*大好きだよ。

全て映画評論家がある俳優の演技を絶賛するなどということはあり得ない。
中でもその評論家は、ヴィゴの対していつだって辛辣な意見を書いてくるのだ。
映画の封があけると、ヴィゴはどうしてもナーバスになる。
彼の書く評論が載った新聞は今朝からテーブルの上に置かれたままだ。
「どう? 読む気になったか?」
ショーンは、コーヒーの入ったカップを両手に持ってヴィゴの座るダイニングテーブルへと近づいた。
朝食の後、一時間以上もヴィゴは新聞の一面を睨みつけている。
だが、気持ちはわかる。読まなければいいと分かっていても、どうしても内容が気になるのだ。

ショーンがカップをテーブルに置くと、コトリ、と、音がし、それが、きっかけとなったようだ。
ヴィゴが新聞を手に取る。
がさがさと捲りながら、ショーンを見上げる。
「奴は、この間の俺の演技を評し、現在の映画界における最悪の演技だと言っていた」
「ああ、聞いたよ」
ショーンは、ヴィゴがそれをひそかに気にしていて、今回は大いに考えた演技をしたことも知っている。
「映画界における最悪の演技だぞ。だったらさ、それ以下はないわけだ。さて、今度のは何て書いたのか興味はないか? ショーン」
ショーンは、くすりと笑う。

記事を読み終わったヴィゴは、批評家が好きになったと言った。

“残念なことに、今回のヴィゴ・モーテンセン氏の演技は、これまでの氏の水準にすら達していない。”

「やるな」
さすがにショーンも感心した。
しかし、切抜きまではじめたとしても、ヴィゴが傷ついていないはずはなく、
まだ湯気の立つコーヒーを勧めながら、ショーンは恋人にひとつ優しいキスをした。


*自慢

「おい、ヴィゴ。夕べ連れてたいかすかわい子ちゃんは一体誰だよ?」
スタッフが夕べ見かけたヴィゴの連れとはショーンだ。スタッフはわかっていて、からかっている。
だが、ヴィゴは機会を逃さなかった。
「俺の恋人に言わないって約束するか?」
「勿論言わない」
「あれが俺の恋人だよ」
派手なウィンク付きだ。


*お前は分かり難く過ぎる!

ヴィゴは、知り合って一週間経ったショーンに手紙を出した。
ショーンは、その内容を見て驚きのあまりヴィゴの家まで飛んでいった。
『ショーン。俺たちの友情は一週間も保った。俺は、もう十分満足した』
いい友人になれるとばかり思っていた相手に、こんな絶交状を貰えば、怒りと悲しみの涙で車のフロントガラスが見難くなっても仕方がないだろう。

「ん? どうした。ショーン。そんな恐い顔して」
ヴィゴは、日なたの猫のように笑っていた。
「そんなに焦ってやってこなくても、これからは、一生恋人同士だ。時間は十分にあるぜ?」


*仲間はずれは寂しい

ヴィゴの冗談はそれほど悪くなかったはずだった。
だが、ショーンはくすりとも笑わず、周りにいたオーランドは、慌ててショーンを物陰まで引っ張っていった。
「ショーン。だめじゃん。王様あれでナイーブなんだから、笑ってあげないと、一週間は落ち込んで暗いんだから。ショーンだってお守りが大変なんだよ!」
ショーンはケロリと意地悪くオーランドに笑った。
「俺、明日から一週間本国に帰国なんでヨロシクな。オーリ」
「あんた! 自分が寂しくなるからって!」


*頼みごとVS報酬

「ヴィゴ。悪いんだが、ガレージを片付けるの手伝ってくれないか? その代わり、今晩」
ヴィゴは、腕まくりしながらウインクした性質の悪い金髪のために立ち上がった。
「いいよ。でも、まず、どんなプレイが込みなのか、教えてくれないか?」