄った皺は深い。

そこには、まだ快楽の色は見えないのだが、唇を舐める舌に、ショーンの期待が見え隠れしていた。

吐き出される息が甘く湿ってきていた。

指が前後に動かされる。

ショーンの身体が揺れている。

足がシーツの中で何度も動いて、ショーンの鼻から、甘えるような音が漏れ始めた。

馴染んだらしい指が大きく引き抜かれると、くちゅり、と、小さな音が聞こえる。

身体のラインを示すシーツは、立ち上がったままのペニスの存在を教えていた。

また、舌が唇を舐めた。

手の動きが止まっている。

ショーンの目が、またしても辺りをうかがい、ごそごそと、シーツの中で何かが行われた。

ショーンがベッドの上でうつぶせになる。

ごろりと身体を返したショーンは、ジェルで濡れた小さな穴の上にバイブを押し当てていた。

 

「んっ……ヴィゴ」

身体の中を大きく広げるバイブに腰を揺らしながら、ショーンが枕の上に置いたカードへとキスをしている。

かかってくる予定の電話と、このカードが、ショーンの身体を疼かせたのだ。

この一枚を作るために、きっと何度もシャッターを切ったに違いないヴィゴの指を思い、住所を書き写すときに、髪をかき上げただろうしぐさを思い出し、そうしているうちに、ショーンの耳には、祝いの言葉を口にするヴィゴの声が聞こえてしまった。

耳に残るあの声が、ショーンの名を呼ぶ。

「ショーン。誕生日おめでとうな」

少し照れくさそうなその本物を、少し後になれば聞くことができるのかと思うと、ショーンの腰は熱くなってしまった。

ずくん。と、甘く疼いた腰の痺れを、ショーンは、それでも無視していたのだ。

届いたカードは、その他のものと混ぜ、テーブルの上に放置し、ショーンは、それを忘れたように振舞った。

だが、テレビを見ていても、雑誌を読んでも、仕事の資料に目を通していても、意識は、ヴィゴとの気持ちのいいセックスへと吸い寄せられ、いつの間にか、考えていることは、「それ」なのだ。

あの手が、自分の胸に触る感触を思い出し、すると、気持ちのいいキスや、苦しいほど折り曲げられて与えられる重みと、充足感が身体によみがえる。舐められ、指で広げられ、隙間なく一杯になるアソコを擦り上げられる苦しいような快感。

喉の奥から絞りだすような声を上げてイく、恍惚。

時計の針が約束の時間に近づくと、ショーンは、どうしても落ち着かなくなってしまった。

腰の奥の熱い疼きが、ショーンを座ったままにしておかなかった。疼く尻が訴える不満感にもう、何度ショーンは足を組み替えたかわからない。

こんな状況で、ヴィゴの電話に出る自分を想像し、恥ずかしさのあまり、ショーンは、思い切り顔を顰めた。

「……くそっ、馬鹿馬鹿しい」

また、ショーンは足を組みかえる。

けれど、結局我慢ができず、ショーンは自分で自分を慰めるための道具をベッドにぶちまけたのだ。

 

「どう? ショーン、いい?」

ヴィゴの声が、ショーンに聞くので、シーツの中で動きは、自然と焦らす手付きになる。

「……っぁ……っ……ん」

焦らしているのは、自分だというのに、ショーンは、浅くこね回すような動きしかしないモノに不満を持っている。

尻は、バイブの刺激を求めて、突き出された。

股の間をくぐったショーンの手がバイブを動かす。

「……はっぅ……ぅ」

上掛けのシーツは濡れていなかったが、下のシーツは、ペニスの先から漏れ出しているもので濡れてしまっていた。ペニスは、ショーンが尻を振るのに合わせ、シーツに擦れている。

浅く突き入れられていたバイブが、ずるずると奥を目指していた。開いた穴の中に、グロテスクな肉色の物体が、深々と埋められる。

ショーンは、長い間、自分を焦けるほど我慢強くないのだ。

丸く盛り上がった二つの山の間に、バイブが突き刺さっている。

ショーンの手が、そのスイッチを入れる。

「んっ!んっ!んっ!!」

 

約束どおりの時間に、電話がなった。

「やぁ、ヴィゴ」

「なんだよ。ショーン。待ってたのか?」

「いいや、ちょうど近くに置いてたんだ」

「それを待ってたって言うんだよ。知らないのか、ショーン?」

ヴィゴの含み笑いのあと、幸せそうな沈黙があり、ショーンの鼓膜を祝いの言葉がノックした。

「ハピーバースディ、ダーリン」

ショーンは、少し首を曲げ、首の後ろを触った。

「サンキュー。ヴィゴ」

電話でも、ショーンが照れくさそうに身じろぎしているのが、ヴィゴに伝わった。

「今日は、会えなくて悪いな」

ヴィゴが謝罪する。

「いや。俺だって、今日は無理だし、もう約束が出来てるんだから、いいじゃないか」

ショーンは、許す。

「どうしても会いたいってわがままを言って欲しいのに」

「別に、今日じゃなくったっていいよ」

「せつないことを言うなよ。ショーン。もっと俺に求めて欲しいのに」

「……ヴィゴは、相変わらず恥ずかしい」

機嫌よくショーンが混ぜ返すのに、ヴィゴは、ため息をついた。

「誕生日くらい、どうしても寝たい。今すぐ来い。くらいのこと、言って欲しいよ。なぁ、実際、あんた淡白すぎるぞ?」

「……そうか?」

電話を受ける前のちょっとした出来事があるため、ショーンの頬には、赤みが差している。いや、頬くらい赤くなっていて欲しいほどだ。

ヴィゴからの電話が鳴ったのは、ショーンが、自分の尻からバイブを引き抜き、手を拭った直後なのだ。

射精したペニスはそこを覆ったティッシュで乱暴に拭っただけであり、陰毛などは、まだ濡れている。

しかし、ヴィゴには、それが見えないのだ。

「ああ、そうだとも。俺のこと思って、身体が疼くとか言えよ。こら、ショーン」

「……まぁ、うん。そうだな」

もにょもにょと歯切れ悪くショーンが答える。

それを誤魔化しだと、受け取ったヴィゴは、ショーンに詰め寄った。

「そういう、曖昧な答えじゃなくだな」

ショーンが、ヴィゴを止めた。

「ストップ。ヴィゴ。今日は俺の誕生日だ」

ショーンの手は、本物のヴィゴの声を聞きながら、自分の股の間へと伸びていた。

射精後のペニスの柔らかな感触を楽しみながら、ショーンは、ヴィゴに話しかけている。

「誕生日なのに、小言か? ヴィゴ?」

楽しげに問いかけてくる恋人に、ヴィゴは折れた。

「ああ。そうだな」

「じゃぁ、俺の楽しめる話題で話そうじゃないか」

ショーンは、自慰で十分な性感を得ていた。緩やかな収束を辿りつつある今、ヴィゴの声を聞きながら、余韻まで楽しんでいる。

ヴィゴは、恋人の好きなチームの話題程度は、押さえていて、自然とため息が漏れた。

「……その話題なら、もう、周りの奴らと散々した後じゃないのか?」

ショーンの顔には笑みが浮かんでいる。

「おめでとうって言えよ。ほら、ヴィゴ」

はしゃいだショーンの声が、ヴィゴに求める。

「……おめでとう。で、何がしゃべりたいんだ。ショーン」

慈愛と寛容に満ちたヴィゴの声は、ショーンを沈黙させた。

ヴィゴの愛を深くショーンは感じたのだ。

ショーンの喉がごくりと鳴った。

「……ヴィゴから電話を貰う前に、久々にマスターベーションしたよ。あんたの声が聞けるかと思ったら、待ちきれなくて、ついやっちまった」

ショーンは、首筋が真っ赤だ。

ペニスを触っていたはずの指が、尻の間へと移動していて、きゅっと窄まったそこを爪の先が触れば、満足したはずの尻穴が、ひくひくと動いた。

きっとその光景をヴィゴは見たかったに違いない。

絶叫が電話口からあふれ出ていた。

「ショーン! ショーン! ショーン!」

ショーンは、耳から電話を遠ざけ、顔を顰める。

「うるさいな。ヴィゴは」

「それを先に言えよ! ショーン! 愛してる! ショーン! ショーン!」

「ああ、俺もかなりあんたにほれてるんだな。と、再確認したよ。カード、サンキューな。すごく良かった」

「なぁ、ショーン。もう一回やらないか? 今すぐだって、会いに行きたい!」

「来られても、俺、これから仕事だよ。スタジオで皆がパーティを開いてくれるんだ」

指先で、穴の上をマッサージするように撫でながら、ショーンは、そっけなく返す。

恥ずかしい告白をしたせいなのか、ショーンの指は大胆になっていた。

残っているジェルで指先を濡らし、ショーンは指を穴の中へと進入させる。

「なぁ、ショーン! ショーン! なぁって、ショーン!」

「っん?」

疑問の声と、聞き取るには、少し色気を含みすぎた音で、ヴィゴに応えたショーンは、テンションを上げていく恋人に、嬉しそうな笑みを浮かべた。

「そんなにしたいのか? ヴィゴ」

「したいさ! 今すぐしたい! くそっ、もっと誰いないところから電話すればよかった」

だが、唇を舌でなめ回す、そんないやらしい表情をしながら、あっさりとショーンは断る。

「俺は、もう、気が済んだからいいよ。……俺も一つ年をとったしね。それほど何度もは無理だ。無理」

「そんな! 畜生! あんた、俺のこと、からかって遊びたかったんだな!!今までの、全部嘘だろう!」

ヴィゴは、とうとうショーンを疑い出した。

あまりヴィゴは、こういった幸福に慣れていない。

「ショーン、お前、俺をからかってるな!」

「違うって、本当に勃たないんだよ」

ショーンは真実を打ち明けていた。

後ろは、貪欲に刺激を求めており、ショーンだって、やってもいいかな。くらいの気持ちはあるのだが、一度いったペニスは、ぴくりとも反応しない。

ショーンだって、少々残念なのだ。

「ヴィゴ。あんた、さっき、俺にハピーバースディって言ってくれただろう? そうなんだよ。俺、また一つ年をとったからな。さすがに、続けては無理だよ」

「嘘だ! ショーン!!!!」

「嘘なもんか。ヴィゴ。もう一回、おめでとうを言ってくれ」

「くそっ!いっそ、ブレイズの話題でも聞いてりゃ良かった」

「なぁ、ヴィゴ。もう一回、おめでとうを言えよ」

沈黙がある。

しかし、その沈黙は、少しも気詰まりではない。

愛と肯定がその先に待っている。

「……おめでとう。ショーン。今年一年も俺を振り回してくれ」

「ああ、ありがとう。ヴィゴ。そうさせて貰うよ」

 

きっとヴィゴは、そういうショーンの姿を見るべきだった。

とろけきった身体のショーンが、とろけそうな顔をして、ベッドに横たわった。

枕の上においてあるカードに口付けている。

「愛してるよ。ヴィゴ」

「俺もだよ。ショーン」

 

END

 

 

間に合ったw

今回も、かなりぎりぎりな感じでかき上げています。申し訳ないです。両目を閉じて、読んでください。

おお;;とうとう、冬花は、お嬢さん達に、世界びっくり人間になってくれと求めてるよ……;;

いや、とにかく、豆さんの誕生日をお祝いしたくて!!

おめでと~~w