愛の名の下に
* プレゼント
ヴィゴは、自分でもこれは、やりすぎだと思いながらも、花束を手に、休憩中のショーンを訪ねた。照れくさそうに笑うショーンは、受け取ってくれたばかりでなく、ヴィゴを手招き、キスまでくれた。
地に足がつかないほど嬉しくなったヴィゴが、ショーンの隣に座ろうと腰を下すと、ショーンがひょいっと立ち上がった。
「どうしたんだ? やっぱり、嫌だったか? ショーン?」
心配気に見上げるヴィゴにショーンが笑いかけた。
「花を摘みに行ってくる。花束をプレゼントすれば、今度は、ヴィゴが俺にキスさせてくれるだろう?」
ヴィゴは、幸福のあまり、心臓が止まるかと思った。
* まかせろ
まだ、知り合って間もないヴィゴとの関係が、あまりに駆け足で進むことに、慣れられずにいるショーンは、酒を持って訪ねたヴィゴに、釘を刺した。
「なぁ、ヴィゴ。明日の撮影も早い。俺は、節度ある大人の態度として、10時には、この家の明かりを消そうと思っている」
「ああ、分かってる。ショーン。じゃぁ、そうさせてもらうよ」
* 愛
撮影スタッフの中で結婚するカップルがおり、ヴィゴとショーンもその喜ばしい席へと参列した。
内輪のパーティをおえ、家へと辿りついた二人は、タイを緩めながら、ソファーに座った。
「いい式だったな」
「ああ、すばらしい教会だったしな」
二人は、あまり宗教の話をしなかったが、この時ばかりはさすがに話題に上った。
「なぁ、ショーン。あんた、娘さん達とよく教会に行くか?」
「いや、さすがに、近頃は、一緒ということはすくないな。でも、小さな頃は割合よく行ったよ」
「へぇ。そうか。じゃぁ、この質問には、簡単に答えられるな」
ヴィゴは、殆どジョークで質問を口にしたのだ。馬鹿にするなと、笑うショーンが見たかったのだ。
「ショーン。最初の男は誰だい?」
ショーンは、信じられないとばかりに目を見開いた。
見る見る赤くなる。
「えっ? ショーン?」
「……あんただよ。あんたが初めてだ……」
ヴィゴは、幸せな気持ちでショーンを見つめた。
* 俳優
いくら個室とはいえ、レストランのテーブルの下で、足に触れてきたヴィゴにショーンは手を焼いたのだ。
「なんだって? こんなまずい料理は食べたことがなんだって?」
ショーンは、大声を上げ、大げさにおどろいてみせた。
有名な俳優たちに、ワインをサービスしようとテーブルに近づいていたデレクトールの顔が引きつった。
ショーンは触っていた太ももから、決まり悪く手をひいたヴィゴににやりと笑う。
「悪いな。ヴィゴ。俺、近頃演技の幅を広げようと、実際の反応についてリサーチをしていてね」
「えっ? ショーン。こんなところで愛の言葉を? ああ、照れるな。しかし、しょうがない。あんたが望むことは、何だってかなえてやりたい。愛してるとも、ショーン」
突然、デレクトールに聞こえるだけの音量で、甘ったるくささやきだしたヴィゴを、ショーンは信じられないものでも見るようにみた。デレクトールは、いきなり始まったラブシーンに、唖然としつつも、濃厚なその雰囲気に引き込まれている。
「愛してるよ。ショーン……」
キスまでヴィゴは、見せ付ける。
デレクトールは、愛し合う恋人たちをそっと残して個室を去った。
「悪いな。ショーン。俺も、俳優なんだ。ラブシーンは得意だよ」
* 駆け引き?
また、恋人は何を言い出したのかと、電話に出たショーンは、耳を疑った。
「でな、ショーン。どっちが嫌だ? 女か? それとも男?」
ヴィゴの声は大真面目だ。
「おい、聞いてるか? ショーン。あんた、俺が、女に囲まれてるのと、男に囲まれてるのとどっちが嫌だ?」
ヴィゴの話は、こうだった。
写真家やモデルが集まるちょっとしたパーティーに出席したら、俳優としても有名人であるヴィゴは、たくさんの写真を撮られた。好意溢れる人々にヴィゴが囲まれることとなったそれは後日プリントされヴィゴへとプレゼントされたのだが、それを見ていたら、浮気性の恋人を持つこの俳優はいいことを思いついたんだそうだ。
貰った写真には、ヴィゴを取り囲む大勢の男女が写っていた。それは誰もがヴィゴに好意を抱き、あわよくば、と、狙う視線の飛び交ったものだった。
肩を組むものがいた。ヴィゴの頬にキスする女性もいた。ヴィゴに抱きつくものを睨みつけている人物まで写っていた。
材料に事欠かないヴィゴは、それを性別でわけ、コラージュしたのだ。
そして、恋人に尋ねている。
「二枚も送るのは、不細工なやり方だろう? で、ショーン。あんたを焼かせるには、どっちを送るのがより効果的だ?」
「……ヴィゴ。写真はもういい。……浮気しないでくれ」
珍しくも情けない声を出し頼むショーンに、ヴィゴは、くいっと、唇を引き上げた。
End