罰ゲームバトン パート1 藻豆
「いやだぞ。したくないぞ」
眠そうに毛布の中に潜り込む金髪は、恋人よりも毛布の方へといとしげに頬を摺り寄せた。
「そんなこと言うなよ。ショーン」
約束の時間よりも遅くなったのは事実だが、遅くなった理由を、この恋人は知っているはずだった。しかし、金髪は、隣で毛布をめくるヴィゴの作る寒さを嫌って、柔らかい体を丸めるともっと深く毛布の中へと入り込もうとする。
「ショーン……」
ショーンの嫌がる理由が、した約束を守れなかったヴィゴの態度に対する当てつけであるならば、まだいい。だが、金髪は単に眠いだけだ。
ヴィゴの眉が情けなく下がる。
「ショーン。慰めてくれよ」
「……眠い」
「そんなこと言わずに、なぁ、ショーン」
午後8時をまわる頃から、どうしても演技に納得いかなくなり、周りをうんざりさせるほど、やり直しを要求し続けたヴィゴの倦みを見かねたのか、スタジオだというのに、今日はさっさと帰ってセックスしようと、なんとも魅力的な餌をこっそり耳元で囁いてみせた英国人だったが、だが、もう、今は全くする気がないようだ。
毛布をめくると、大きな体をさらに丸め、唸る。
「じゃぁ、触るだけでも……」
寒いのかショーンが唸り続けるため、仕方なく毛布を被ってぴたりと体を添わせたヴィゴが優しく体を撫で出したのだが、やっと二回目ヴィゴの手がむなしくショーンの下腹を撫でていたところで、うとうとしていた緑の目が開いた。
「ヴィゴ。気のすむ演技ができたか……?」
あくびをしながら眠そうにショーンは口を開く。
帰宅時間ばかりが遅くなっただけだった今日の結果はさすがに自慢できることではなく、ヴィゴが答えられずにいると、ゆっくりと身を返したショーンがヴィゴを抱きしめ、ぽんぽんと背中を叩いた。眠気に潤む緑の目が緩く笑う。
「多分、今日のヴィゴは、満足いくセックスもできないんだろうな」
だが、眠そうにした目とは対照的に、キスしてきた薄い唇に浮かんだ笑みは、挑発的だ。
キスの後には、大きくあくびをしてまた目を閉じようとしたショーンの挑発がどの位本気だったのか、ヴィゴは知らない。
しかし、約束の言葉通り、ヴィゴを待っていてくれたらしい清潔なショーンの体は、一時の眠りで緊張を無くしやわらかく緩んで、ヴィゴが本気になれば、それなりの抵抗をしようとしたショーン自身すら裏切った。
思い通りの演技ができない不甲斐ない自分への苛立ちを受け入れてくれる温かでやさしい体が、ヴィゴの下にある。
ショーンの両腕をきつく掴んだまま、突き上げるヴィゴの汗が、白い胸に落ちていた。
あまりショーンを思いやることができず、抱くこともしていない腰の下には、枕をかませ高くしてある。
開いた大きな尻の間で赤い色を晒して広がる穴を、ヴィゴは自分の思い通りに突く。
その度、薄いとは言いがたいショーンの腹は、はっ、はっ、と息を吐き出した。
「ショーン、……すごく、いい」
「……っぅ、……ッん、……ンン!」
セックスためにシャワーを浴びに行く間、ヴィゴが待つことを、未だに戸惑いの表情なしには乗越えられない恋人だ。尻を弄られ、感じる自分に、まだ抵抗が大きくて、ショーンはセックスの最中、いつもぎゅっと目を瞑っている。
しかし、今日は、それがどうしても寂しく、まるで嫌がっているかのように、ぎゅっと目を瞑り、顔を顰めているショーンの頬をヴィゴは軽く張った。
「ショーン……」
熱に潤む緑の目が開けられた。視線が合うと、ショーンは落ち着きなく目を泳がせた。
ショーンの足は、ヴィゴの胸に押され、殆ど自分の胸につくような状態だ。枕からすら浮き上がった大きな尻には、ヴィゴのペニスがずっぽりと根本まで埋まっている。
ヴィゴはわざと、ゆるゆると引き抜いていった。
「……っ、ぁ、ア、ア!」
それに思わず声が出る自分の状態を思い知らされ、ショーンの首がイヤだと小さく振られた。
ヴィゴは、首を振って嫌がるショーンを、自分の都合よく解釈した。
「もっと、ぐちゅぐちゅになるくらい、動かして欲しい?」
瞑ってしまいそうな緑のすぐ際にヴィゴはキスを繰り返しながら、ヴィゴはショーンにとって快感の得やすい前立腺の辺りを特に擦るように腰にねじりを入れながら、浅く早い挿入を繰り返した。
眼球のすぐ側に何かをされるのは、本能的な恐怖をそそり、ショーンはキスが終わるたび、どうしても目を開ける。
腹の内側から揺さぶり上げられる快感の大きさを受け止めかねて、ショーンの目は、みるみるうちに潤んでいく。
「違っ、……ヴィゴ!」
そう言うが、柔らかく絡みついてくる肉を擦るようにしながら、肛口のすぐ側まで引いた腰を、すばやく突き入れ、ぬちょぬちょと濡れた熱い穴を、巧みに掘り広げてやれば、大きな尻には力が入り、緊張にブルブル震えだす。
ショーンの長くきれいな指が、ヴィゴの手を握るため、シーツから離れる。
体を重ねるような関係になりながらも、まだヴィゴに慣れず、時々スタジオの礼儀正しさや、落ち着いたしゃべりをしてみせる英国人が、尻に咥え込んだままの状態で射精に近づいたときの、切羽詰った顔がヴィゴは好きだ。
役作りのためつけた肉が、今はショーンの顔を柔和に見せているが、一つ一つ見れば、冷たく整った顔が、これ以上ないほどくしゃくしゃに歪み、真っ赤に染まる様子は、今まであまり自覚のなかったヴィゴの中のサディスティックな欲望を少なからず満足させる。
「ん、ン!、っァ、っ」
髪の生え際に汗を浮かべて、ショーンの目が頼りなくヴィゴを見上げた。
ショーンがペロリと唇を舐める。
「いき、そうなんだ、……いっても、いいか? ヴィゴ?」
相手を満足させなければ体面が悪くなるセックスばかりをしてきたショーンは、ヴィゴとのセックスでも、自分だけよくなることに罪悪感を覚えるようで、苦しそうに下腹に力を込めて、なんとか射精を引き伸ばそうとする。
何度も舌で舐められる唇が、また舐められた。
しかし、きつい肛口部分をこじ開けるようにして中に嵌った太いものが、何度もそこを擦れば、たまらないのか、ショーンは、ひっ、と息を飲み、ペニスからはどっと先走りが溢れ出て、ヴィゴの腹をべとりと濡らした。
はぁはぁと大きく息を繰り返す口に、ヴィゴが、舌を伸ばしたまま顔を近づけると、ショーンはむしゃぶりついた。
早くいきたいばかりのショーンは、大きく口を開けて、せめて、少しでもヴィゴの快感を増やそうとしてくれる。
しかし、正直言えば、それほどショーンのキスは上手くない。次第にヴィゴまかせになるキスは、尻の奥を犯され続け、くふんと、鼻に抜けるようなかわいらしい声を漏らしだしたら、もう、とろんと、ヴィゴが仕掛けてくるのを待つようになる。
そして、今は、射精の欲求が、この金髪を激しく急きたてていた。「ヴィゴ、……ヴィゴ」と、切ないような声で名を呼び、潤んだ緑の目は、許可が出ることをひたすらに切望していた。
ヴィゴは、呼吸を苦しがるショーンにキスしたまま、いっていいと、ショーンに許可を与えた。
「ん……………あぁ…………」
キスを続けたままの口は、熱い肉を激しく掘られ、だらだらと唾液を口の端から零していた。抱きしめて囁きながら、一気に腰を突き出せば、ショーンはくしゃくしゃにした顔を真っ赤にして、ヴィゴにしがみついた。
太い足が絡む。ヴィゴは、ショーンを抱いているのだとはっきりと満足する。
「いい、っ、ヴィゴ、いい、イクっ、イクっーーッ!」
汗に濡れた髪をかき上げてやると、ショーンがうっすらと目を開けた。
金髪はごろりと体を返すと、肘をついて自分で髪をかき上げ直す。緑の目が、少し意地悪そうにヴィゴを見上げた。
「この深夜労働で、俺にも、残業代がでるかな? ヴィゴ?」
「これから、もう一度して体で払うってのは、どうだろう? ショーン?」
ショーンがくすくすと笑い出した。大きくあくびをする。
「ヴィゴ。それだけ冗談が言えるようになったんなら、明日は大丈夫だな。さぁ、寝よう」
「……くそっ、愛してるよ。ショーン」
END
あれ? なんか、ショーンが優しいよ……?