土曜の夜と、日曜の朝
向かいの席に座ったショーンが、下を向いたまま、トーストを齧っていた。
ダイニングのテーブルは、全部埋まったことなどありはしないのに、4人掛けだ。
ヴィゴは、投げ出した足をショーンの隣の椅子に乗せ、ぼんやりとしながら、コーヒーを飲んでいた。
今日は、撮影が休みだ。
穏やかな日曜の朝だ。
ヴィゴは、あくびがでた。
夕べの酒が残っていた。
おまけに、夕べは眠る時間がすっかり遅かった。
ヴィゴの頭の半分は、眠っているような状態だった。
新聞の紙面も、ただ、眺めているだけだと言ってもいい。
「ヴィゴ、マーマレードを取ってくれ」
ショーンが、不意に顔を上げて、ヴィゴの手元を指差した。
髪に寝癖がついていた。
「蜂蜜はいらない?」
ヴィゴは、新聞から顔を出し、ショーンに向かってマーマレードの壜を押した。
ショーンは、パンを噛んだ顔のまま、しばらく考えるように目を閉じて、やはり蜂蜜も取ってくれと言った。
ショーンも眠そうな顔をしていた。
金色の髪が、朝日を弾いていた。
少し隈の浮かんだ目元が、たまらなくセクシーだ。
「ショーン、今日の予定は?」
ヴィゴはあくびをしながら、ショーンに聞いた。
マーマレードと定番の蜂蜜、どちらをつけようか、悩んでいたショーンは、どうやら両方をつけることにしたようだ。
ちょうど半分の位置できっちりわけようとしているのが、おかしかった。
「ヴィゴは?ヴィゴこそ、何が予定を入れてあるのか?」
ヴィゴは、底の方にわずかにしか残っていない蜂蜜を買いに行く必要があるな。と、思った。
ショーンにここで朝飯を食べてもらうためには必需品だ。
「…買い物くらいかな?ショーンは?」
「……別に予定はないんだが…」
急にむしゃむしゃとパンを食べ始めたショーンは、パンから零れ落ちた蜂蜜で指先を汚し、それを舌で舐めとった。
ヴィゴは、こんなショーンと同じ時間が過ごせる幸せに口元が緩みそうになった。
じっと見ていたヴィゴの視線に気付いたショーンが、何故だか急いで残りのパンを口の中に頬張った。
カップに残っていた紅茶を飲み干し、ヴィゴの顔を見た。
ヴィゴは、何か言いたげなショーンの表情に、軽く首を傾けた。
口元に笑いを浮かべ、どうぞ。と促した。
ショーンは、口篭もってしまった。
ショーンが話そうとしないので、ヴィゴは新聞を閉じた。
投げ出していた足を床に下ろして、居住まいを正してみた。
ショーンは、一度、空になったカップの中へと視線を落としたが、椅子を引き立ち上がった。
ヴィゴは、ショーンの動きを目で追った。
ショーンは席を立ち上がり、ヴィゴの側へと近寄った。
緑の目が、落ち着かない様子で、ヴィゴの全身をさ迷った。
「あの…な…」
なんだか、白い顔をしたショーンが、ヴィゴを見下ろした。
「どうした?どこか調子が悪い?」
ヴィゴは、手を伸ばして、ショーンの指に触った。
ショーンの指が冷たくなっていた。
そんな寒いような時季ではまるでなく、ヴィゴは、驚いて、ショーンの顔に視線を合わせた。
「あの…ヴィゴ…」
「風邪でも引いた?」
二人が挑んでいる大作の撮影は、まだまだ、続く。
ハードになるばかりの現場を思って、ヴィゴは、ショーンの心配をした。
見上げるヴィゴの視線に、ショーンは、首を振った。
「じゃぁ、どうした?指先が、ものすごく冷たくなってる」
「……緊張してるんだ」
「なんで?」
ヴィゴは、冷たいショーンの指先を摩った。
ショーンが、詰めていた息を吐き出した。
「ヴィゴ、…あの…」
名前だけは、力強く呼ばれたが、尻すぼみに小さくなった声と一緒に、ショーンの顔が近づいた。
キスをされるのだと思って、ヴィゴはすこし唇に力を入れた。
だが、ショーンは、唇のすぐ側まで近づいたが、そこから、位置をずれ、ヴィゴの頬へと唇を寄せた。
躊躇いがちなキスが、何度も唇の付近の皮膚へと繰り返された。
ヴィゴは、その感触を甘受しながら、そっとショーンの頬に触った。
柔らかなキスとは、別に、頬は強張っていた。
こんなキスに緊張しているのかと、ヴィゴは、ショーンの繊細なメンタリティに感動を覚えた。
「ショーン、俺からキスしてもいい?」
ヴィゴは、ショーンの頬を撫で、待っている唇に唇を寄せた。
ショーンの唇は、さっきまで飲んでいた紅茶のせいか、しっとりと柔らかかった。
ヴィゴは、中腰のショーンと指先を繋いだままで、ショーンの唇に何度もキスを繰り返した。
触れるだけのキスを何度も。何度も。
朝日の中では、これだけでも、随分背徳的だ。
続くキスに、ショーンの頬に色が戻ってきた。
ヴィゴは、目を開けたまま、ショーンとキスを続けた。
ショーンの瞼は閉じられてしまっていて、睫の先が小さく震えていた。
ヴィゴは、嬉しさに唇が緩んだ。
目を閉じているショーンの唇は、キスをするためにすこし山がきつくなっていた。
ヴィゴは、キスを繰り返す。
ショーンが、ゆっくり目をあけた。
「ヴィゴ…」
緑の目は、さっきまでのように、とてももの言いたげだった。
「なに?ショーン」
ヴィゴは、もう一度、ショーンの唇にキスをした。
ショーンは、繋いでいた指をそっと離して、ヴィゴの肩へと両手をついた。
「あの…ヴィゴ。…こんなことを言うには、おかしな時間だということはちゃんとわかっているんだが」
「ん?」
また、緊張に硬くなったショーンの頬を、ヴィゴはゆっくりと撫でつづけた。
「…その…えっと…」
ヴィゴは、ゆっくりと待っていた。
ヴィゴは、待つことが嫌いじゃない。
ショーンが何かを話そうとしてくれているのなら、待つことなど全く苦ではなかった。
よほど言い出しにくいのか、ショーンは、また、口篭もってしまった。
ヴィゴの肩に手を付いたまま、じっと自分の足もとを見ていた。
ヴィゴは、ショーンの旋毛を見ていた。
もし、このまま言い出せないようなら、旋毛に一度キスしてやろうと思った。
「ヴィゴ」
ショーンが思い切るように、強くヴィゴの名を呼んだ。
ヴィゴは、ショーンを見つめたまま、言葉を待っていた。
「ヴィゴ、あの、ヴィゴ。……ヴィゴに相談したいことがあるんだ」
顔を上げたショーンは、それが義務のようにヴィゴの目から視線を離さなかった。
ヴィゴは、安心させるように頷いた。
ショーンは、ぺろりと唇を舐めた。
「2週間たった」
とても緊張しているのか、ショーンは早口だ。
「えっと…それは、あの、前に、ヴィゴと……セックス…してからってことなんだが、2週間たったんだ」
「ああ」
ヴィゴは、真面目に聞いているということを表すために、相槌をうった。
かなり苦心して表情を保った。
そうなのだ。
ヴィゴと、ショーンは、そういう関係だ。
だが、一度しか、その関係は、結ばれていない。
あの幸運な日から、半月がたった。
ヴィゴは、とうとう来たかという話の方向に、口の中がからからに乾いていた。
そのことは、ヴィゴだって、とても気になっていた。
「ヴィゴ…その間、俺は、何回か、ここへ泊めて貰いに来たよな。あの…そんなことばかり、考えるのは変かもしれないが、二人きりだった」
ショーンの言うとおりだ。
ヴィゴは、何度かそういうチャンスを目の前に掴みながら、あえて生かそうとはしなかった。
それなりの理由があった。
ショーンの声は、硬かった。
何度も視線を外したそうにしたが、その度、ヴィゴの目へと視線を戻した。
ヴィゴは、肩に置かれたショーンの手に掌を重ね、座らないかと、隣の椅子を引いた。
ショーンは、手を引かれるままに、すとんと、腰を下ろした。
自分の頭を抱え込んで、また、しばらく口篭もってしまった。
ヴィゴは、内心の動揺を押し殺しながら、ショーンの背中を撫でるために手を伸ばした。
だが、ヴィゴの手がショーンの肩に掛かる前に、ショーンは頭を起こした。
「あの…ヴィゴ。俺たちは、上手くいったと思ったんだが、それは、俺の勘違いだろうか。もう、あんなことをするのは嫌だと俺は、ヴィゴに思わせたんだろうか?」
ヴィゴは、慌てた。
「まさか!」
大声で否定した。
ヴィゴは、思いつめた目をしたショーンを急いで抱きしめた。
だが、ショーンは、腕を突っ張って、ヴィゴを押し返した。
「じゃぁ、何でだ?どうして、ヴィゴは、俺を客室へと追いやるんだ?」
「それは…」
ショーンは、ヴィゴの目をじっと見た
強い視線だ。
今度は、ヴィゴが視線を外してしまいそうだった。
「それは、なに?ヴィゴ?」
ヴィゴが答えられずにいると、ショーンは、また話しはじめた。
「あの…なんだったら、役割を変更してもいい。俺は、上手くやれる自信がないなんて理由で、なにもかもヴィゴに任せるなんて、ずるい真似をしたけど、……あ、勿論、そんなことばかりが、大事だと思ってるわけじゃない…んだが、…あれから、ちゃんとヴィゴは、俺を特別だと大事にしてくれているのだって、分かってるし…でも、あの…わかってくれると嬉しいんだが…特別なら、あの、特に、最初は、そういうことがないってのは、おかしいだろう?」
真摯に語るショーンの瞳に負けて、とうとうヴィゴは、ショーンから視線を離した。
ショーンが、肩を落とした。
「…ごめん。ヴィゴ。俺は、ちょっとおかしくなっているのかもしれない。昨日の夜も、いつ、ヴィゴが俺の部屋へやってくるのかと思って、結局、一睡も出来なかったんだ。ごめん……やっぱり、おかしいな」
ショーンは、手で、口元を多い、ごしごしと擦った。
皺の寄る、その顔が、ヴィゴは堪らなく愛しかった。
ヴィゴは、思わず手を伸ばし、ショーンを抱きしめた。
「…ショーン」
自分の声が掠れていることをヴィゴは自覚した。
「ショーン。ショーン」
腕の中で、身じろくショーンをきつく抱きしめた。
「あんまり、俺のことを信用しないでくれ。ショーン。そんな顔をしないでくれ。俺は、自制してたんだ」
「なんで?」
ショーンが驚いたような声を上げた。
「だって、ショーン、あんた、こんなオヤジに毎晩のように伸し掛かられるなんて、勘弁してもらいたいだろう?」
ヴィゴの真面目くさった顔に、ショーンは、やっと顔をほころばせた。
「…毎晩は…無理だろう」
ヴィゴは、心外だという表情で抗議した。
ショーンが困った顔をした。
「だって、ヴィゴ…それは」
「全然、無理じゃない」
胸を張ったヴィゴに、ショーンは、もう一度、腕の中から抜け出した。
「ちょっと、待ってくれ。ヴィゴ。話を戻そう。できるできないって話じゃなくて、じゃぁ、なんで、しないんだって話なんだ」
真摯な目が、じっとヴィゴを見つめた。
ヴィゴは、なんとか誤魔化してしまおうとした自分が、間違っていたことを知った。
ショーンは、真面目にヴィゴとの関係について悩んで、でも、あえて、そのことをヴィゴへと相談してくれたのだ。
プライドや、羞恥心。いろいろ口を重くする原因はあっただろうに、関係を維持するために、それを全て飲み込んでくれた。
ヴィゴは、少し眉を上げて、降参っと、言った。
「正直に言うよ。ショーン。本当に、年甲斐もなく毎晩でも出来そうなくらい、ショーンに夢中になっているんだ。ショーンに無理をさせたくないって思ってた」
ショーンは、疑うような目でヴィゴを見た。
ヴィゴは、もう少し、自分もプライドを放棄する努力をするべきだと思った。
「…ごめん。もっと正直に言う。いつも、いつもそのことばかり考えてるってバレたくなかったんだ。ちょっと格好つけたかった」
ショーンは、まだ、ヴィゴを疑っていた。
ヴィゴは、ショーンへと手を伸ばし、嘘ではないことを証明した。
ショーンが寝巻き代わりに着ていたTシャツを捲り上げ、短パンの中に手を突っ込んだ。
「ちょ、ちょっと、ヴィゴ!」
慌てて、ヴィゴの腕を掴んだショーンに、にやりと笑って、ヴィゴは、言った。
「もっと、もっと、正直になろう。…俺が我慢しつづけたら、ショーンが、俺のことを好きなんだって、もっと分かりやすく示してくれるんじゃないかって、計算もあった」
「…ヴィゴ!」
ショーンは、怒った声を出した。
ヴィゴの手を必死になって短パンの中から引っ張り出そうとした。
ヴィゴは、ショーンと同じだけ、自分も何もかも放り出すことにした。
「うそだよ。どれも、本当だけど、嘘なんだ。ショーンのあんな顔が見せてもらえた幸運が信じられなくて、もう一度なんて望んだら、魔法がとけて、全部なくなるんじゃないかと、恐かった。…それこそ、年甲斐も無いと思うだろうけど、…本気だ。…信じられないかもしれないけど、あんたと抱き合って、翌朝も、普通にキスできて、話も出来て、本当に嬉しかったんだ。でも、もしかして、二度目をしたら、こんな風じゃなくなるんじゃないかと思って二の足を踏んでた」
「…ヴィゴ」
ショーンは、急に動きを止めた。
ヴィゴの腕に手をかけたままだったが、目を閉じた。
ヴィゴは、ショーンの柔らかなペニスに触れたままという間の抜けた格好で、ショーンの唇にキスをした。
「ヴィゴ。俺…」
ショーンは、ほんのりと頬を染めて、ヴィゴをみつめた。
ヴィゴは、口元に柔らかな笑いを刻んで、もう一度、ショーンの唇にキスをした。
「ショーン」
ヴィゴは、唇が離れると優しい声でショーンを呼んだ。
「ショーン。もう一回セックスしても、まだ、俺と付き合ってくれる?」
「当たり前だ。…若くないんだ。十分考えた」
生真面目なショーンの言葉は、ヴィゴを最高級に幸せにした。
ショーンのペニスが、すこし硬くなってくれているのに惜しいと、思いながらも、ヴィゴは短パンから手を出した。
ショーンと、ヴィゴは、お互いを強く抱きしめあって、激しいキスを繰り返した。
息継ぎの余裕もなく、何度かは、歯が、ぶつかった。
その度、お互いの目を見詰め合って笑うのだが、寄せ合った顔の鼻が触れ合うと、もう我慢が出来なくて、またキスを始めた。
この2週間の間にはなかった熱っぽいキスだった。
舌が絡む音がした。
唇を離すと、唾液の橋がかかった。
ヴィゴは、唇以外の場所にもキスを始めながら、ショーンの体をまさぐった。
薄っぺらなTシャツは、簡単にショーンの筋肉の盛り上がりをヴィゴに伝えた。
ヴィゴは、ショーンの頬の肉を唇で噛むようにしながら、キスを続け、ずっと触りたいと思っていた背中も、尻も、撫で回した。
「ショーン、ショーン」
ヴィゴは、ショーンの耳元で名を呼んだ。
耳朶を軽く歯で噛んだ。
「…あっ、ヴィゴ」
ショーンは、強くヴィゴを抱きしめた。
ぴったりとくっついた二人の身体は、体温を上げていた。
ショーンは、ヴィゴの肩へと顔を乗せ、ヴィゴが好きに触ることを許していた。
ヴィゴは、ショーンの頬へ、耳へと唇を押し付けながら、情けない声を出した。
「…ごめんよ。ショーン。我慢しすぎたかもしれない。あんたを、ベッドまで連れて行けない。…そこまで我慢できそうに無いんだ」
ヴィゴが投げ出したものには、自制心というものも含まれていた。
ヴィゴは、ショーンの尻を強く掴んで、自分の股間をショーンに擦り付けた。
ショーンのペニスも、硬い。
お互いの硬いものが、擦れ合う。
「こんな風な俺とまだ、付き合ってくれる?」
ショーンは、ヴィゴの肩の上で、小さく頭を動かした。
小さな声で、当たり前だと言った。
ヴィゴは、本当に我慢が出来なくなって、ショーンを突き飛ばすような勢いで机に押し付けた。
ショーンは、倒れこむように、パン屑の散らかった机の上へと倒れこんだ。
「ちょっ、ヴィゴ!」
あまりの勢いに驚きながら、ショーンは、テーブルに手を付いて身体を起こした。
その間に、ヴィゴは、勢い良くかがみこみ、ショーンの短パンを引き摺り下ろした。
ショーンは驚いて、振り返った。
ヴィゴは、すかさず立ち上がり、自分の靴で、ショーンの短パンを踏んだ。
「先、謝っておく。本当にごめん。でも、もう、理性なんてこれっぽっちも残ってないんだ」
「ちょっと、待て、ヴィゴ!」
ヴィゴは、自分の体重をかけるようにして、ショーンを机へと押し付け、項に、肩へとキスの雨を降らせた。
片手で、ショーンの胸を抱きこみ、逃げられないよう拘束した。
そうしておいて、自由になるもう一方の手をテーブルの上に伸ばした。
ショーンが使っていた蜂蜜の壜の蓋が開いていた。
「ヴィゴ!」
「ショーン…ショーン」
ヴィゴは、熱病に浮かされたようにショーンの名を繰り返し呼びながら、指先を壜の中に突っ込んだ。
大きな壜は、底の方にしか、蜂蜜を残していなくて、ヴィゴを苛立たせた。
届かない。
ヴィゴは、蜂蜜の壜を倒した。
ショーンが音に驚いて、壜の方へと顔を向けた。
ヴィゴが何をする気か気付いて止めようとしたが、ヴィゴのほうが、早かった。
指先に蜂蜜を塗りつけ、剥き出しにしたショーンの尻の穴に塗りつけた。
ショーンは、体を竦ませた。
だが、じっとしていった。
ヴィゴは、もう一度、蜂蜜の壜に手を突っ込んで、指先を濡らした。
粘度の高い黄金をショーンの上に垂らす。
うっすらと穴の周りを囲む金色の毛が、蜂蜜に飲み込まれた。
ヴィゴは、尻穴に指を飲み込ませようと、皺の上でマッサージを始めた。
とろりとした蜂蜜が、ショーンの尻を汚した。
「…ヴィゴ…ちょっと待ってくれ」
ショーンが、ヴィゴの下で、制止をかけた。
ヴィゴに押しつぶされ、苦しそうな声だった。
「悪いが、待てない」
ヴィゴは、宥めるようなキスを項に繰り返した。
繰り返し、蜂蜜を指先につけた。
滴った蜂蜜は、ショーンの足を汚していた。
勿論、ヴィゴの着ているシャツだって、洗濯をしないでは着られない。
ヴィゴは、ショーンが、止めようとも、もう、ショーンの中へと指を入れるつもりだった。
「そうじゃなくて、…あの、俺の短パンのポケットに、ゴムが入ってるんだ。使ってくれ」
ショーンは、恥かしそうに、早口で言った。
屈みこんだヴィゴが見たものは、ねっとりとした蜂蜜に汚れた短パンのポケットに、一続きの避妊具。
思わずヴィゴの口元が緩んだ。
「ショーン、あんた、何回やるつもり?」
ヴィゴは、ショーンの背中から伸し掛かり、ショーンの耳を噛んだ。
「違う。いや、そうじゃなくて、指にも嵌めて欲しい。あの…頼むから、何もなしに、俺の中に指を入れないでくれ」
ショーンは耳まで真っ赤になった。
「なんで?」
分かっていて、からかうのは、ヴィゴの悪い癖だ。
ショーンは、項まで赤くなった。
ヴィゴは、歯で、ゴムのパッケージを切り、ショーンの希望どおり指に嵌めた。
胸へと回してがっちりとショーンを拘束している方の手で、何度もショーンを撫で、落ち着かせた。
指に嵌めたゴムも、ゼリーで濡れていたが、心もとなくて、ヴィゴは、その指を蜂蜜に浸した。
ペニス用のゴムは、蜂蜜の粘度に指から外れそうになった。
だが、なんとかそこから救出して、今度こそ、ヴィゴは、ショーンの中に指を入れた。
穴の周りにべっとりとついている蜂蜜を中へと押し込む。
ショーンが小さくうめいた。
ヴィゴは、口に咥えてショーンのTシャツを捲り上げ、背中に何度もキスをした。
「ショーン。俺の名前呼んで」
ヴィゴは、キスの合間に、ショーンに頼んだ。
ショーンは、机についた腕に頭を乗せたままヴィゴの名を呼んだ。
「…ヴィゴ」
「そう、今、あんたの中まで進入しているのは、俺だ。こんなことまで、ショーンは、俺に許してるんだ」
ヴィゴは、尻の間で見え隠れする指を熱心に動かした。
指先は、強く締め付けられて、慣れていないショーンの現状をヴィゴへと伝えた。
けれども、ヴィゴは、行為を続けた。
せわしない息を繰り返すショーンを見ていた。
「…そうさ。ヴィゴ。俺はあんたに、何もかも許してる。そうじゃなきゃ、こんなパン屑だらけのキッチンなんかで、セックスなんてするもんか」
ショーンの言葉はきつく、まるで吐き捨てられるようだった。
ショーンは、俯いて、顔を隠したままだった。
ショーンの格好ときたら、背中の半分まで捲り上げられたTシャツしか着ていなくて、足は、蜂蜜でべっとりと汚れていた。
尻の間には、ヴィゴの指が入り込んでいる。
ヴィゴは、やられた。と、思った。
後頭部しか見せようとしないショーンが愛しくてどうにかなりそうだった。
多少せっかちなのを自分も自覚しながら、ショーンの中から指を抜き出し、新しいゴムを嵌めなおした。
「ショーン、あんたも協力してくれ。もう一本指を増やす。それが、飲み込めるようになったら、すぐ、もう一本増やす。十分柔らかくなるまでなんて待てそうに無いんだ。怪我をしないようにだけ、ちゃんと広げるから、頼む。ちゃんと力を抜いていてくれ」
ヴィゴは、予告どおり、強引に指を増やしていき、ショーンの蜂蜜で濡れた尻を両手で押し広げると、突き刺すように下からペニスを押し込んだ。
ヴィゴは、ショーンの腰を掴んだまま、ぐりぐりと腰を押し付けた。
食いしばっていても、歯の間から、みっともないような息が漏れた。
ショーンの背中には汗が浮かんでいた。
パン屑のくっついてしまった頬には、髪が張り付いていた。
そんなショーンを見下ろしなら、ヴィゴは、ショーンの尻穴に、ペニスを押し込み、引き抜き、また、押し込むという動作を繰り返した。
いつまでも繰り返せそうだった。
たまらなく気持ちがよかった。
準備に十分な時間をかけられなかったショーンのそこは、柔らかく包みこむようにとはいかなかったが、きつい締め付けてヴィゴを歓待してくれていた。
「ショーン。ショーン。あんたは、最高だ。我慢していたなんて、馬鹿みたいだ」
ヴィゴは、ショーンの尻を持ち上げるようにして、結合を深めた。
ヴィゴがペニスを引き出すたびに、穴から溢れ出す蜂蜜が、ヴィゴの下腹を汚した。
ヴィゴの毛も、蜂蜜で粘ついていた。
ショーンは、ヴィゴが突き入れるたび、テーブルに頭をぶつけそうになっていた。
ヴィゴは、ショーンを抱き起こした。
ショーンの手をテーブルにつかせ、それを支えるように、後ろから抱きしめた。
「ショーン…」
ヴィゴがショーンの項にキスをすると、ショーンは、切なげな声を出した。
「ショーン。俺は、本当に馬鹿だ。こんなショーンをただ、宝箱のなかに押し込んで置こうなんて、ほんとうに愚か者としかいいようが無い」
ヴィゴは、下腹で、ショーンの尻をぴたぴたと叩きながら、抜き差しを繰り返した。
次第にショーンの口から漏れる声に色がついてきだした。
ヴィゴは、ショーンの中をしつこくかき回しながら、前に回した手で、ショーンのペニスを扱いた。
ショーンのペニスは、小さな雫を垂らしていた。
ヴィゴは、ショーンのペニスを手で握り、くちゅくちゅと扱き上げた。
ペニスから漏れている液体のせいで、小さな音がした。
「…ああっ…ヴィゴ」
ヴィゴの突き入れに押し出されるように口から漏れる声が、ショーンの快感をヴィゴへと伝えた。
ショーンの濡れたような声がヴィゴを呼んだ。
「どう?ショーン、気持ちいい?」
後ろは、塗りこめた蜂蜜のせいで、ぬちゃぬちゃと音がしていた。
ヴィゴは、ペニスの先で、ショーンが敏感に反応を返すポイントを続けざまに突いた。
ショーンは、テーブルについた腕の力を強くした。
だが、ヴィゴが望むような甘い声は歯を食いしばって耐えてしまったらしい。
代わりに、荒い息の下で、憎らしいことを言った。
「…恥かしいこと…を…言うな」
その恥かしいことを言わせたくて、ヴィゴは、額に汗をかいているのだ。
ヴィゴは、どうしてもショーンに気持ちがいいと認めさせたくなって、ペニスを擦り上げる速度を早くした。
ショーンがテーブルにぶつかってしまうほど激しく腰を突き上げた。
押し殺せない声をショーンが漏らす。
「ショーン、気持ちがいい?正直に白状しろ。気持ちがいいだろう。俺は、気持ちがいいんだよ。ショーンにも正直に言えよ」
ショーンのペニスは、もう、すっかり硬くなっていた。
ヴィゴは、逃げようとするショーンを引き戻し、何度も何度も、ペニスで奥を突き上げた。
蜂蜜の匂いが、キッチンじゅうに広がっていた。
「ショーン。ほら、ショーン」
ショーンは、体中から甘い匂いをさせてヴィゴを駆り立てていた。
「ん…っ、あ…ん……ああ…」
とうとう、ショーンの唇が解けた。
一度、開いてしまった唇は、その身体の甘さと同じように、蕩けるような声を上げつづけた。
「ああ…あっ…あ」
「ショーン。ほら、気持ちがいいって」
ヴィゴはしつこく繰り返した。
「んっ…ヴィゴ…ん…」
ヴィゴは、辛抱強く、ショーンが告白するのを待った。
ペニスから、時折手を離して、漏れ出た液体で塗れている指で、ショーンの乳首を摘んだ。
乳首は固くしこり、ヴィゴが摘み上げると、ショーンは、何度も腰を捩った。
「んん…っ、あ」
「ほら、ショーン。どこもかしこも、ショーンの体は、気持ちがいいって白状してるんだ。あとは、その強情な口だけだぞ。尻だって、俺のペニスをきっちり締め付けてる」
「ん…あ……あ」
「ショーン…」
ヴィゴが甘くショーンの名を呼ぶと、ショーンは、かくんと頭を落とした。
肘で支えるようにテーブルに倒れこみ、テーブルをドンと強く叩いた。
「…分かってるのに…聞くな!気持ちいい……気持ちいいよ。畜生!」
「はぁ…あ…ん」
ショーンの声は大きくなっていた。
全身を真っ赤にしているショーンにヴィゴはとにかく、キスしまくった。
ショーンは、気持ちがいいと、惜しげもなく繰り返す。
「あ…ああ…っ…ん」
ショーンの手近にあったものは、すべて遠くへと押しやられていた。
蜂蜜の壜は、床に落ちた。
「…ヴィゴ…もう、もたない…ダメなんだ…ヴィゴ。もう、でそうだから…ペニスから手を離してくれ」
ショーンは、体に力を入れていた。
ヴィゴは、突き入れる動きを止めなかった。
「ショーン、いけばいい」
「…だって…ヴィゴ」
ヴィゴは、ねっとりと濡れたショーンのペニスを、勿論離してやらなかった。
振り返ったショーンの目は、すっかり濡れていた。
「ショーン、俺だっていつまでも我慢できない。そろそろ、俺も許してほしい」
ヴィゴは、奥歯を噛んでいた。
その状態で、ショーンの奥を抉った。
ショーンは、体を震わせた。
「ショーン、いいだろう?ほら、いけよ。もう、テーブルはどこもかしこもベトベトなんだ。いまさら、ショーンの精液が混ざったところでわかりゃしない」
趣味の悪いことを言うヴィゴに、ショーンは、一瞬きつい目をして睨んだが、ヴィゴの動きに、すぐ、恍惚の表情を作った。
ヴィゴは、ショーンのペニスを扱き、ぬとぬとと濡れた穴を何度も突き上げた。
ヴィゴの眉の間にも、皺が寄っていた。
「ああっ…・っ…・あ…」
恋人が快感に攫われる瞬間というのは、表現し難い美しさがある。
手の中に溢れ出すショーンの精液をヴィゴは、受け止めた。
「あ…あ、ヴィゴ」
濡れた手のまま、ヴィゴは、しばらくショーンを揺さぶった。
ヴィゴは、大きなため息とともに、ショーンの体の上に覆い被さった。
「ショーン。髪の毛のパン屑」
「ヴィゴ。その手で触らないでくれ」
ショーンは、ぱしりとヴィゴの手を打った。
しばらくテーブルの上で、死んだように重なっていた二人だったが、ずるずると床の上に腰を下ろし、そのまま、折り重なっていた。
「こっちは、大丈夫なのに」
ヴィゴは、打たれた手に唇を尖らせた。
「全然大丈夫じゃない。蜂蜜でべたべただ。そんな手で触られたら、髪が、蜂蜜まみれだ」
たしかに、蜂蜜で髪が汚れるかもしれなかったが、風呂に入らなければ、どうしようもないほど、二人は汚れきっていた。
髪くらい、今更だとヴィゴは、苦笑した。
「…ああそうだ。本気で蜂蜜買いに出ないとな…」
ヴィゴは、空になって床に転がっている蜂蜜の壜を見て、呟いた。
ショーンが、恥かしそうに顔を顰めた。
まだ、日曜ははじまったばかりだ。
END