赤く、甘い、ゼリー

 

テーブルの上にどさどさと置かれたものに、ショーンは、嫌な気持ちになった。

紙袋から出されたのは、袋に入った一口サイズの小さなカップゼリー。

色とりどりのそれが、3袋、ヴィゴが持ち帰った紙袋に入っていた。

いかにもジャンクな物体は気になったが、ショーンは、まず、自分の欲望を優先した。

「ヴィゴ。煙草は?」

「ショーン。おかえりの言葉がそれか?」

ヴィゴは、帰り道で封を切った煙草を口にくわえ、まだ、鍵の音をさせていた。

「おかえり。は、ショーン?」

「おかえり。ヴィゴ。おつかいご苦労」

鼻でくくったようないい方のショーンに笑いながらも、ヴィゴはもう一袋、胸に持っていた紙袋から煙草の包みを取り出しショーンに向かって投げた。

ショーンが両手で受け取ると、ヴィゴは、もう一つ投げる。

それを受け取ったショーンは顔を顰めた。

「こっちは、とりあえず冷蔵庫だろ」

投げられた缶ビールは、冷えていない。

だが、ヴィゴは自分の分のプルトップを引いた。

ごくごくと喉を鳴らしておいしそうに飲む。

顔を顰めたままのショーンが冷蔵庫を開けながら聞いた。

「なぁ、ヴィゴ。そんなんで、うまいのか?」

ショーンは、この国のビールは冷えていないとうまくないと思う。

「暑かったから、喉が渇いた」

言外に、ヴィゴは、外は暑かったんだぞ。と、ショーンに訴えていた。

だが、少しも気にせず、ショーンは自分の分の缶ビールを冷蔵庫にしまい、振り返ると気になっていたゼリーを指さす。

「なぁ、近所の子供でも遊びに来るのか?ヴィゴ」

ショーンがヴィゴに頼んだのは、煙草だけだ。

見慣れない物体があることをショーンはいぶかしんだ。

「子供?」

ヴィゴは軽く首をひねる。

「そう、友達」

ショーンは、ヴィゴを補うつもりで、言葉を返した。

ショーンは、自分の娘達が山ほどの菓子を買い込んで、どこもかしこも家の中を占領し、くすくす何が楽しいのか笑い転げているのを知っていた。

そして、そうする子供たちが、いかに大人を邪魔に思うかも知っているのだ。

ヴィゴが驚いたように目を見開いた。

「友達? 俺の?」

「なんで、お前のなんだよ? お前の大事な息子のだよ。それとも、お前、近所の子供を手懐けたのか?」

「なんで?」

ヴィゴとショーンの会話は噛み合わない。

「なんでって、そりゃぁ、こっちが聞きたいよ。じゃぁ、そのゼリーは誰が食べるんだ? ヴィゴ。お前そんなものが好物になったのか?」

ショーンが説明をし、やっと納得したのか、ヴィゴは大笑いした。

煙草を持った手のまま髪をかき上げ、口の端を大きく左右に広げた機嫌のいい笑いを浮かべ、ショーンに優しい目を向ける。

「ショーン。心配するなよ。俺は、あんたとの貴重な時間に他人を介入させる気なんてないよ。そんな、かわいく嫉妬しないでくれ」

ショーンは、あまりに思いこみの激しい恋人に、呆れた。

「誰も、嫉妬なんかしてない。子供が来るんだったら、やかましいだろう。だから、隠れようと思っただけだ」

「子供なんて来ないよ。これは、ショーンに食べて貰おうかと思って買ってきたんだ」

ヴィゴは、機嫌良さそうに笑ったまま、袋を三つとも胸に抱えた。

ショーンは、眉を寄せる。

「悪いが、ヴィゴ。俺はそういうものは食べない」

「嫌いか?」

ヴィゴがひょいっと眉を上げた。

いかにも思いがけなかったと言わんばかりのその表情に、ショーンは、すこし言葉を濁す。

「……一つくらいだったら、食べてもいいが。いかにも身体に悪そうな色をしている」

「綺麗じゃないか」

ゼリーは、絵の具を溶かしたような色をしていた。

大量の着色料を用いたとしか思えない。

ショーンは、ヴィゴから、一つ袋を取り上げた。

ショーンだって、そういうことに詳しいわけでないが、分かる振りでパッケージに記載された成分表を眺める。

「ヴィゴ。お前、もう歳なんだし、少し、食べるもののことを考えた方がいいぞ」

まじめくさった声で、ショーンは言うと、ヴィゴに袋を押しつけた。

ヴィゴが、吹き出す。

「ショーン。あんた、全然分かってないくせに、ちょっとばっかし、ダイエットに成功したと思って!」

ゼリーを抱きかかえて、ヴィゴはにやにや笑いだ。

「ヴィゴ。……やっぱり、お前、俺のこと太らせようとしたんだな!」

ショーンがヴィゴを睨んだ。

ヴィゴは、にやりと楽しげに笑う。

「ショーン。煙草を吸いすぎる方が、ずっと早死にすると思うぜ?」

ヴィゴは、ショーンが切れ目なく煙草を口にする訳に気付いていた。

ヴィゴは、ショーンの来訪に合わせ、いつもの分量、買い置きしておいたのだ。

それが、今回、もうなくなってしまっている。

「もう、撮影は終わったんだろう? その体型の維持は誰のため? 俺は、もう少しね……」

ヴィゴの手が、ショーンの尻を撫でた。

「この辺りがぽっちゃりしてる方が好みだって、昨夜散々言っただろう?」

ショーンは、ヴィゴの手を叩いた。

「ヴィゴ。それは、お前だけだ。誰もがこっちの方が良いって言う」

「見てるだけの奴と比べられてもなぁ……」

ヴィゴは、にやにやと笑うと、ショーンを腕の中に囲い込んだ。

「全く、悪くない。勿論、ショーンは、どんなでも最高だ。でも、俺の手がちょっとさみしいって言うんだよ」

ヴィゴの手は、いやらしくショーンの尻を揉んだ。

ショーンが、むっと口を歪める。

「俺は、食わない」

ショーンは背中でがさがさと音を立てているゼリーの袋を疎ましく思った。

「太るからだけじゃないぞ。いかにも身体に悪そうだ。ヴィゴ。お前も歳だが、俺だって、歳なんだ。身体はいたわってやらないといけないんだぞ」

「……うまいのに」

ヴィゴが残念そうに言った。

「じゃぁ、お前だけ食え」

「ショーン、愛が足りない!」

大きな声で、文句を言ったヴィゴは、いきなりショーンの手を掴んだ。

 

足早にショーンを引っ張るヴィゴが向かう先が、寝室だと分かって、ショーンはため息をついた。

片手にショーン、もう片手ではゼリーの袋を掴んでいるヴィゴは足で蹴ってドアを開ける。

「……また、やるのか? ヴィゴ」

「ショーン、やっぱり、スタミナ不足なんじゃないか?」

ヴィゴはいかにも、嘆かわしいと大げさに言うと、ゼリーの袋をベッドの上に投げ出した。

ショーンは、精力的でないと言われたことに眉を寄せ、憮然とゼリーの隣に腰を下ろした。

「ホームドクターは、俺のことを褒めてたぜ? この程度で普通だろ」

ショーンの手ひらひらとヴィゴを追いやり、先ほど受け取りポケットにしまった煙草を取り出す。

ヴィゴは、ベッドの脇に立ち、ショーンを見下ろした。

「吸い過ぎだな。ショーン」

「普通だよ」

全く聞かないショーンは、枕元にあったヴィゴのライターで火を付けた。

細く煙が天井へと伸び、ヴィゴは、小さく肩をすくめた。

言ったところで、仕方ないとばかりに、勢い良くショーンの隣に腰を下ろすと、ゼリーの袋をばりっと開ける。

ヴィゴは、短くなった自分の煙草を邪魔だと、灰皿でもみ消した。

ショーンが煙を吐き出しながら、ヴィゴをまじまじと見つめている。

「本当に、それ食うのか。ヴィゴ」

「食う。でも、食うのは俺じゃないけど」

色違いのそれをひとつひとつ取り出し眺めるヴィゴに、ショーンが眉を顰める。

「俺は、食わないぞ!」

ショーンは、それを一つでも口にしたら、せっかく頑張ったダイエットの魔法が解けるとでも言いたげに大げさに嫌がった。

「なんでそんなに嫌がるんだ。ショーン」

「どうせ食うなら、せめてもっとうまいのがいい」

ショーンの言いぐさがおかしく、ヴィゴは小さく笑った。

「うまいと思うんだがなぁ」

ゼリーの色は毒々しいほど原色だ。

「だから、ヴィゴが食う分には、好きにすればいいって言ったろ」

口寂しさを補うためだけなので、ショーンは、すぐに煙草をもみ消す。

それを知っているヴィゴは、煙草なんかよりもっと良いものがあるだろう?と、目で囁きかけて、ショーンの唇を求めた。

ショーンが目を瞑り、小さく口を開く。

舌を絡めるヴィゴは、ゼリーを放りだし、ショーンのジーンズの釦を緩めた。

「おい、ヴィゴ。本気でするのか?」

ショーンは、ヴィゴの手が下着の中に潜り込むのにもぞもぞと身体を動かす。

決して嫌がってない。

「する。なぁ、しようぜ? ショーン」

ヴィゴは、ショーンの耳元にキスを繰り返しながら囁いた。

会えるまでに間があくと、一晩のたっぷりのセックスの後、ショーンの身体はかなりその気になりやすかった。

ヴィゴが手に納めたペニスは、緩やかにだが、勃ちあがりかけている。

 

ヴィゴは、ショーンをベッドに押し倒した。

下着を太腿まで下ろし、むき出しになったペニスを揉む。

「ショーン。したくないのか?」

ヴィゴは、ショーンが断りたくなるようなにやにやと好色な顔で訪ねた。

ペニスは、ヴィゴに快諾したというのに、素直でないショーンは、顔を逸らす。

「……したくない……けど、ヴィゴがどうしてもって言うんだったら……」

だが、この返事が返ってくることこそヴィゴは期待していたのだ。

ヴィゴは、してやったりとばかりにショーンの言葉尻を捕まえた。

「そうか! ショーンは、したくないのか! それじゃぁ、付きあせては申し訳ないな……」

ヴィゴは、申し訳なさそうな顔で、ぱっとショーンのペニスから手を離し、ベッドの上で身を起こした。

下げられたジーンズを太腿に絡みつかせたまま、呆然とショーンがヴィゴを見上げる。

「……ヴィゴ?」

「どうした? ショーン」

「どうしたって……」

「なに? やりたいのか? ショーン」

ヴィゴは、いきなりにやにや笑いを強くした。

下品に笑うヴィゴの顔にショーンは、したいとは言い出せず、思い切り顔を顰める。

「やりたくない!」

すると、ヴィゴは、ジーンズを上げようとした不安定なショーンの身体を、いきなり転がし、ベッドの上にうつぶせにさせた。

少し肉付きのおちた尻が、むき出しでヴィゴの顔の前面に突き出される。

白い尻は、確かに少し肉を落としていたが、ダイエットで手に入れた腰の細さのせいで、それは、全く悪い眺めではなかった。

ヴィゴは白い尻にキスをした。

「ショーン。ゼリー食わないか?」

恋人の奇行にはなれたショーンだったが、しかし、無理やりうつぶせにされ、尻を丸出しにされている状態で何故、ゼリーを勧められなければならないのか。

ショーンは、ヴィゴを睨む。

「……何言ってるんだ? ヴィゴ」

「俺、どうしても、ショーンに、ゼリーが食って貰いたくてさ」

ヴィゴは繰り返し、ショーンの尻にキスをした。

ショーンは、ヴィゴが普段いい人間であることを知っていた。

しかし、この恋人が、時に、おかしな程思い入れる性格であることも知っていた。

「お前、俺が食わないって言ったことで拗ねてるのか? お前、それほどあのゼリー。気に入ってるのか……」

ショーンは、ため息を吐き出した。

恋人が言い出したら利かないということもショーンは知っている。

「一つだけだぞ?」

念を押したショーンは、うつぶせにされたまま呆れたような目をして、ヴィゴが口にゼリーを放り込むのを待っていた。

ヴィゴがプラスティックの容器から、一口大のゼリーを取り出し、手で摘んだ。

甘い匂いが漂う。

香料のきつい匂いに、ショーンが嫌そうに額に皺を寄せた。

「そんなに食いたくないのか? ショーン」

ヴィゴは、ショーンの口元まで運んだゼリーを手に聞いた。

「いいから。寄こせ。一個食えばいいんだろう?」

目を瞑って大きく口を開けたショーンに、ヴィゴはゼリーを与えるのではなくキスをした。

ショーンが、驚いて目を開く。

「悪い。ショーン。実は、これ、ショーンのこっちの口に食って貰うつもりじゃなくてな」

ヴィゴは、ぽたぽたとシロップのしたたるゼリーを口元から遠ざけ、なんとショーンの尻に近づけた。

「こっちでな。食って欲しくて買ってきたんだ」

尻の穴にゼリーの濡れたぬるりとした感触を味わい、ショーンは、大声を上げた。

「また! ヴィゴ。お前は、どうしてそうろくでもないことばかりしたがるんだ!!」

身を起こそうとしたショーンをヴィゴが押さえつける。

「いいじゃないか。ショーン。いつものゼリーと変わらないだろ?」

「全然違う!」

暴れるショーンをヴィゴは強引に抱きしめる。

「ここなら味だってしない」

「お前、最初からそのつもりで!!」

怒鳴ったショーンに、ヴィゴは、キスの雨を降らせた。

ショーンは、ヴィゴに噛みつかんばかりに睨んでいる。

「勿論、最初からそのつもりだ。誰が、違うって言った?」

「……俺は、そういうの嫌いだって言ったよな?」

「少しだけ食えよ。今のあんたも全く悪くないが、やっぱりもう少し太ってもいい。なぁ、ダーリン」

ヴィゴは、有無を言わせず、ショーンの尻を押し開く。

 

 

ヴィゴが舌打ちした。

「ちぇっ、うまく入らない」

ヴィゴが思っていたよりも、ずっとゼリーは柔らかく、きつく尻の穴を締めているショーンの中に上手く入らなかった。

あまりにショーンが抵抗するので、ヴィゴは、ショーンの背中を跨ぎ、自重でショーンを押さえつけ、抵抗を防いでいる。

それなのに、全く上手くゼリーはショーンの中に納まらない。

尻の肉を掴んで、無理やり尻穴を開放させているヴィゴは、そこにゼリーを押し付けるのだが、柔らかなそれは、すぐにつぶれてしまいショーンの中に入らないのだ。

こんなに上手くいかないとは、ヴィゴにも予想外だった。

崩れたゼリーは、ショーンの尻も、足もべたべたと汚している。

シーツには、赤や、黄緑、黄色の元ゼリーがぼとぼとと落ちている。

それは、それで、なかなか素敵な眺めなのだが、ヴィゴは諦め悪く、甘く濡れた指を舐めた。

「ちっ!」

ヴィゴの舌打ちの音に、ショーンが唸る。

「……ヴィゴ……気はすんだか」

甘みのせいなのかいつものゼリーなどとは、全く違う感触でべたつくゼリーに、ショーンはすっかり機嫌を損ねていた。

第一、ショーンは食べ物を使う遊びは嫌いだ。

しかし、ヴィゴは、そんなショーンに遠慮をみせない。

「なんで食ってくれないんだよ。ショーン!」

恨みがましいヴィゴの声に、ショーンは、今までも散々繰り返したとおり、尻を振ってヴィゴを振り落とそうとした。

だが、ヴィゴは、決してショーンから落ちない。

「食えるか。そんなもの!」

「食える……。絶対ショーンなら、おいしく食えるのに……」

諦め悪く再チャレンジするヴィゴは、とうとう指で穴を無理やりこじ開け、広げたその中へとゼリーを押し込み始める。

ごつごつとした指が広げる粘膜に、にゅるりとした、なんともいえない弾力が触れる。

「やめろ!!」

怒鳴るショーンに、すぐさまヴィゴは返した。

「いやだ」

「いやだじゃない!」

「一個だけ」

子供のけんかのようにじたばた暴れて拒むショーンの締め付けは相当のものだったが、ヴィゴは、指で広げた穴にとうとうゼリーを押し込むことに成功した。

浅い位置に入れられたそれは、ショーンが尻穴を締めてしまえば、つぶれ、あふれ出す。

ヴィゴはその光景にうっとりと目を細めた。

「ショーン。真っ赤なものがな……」

「言うな! 馬鹿!!」

ショーンの顔が、尻からあふれ出しているゼリーよりももっと真っ赤になった。

きゅっと窄まっていたショーンの尻穴から力が抜ける。

だが、そうすると、中から汁が伝うのだ。

つつっと、太ももへと伝っていった甘い液体に、ショーンがぶるりと身体を震わす。

「しょうがないなぁ。じゃぁ、ショーンが恥ずかしいみたいだから、実況中継はやめておこう。ただし、その代わり……」

ヴィゴは、ショーンの背中から降りると、いかさまくさいフルーツ甘い香りがぷんぷんしている尻の間に回りこんだ。

舌を伸ばし、ショーンの尻を伝っている甘い汁をべろりと舐める。

「やめろ! ヴィゴ!!」

「しゃべらなくなったから、口が暇なんだ」

ぎゅっとショーンの尻を掴んだヴィゴは、ぎゅっと窄まった穴に舌を差し込み、中を抉った。

中から掻き出されたゼリーは、つぶれ、幾面体にもなっている。

「ショーン。これ、美味い上に、すごくきれいだぞ」

ゼリーは部屋に差し込む太陽の日にきらきらと光っている。

「やめろっって言ってるだろう!」

ショーンは、尻を振ってヴィゴから逃げようともがいた。

ヴィゴは、蹴り上げてくる足首を掴んで、すばやくその上に自分の足を乗せる。

「おいおい、ショーン。お前、ゼリーなんか食べたくないんだろう? だから、代わりに俺が食べてやるんだよ」

「誰が頼んだ!! ヴィゴっ!!」

またも尻肉をつかまれ、大きく尻を開かされたショーンは、ふくらはぎの上に、大人の体重を掛けられ、恥ずかしさと、その痛みとで、目には涙が浮かんでいた。

ただし、その目に悲壮感はない。それよりも、怒りに吊り上っている。

ヴィゴは、そんな脅しをものともせず、ショーンの体温に溶かされ、すこしずつ体外に溢れてくる甘い汁をすすった。

ずずっと、すすり上げる音がするたび、ショーンは、身体を竦ます。

「ショーン、甘い」

「バっカ!!」

「こんな美味いのに……」

全力で前に逃げようとするショーンの尻をがっしりと捕まえ、ヴィゴは、いい匂いをさせている白い尻肉の狭間へとうっとりと顔を埋めた。

鼻が、ショーンの尾てい骨に当っている。

「幸せだ……」

ショーンの尻に顔を埋めたヴィゴの声は、本当に幸せそうだった。

ぴたりと当っているヴィゴの顔の感触に、ショーンは、泣き出したい。

「お前なんか、しらない!!」

ショーンは、もう、恥ずかしいという以外のことが考えられなくなって、ベッドの枕を掴むと、その中に、顔を埋めた。

がっしりとヴィゴに尻を掴まれているショーンは逃げ出すことも適わない。

もう、現実から逃避するしかなくて、ショーンは、ぶつぶつと枕に向かって独り言だ。

「なんで、俺は、こんな奴と付き合うことにしたんだ……。今からでも、別れたほうがいいに決まってる。そうだ。それが、一番いいんだ……」

ショーンは、自分の姿も恥ずかしかったが、人の尻に顔を埋め、幸せになってしまっている恋人の存在も嫌になるほど恥ずかしかった。

「畜生。なんで、俺は、ヴィゴの口説きに負けたんだ。……くそっ、いっそ付き合う前まで時間が戻ったら……」

ヴィゴは、頭だけを隠して、ぶつぶつ不穏なことを言い続けている恋人の尻を長い舌でべろりと舐めた。

愛しげに何度も窄まった肛口へとキスをし、敏感なショーンの尻穴をヴィゴは、舌先で刺激し続ける。

ショーンが正気づくとわかっているから、ヴィゴは、ゼリーの詰まった尻穴を強引に開くような真似はしない。

ただ、もしそこを緩めさえすれば、もっと気持ちのいいことがあるとわかるだけ、舌は悪戯に窄まりの皺を擽った。

ヴィゴが尻へキスするたび、嫌がるショーンの尻は左右に激しく振られていた。

だが、続く愛撫に、いつの間にか、その意味が変わっていた。

今はもう、嫌だというサインではない。

いくつもの喧嘩や、行き違いを上手く乗り切ってこれたのは、きっとこのヴィゴのテクニックがものを言った晩が何回かあったからだろう。

ヴィゴは、ショーンにささやいた。

「ショーン。俺の、もう入れていい?」

尻をソフトに、しかし、中を弄られたときの快感を十分予感させるヴィゴの舌に、ショーンは、つい、流されていた。

ショーンのために弁解するなら、一晩やった後のヴィゴは、焦りがない分、やたらと執拗だ。

焦らすように、ペニスを肛口へと押し付けられ、ショーンは、自分から尻を突き出してしまった。

ヴィゴは、ペニスの先をくちゅくちゅと押し付け、ショーンを焦らす。

「俺の、入れたら中から、ゼリーがあふれ出してくると思うけど、いいのか?」

忘れかけていたゼリーのことを口にされ、ショーンの背中が、むっと機嫌を損ねた。

ヴィゴは、機嫌の悪さを上手く表現する肩甲骨に愛しげにキスをする。

「嫌なら、全部俺が舐め取ってから入れることにするか? ん? ショーン」

枕から顔を起こしたショーンが振り返った。

唇は、唾液で濡れ、頬は赤いというのに、緑の目は、最悪に機嫌が悪い。

「……絶対に食うな。今すぐ入れろ!」

ヴィゴは、恋人の命令に逆らわなかった。

急激な突き上げに、ショーンは、のけぞる。

「んんっ!」

ヴィゴは、ショーンの腰を掴み、更に激しく恋人を揺さぶった。

「……んっ……んっ……んんっ!!」

「こんな感じでいい?ショーン。そんなに欲しがってるって気付かなくて、悪かったな」

ヴィゴは、快感にのたうつショーンの背中を見守りながら、いやらしく唇を舐めた。

ヴィゴのペニスの張り出しがショーンの中を掻き出すから、尻からは、赤いゼリーがあふれ出している。

「……っん!……あ!」

ゼリーそのものは、たいした大きさではなかったはずなのに、赤い色は、派手だった。

ショーンの尻がやたらと白い色だから余計に目立つのかもしれない。

「勿体ない……」

ついヴィゴが呟くと、ショーンが振り向きざまに、枕を投げつけた。

それは、ヴィゴの顔に直撃した。

ヴィゴは、思わず笑ってしまう。

「……んっ、……何がっだ!……っヴィゴ!」

こんな状態になってすら、ショーンは、ヴィゴがゼリーにばかり関心を示すのを許さなくて、ヴィゴは、しっかりとショーンを抱きしめ、揺さぶってやった。

「一番おいしいのは、ショーンだよ。そんなの決まってるだろう?」

ヴィゴは、ショーンの肩にキスをし、その耳に甘くささやく。

「……っ、どうだかっ……」

ショーンは、シーツをわしづかみにして、身を捩っているというのに強がった。

ヴィゴは、そんな恋人がかわいくて仕方がない。

「そりゃぁ、ショーンが中に入れたのを食べていいって言うんだったら、ゼリーは、この世で、一番おいしい食べ物になるだろうがね……」

きゅっと、ショーンの尻が締まった。

「やめろっ! もう絶対にするな!」

ヴィゴは、ショーンに痛みを与えるようなものは決して選ばなかった。

だから、何故、これほどショーンが嫌がるのか、ヴィゴには未だよくわからない。

そのせいもあって、ヴィゴは、ショーンは、酷い恥ずかしがり屋だと、幸せな誤解をしている。

「ああ、しない。ゼリーは、意外に入らないって分かったからな。こんどは、そうだな。……次までに考えておくよ」

「ヴィゴっ!!」

食いしばっていた歯を開いて、大声で怒鳴ったショーンは、いいところを狙いすまして突き上げるヴィゴに、そのまま大きな声を上げることになった。

「あっ、んんっぁ!!」

ヴィゴは、続けざまに、ショーンの弱点ばかりをついてくる。

「あっ!あっ、あっ!!いくっ!」

ショーンのペニスが、精液を吹き上げた。

だが、まだ、ヴィゴは突き上げをやめない。

「あっ、あっあああ!」

敏感になった体を更に刺激され、ショーンは大きく口を開いて、舌をひくひくとさせた。

手の色が白くなるほど、ショーンは、きつくシーツを握り締めている。

ヴィゴは、執拗にショーンを追い詰めた。

すると、ショーンは、もう一度、切なく腰を捩り、ぎゅっと、尻穴を締め付けた。

「…………んんっ!!!」

わずかの量だが、ショーンのペニスが精液を溢れ出す。

ヴィゴは愛しげに額に張り付くショーンの髪をなで上げた。

はぁはぁと、胸を喘がせるショーンの中で、ヴィゴは、ゆっくりと腰を使う。

「満足した? ショーン」

ショーンの目がちらりと意地悪くヴィゴを見上げる。

「……お前は?」

ヴィゴはにやりと笑った。

「いいや。俺は、今すぐにでもショーンの中を汚したくてたまらないよ」

ショーンが身体を起こして、ヴィゴにキスを求めた。

繋がった無理な体勢で、二人はキスをする。

「……ヴィゴ。俺の腹の下にあるこのぶよぶよした気持ちの悪いゼリーを今すぐ片付けたら、お前がいくのを許してやる」

本当に、ショーンは、ゼリーが嫌なのだ。

それでも、ヴィゴがすきだから、ショーンは、譲歩する。

「この眺め、結構いいのに」

ヴィゴは、つまらなさそうに嘯いて、ショーンに思い切り噛みつかれた。

 

END