本文を読まれる前に。

以下の話は、safetyvalvekipさんが書かれた「月を乞うて跳ぶもの」という猫ショーンさんと、藻さんのお話を踏まえたうえで書いております。

kipさんの作品を読んでらっしゃる方のほう多いでしょうけれども、少しだけ、前置きさせて下さい。

えっと、失礼に当るほど、「月を……」を極簡単に説明させていただくと、指輪撮影中、飼い主のいない猫であるショーンさんが(ショーンさん、猫だけど、俳優でもあるのです)、藻さんに飼い主となって欲しくて、駆け引きしたり、策を弄したりする、愛しくて、切なくて、そして、かわいらしいお話なのです。

そして、このお話は、うじうじ悩んだりもした藻さんが、ショーンを飼うことを決めて、ラブラブと暮らしている幸せなところだけを書いています。

実はね。6月の豆祭りで、kipさんと一緒に無料配布のコピ本を作ることにしてね。kipさんに女工さんよろしく、手作業で本を作らせることになっちゃったので、その肉体労働分のお支払いをすべく書いたお話なのです。

kipさんのサイトでも、アプしていただけるそうですが、こちらでも掲載していいって許可を頂いたので、アプします。

長々と書きましたが、よかったら、読んでくださいね。

KipさんのSafetyvalveはこちらから。

 

 

 

陽に慈しまれ眠るもの

 

 

カメラのレンズ越しにその表情を捉えたヴィゴは、思わず口元が緩んだ。

「眠いか? ショーン?」

猫という生き物は、よく眠るものだが、ここで生活をするようになってからのショーンは、本当によく眠った。あの楽しかったけれども、酷く困難だった撮影に携わった間、どうして毎日同じ時間に起き、そして、日中、よく目を開き続けていられたものだと思うほど、ヴィゴの猫はよく眠る。

今も、ショーンは、窓辺まで引きずったお気に入りのカウチの上に座り、ぼんやりと外を眺め、その表情が気に入ったヴィゴのモデルを務めていたはずなのに、半ば目が閉じてしまっている。

「ショーン。飼い主が、構って欲しくて、カメラを構えているんだがな」

ヴィゴからの呼びかけに、ショーンの耳がぴくぴくと動いた。聞こえている。だが、とても眠いのだ。と、猫の耳はヴィゴに伝えた。

「ショーン」

繰り返し呼ぶ、ヴィゴの声に、大儀そうにショーンの尻尾だけがくにゃりと動いた。

ショーンは、最早、身体の力を抜いてしまい、穏やかな顔つきで眠ってしまっている。

高層マンションであるこの部屋の窓越しに差し込む太陽は、空に近い分、ショーンを優しく暖める光に事欠かないようだった。ショーンは素肌を太陽の日差しに包み込まれ、幸せそうに眠っている。

ヴィゴは、ショーンのすぐ側にまで近寄り、寝顔に向かってシャッターを切った。

音に、ぴくり。と、ショーンの耳が動く。しかし、それでも、ショーンが目を開ける様子はない。

足も手も、安心しきったように伸ばされ、ショーンはこの部屋に充足しきっている。

「しょうがない。とりあえず、ここまでの分だけでも、焼くとするか」

眠ってしまった猫に、休日の時間を持て余すヴィゴは、金の髪をくしゃりと撫でると、暗室に篭った。

 

 

現像液の臭いが苦手なのか、ショーンは、決して、ヴィゴの暗室には近寄らない。

「ヴィゴ」

部屋の外から呼びかけられる声に、ヴィゴは、おやおやと思った。

めずらしくショーンがヴィゴをお出迎えだ。

「ショーン。悪い。少し待ってくれ。あとちょっとで終わるんだ」

今日、ヴィゴは仕事を早めに切り上げ、家に帰り着くなり、暗室へと入り込んだ。

近頃、ヴィゴは、ショーンを撮ることに凝っている。

休日ともなれば、ほとんど一日中、ショーンをカメラで追い続け、そして、今日は、食事の用意も後回しにして暗室に篭ってしまった。

普段はこのコーナーに近づかないショーンが、扉をノックする。

「ヴィゴ。腹が減った」

「オーケー。ダーリン。あと、3分だ。あと、3分待ってくれたら、ベイビーの腹を満腹にしてやるよ」

手早く仕事を片付けたヴィゴは、3分よりは早くドアを開け、そこに不服そうな顔のショーンを見つけた。

「腹ペコ?」

ヴィゴは、ショーンの唇をついばむ。

「勿論」

ショーンは、キッチンへと歩くヴィゴの後ろをついていった。俳優という顔も持つ、ヴィゴの大事な飼い猫は、シャツに顔を擦りつけ、そこに染み込んでいる現像液の臭いに鼻を顰めている。くしゅんと、かわいらしいくしゃみをすると、ショーンの耳がぺたりと寝てしまった。

「ヴィゴ、お前臭いよ」

「そうか? じゃぁ、食べ物に臭いが移るといけないから、着替えるか?」

シャツを脱ごうと、コースを変えたヴィゴは、背後に待っている顔のショーンを見つけた。

「うん? ショーン」

ヴィゴの目がショーンの機嫌を尋ねると、ショーンはふわりと口元を緩め、糸のように目を細めた。

そっと差し出された顔は、ヴィゴの鼻に鼻を擦りつける。右からと、左からと。そして、もう一度、右からと。

それは、ごく自然な恋人同士のような仕草だが、ヴィゴの恋人は、人間の身体に耳と尻尾を持つ猫で、普通、猫はこれほど愛しげな顔をしてこんな仕草をしないのだ。

だが、ヴィゴの猫は、近頃、とても簡単に、こんな顔をする。

その仕草の愛しおいしさに、飼い主が胸を打ち抜かれているというのに、猫に自覚はまるでない。

ショーンは、ヴィゴの邪魔をする気はない。と、ばかりにそっと道を空ける。

「はいはい。すぐ着替えて、夕食の用意をするよ。腹の減ったショーンほど恐いものはないしな」

誤魔化しに、軽口を叩くヴィゴの尻を、猫の尻尾がぴしゃりと叩く。

 

行儀悪く膝の上にシチューの皿を抱き込み、出来上がっている写真を床に広げていたヴィゴの正面にはショーン

が座っていた。

床に散らばった写真の枚数は、数える気さえ起きないほど多く、ショーンは、何故、これほどヴィゴが熱心に自分の写真を撮るのか、内心呆れている。

「なぁ、ヴィゴ……」

「うん?」

髪をかき上げたヴィゴが手に持っている写真も、勿論ショーンを写したもので、しかし、その写真は、決して公開はできない種類のものだった。

そこには、近頃仕事を抑え気味のショーン・ビーンという俳優が、全裸で写っている。全裸という程度なら、まだしもその首には、細い首輪が巻きつけられていた。写真ではわからないが、首輪の内側には

PRIVATEPROPERTY OF VM

と、この猫がヴィゴの私有財産であることが主張されていた。そう、写真に写るショーン・ビーンは、自分の身体どころか、誰かが所有することができる猫である証の耳と尻尾まで全てを晒して写っていた。

ショーンが珍しい生き物である猫であることを、知っている者は少ない。

「なぁ、ヴィゴ」

返事は返したものの、ヴィゴの意識は、ショーンを写した写真から離れなくて、ショーンは再び、ヴィゴを呼んだ。

ヴィゴはやっと目を上げる。口元を緩めたヴィゴは、ショーンに向かって鼻を突き出した。すると、つられたように、ショーンは、最近、よくみせる仕草で、ヴィゴに鼻をすり合わせた。右からと、左から。そして、もう一度右から。その後、ヴィゴの口元についたシチューに気付いたショーンは舌を伸ばしてそれを舐めとっていく。

「行儀が悪いな。ショーン」

ショーンが舐めたところを舌で辿ったヴィゴはにやりと笑った。

「どっちが」

ショーンは、むすりと膨れた。尻尾が床を打つ。

「ショーン」

ヴィゴは、ショーンに向かって手を伸ばした。

金色の髪をかきませ、ショーンの視線を手元の写真へと引き寄せる。

「なぁ、これ、いい顔だと思わないか?」

ヴィゴが差し出した写真には、軽く口を開け、ぼんやりと座っているショーンが写っていた。

ショーンには、ヴィゴの基準がわからない。

「……何がいいんだ?」

仕事柄、写真を撮られることにも、それを観ることにも慣れたショーンは、ヴィゴの選んだ一枚に首を捻った。

そこに写るのは、胸を打つような感動とは縁遠い、毎朝夕、ショーンが鏡の中で見る顔だ。

ヴィゴは、嬉しそうに笑う。

「わからないのか? ショーン」

ヴィゴは、いきなり床から立ち上がった。手には、皿とスプーンを持ったままだ。

ショーンは、置いていかれるのかと、つい、腰を浮かす。

「どこに行くんだ? ヴィゴ?」

「うん? ああ、すぐ戻る。ちょっと待っててくれ」

手に持った皿に気付いたヴィゴは、テーブルにそれを置くと、笑顔で自分の部屋へと引き上げていった。

座っていろと、手で示されたショーンは、仕方なく床に広がった自分の写真を眺めながら、シチューを啜る。

それは、見事なまでに、すべて全裸だった。

自分でも、少しは恥じらいを持ったほうがいいのではないか。と、思わず反省したくなるほど、写真に写る猫は、どこも隠そうとはしない。

金色の陰毛に埋もれたペニスは、日の光を浴びていた。

昼寝の最中を撮られ、多分、その時、気持ちのいい夢でも見ていたのだろう、少し勃起しているところを撮られたものまである。

別段、ヴィゴが、そこを強調して撮っているわけでなない。

ショーンの全身を写せば、服を着ず、生活している猫は、おのずとそこまで写った。

人間と立ち混じり生きるショーンは、服を着た生活をすることに対して、それほど苦しいとは思わなかった。

しかし、服を着、そして、靴を履く生活は、猫にとって、窮屈なのだ。特に、ヴィゴと暮らすこの部屋では。

 

「見てみな。ショーン」

戻ったヴィゴが、顔を顰めて自分の全裸に見入っていたショーンに、何枚かの写真を差し出した。

ショーンは、手を伸ばしながらも、まだ、機嫌悪く床の写真に見入っていた。

「ヴィゴ。これからは、撮る時、撮るって言え。せめて、こんな写真は撮るな」

だが、ショーンがヴィゴに指差した一枚は、ショーンも同意の上、撮った一枚だった。床に転がったヴィゴが、ショーンにカメラを向けたら、笑い返してきたのだ。

だから、ヴィゴは撮った。

もっとも、その時ヴィゴが寝転んでいたのは、不精にもヴィゴを跨いで歩いていこうとしていたショーンの足の間で、そのため、ショーンの股の間が、揺れ動く二つの袋まではっきり写った写真になっている。

「あんた、楽しそうに笑ってるじゃないか」

「……ヴィゴ」

他にもそんな写真は山ほどあって、一々、文句をつけるのが面倒になったショーンは、ヴィゴが差し出した写真に目を向けた。

そこには、男らしさを漂わせながら、すこやかに笑う自分が写っている。

「いいじゃないか」

ショーンは、にやりと笑った。

こういう顔をした写真は、受けがいいことをショーンは知っている。

捲る写真は、どれも、悪くない表情だった。目付きの鋭さが、ショーンの顔を引き締め、しかし、口元に作られた笑いが、表情を和らげている。

「耳が見えなきゃ、このまま、売り物にしてもいいくらいの出来だ」

「そう。そのとおり。ショーン」

ヴィゴは、にやりとショーンに笑った。ヴィゴは、ショーンの覗く、スチールばりの笑顔を一緒に見ながら口を開く。

「そうなんだ。あんた、自分でも気付いてるじゃないか。これは、ショーン、あんたの売り物の顔だな。この写真は、あんたが俺の周りをうろつくようになった頃、撮った何枚かだよ」

ヴィゴの手が、ショーンが捲っていくスピードより早く、後ろのほうにあった一枚を引き抜いた。

「これ、見てみな。ショーン」

ヴィゴが見せた一枚に、ショーンはそれを撮られた記憶があった。

今もだが、ヴィゴは、無断でショーンを撮ったりはしない。しかし、ショーンは、自分がそんな顔をしてカメラに写っていたことに気付いていなかった。

その姿を猫らしく表現するとすれば、そこに写るものは、全身の毛を逆立て、爪をむき出しにしている。

「ショーン。あんた、NZの俺の家でも、結構くつろいでるような顔してたが、あれは、まだまだだったって、わかる一枚だな。すごい目で俺のことを睨んでる」

ヴィゴの指が、写真の中のショーンの顔を撫でていく。

「あんた、結構すさんでたんだな。今とじゃ、顔のラインがまるで違う。今の写真とじゃ、ほら、別人だ。この好戦的な猫と、この穏やかな顔した猫が、同じだって言って、一体誰が信じれてくれるかな」

ショーンは、ヴィゴが床に置いた写真に見入った。

ヴィゴは、机の上に置いた皿を引き寄せ、もう一度口にシチューを運び出す。

自分がこれほど変わったのだと、見せ付けられ、さすがにショーンは、皿を床に置いた。

「……俺、こんな顔してあんたのこと見てたのか」

「ああ、そうみたいだな。前は、ちっとも気付かなかったけどな。あの時だって、俺は、あんたが他の誰とも違う顔をして俺の側にいると、うぬぼれていたしな」

「ライン。と、いうより、目の色が違う……」

「ああ、そうだな。それが、一番違うか。目が、あんた、すっかり変わったんだな」

スプーンを持ったままの手で、ショーンの目の上を撫でると、ヴィゴは写真をかき混ぜた。

「ほら、あんたこのごろ、よくこういう顔してるんだぜ?」

ヴィゴが選んだ写真は、とても満たされた顔をして、ソファーに寝そべるショーンの姿だ。カメラに向かって顔だけを上げている。大きく開かれた瞳は、特にどんな表情も浮かべていないのだが、そこに不足は見つからない。満たされ、幸福を当たり前に受け止めている猫の姿は、そこに写っているだけで、見るものを幸福な気持ちにさせた。

「天使みたいだろ?」

真剣に褒め称えるヴィゴの声に、思わずショーンは吹き出した。

「……天使?」

「何を笑うんだ」

「だって、ヴィゴ。あんた、俺は、40をとっくに超えた猫なんだぞ?」

ショーンは、笑いを堪えながら、ヴィゴに続ける。

「確かに、子猫の頃は、そう言われたこともあったさ。だけど、近頃は、とんと聞かない台詞で、思わず耳の中がこそばゆくなったよ。子猫の俺を見たことがあったら、あんた、きっと今の俺を、あんたはそうは、言わないさ」

「そりゃぁ、チビだったころのあんたは、どれほどかわいかったかと思うけどな」

ヴィゴは、空にした皿を床に置いた。

ヴィゴの手がショーンに向かって伸ばされ、顔を優しくなでていく。

「今のあんたの顔ほど、いい顔じゃなかったと思うぞ? 近頃のあんたは、見ていると恐い気持ちのなるほどきれいな顔で笑うんだ。神様の笑顔を見てるようで、時々、敬虔な気持ちにすらなる」

ヴィゴは、ショーンの手をとると、指先に恭しい口付けをした。

ヴィゴのキスがあまりに大事なものに対するキスで、軽くショーンは顔を顰めた。

その触れ方は、ショーンの好みではなかったのだ。

「ヴィゴ」

ショーンは、少し伸び上がると、軽いキスをし、またも子供のように口の端をシチューで汚しているヴィゴの顔を舐めた。

そのまま、ショーンはそのまま、いやらしくピンクの舌を動かし、自分の唇を舐める。

ヴィゴの目は、ショーンの舌の動きを追っている。

その視線こそが、ショーンがヴィゴに望んでいたものだった。

「ヴィゴ、あんたは、猫の神様と暮らしたいのか?」

ショーンは、飼い主の視線が自分に張り付いていることを十分自覚した猫らしく、傲慢に顎を上げた。

猫は、ここ数日、本物よりも、紙に写し取った虚像に夢中の飼い主に、ちょっとしたフラストレーションを抱え込んでいるのだ。

ヴィゴは、肩を竦めた。

「そういうわけじゃないさ。だが、猫の神様は、そりゃ、尊い顔をして笑うんだ」

ヴィゴは、ショーンをはぐらかした。

それほど、気が長いわけでもなく、そして、清らかでない欲望を抱え込んだショーンの前足が、どんっと、ヴィゴの胸を押さえつけ、押し倒す。

「ヴィゴ、猫の神様が一番、好きなものを知ってるか?」

飼い猫に床へと押さえ込まれ、転がったヴィゴは猫の様子に微笑んだ。

「猫の神様は、シチュー好きみたいだな。俺の顔についたのが、特に好きみたいだ」

「それだけ?」

ショーンの目がきらきらと光っていた。

「ああ、勿論。苦手な暗室の側に、あんたが寄ってきたわけくらい知ってるよ」

ヴィゴは、大きく笑った。

 

ショーンとセックスするのが、ヴィゴは嫌いではない。

それどころか、好きなのだが、いくつか、どうにも困った癖を、ショーンは持っている。

「ショーン。悪い。ちょっと痛い」

ショーンがもっとも得意とする体位は、後背位で、なるほど、それは、確かにショーンにとっても、ヴィゴにとっても悪くないやり方だと、ヴィゴは、こういう目にあう度に思った。

正常位で望んだ今、ヴィゴの背中には、爪が食い込んでいる。それも興奮し、遠慮も何もかも放り投げた猫の爪が、本当に背中の皮膚を食い破り突き刺さっている。勿論、痛い。

「ショーン。ちょっと、離れてくれ」

「……っぁ……い……や、だ。ヴィゴ!い……やっ」

ショーンは、与えられていた刺激が貰えなくなったことに、焦れて腰を捩る。

「あのな。ショーン……」

ヴィゴの背中には、いくつものバンドエードが貼ってある。勿論、全て、ショーンが抉った傷跡だ。

別段、背中に跡が残ることにヴィゴは、文句を唱える気はない。だが、猫の爪は、痛いのだ。

時に、もっとかわいがって欲しいショーンの欲望が、ヴィゴを長引かせるために、させているのではないかと思うほど、痛い。本気で爪を立てられると、クライマックスでも、萎える。

その上、焦れてくると、ショーンは、尻尾をヴィゴの太ももに巻きつけて催促した。

「おい、……ショーン。それも、痛いって」

実は、こちらは痛い。と、いうよりは、苦しい。

ふかふかした猫の尻尾が、じりじりと、太ももを締め付けてくるのだ。

あまり長くやられると、締め付けられた足は感覚がなくなる。

その悪癖以外は、あまりにもかわいらしく気持ちのいい尻尾なのだが、獣とするセックスには、やはり多少のルールがいった。

例えは、悪いことをした時には、その場ですぐ叱る。

「こら、ショーン」

ヴィゴは、ショーンの肩に噛み付いた。

ショーンがびくりと目を開ける。

ヴィゴは、緑の目を真正面から見つめた。

「爪を引っ込めろ。尻尾も大人しくさせろ」

叱られたショーンは、しおらしく爪を引っ込め、絡み付いていた尻尾も離した。しかし、未練がましく、尻尾はヴィゴの身体を撫でるように動いていた。

例えば、言うことを利いたならば、たくさん褒めてやる。

「そうだ。いい子だ。ショーン」

ヴィゴは、ショーンへの甘噛みを続けた。

首輪の締まった首に歯を立ててやると、ショーンは、泣きそうに感じた顔をして腰を捩る。きついほど、中に埋められたヴィゴのペニスを締め上げてきて、喉からは、かすれたような声を上げる。

ペニスの先は、べったりと濡れ、ヴィゴの腹に押し付けられていた。

家猫願望の強いショーンは、飼い主を持つ証の首輪に強い執着を示した。それが嵌められる首は、ショーンが強く感じる性感帯の一つだ。

舐められ、噛まれ、そこに加えられる愛撫に驚くほど激しい反応を見せるショーンに、ヴィゴは、まだ一度も、首には手をかけたことは無いが、この分では、きっとそれさえも、ショーンは喜んでみせるに違いないと、確信していた。

ヴィゴが首を舐めてやると、ショーンは、自ら腰を振った。

より自分が感じられるように、身体を丸め、尻を持ち上げて揺する。

逃げるのか、押し付けているのか、わからない動きで、ショーンは、ヴィゴに首を差し出している。

「……っぁ、ぁっ、あ、ヴィゴっ、ヴィゴ」

また、ぞろりと、猫の爪が伸びかけていた。

爪を立てられては適わないと、ヴィゴは苦笑し、ショーンの中から、ペニスを引き抜いた。

「いや……だっ!ヴィゴっ!」

ショーンの足と、尻尾が、ヴィゴに絡む。

「ショーン、痛いんだよ」

ヴィゴは、どうしょうもない猫をひっくり返すと、尻尾を握った。

「どうやら気付いてないようなんだが、うちの猫は、こらえ性がないからな。尻尾は、俺の足を明日歩けないほどしびれさせるつもりだし、爪は、俺の背中を穴だらけにする気だ」

自覚のあるショーンは、赤くなって俯いた。

ヴィゴは、ショーンの尻尾を掴んで、尻だけを高く吊り上げる。

「なんだ。自覚があったのか」

ヴィゴは、ショーンの股間で硬くなって濡れているペニスを掴むと、扱いてやった。

漏れ出しているもので、ヴィゴの指は、べったりと濡れる。

「ショーン」

ヴィゴは、楽しげに笑った。

赤くなっているくせに、猫は、手にペニスを押し付けるあつかましさだ。

はふっと、息を吐き出すような音で、快感を伝えた猫の尻尾がくにゃりと揺れる。

「なぁ、ショーン、尻尾でひくひくしてるここのこと隠しとかなくていいのか?」

確かに、ヴィゴが掴んでいるせいで、尻尾は、ショーンの尻の穴を隠すことが出来ずにいるのだが、もともと感じている時のショーンにそんな慎みはなかった。

いくらでも自分から交尾をねだる。

ヴィゴをその気にさせるためだったら、尻尾をぴんと立てたまま、尻を高く差し出してみせるし、それでもダメなら、自分からヴィゴを跨いだ。

「ショーンが、せめて爪をしまっておいてくれれば、もう少しセックスにバリエーションが増えるんだがな」

ヴィゴは、ショーンの尻尾を掴んだまま、濡れて緩んだ尻穴の中へとずぶりとペニスを突き刺した。

熱く湿った肉壁が、ヴィゴを包み込む。

「……っぁ、ぁぁあ!!」

ショーンの爪が、ばりばりとシーツの表面を削った。

「……んんっぁっ!!」

ヴィゴの抜き差しを、背中をしならせる猫は、全身でいいと、訴えている。

ヴィゴは、ようやくショーンの尻尾を放してやり、快感のあまり垂れてしまった耳の後ろを撫でてやった。

ふう、ふうと、唸るような声を出し、涙で潤んだ目で、ショーンが振り返る。

そこも、ショーンは弱いのだ。

我慢が利かず、ショーンのペニスは、少しずつ、シーツを濡らしはじめていた。

ヴィゴは、緑の瞳に、小さなキスを与えると、ショーンを膝の上に抱き上げた。

自重で深くヴィゴをくわえ込むことになったショーンが、また、堪えられなかった頂点を、ペニスからあふれ出させる。

「こういうとこも、写真に残しておいた方がいいかな。あんた、きっと前より、ずっといい顔してるぞ」

 

 

ヴィゴの指が、ショーンの首輪を撫でていた。

日差しを一杯に浴びたカウチに横になるショーンは、満足しきった顔で、身体を長く伸ばしている。

「だらしのない格好をして」

ヴィゴは、飼い猫の様子を笑うと、カメラを向けた。仕事柄、写真を撮られることに慣れたショーンは、レンズに狙われても顔を作ったりはしない。いや、自然な顔というものをカメラの前でしてみせるだけの技術があった。しかし、今、している顔はそれとは違う。

表情は自然を装ってすらいない。

ヴィゴは、レンズに写るショーンの顔を見つめながら、ずっと思っていたことを口にした。

「ショーン、あんた今、何も考えてないだろう」

「うん?……ヴィゴ?」

猫は大儀そうに目を上げた。

その顔をヴィゴは、一枚カメラに収める。

しなやかな猫の媚が、カメラに収まる。

「ヴィゴ、一体、何を考えるんだ? 腹は一杯だし、日差しはあたたかい。今日はヴィゴが休みの日で一日俺の側にいるし、……きっとこの後は、ヴィゴが俺を構ってくれる」

幸せそうに笑った猫の尻尾が、誘惑するようにヴィゴの身体を撫でていった。

「本当に、ショーンは……」

近づいたヴィゴの顔に、ショーンはそっと鼻を擦り合わせる。

右からと、左から。そして、もう一度、右から。

さも愛しい恋人にするように、愛情に溢れた顔の猫がそれをする。

ヴィゴは、ショーンと出会った頃の写真を多く撮っておかなかったことを後悔していた。

緊張を隠し、きつい目をしたショーンも決して悪くはなかったのだ。

ふてぶてしいほどだったあの態度。

強気の目の中に隠していた寂しさ。

だが。

ヴィゴは、陽に包まれ、カウチに伸びている猫に覆いかぶさり、キスをした。

満ち足りた優しい顔は、見るものに幸福を与える。

 

 

END