鞄の秘密

 

ヴィゴは、ショーンの首筋に熱心なキスを繰り返していた。

濡れた髪を拭いもせずに、抱きしめてくるヴィゴに閉口しながらも、ショーンは、抱きしめる腕を弱めることはしなかった。

ヴィゴの取ったホテルに、ショーンが足を運んだ。

今度だって、仕事の合間だ。

逢瀬には、あまり時間が取れない。

突然、連絡を入れたヴィゴに、ショーンは、二つ返事で承諾を返した。

こんな急に時間が取れるわけがない。

どうにかしてスケジュールを詰めたのだ。

ヴィゴは、ショーンの肩にキスをした。

ショーンがくすくすと笑う。

そうまでして作った時間では、小さな諍いを起こしているよりも、抱きしめあう時間の方が重要だ。

そう考えて、ショーンが冷たい髪の感触だって、我慢していることをヴィゴは分かっていた。

なのに、ヴィゴは、更にべたりと頭を寄せた。

ショーンの口から、甘くヴィゴを呼ぶ声がする。

長い指が、ヴィゴの背中を抱きしめる。

「ショーン」

顎を掴んで、キスを強要しながら、ヴィゴは、ショーンの名を呼んだ。

緑の目が、ヴィゴの瞳を至近距離で見つめる。

開いたままの口から、舌が伸びて、ヴィゴの唇を舐める。

「ショーン」

「ん?」

緩く尖らした唇を何度も重ねながら、ヴィゴは、ショーンの名を呼んだ。

ショーンの肩まで伸びた髪を撫でた。

すこし、ざらついた感触だ。

染め替えが続く髪では仕方がない。

だが、天使のように輝く金髪は、ショーンの顔によく似合っていた。

ほっそりとした頬に、髪が掛かっていた。

ヴィゴは、機嫌よく目を細めるショーンを見つめて、にこりと笑った。

「ショーン、今日は、ちょっとしたお楽しみがあるんだ」

口付けの形のままに尖った唇の先にキスをしながら、ヴィゴは、ショーンの瞳を覗き込んだ。

笑った形の目で、頬をすりよせた。

どこまで、譲歩してくるか。

餓えていたのが、自分だけだと思いたくないヴィゴにとって、わがままを言うのも、愛情を確かめるためのコミュニケーションだ。

ヴィゴは、ショーンの頬に頬を摺り寄せた。

途端に、ショーンの目の色がきつくなった。

抱きしめていた手が、ヴィゴの身体を引き離し、つり上がった目が、ヴィゴを睨んだ。

「…お楽しみ?」

「そう、ちょっと、楽しいプレゼント」

ショーンは、純粋に楽しいプレゼントが用意されていると思わなくなっていた。

緑の目が、部屋の明かりを映して、きつく光った。

付き合いの長くなった恋人というのは、頼もしい。

ヴィゴは、ショーンの顔を見て微笑んだ。

「…ヴィゴが楽しいだけなんだろう?俺は、いらない。そんなことより…」

ショーンは、ヴィゴの目を睨むようにしながら、きっぱりと申し出を断り、だが、もう一度目を閉じると、顔を傾けてキスの続きを要求した。

息が触れるまで近づけられた唇に、ショーンの欲望がちらついていた。

ヴィゴは、とりあえず、ここでは自分が譲歩することにした。

もう一度ごねて見せたら、実は、かなりきつい性格をした恋人に、蹴り出される覚悟も必要になる。

自分のとった部屋だというのに、ソファーで一人寝なんて、情けなくてやっていられない。

ショーンの目が、ヴィゴの表情を伺っていた。

さっさとしろと、目が命令する。

ヴィゴは、ショーンの肩を抱き、髪を優しく撫でた。

ショーンが目を閉じた。

一度ご機嫌とりをしておいたほうがいいと判断したヴィゴは、恋人の突き出した薄い唇にちゅっと、音のするキスをした。

 

 

ショーンの足が、ヴィゴの足に絡まっていた。

煙草に手を伸ばしているショーンは、かなり機嫌のいい顔をして、口元を緩めていた。

ヴィゴの分まで、煙草に火をつけて、差し出す。

「…満足した?」

ヴィゴは、ショーンの髪を耳にかけながら、微笑む緑の目をのぞきこんだ。

悪戯に、ショーンが笑う。

「まだ、まだ」

声まで、笑っているような楽しげな調子なのが、ヴィゴを幸せにした。

ショーンの足は、ヴィゴに触れたままだ。

汗の引いたあたたかな肌の感触が、緩やかな幸福となって、ヴィゴを満たす。

ヴィゴは、しばらくなだらかな肩を晒したショーンを眺めていたが、煙草が短くなったのを機に、ショーンへと顔を寄せた。

薄い唇から、煙草を取り上げて、舌の上で消す。

ショーンがそれを見て、顔を顰めた。

額に寄ったショーンの皺へと、ヴィゴは自分の額を寄せた。

上から覗き込むように、ショーンの瞳を見つめる。

「なぁ、ショーン」

「………なんだ?」

かなり優しくショーンの名を呼んだのに、ショーンが返事を返すまでに、かなりの時間が空いた。

ヴィゴは、恋人が覚悟を決めるまでの時間を与えるよう、ゆっくりと唇を引き上げて笑い、両手でほっそりとした頬を包むと、引き結ばれた唇にキスをした。

「プレゼントを受け取ってくれる?」

「…まだ、諦めてないのか、あんた…」

ショーンが呆れた目をして、ヴィゴを見た。

しかし、ショーンの目には、最初ほど激しい拒絶は無い。

「もう、満足した?」

ヴィゴは、唇を引き上げながら、ショーンに聞いた。

裸の背中を撫で、手をもっと下へと伸ばした。

「満足した。あんたのちょっと楽しい企画は、とんでもないから、遠慮する」

ショーンは、笑いながら、ヴィゴの申し出を拒絶した。

腰を捩って、ヴィゴの手を避けた。

ヴィゴは、ショーンを腕の中に抱きこんで、くるりと身体を返した。

自分の体の上にショーンの身体を乗せた。

「もう、満足?」

ヴィゴは、白い尻の肉を掴んで揉んだ。

肉は、両手の中で柔らかな弾力を返した。

ショーンは、すこし考える顔をして、ヴィゴを見下ろした。

「…付き合わないと言ったら、どうなる?」

「あんたは、付き合わないなんて言わないさ。愛してるよ。ダーリン」

ヴィゴのご機嫌とりは、成功していた。

ショーンは、ヴィゴが頬へと口付けることを許した。

思案するポーズは崩さなかったが、目が、悪戯にヴィゴを見下ろしていた。

一度目のセックスの満足感が、ショーンを寛容にしていた。

そうなるだけ、ヴィゴも努力した。

ヴィゴは、ショーンの肩に口付けをくり返し、最愛の恋人をシーツの上に寝かせると、すこしだけ待っていてくれるように頼んだ。

 

「……最悪だ。お前、自分が自分の名を守らなきゃいけない立場があることを考えろ。何を考えてるんだ!」

ヴィゴは、透明なビニールのバックを手にベッドに戻った。

バックには、10代の子供が持つような派手なプリントがされていた。

だが、大半が透けて見えた。

四角い形をして、ジッパーで開け閉めできるようになっている代物だ。

洗面道具でも入れるために作られたものかもしれない。

ヴィゴは、手の中のバックを振って見せて、何で?と、首を傾げた。

「それを、そのまま旅行鞄に入れてきたんだろう。中身が透けてるだろうが!もし、空港で荷物のチェックでもされたら、どうやって言い訳するつもりだったんだ」

ショーンは、頭を抱え込むようにして、激しくヴィゴを責めたてた。

バックの中には、どう見たって、使用方法の限定されたものが入っていた。

細いのから、太いのまで、3本。

特に醜悪なのは、わざとリアルに着色された太いバイブレーター。

「にやっと笑われるだけじゃないか?」

ヴィゴは、特に気にした様子もなく、鞄のジッパーを開け始めた。

中をごそごそと探り、目当てのものを取り出し、にこりと笑った。

「そして、セックスに自信のない中年俳優としてのレッテルを貼られる?」

ショーンは、顔を顰めながら、ヴィゴを見上げ、ヴィゴの手に持っているものを目にすると、もっと顔に皺を寄せた。

「いや、セックスを楽しんでいる中年俳優として認知される。実際、楽しむために用意したんだ。ショーンをもっと楽しませてあげたいしね」

ヴィゴは、逃げ出そうとするショーンの足を掴んで、シーツごとショーンを引き寄せた。

身体を覆っていた真っ白なシーツを引き剥がし、口でなんのかんのと文句を言っていても、緩やかに興奮しているペニスを見て、口元を緩めた。

「どう?楽しめそう?」

ヴィゴは、両手で足首を掴んで、大きく開かせたまま、固くなり始めているペニスの先にキスをした。

ショーンがため息を落とす。

「それ、ヴィゴが、つけるの?それとも、俺?」

ヴィゴの人差し指には、コックリングが引っ掛けられていた。

ペニスに装着すれば、射精するまでの時間を引き延ばすことが出来る。

使ったことがないなんて、ヴィゴも、ショーンも嘘は言わない。

「ショーンに似合いそうだと思うんだけど?」

ヴィゴは、ペニスにキスを繰り返しながら、ショーンに言った。

「あまり長いことは、嫌だからな」

ショーンは、同意を示した。

恥かしいのか、意味もなく髪をかき上げ、ヴィゴから、視線を外した。

「いきたいのにいけない時の、あんたの締め付け方、最高なのを知らない?」

「知るわけないだろう!あんまり酷い真似をしたら、蹴り飛ばすからな」

ヴィゴは、緑の目を吊り上げて凄む恋人に優しく笑った。

そして、極悪にも、ビニールの鞄の底から、指錠を取り出すと、恋人が唖然としている間に、後ろ手に両手の親指を繋いでしまった。

勿論、キスで立ち上がった恋人のものもしっかりと拘束した。

 

足癖が悪いのは、ショーンの悪癖の一つだ。

頭にくれば、直ぐ、蹴り飛ばそうとした。

指錠は、本当に小さなものだが、強く骨を噛むものだから、手錠よりも、拘束者の身動きを封じた。

痛みもきつい。

「ヴィゴ!」

両手と、ペニスを拘束された恋人は、頬を赤くするほど怒って、ヴィゴに向かって足を振り上げた。

ヴィゴは、一発だけは、甘んじて蹴られておいた。

「コックリングは同意したが、手錠をかけるなんて誰が許した!」

ショーンが、二発目を蹴り出した。

ヴィゴは、足を掴んで直撃を避けた。

「ショーン。それは、指錠。あまり暴れると骨が折れる。大人しくしてくれ」

小さな指錠で、両手を繋がれたショーンは、体ごと足を振って、ヴィゴの手から逃れようと暴れた。

カチャカチャと金属のぶつかる音がした。

「手錠でも、指錠でも、なんでもいい!こんなことは、したくない。外せ!」

ヴィゴは、掴んだ足にキスを降らせた。

ショーンの体毛は、金色だから、殆ど、目立たない。だが、キスすれば、唇を擽る。

「今回は、ちょっとだけ、長いこと我慢してもらいたくてね。自分で外せないように、ちょっと小細工させてもらったんだ」

ヴィゴはキスを繰り返した。

ショーンは、足を振って、ヴィゴを拒んだ。

「何、余裕かまして笑ってやがるんだ。外せって言ってるんだよ!俺が、嫌だって言ってるんだ。外せ!こんなのには、参加しない」

ヴィゴは、ショーンの太腿を抱き込んで離さなかった。

「ショーン、俺がしたいって言ってるんだ。聞いてるか?2ヶ月…振りくらいか?久しぶりにあんたに会えるからって、楽しみにして準備までしてきた俺がしたいって言ってるんだ。あんたにも思い切り楽しんで貰いたいんだよ」

ヴィゴの唇は、徐々に足の付け根へと近づいていた。

もっと、端的に言えば、コックリングでせき止められているペニスへだ。

ショーンが、低く唸った。

ヴィゴは、構わず、周囲に生えている毛にキスをした。

「愛してるよ。ショーン」

ヴィゴは、覆い被せるように愛の言葉を口にした。

「愛してるんだ。ショーン」

ヴィゴは、思い切り顰められた緑の目をじっと見つめた。

誘惑するように、ペニスの先に、口付けをした。

ペニスが、ぷりんと振るえた。

「…勝手にしろ!!」

ショーンは、壁に向かって、怒鳴り声を上げ、承諾した。

 

ショーンは、指錠で繋がれたままだった。

こんなことをさせられているショーンがかわいそうだと思う。

振動音を伝えるバイブは、熱い肉の奥深くへと差し込まれていた。

整った顔をくしゃくしゃにして泣いているショーンをどんなにも愛しいと思う。

ショーンは、体中に汗をかいていた。体中の筋肉を緊張させていた。

こんなにも我慢させられて、それでも耐えているショーンのことがヴィゴはとても好きだ。

愛されていると強く思う。

ヴィゴは、身体を丸めようとするショーンを助けるように抱きしめた。

ヴィゴの希望どおり、あお向けのまま大きく足を開いていたショーンは、ずっと体の下に腕を敷いていた。

痛かったに違いないのに、ショーンはそのことについて文句を言わなかった。

叫ぶように文句を言うのは、長く続く苦しい快感に対してだ。

ショーンの口からは、悲鳴に似た声が上がっていた。

ショーンの穴を広げているバイブは、二本目。

細いので、散々、弄り回してから、いきなり一番太いのを入れた。

押し戻そうとする筋肉の動きを、ヴィゴの手が、押さえて抜け落ちることを許さなかった。

横向きに転がったショーンは、尻を突き出すような格好で、グロテスクなバイブをくわえ込んでいた。

後ろ手にはショーンを繋ぐ銀のリングが光っていた。

コックリングを嵌められているペニスは、痛いほど硬くなり、胸につくほど曲げられた太腿と腹の間に挟まれていた。

実際、もう、苦痛しか感じていないだろう。

ショーンの目からは、涙がぽろぽろと零れていた。

叫び声を上げる唇が、もう、止めてくれと、何度も許しを請うていた。

「ショーン」

ヴィゴは、バイブを手に持つと、中を広げるように刺激しながら、ショーンの顔を覗き込んだ。

開いたままの口から、赤い舌が覗いていた。

涙に濡れた睫を忙しく動かして瞬きしたショーンが、ゆっくりとヴィゴに視線を合わせた。

「ショーン、気持ちがいい?」

「…苦…しい」

喉に引っかかるようなショーンの声は、ヴィゴをとても満足させた。

ヴィゴは、バイブを前後に動かした。

ショーンの内部は、重くヴィゴに抵抗を示した。

その肉を掻き分けるように、ヴィゴは、バイブを突き入れた。

ショーンは、身体を丸めて、衝撃に耐えた。

うめくような声が、噛み締められた歯の間から漏れた。

指錠で繋がれた腕に、酷く力が入っていた。

「ショーン、俺を愛してる?」

ヴィゴは、白い尻を割って、赤い粘膜を晒している穴に唇を寄せた。

張りのある尻肉に、いくつものキスをして、バイブを噛んで広がっている粘膜を舐めた。

金色のヘアーが、慎ましかに穴を隠そうと周りを囲んでいた。

それが、ヴィゴの舌先を擽る。

ショーンの中を揺さぶっている振動も、ヴィゴの唇を震わす。

「ショーン、返事ができない?」

ヴィゴは、ひくひくと蠢いている伸びきった皺を舐めながら、ショーンに聞いた。

ショーンは、太腿を摺り寄せた格好できつく身体を折り曲げ、顔を顰めて目を閉じていた。

涙が、頬に伝っていた。

「…ショーン?」

「…愛し…て…るよ。…畜…生!」

ショーンは、涙でぐっしょりと濡れた睫を開くと、ヴィゴを見つめて、身体を捩った。

低くうめきながら、足を開いて、ヴィゴの頭を挟み込んだ。

「畜生…ヴィゴ。…愛してるよ…愛してるから…」

ヴィゴは、ショーンの太腿の間に顔を挟まれた。

ショーンは、何度も唇を舐めた。

「最高の締め付け…とかいうのを…味あわせてやる…早く入って来い。これだけ…我慢してやったんだ…あんたも満足した…だろう?」

緑の目が、苦しそうに笑いながら、俺も甘い…と、言った。

ぎゅっと腿がヴィゴを挟んだ。

ヴィゴは、酷い行為で愛情を確かめようとしていた自分を見抜かれていた恥かしさを味わった。

同時に、泣きたくなるような幸福感も味わった。

「ショーン、知ってて」

「…当たり前…付き合って…何年…になると?」

ショーンのぐっしょりと濡れた顔が笑った。

指錠がカチャカチャと音を立てた。

「…満足した?…外してくれる…だろう?」

ヴィゴは、ショーンの足の間から抜け出し、半分ほど押し出されたバイブを抜いた。

ショーンの尻を持ち上げ、ショーンの体を山形にした。

しっとりと汗に濡れた大きな尻に口付け、開ききった穴の中に張り切ったペニスを押し込んだ。

「…ううっ」

唸ったのは、二人同時くらいだった。

ヴィゴが尻に腰を打ち付けると、指錠がカチャカチャと音を立てた。

ショーンの滑らかな背中に汗が光った。

「…ショーン。もう少し、甘えさせてくれ」

ヴィゴは、薄く目を閉じて、満足そうなため息を落としながら、尻を掴んで揺さぶった。

「愛してる。ショーン。愛してるんだ。もう少しだけ、俺のものだって、実感させて」

ショーンは、バイブでかき回していたときのように、嫌だとは、言わなかった。

ヴィゴの言う最高の締め付けで、ヴィゴを強く抱きしめて離さなかった。

 

だが、勿論、事の終わりには、ヴィゴは一発蹴り飛ばされた。

思い切り蹴り飛ばしたショーンは、自分も腰の痛みにうめいていた。

 

END

 

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ラブラブ中年カップル(幸)