大人の恋愛 7

 

 

 

ヴィゴの手が、ショーンの尻の間を濡らした。

こわばっているショーンの肌を蕩すように、ヌードにされてしまった肌の起伏にそって撫でさすり、袋も、ペニスもべっとりと濡らした。

もう一度ジェルを絞りだしたヴィゴは、尻の穴の中へと指を進める。

「ショーン、俺の方からセックスしたがるのを望んでたんだろう? こんなに望んでるんだ。緩めてくれよ」

ヴィゴは、固く締まっているショーンの尻の穴の周りをマッサージするように撫でた。

ショーンは力を抜かない。

「わがままだな。ショーン。これをこじ開けるくらい、俺が欲しがってるってのを証明して欲しいのか?」

ヴィゴは、無理矢理ショーンの穴の中へと指を入れた。

きつい思いをしたが、ジェルの助けがあるため、指はショーンの中に埋まっていく。

「……うっ……」

ショーンは、ヴィゴから逃れようともがいた。

ヴィゴは、強くショーンを抱きしめ、離さなかった。

「ショーン、愛してるんだよ。ショーンが欲しいんだ。ここで、俺のを抱きしめてくれ。俺だけのものだって俺に確信させてくれ」

「……ヴィゴ」

うなるショーンを無視して、ヴィゴは、ショーンの肛門にジェルを塗りたくっていった。

ジェルを足し、何度も指を出し入れする。

指の届く範囲が、ジェルですっかり濡れそぼると、ヴィゴは拡張ポンプを手に取った。

「さぁ、ショーン。気持ちよく愛し合うためのレッスンの時間だ」

手についたジェルをポンプに塗りたくり、ヴィゴは、ショーンの穴を開いた。

嫌がって力を入れるショーンの中に、ねじ込んでいく。

抵抗する直腸を押し広げねじ込まれたポンプは、すっかりショーンの中に収まった。

身体の内側からちょうど穴の縁に引っ掛かるように張り出しているストッパーが、ショーンにポンプを押し出すことを許さない。

ショーンの尻から、空気を送り込むためのチューブがしっぽのように垂れさがった。

「ヴィゴ!」

怒鳴るショーンに、ヴィゴはにっこりと笑った。

あまつさえ、頬に優しいキスを送り、ヴィゴはショーンに囁いた。

「がんばってくれ。ショーン」

ヴィゴの手が、空気を送り込むためのゴム部分をぎゅっと握った。

「ひっっ!」

中側から押し広げられる苦しさに、ショーンが息をのんだ。

「まだ、まだ、たいしたことないだろう?」

ヴィゴは、続けざまに空気を送り込んだ。

シュッ、シュッっと、空気の送り込まれる音がする。

ヴィゴは、嫌がって必死に首を振るショーンの耳を噛んだ。

「最初の時は、もっとがんばってくれたじゃないか」

腹の中へと送り込まれる空気の重苦しさに、ショーンの目に涙が浮かんだ。

実際には、まだ、ほんのわずかに、広げられたにすぎなかった。

だが、ショーンは、腸が、十倍にも膨らんだように感じていた。

腹が破られるのではないかという恐怖に、ショーンは、すがるようにヴィゴを見た。

ヴィゴは、優しく笑った。

「大丈夫。勿論、加減はするさ。俺が入れたいのは、ペニスであって、腕なんかじゃないんだから」

恐ろしい台詞でショーンを震え上がらせたヴィゴは、言外にやめるつもりはない。とはっきりと匂わせた。

ショーンの目にさらに涙が盛り上がった。

「……ヴィゴ。苦しい。これは、嫌なんだ。……、本当に嫌なんだ」

「すぐそうやって逃げようとする。悪い癖だ。なんでも楽したがる」

「前の時は、ヴィゴの方からやめようって言ったじゃないか!」

ショーンは、怒鳴った。

ヴィゴは言葉を返した。

「言うさ。なんたって、あの時は、俺は金で買われていた身だったからね。ショーンの好きなように、思うがままご奉仕してやるのが、俺の勤めだっただろう?」

「止めろ! 出せ!」

「止めたりしない。ショーン、あんたわがままが過ぎるぞ。俺があんたに気を遣うセックスをしていれば、喧嘩をふっかけてくる。じゃぁ、俺が、自分の気持ちに偽りなく、あんたに触れようとすると、止めろって言う」

ヴィゴは、また、ゴム球をぎゅっと握った。

ショーンの唇が震えた。

「あんなわざとらしいセックスをされてりゃ、ヴィゴが腹に何か思っているのなんかすぐわかる。あんな風に馬鹿にされるなんて、俺は嫌だったんだ!」

ショーンは、少しでも腹への圧迫感をなくしたいのか、ヴィゴに乗り上げていた腹を起こし、床に膝をついた。

柔らかな肉のついた太腿が震えていた。

ヴィゴは、丸いカーブの尻を撫でた。

それだけで、手を縛られてしまっているショーンの身体は、ぐらぐらと揺れた。

「ショーン、そんな格好、無理だろう?」

案の定、ショーンの頭がヴィゴの胸に落ちてきた。

それでも、ショーンは、身を起こそうとした。

ヴィゴは、ショーンの首の後ろへと腕を回して、ショーンが頭を上げ、安定を取ろうとするのを邪魔した。

ショーンが暴れる。

しかし、結局、安定が保てずショーンは、ヴィゴの上に倒れ込んだ。

「ショーン、どうして我慢できないんだ? 痛くなんてないだろう?」

ヴィゴは、十分に加減して、ショーンの中に空気を送り込んでいた。

多少ショーン懲らしめてやろうという気はあるが、ショーンを傷付けるつもりはまったくない。

ショーンは懸命に首を振った。

「嫌なんだ。気持ちが悪い。上からも、下からも、吐きそうだ」

はぁ、はぁ、と、浅い息をするショーンの腹を撫でてやり、ヴィゴは、小さいペニスを手の中に握り込んだ。

勃起してしまえば、十分なサイズだが、普段のショーンは、ごく平均的なサイズだ。

本人は、小さいと気にしていた。

ヴィゴは、陰毛が全くないせいもあってまるで子供のもののようなペニスを扱き始めた。

そうしながら、もう一方の手で、ショーンの中の拡張器へとゆっくりと空気を送り込む。

「やめろ! ヴィゴ!」

「一度、やばそうなところまで、膨らましてやろうか? そこから、緩めたら、ずっと楽だと感じるかもしれない」

「やめろ! やめてくれ、ヴィゴ!」

ショーンの目が、恐怖に見開かれた。

「そんなに怖がるなよ。ショーン。あとちょっとだけだ。それにあんたが思うほど膨らんじゃいない」

実際、ヴィゴの言葉通り、ショーンの中の拡張器はそれほど大きくなっていなかった。

このタイプのものは、本当なら、この3倍は膨らますことができる。

ヴィゴは、ぎゅっとゴム球を握り込んで、ショーンの目から涙を溢れさせると、チューブの先まで指を滑らせた。

「いい子で我慢できたら、少し空気を抜いてやる。なぁ、ショーン、ここを柔らかくして、俺を優しく抱きしめてくれよ」

ヴィゴは、盛り上がった尻の穴に触れ、そして、ショーンのペニスと袋を弄り始めた。

ショーンが息をのむ。

ヴィゴは、黒いチューブのしっぽが生えたショーンのペニスが勃ち上がるまで、しつこく扱いた。

 

ショーンのがんばりというよりは、ヴィゴが決して許さなかったせいで、ペニスが勃ち上がり、先端に透明なしずくが盛り上がり始めても、まだショーンの中には、拡張ポンプが入っていた。

ショーンは、苦しそうにしきりとヴィゴの胸へと顔を擦りつけていた。

真っ白な尻がもぞもぞと動いている。

「よく頑張ったな」

ヴィゴは、ショーンの髪を撫で、頬にキスをし、やっと拡張器のねじを緩めた。

シューっという音とともに、ショーンの中から、空気があふれ出す。

ショーンが安堵のため息を落とした。

だが、ヴィゴは、ショーンの頬の緊張がほぐれるのを見守りながら、ねじを留め直した。

まだ、全ての空気が抜けたわけではない。

「どうだ? ショーン、楽になったか?」

「全部出してくれ。ポンプ自体を出してくれ」

ショーンは涙のせいで少し赤くなった目でヴィゴを見た。

「俺は、緩めてやるって言っただけだぞ」

ヴィゴは、にやりと笑った。

「だいたい、さっきので、もう慣れてただろう。本当は、それほど苦しくなかったはずだ」

ヴィゴは、穴が盛り上がり、ストッパーの黒い色が少し見えているショーンの肛門を触り、チューブをいじくる事によって、中のポンプに振動を与えた。

「嫌だっ!」

ショーンは必死に腰を引こうとした。

「空気を抜いたんだ。平気だろう?」

「もう、嫌だ。出せ! 出せ! ヴィゴ!」

ショーンは、ヴィゴの肩を噛んだ。

ペニスを弄られていたショーンの顔は赤くなっており、屈辱だけが理由ではない涙が、ヴィゴの肩を濡らしてした。

ヴィゴは、ショーンの髪を撫でてやり、ショーンの耳に囁いた。

「じゃぁ、ずっとショーンがしたいって言っていたことをしよう。上手にできたら、中に入ってるのを出してやる」

ヴィゴは、ずっと抱きしめていたショーンの下から抜け出し、ベッドにもたれかかった。

自分のジーンズの前を開き、十分な大きさになっているペニスを引っ張り出す。

浅い息を繰り返しながら、床に転がっていたショーンは、ヴィゴの手の中のものに釘付けになった。

「ショーン、これを舐めてくれ。これ、舐めたかったんだろう?」

ヴィゴは、ショーンに見せつけるようにペニスを扱いた。

「嫌だ」

ショーンは思い切り眉を寄せた。

「なんでだ? ずっとさせろって言ってただじゃないか」

ヴィゴは、ショーンを引き寄せた。

足の間に挟み込み、ショーンの顔をペニスの先端へと近づける。

ペニスの表面の柔らかな粘膜が、ショーンの頬に触り、濡れた感触が、ショーンの肌に残った。

ヴィゴのペニスは、先端から透明なしずくが盛り上がっていた。

「ショーン、口を開けて」

ヴィゴは、ショーンの顔を持ち上げ、ペニスを唇へと押し当てた。

ショーンは、口を開かない。

ヴィゴは、唇の表面にペニスを擦りつけた。

「ショーン、口を開いて。両手を縛られてるその状態で、自分で後ろのが出せると思うか?」

ヴィゴのペニスは、ショーンの唇も濡らした。

ヴィゴのペニスから漏れだしたもので、ショーンの唇がいやらしく光る。

ヴィゴは、ショーンの頬を軽く叩いた。

「しゃぶってみたがってたじゃないか。正直に口を開けろ。ショーン」

ヴィゴは、背もたれにしていたベッドから身体を起こすと、ショーンの尻へと手を伸ばした。

中に入っているポンプに繋がるチューブを弄る。

ショーンの尻に力が入り、きゅっとチューブを締め付ける。

「これ、ずっと入れたままにしておきたいのか? そんなに気に入っちまった?」

ヴィゴは、しつこくチューブを弄る。

長時間に渡る拡張で、少し開いてしまいストッパーをのぞかせている肛門の粘膜にも触る。

赤い色をした粘膜は、ぴくぴくと反応を返した。

ヴィゴの与える刺激に、ショーンの腰がもぞもぞと動く。

「ずっと入れときたいって言うんなら、俺も諦める。ただし、その場合、俺はこれを出してはやらない。……そうなったら、ショーンは、旅行にも行けないな。こんなもの入れっぱなしじゃ、オーリを驚かせちまうもんな。せっかく綺麗さっぱり毛に剃って、俺の嫉妬心が燃え上がらないよう努力したってのに、可哀相だな。ショーン」

「ヴィゴ、……冗談はよせ」

「冗談? 冗談なものか。十分に愛を確かめ合ってからじゃないと、俺は、あんたを一人で旅行になんて行かせられない」

ヴィゴは、ショーンの尻を掴むと揉んだ。

「この柔らかい尻にたっぷり俺を味わってもらってからじゃなきゃ、心配で行かせられるものか」

ヴィゴの目は熱を持って真摯に語っていた。

「……ヴィゴ」

ショーンは、ヴィゴの甘ったるく囁く声に、危機を感じた。

今のヴィゴなら、絶対にそうすると確信が持てた。

もとよりヴィゴは、思いこむと一途なところがある。

それが、長く続いた嫌味な程優しいセックスでの奉仕だったり、うってかわってのこの自分の思いをむき出しにしたこの仕打ちだったりするわけだ。

ショーンは、この局面を打破するために、目を閉じて、口を開いた。

ヴィゴの意志を受け入れる振りで、口の中にペニスがねじ込まれたら、歯を立ててやるつもりだった。

「ヴィゴ……」

名を呼んで注意を引きつけ、ヴィゴがベッドに身体をもたせかけるのをショーンは待った。

閉じた瞼の向こうに熱量のあるものが近づけられる。

ショーンは、もっと大きく口を開けた。

ペニスの先が、ショーンの唇に触った。

ショーンは待った。

顎に力を入れ、噛み付いてやるその瞬間を計った。

 

ヴィゴは、ショーンの気持ちなどお見通しだった。

不自然にこわばった頬も、ぴくぴくと動く瞼も、大きく吸い込む息だって、名優であるはずのショーンにしてはあまりにお粗末で、何かある。と、ヴィゴに思わせるだけに十分だった。

そもそも、刃物で脅した最初ならまだしも、ただ、尻の中に入れられたポンプを抜かないという程度のことで、気の短いショーンが言いなりになるとは思えない。

硬く勃ち上がっているものをショーンに近づけながら、ヴィゴは、ペニスに添えていた手を離した。

自分から触れたいと望み、初めてするセックスに、ヴィゴのペニスは興奮し、手を添える必要など全くない硬さを有していた。

ショーンにそれと気づかせないよう手を近づけたヴィゴは、ペニスでショーンの唇を触ることにより注意を逸らさせ、いきなり口の中へと指を入れた。

両方の顎を挟み込み、両親指を奥歯まで一気に突っ込む。

「ヴィ……ゴ!」

驚いたショーンが目を開けた。

激しく頭を振って逃れようとしたが、ヴィゴは離さない。

逃れられないとわかると、ショーンは即座に指に歯を立てた。

「痛っ……!」

それは、かなりの痛みだった。

だが、ヴィゴは、硬い爪で守られた親指の先を一番奥の歯に当て、他の指もねじこんだ。

もう、ショーンは、口を閉じることが出来ない。

「……ヴィ……ゴ!」

「……い……やヴィ……ゴ!」

よだれが、顎を伝っていく。

ヴィゴは、息を吸うため一瞬顎の力を緩めたショーンの隙をついて、口の中に入れ込んだ指を動かした。

上あごに指をかけ、ショーンの顔を指でつり上げる形にした。

両手を縛られ、身を起こすことの出来ないショーンは、顔だけ高く上げられる形に、苦しそうに呻く。

ヴィゴは、自分から膝立ちになり、舌をのぞかせているショーンの口の中へと無理矢理ペニスをねじ込んだ。

押し出そうともがく舌が、ヴィゴのペニスを舐めていく。

「……っん……うぐ……ヴィ」

「ショーン、唇を使って扱くってのは、今度のために取っておこう」

抵抗するショーンを力でねじ伏せ、ヴィゴは、強引に口の中のペニスを動かした。

その気がなくとも、押しだそうともがくだけで、ショーンの舌はヴィゴのペニスに刺激を与える。

「舐めて貰うのがこんなに気持ちいいとは思わなかった」

ヴィゴは溢れ出す唾液にむせるショーンへと腰を突き立てた。

ショーンの目から涙がこぼれた。

「かわいい、ショーン。その涙が、俺の気持ちなんてさっぱり理解出来ずにいた自分のことを反省する後悔の涙だったらいいのに」

「……ヴィ……ゴ……」

勿論ショーンに反省はなく、それどころか、無茶をするヴィゴに腹を立てていた。

苦しいのは嫌いだった。

そして、理解もなにも、ショーンは未だ、ヴィゴの怒りの理由を理解しようという気はなく、それどころか、セックスに至ろうとしなかったヴィゴに金を払った自分をいい切っ掛けを与えたに過ぎない。と、思っていた。

ショーンは、面子にこだわって、変な屁理屈ばかりを捏ねているヴィゴが反省すべきだと思った。

こんな酷い目に合わされる自分が、信じられなかった。

ペニスと、指と、口の中を一杯に占領されているショーンは、くぐもった声を出した。

「……ヴ……ィゴ。い……や。……くる……し……」

「なんていやらしい口なんだ。なんて気持ちのいい口なんだ。ショーン、堪らない。ショーン!」

ヴィゴは、引き上げた頭から続く背中、そして捩れた腰のラインに悩殺されながら、ショーンに腰を振り立てた。

ショーンが眉の間にきつく皺を寄せる。

それがまた、たまらなくセクシーで、ヴィゴは感激したような声で叫んだ。

「口の中に出しちまいたい。ショーン、大好きだ。あんた、最高だ!」

ヴィゴの腰の動きは止まらず、ショーンの目からは、止めどなく涙が溢れはじめた。

涙と唾液で顔中を濡らしたショーンが、激しくむせる。

「ショーン……?」

ヴィゴは、苦しそうな顔で動きを止めた。

「……ショーン……」

ヴィゴの胸は押し寄せる性感に大きくあえいでいた。

だが、ヴィゴは、我慢強く動きを止めた。

「ショーン、苦しいか? 止めて欲しいか?」

ショーンは、必死に頭を振った。

「も……いや……ヴ……ィゴ」

ショーンは唾液で濡れた真っ白な胸をあえがせた。

ヴィゴは、目の上を覆った。

息を止めるように身体を硬くし、いきなり脱力した。

「…………俺は、甘い」

ヴィゴは、ショーンの口からペニスを引き出し、ショーンを横たわらせた。

髪を撫で、涙をぬぐう。

「愛してるんだ。ショーン。それは、理解してくれているか?」

ヴィゴは、ショーンの唇に傷がついていないか確かめながら聞いた。

「……ヴィゴ、お前なんか嫌いだ」

ショーンは咳を続けながら、ヴィゴをなじった。

「ショーン、愛してるよ」

ヴィゴは、ショーンの身体を優しく撫でた。

ショーンは反発した。

「ヴィゴ! お前はおかしい!」

「ショーン、あんたは、あんたの気質から言って、俺が望むようなごく自然な愛情を差し出せない。そして、俺は、それがないと、どうしても不安になってしまう。お互いに少しずつ、妥協しようじゃないか。俺は、あんたの浮ついた導火線の短い愛情を受け入れる。代わりにショーンは、俺が不安を埋めるためにする努力に付き合ってくれ。本当に俺は、ごく当たり前に通わす愛情が切れ目なくお互いの間にありさえすれば、こんな無茶なセックスなんて望んだりしないんだ。自然に抱き合うだけで十分満足なんだ」

ヴィゴの目は悲しげにショーンを見た。

「ヴィゴ。お前、俺を……」

ショーンは、ヴィゴを睨んだ。

「ショーン、違う。誤解しないでくれ。あんたが間違っているとか、俺が正しいとかそういう問題じゃないんだ。俺は、ショーンと付き合って行きたい。できるだけ長く。できれば、ずっと。だが、ショーンは、どこかで、終わってもいいと、諦めている。終わりたくないくせに。……俺たちは、好き合ってるってのに、こんな風にすれ違ってるんだ。なんとか間にある溝を埋めよう。どっちかだけが無理をするんじゃなく、どっちもが痛みを味わおう。ショーン、あんた、自分だけが手加減されたいか?」

「……それは、ずっとあの嫌味なヴィゴと付き合っていくということか?」

ショーンは、唾液で濡れた床に顔を付けたまま、ヴィゴを見上げた。

ヴィゴは困ったように笑った。

「まぁ、一概にはそう言い切れない。俺は、あんたに惚れているから、どんなにあんたがふらふらしていても、なんとか努力はするつもりだ。でも、今回のことで自分でもよくわかったんだ。俺は、今までの人生でかつてないほど、あんたに惚れ込んでる。俺とあんたの間にあるはずの愛情を壊そうとされると、たとえあんた本人であろうとも、怒りが押さえきれない。努力はする。だが、どれほど、長く我慢ができるか分からない。……また、あんたを殴るかもしれない。臍を曲げて、ずっと優しくするかもしれない。それよりは、むさぼり尽くすようなセックスを受け入れることで、俺を満足させる方が、あんたにとってもダメージが少ないと思う……」

ヴィゴは付け足した。

「……あんたを満足させる努力を放棄することは決してしないから……」

そして、ヴィゴは、目を細めてショーンを見た。

「ショーン、あんた、俺のこと好きだって言ってくれたよな?」

すかさずショーンが返事を返した。

「今は、嫌いだ」

ショーンは、尻の間に挟まっている拡張器の違和感や、濡れた顔の感触に眉を寄せたまま、不機嫌に答えた。

ヴィゴは、苦笑を浮かべた。

「ショーン……」

ショーンの眉の間には深い皺が刻まれている。

「ショーン、もう、俺のことが大嫌いになっちまったか?」

ヴィゴは、甘く尋ねた。

「それは……」

これ程酷いことをされたというのに嫌いだとは言い切れず、ショーンは言いよどんだ。

「俺は、ショーンに俺の差し出している愛情を否定されたと感じたあの時から、今日まで我慢してきた。そして、これからも、全てじゃないが、例えば、明日からの旅行だったり、これからするだろう喧嘩のたびに、ショーンが身体で誤魔化そうとすることだったり、そういった諸々のことを我慢するつもりでいる。そのくらい、ショーンを愛しているし、その程度のことで、ショーンと別れたいなんて思ってもいない。ショーンは、俺が殴ったこと。そして、あんたの毛を剃っちまったり、無理矢理ポンプを入れたことで、もう、俺を見限る?」

「ヴィゴ。あんたが正直じゃなかったことは、カウントに入らないのか?」

「すまない。ショーン。それについても謝るよ。でも、身体さえ繋げてしまえばいいと思っているあんたに我慢がならなかったんだ」

「ヴィゴ。身体すら繋がっていないってんじゃ、いくら口で言われたところで、俺は、安心出来ないんだよ」

「ショーン……」

ヴィゴは、ショーンの背中を撫でながら、謝った。

「悪かった。ショーン。俺も、自分の考えに固執しすぎて、盲目になっていた。でも、身体だけ繋げてしまえば、その愛情だけで、安心してしまえるショーンと俺は違うんだ」

ヴィゴの目は寂しそうだった。

ショーンの顔が幾分柔らかくなった。

「ヴィゴ。あんた、別の生き物みたいだ」

「いや、ショーン。俺は、あんたと二人、ずっと同じように見つめ合っていたいと思っているだけで、……多分、これは、どこの男だって、望むことだ」

ヴィゴは、ショーンの股の間から続くチューブを手に取った。

留めてあったねじを回し、ショーンの中を一杯にしている空気を抜く。

ほっと息を吐き出したショーンは、しばらくすると口を開いた。

「……俺はヴィゴのどこに惚れたんだ? ……」

ショーンの顔は真剣だった。

ヴィゴは、ショーンの中から、小さくなったポンプを引き抜きながら、口元に笑いを浮かべた。

「ショーンは、俺が告白したとき、俺のまじめなところ、思いこみの激しいところ、それに愛情深そうな目がいいと言ってくれた」

ヴィゴは、ショーンの身体をベッドへと抱き上げた。

シーツの上にショーンを寝かす。

「冷たい……」

ショーンは、先ほどの名残で濡れているシーツに眉を寄せた。

「我慢してくれ。ショーン。俺はショーンが抱きたい。これからも、ずっとショーンが好きでいたい」

ヴィゴは、後ろ手に縛られたまま抵抗することすらできないショーンの中へとペニスを埋めた。

 

ショーンの口から、短い息が吐き出されていた。

「はぁっ、はっ……」

後ろから突き上げるヴィゴに揺さぶられ、ショーンの肩はすっかりシーツに埋まっていた。

「……んっ、っんぁ……っはぁん」

ポンプによって拡張されたショーンの直腸は、とても柔らかにヴィゴを締め付け、ヴィゴに特上の思いをさせていた。

感覚が鋭敏になっているそこは、勿論、ショーンにも同じ思いをさせている。

ショーンのペニスは、とっくに一度目の濃い精液をはき出していた。

だが、まだ、硬く勃ち上がっている。

「悪くない? ショーン?」

ヴィゴは、全く無毛の尻へと出入りする自分のペニスのいやらしさに、目を細めた。

色の白いショーンが密かに隠していた薄く色づく皮膚の間で、もっと色の黒い自分のペニスがねちゃねちゃと音を立てていた。

あふれ出したゼリーは、ショーンの肌を艶めかせ、ヴィゴは、激しく腰を振り立てた。

「ショーン、こういうセックスも悪くないだろう?」

「……んっ……ん……ヴィ……ゴ」

ヴィゴは、ショーンが十分に楽しめていることを知っていて、何度もショーンに答えを求めた。

「ショーン、負担を掛けるが、こうやってないと、俺は、ショーンを得た気がしない。毎回なんて言わない。俺にショーンを好きにさせてくれ」

「……っんっ……っぁぁっん……ヴィ……ゴ!」

「……っはぁ……ぁぁっん……ぁあ!」

ショーンは、ヴィゴに揺さぶられているだけなのか、それとも頷いているのか、何度もと頭をシーツに擦りつけていた。

ヴィゴは、力強くショーンの中を抉る。

濡れたショーンの直腸がヴィゴを愛しげに抱きしめる。

ショーンの身体が、またこわばった。

硬く締まる尻の穴に、ヴィゴは片目をつむった。

「ショーン、いきそうなのか?」

「んんっ、いくっ……、ヴィゴ、いくっ……」

焦ったショーンの声は、短く、甘くかすれていた。

ヴィゴは、汗にまみれたショーンの背中に言った。

「俺のことを好きだって言ってくれ。ショーン」

「好きっ……、ヴィゴ、好きだ……」

ショーンは、身体を震わせ、精液をまき散らした。

ヴィゴは、ショーンに覆い被さり、直腸の中を濃い液体で一杯にした。

「……ショーン」

ヴィゴは、まだ、結んだままの腕があるショーンの背中に、重くなった体を預けた。

「愛してる。ショーン。無茶をして悪かった。愛してる。ショーン」

ヴィゴの唇は、ショーンの背中にキスの雨を降らせた。

ショーンは、首をねじ曲げ、ヴィゴに目をやった。

緑の目は、機嫌の悪さを多少残していたが、セックスの満足感に潤んでいた。

「ショーン、愛している」

「ヴィゴ……」

ショーンは、すがりつくような目をしたヴィゴに、ため息を落とした。

やっとヴィゴから求められたセックスは、ショーンの予想を遙かに超えていた。

だが、どこまでも優しくて、しかしショーンを遠ざけていたヴィゴよりは、ずっとショーンにとって心安らげるものだった。

あの気持ちの悪くて、腹の立つヴィゴに比べれば、何もかもさらけ出して、無茶をするヴィゴの方がわかりやすい。

ショーンは、これからの事を考え、先手を打った。

「ヴィゴ、お前は、臆病だし、小心者だし、むかつくことばかりだが、俺は、今日までのあんたを許してやる。だが、今日から、しばらく、ヴィゴは俺の奴隷だ」

ヴィゴは、傲慢な顔をした金髪に苦笑した。

「ショーン、あんた、やっぱり、何にもわかってないな」

しかし、ヴィゴは、ショーンの要求通り、拘束を解き、それから人の気持ちなど理解できない金髪を抱きしめ眠った。

 

朝の光が差し込むショーンの家では、ドアベルがしつこく鳴っていた。

「ショーン! 起きてよ! ドアの鍵を開けるだけでいいから、出てきて!」

ドアを叩くオーランドに、機嫌の悪いヴィゴが鍵を開けた。

「おはよ。ヴィゴ。ショーンは、今日行けそう? どうせ、エッチ責めにあっちゃって、荷物も出来てないだろうから、早めに来た。どこ? 荷物? 俺が作るから、ヴィゴ、ショーンの用意を手伝ってあげてよ」

はつらつとした顔のオーランドは、ずかずかとリビングに入り込み、床に広がったままの荷物に肩をすくめた。

「まぁ、進んでる方だね」

「……オーリ、お前、なに考えてるんだ? 俺がドアを開けたんだぞ? ショーンは俺のもんなんだ。俺たちは昨夜だって、セックスしてるんだ」

ヴィゴは、人のテリトリーに遠慮なく入り込む子供を睨み付けた。

オーランドは笑顔で返した。

「ヴィゴ、やっといつもの調子?」

くるりと大きな目でヴィゴを見返したオーランドは自信ありげな顔をした。

「ヴィゴ。でも、あんまり安心してると、俺、足下掬っちゃうからね。確かに、今は、ショーン、ヴィゴのこと好きだけど、この先はどうかな? 昨日だって、帰り際まで、俺にヴィゴに対する愚痴を言ったしね」

オーランドは手早く荷物を詰めていく。

ヴィゴは、オーランドの忠告など関係ない、というように大きなあくびをした。

「その問題は解決した。オーリの出る幕はない」

オーランドは、ヴィゴを振り返り、ラブラブ? っと聞いた後、にっこりと笑った。

「ヴィゴ。俺、ヴィゴも好きなんだよ。あんまり失望させないで欲しいな」

「どういう意味だ?」

「ショーンが金を払おうとしたって位で、拗ねちゃうなんて、ヴィゴ、度量が狭いよ」

オーランドの言葉に、ヴィゴはため息をついた。

「どいつもこいつも、全くわかっちゃいない」

「どういう意味さ?」

「お前もそう思ったわけだ。そりゃぁ、ショーンと話が合うわけだ。俺は、ショーンが金を出したことに怒ってるわけじゃない。金を出すなんていう強引な方法関係を深めようとするのが、気に入らないって言ってるんだ」

「へぇ……?」

よく分からない顔のオーランドに、ヴィゴは、話を続けなかった。

ヴィゴは、ショーンとオーランドの仲がいいはずだと思い、頭が痛くなった。

オーランドは、納得していないふわふわとした笑いを浮かべると、荷物の詰まったトランクを跨ぎ、寝室のドアの前に立った。

「ショーン、おはよう。ねぇ、荷物、あそこに出てたものだけ、詰めれば終わり?」

オーランドの声に、ショーンがのろのろとドアを開けた。

オーランドが腕を広げた。

しかし、ヴィゴはオーランドを押しのけ、ショーンの頬にキスをした。

オーランドは一瞬目を背けそうにしたが、すぐ、ショーンの手首に目を留めた。

「何? これ! ヴィゴ、酷い!」

ショーンは、オーランドの言葉に加勢するように、意地の悪い笑みを浮かべた。

「酷いだろ? ヴィゴって信じられない性格だよな」

オーランドが大げさに頷いた。

だがヴィゴは、ショーンの腕を持ち上げ、見せつけるように残っている拘束の跡に口付けをした。

「俺が、ショーンを愛していて、ショーンも俺を愛してくれている証拠だ」

オーランドが口笛を吹いた。

「やだね。のぼせ上がってる中年は」

「だろう? 心が狭いってのは、恥ずかしいよな」

ショーンの言葉は当てこすりだった。

やはり、ショーンは、ヴィゴの怒りを、プライドのきしみだとしか受け止めていなかった。

怒りを思い知らせてやろうと続けた奉仕するばかりのセックスについては、まるで無駄だった。

それどころか、昨日、説明した、ヴィゴがショーンとの関係を大事に思っていたということなど、ショーンは聞いてもいない風だ。

「ショーン、旅行、行けそう?」

ヴィゴに対しては、強引だったオーランドが、ショーンには、機嫌を取るような目をした。

ショーンは、にやりと笑った。

「行くさ。……なっ、ヴィゴ?」

ショーンの手が、自分の股間を撫でた。

そこは、昨日、ヴィゴが誰にも見せられないようにと剃ってしまった。

ショーンは、ヴィゴがしたことを逆手に取った。

この悪い顔で笑われると、ヴィゴは頷くしかなかった。

「気をつけて行って来てくれ。ただし、ショーン。……帰ったら覚えてろ」

ヴィゴは、どうしようもない恋人を引き寄せ、甘いキスをした。

 

 

【終】