正しい観覧車の乗り方

 

「信じられない。どうしてこう突飛なことを思いつくんだ。わけわんないよ。頭がおかしくなったんじゃない!」

パステルブルーの壁に押しつけられ、オーランドは自分を取り戻すために何度か呼吸をくり返した。

「ねぇ、ヴィゴ冗談はやめにしようよ。こんなの正気の沙汰じゃないって」

ここは遊園地の公衆トイレで、しかも、なんだかメルヘンチックな内装になっていて、ちくしょう、壁のタイルにはところどころに熊がいやがる。

「やめろって。俺、あんたに飢えてないわけじゃないけど、こんな場所で盛っちゃうほど獣にもなれないんだよ」

「大丈夫、落ち着いてオーリィ。いつもどおり体の力を抜いて、俺に任せてくれれば、気持ちよくしてやるから」

「なにが落ち着けだ。ベルトから手を離せってんだ。俺を壁に押しつけるのも無しだ。なに擦り付けてんだよ、この野郎、くそじじい!」

ヴィゴはオーリィの暴言に大袈裟にため息を付くと、解かれまいと強く掴んでいるベルトを一旦諦め、ジーンズの上からオーリィのものを撫でた。

「お前が言ったんじゃないか。自分に夢中なところをみせてくれって。うんと年の離れた恋人に目が眩んで、とんでもない情熱を示すくらいのことはしてみせろって」

ヴィゴは惜しみなくその声を耳へと流し込んだ。そして、オーランドのジーンズの前立てを探る。

 

確かに言った。せっかくのオフに尋ねていっても、ヴィゴは写真を取ったり、読書をしたり、結構絵を描くのに時間をとられたり、全く一人でも楽しめることばかりをしていて、自分のことを構ってくれなかったからだ。だから、その類のことはわめき立てた。

「だからって」

首筋にかかる黒い癖毛に戯れるようなキスをくり返し、諦めず、ヴィゴはオーランドを撫でた。

「痛いよ。オーリィ」

とうとうオーランドは、その手を叩いた。ぴしゃりといい音がして、ヴィゴが顔をしかめる。

ヴィゴは情けない声をだすと、一旦手を引き、わざとらしくその手を撫でた。オーランドは肩越しに振り返って、哀れっぽく見せかけるヴィゴを睨む。

「あんたはいかれてる」

オーランドは尻の割れ目に押しつけられる確かに硬い物のことを考え、神様に祈りたくさえなった。

「どうしてそれがこういうことになるんだ。俺のことも見てくれってアピールしたんだ。こんな遊園地でファックしてくれなんて決して頼んじゃいない」

そう、ここは遊園地なのだ。このトイレの外には、子供達の歓声が空一杯に広がっている。

 

強引に身を寄せてくるヴィゴによって壁に押しつけられ、潰されるオーランドは必死にこの状況を脱する方法を考えた。

「あんたがその芸術家な頭で、どうしてこんなことを思いついたのかさっぱりわかんないけど、やめよう。こんなのは絶対良くない。」

こういう常識外れなことに誘うのは大抵自分で、まさかこんなことをするヴィゴをなんとか言いくるめる日が来るとは思いもしなかった。

「オーリィ」

抱き込んでくるヴィゴの皮のコートからは、彼の体臭と混じったいい匂いがしていた。

オーランドは、久しぶりに嗅ぐ、その匂いにくらくらしていた。こんなことをされていたら、遠からずヴィゴのいいようにされてしまう。

「オーリィ」

ヴィゴはことさら誑し込むような調子で、オーランドの名を呼ぶ。オーランドは身を捩って逃れようとするが、ささやきが耳を噛み、腕が体を抱き込んで逃れることができない。

その時、トイレの中へと走ってくる子供の足音がした。

「しっ」

音は、土の上を走る音から、トイレのタイルを踏む音に変わる。

オーランドは息をつめる。

個室に入ってしまっているため、声さえ上げなければ、二人がどんな状況かなど外にはわからない。

「いい子だ」

その隙に、ヴィゴはオーランドのベルトに手をかけ、小さな音とともにジッパーすら下ろしてしまう。

「っっ!」

オーランドは驚愕の声を上げそうになった。

「しっ」

まるで大人の余裕を見せるように、オーランドの行動を窘める顔をするヴィゴは、そのまま下着の中へと手を入れ、この信じられない状況に縮こまっているものを掴んだ。

「!!!」

 

「ほら、こぼすんじゃないぞ。ママは洋服の替えなんて持ってきてないって言ってたからな」

外の小便器付近では、小さな息子をつれたらしい父親がかいがいしく子供の世話を焼いているのが聞こえた。

「大丈夫。僕ちゃんとできるもん。ほら、近くですればいいんだよ。僕はまだ小さいからパパみたいに遠くでするとびしょぬれになるんだってママが言ってたよ」

「だから、前を向いて。ほら、ちゃんとしないとこぼれるぞ」

 

「こぼしちゃだめだってさ。オーリィ」

外の二人連れを意識して、暴れることのできないオーランドを強引に扱き上げながら、ヴィゴは耳元にささやきかけた。その信じられない言いぐさにオーランドは歯ぎしりする。

「変態。エロじじい。大バカ野郎」

強くヴィゴの手首を掴んでやめさせようとしても叶わず、こんな状況ですら硬くなりつつある自分のものを呪うような気持で、オーランドはうめくような罵りを漏らす。

ヴィゴがオーランドの耳元に唇を寄せた。

「そんなに大きな声を出すと、聞こえちまうよ。そしたらあの小さな坊やは驚いて洋服を汚しちまうかもしれない」

ヴィゴはとんでもなく優しく微笑んだ。

そしてオーランドの前がその若さを裏切らす、ちゃんと硬くなったのを確認すると、下着ごとジーンズをずり下ろす。

 

「ねぇ、パパ。僕、あっちの熊さんの鏡とトコで手を洗うね」

「手を洗うより先に、チャックを上げなさい。大事なところを出しっぱなしで外に飛び出していく気かい?」

子供の衣服が整えられるごそごそという音がし、水を使う音が聞こえた。

「早くママんとこ行こうよ。僕、もう一回ゴーカートに乗るんだ。パパ、競争しよ」

「こら、手を拭きなさい。ほら、ハンカチ」

パタパタと駆けて行く足音が遠ざかる。

 

「くそったれ。やめろっていってんだろうが!!」

きれいに磨かれた壁のタイルへと押しつけられ、息をつめたまま尻を撫でられていたオーランドは罵りの声を上げた。

「なんで?これが、年下のキュートな恋人に翻弄された中年の目の眩みかただよ」

「こんな時だけ中年ぶるな。」

「中年だよ。ほら、だからこんなにも用意周到ってわけだ」

暴れるオーランドを、体を上手く使って壁に固定すると、ヴィゴはコートのポケットから見慣れた四角い包みを取り出す。

「ほら、ゼリーたっぷりのコンドーム。ほかにもこんなのも持ってるしね」

ゴムの包みを口にくわえて破りながら、潤滑ゼリーのチューブも見せびらかす。

「しんじらんない!しんじらんない!!」

怒りのあまり、顔を赤くするオーランドに、ヴィゴは笑って自分の指へとゴムをかぶせた。

「オーリィ、ここの壁はチャイルド向けに下品な落書き一つないんだからね。君もあのいい子みたいに零さずがまんしてくれよ」

ヴィゴの手が、オーランドの尻を開かせ、硬くつぼんだ窪みに指を差し入れる。

「力を抜いて」

「抜けるか、馬鹿野郎」

「大丈夫。君はこういうシュチエーションでも楽しめるだけの度胸があるタイプだ」

「・・・・どんなタイプだ」

強引に、いや、殴る蹴るの暴力だって視野にいれれば、オーランドはヴィゴの横暴をやめさせることだってできただろう。だが、オーランドはそうするにはあまりにもヴィゴに参っていた。

いまだって、ピンクのゴムを被った指が、自分の中へと入っていくのを幾千の呪いの言葉を胸のなかで唱えながらも受け入れている。あまつさえ、息を吐いて少しでも受け入れやすいよう体の力を抜いて。

「ああ、痛いか?ちょっと待ってろ。やっぱりゼリーも使おう」

コンドームのゼリーだけでは、ぴりりと引きつる粘膜の痛みに、オーランドが眉間の皺を増やすと、ヴィゴはすぐに指を抜いた。入口に違和感を残した指へと、ゼリーをしぼりだしている。

「なぁ、このままやめようよ。こんなメルヘンなトイレでファックしたって俺もあんたも楽しめないって」

「いや、誰もここでするとはいってないだろ?」

ゼリーをたっぷりと付けたコンドームが、今度はずるりと中まで通り抜ける。

「は?なんだって?」

「オーリィ。力を抜いて。いつもより緊張してるのは分かるが、これじゃ、指が動かせない」

思い切り顔をしかめるオーランドに、ヴィゴは音のするキスを贈った。

「まさか、これ以上とんでもないことを考えてるわけじゃないだろうね」

「さぁ?きっとオーリィに気に入ってもらえると思ってるんだけどね」

あまりに気楽なヴィゴの言いように、オーランドは諦め、体の力を抜くよう努力を始めた。

「ああ、今日は絶叫マシンに乗って、楽しむつもりだったのに」

受け入れるための道を作るため、何度も出し入れされる指の感触を感じなら、オーランドは愚痴をこぼす。

「遊園地に連れて行ってやろうなんて珍しいことを言うから、すっごく楽しみにしてたのに」

「オーリィ、あんまりそんなことばかり言うんなら、ここで大きな叫び声を上げさせてやるぞ」

ヴィゴの指先が、オーランドの弱点を的確にかすめていった。

「っ!」

いままでの余裕もなく、オーランドの口から短い悲鳴が上がる。

「ほら、ここだ。ここを何度も擦られたら、お前は黙っていられないだろう?」

ヴィゴの指を受け入れているオーランドの入口が、やめろなのか、もっとなのか強い力で指を締め付けた。

 

「まっ、こんなもんで大丈夫かな?」

繰り返しゼリーを付けて指を増やしていったヴィゴは、コンドームを指から抜くと、端に置いてあったゴミ箱へとぽいっと投げ捨てた。

ゴミ箱にすらパステルブルーの熊の絵が描いてあって、コンドームは嫌になるほど似つかわしくない。

「ほら、こっちをむけ」

軽く尻を叩かれ、ヴィゴに向き合ったオーランドは、かすかに目がうるんでおり、起立した勃起は潤むだけでなく、わずかに白い液体を零していた。

「お前みたいな大きな子が零しちゃダメだろうが」

ヴィゴは笑いながら先端を指でぬぐう。

「誰のせいでこんな!」

「さて、こらえ性のないお前のせいじゃないのか?」

「尻んなか弄くられりゃ誰だってソーローなんだよ!」

「ほんとか?おまえだけだろ」

ヴィゴは怒るオーランドには取り合わず、ポケットから新しいゴムの包みを取り出すと、器用にオーランドへとかぶせていった。

「ジーンズを脱いで、ちょっと待ってろ」

「はぁ?」

「ちょっと待ってろって言ったんだ。俺も準備しないといけないからな」

オーランドの目の前でヴィゴはズボンの前をくつろげると、下着のなかから自分の立ち上がったものを取りだして、何回か扱き、それにもゴムをかぶせる。

「ジーンズを脱げ。ああ、ジーンズだけでいいぞ。ヌードになりたいってんなら別だが、上は着たままの方がいい」

やっぱりここで最後までするんだと、オーランドはあきらめ顔でヴィゴの言葉に従った。確かに、非日常的な場所でするセックスは刺激的かもしれないが、歓声が遠くに聞こえるこんな場所で、下だけむき出しにしてってのには、自分はどの位楽しめるのだろうと、あまり期待できずにいた。

オーランドは太股で引っかかっていたジーンズを、足首まで下ろし、壁の方へと向き直った。

「違う。ジーンズを脱げって言ってるんだ。足首からぬけ。それからこれを着るんだ」

オーランドがぐずぐすするうちに、自分のズボンをぬいだらしいヴィゴが、皮のコートの前を留めながら、オーランドにもコートを手渡す。

「?」

ヴィゴの行動も言葉も理解できないオーランドは、つい、コートを受け取りながらも怪訝な顔をした。

「お前の大好きな高いところでセックスしようって誘ってるんだよ」

「高いところって?」

「高い、高いところ。ここの大観覧車のこと教えてくれたのはオーリィ、お前だろ?」

「しんじらんない!」

コートのボタンを留めたヴィゴは、着古したダンガリーのシャツの下にはピンクのコンドームひとつなんて全く感じさせない笑みを浮かべており、

「ほら、早くしろよ。また誰か入ってきたら、ここから出られなくなっちまう」

ヴィゴは自分から屈んで、オーランドのジーンズを抜きにかかった。

「露出狂」

「若い恋人は他人に見せつけなきゃいけないんだろ?」

「こんなことまで望んじゃいないよ」

「オーリィは刺激的な事が好きだから、これでも頭を絞ったんだけどね」

「絞りすぎでいかれちまったんだ」

「でも、ちょっとはしてみたいって思ってるだろ」

ジーンズを抜き取ると、ヴィゴはちょうど目の高さにあるオーランドの起立へとチュウっと音をたてるキスをした。

オーランドはたしかに萎えていない自分に顔をしかめる。

「俺の格好、おかしいよ。あんたのよりコート短いんだもん。こんな裸足にデッキシューズでコート着てる奴なんていやしない」

「まぁ、たしかにジーンズをはいてる方がコーディネイトとしてはイケてるけどね、おかしくはない。妥協できる範囲内だ」

「できない。おかしいって」

取り上げたジーンズをさっさとリュックへと仕舞うヴィゴは、抗議するオーランドを無視して、個室の鍵を開けてしまう。

「こんなとこ、二人して出ていくトコ見られたくないだろ。ほら、いくぞ」

そのまま水道で手を洗うと、出てこようとしないオーランドを待つため、熊の鏡の前で手を差し伸べている。

 

「リック、一人で行けるのか?」

「大丈夫、パパは付いてこなくていいってば」

元気な男の子の声が近づいてきた。

その後を追う大人の足音も聞こえる。

オーランドは気が遠くなりそうなほど焦った。コートを着ていること自体は、なんとかギリギリセーフな季節だが、その下には素足にデッキシューズだ。これでトイレに立てこもっていては変質者に間違えられても仕方ない。

父親は自分をじろじろと観察するだろうか?

観察され、糾弾されたら、コートの下にゴムをつけたペニスしかなく、警備員に引き渡されたら、完全にアウトだ。

「いや、パパも行きたいから一緒に行くよ」

「もう、僕一人でも大丈夫だって言ってるのに」

父親を引き離すように、子供の足音が駆け足になる。

 

緊張感に耐えきれなくなり、飛び出すように、オーランドは個室を後にした。

混乱が、判断を誤らせた。

無垢な子供の声に自分の今の状態が暴かれるのではないかという焦りが、冷静な判断をゆるさなかった。

焦りまくって、飛び出した後に、個室に鍵を掛けて、立てこもっていてもよかったんだと思いついて舌打ちした。

ヴィゴは笑いながら、オーランドを待ち受けている。

二人は、少し前屈みになりながら、楽しそうな親子連れとトイレへと続く緑の小道ですれ違った。

 

「おネーさん、大人二人」

上手い具合に観覧車の前には列がなかった。

ちょうど昼食時でもあったし、一周20分ちょっとかかるという大観覧車は、こんな子供の多い日には絶叫マシンに人気をとられて、穴場となってしまうのかもしれない。

「はい。どーぞ。ゆっくり景色を楽しんできてね」

アルバイトの女の子へと、小銭を手渡しながら、ヴィゴはとても機嫌よさげに笑っていた。その誑し込むような笑顔に、すっかり目を奪われているティーンエンジャーは、彼の顔ばかりに気を取られて、二人の足下まで注意が回らないようだ。下手くそなウインクまでしながら、二人を観覧車の箱の前まで導き、扉を開いてくれるサービスぶりだ。

あんたがくらくらしているこの中年男は、コートの下にはゴムしかつけてなくって、そのうえ、それはすぐ挿れられるくらい硬く勃っていて!

オーランドはいらいらした。

知らず、足が、何度も地面を叩いている

「いってらっしゃい」

「サンキュー。楽しんでくるよ」

色目を惜しまないヴィゴに、座席へと押し込まれたオーランドは、舌打ちする。

車の扉が閉められた。

 

「オーリィこっちにおいで」

「変質者」

「おいで。ぐずぐずしてるうちに一周まわっちまうぞ」

「それでいい。こんなとこでファックなんて正気の沙汰じゃない」

観覧車の外には、気持ちの良い青空が広がっていた。そして、箱の中には、わずかな圧迫感と、無意味ほどの視界の広さ、新品でもない限りかならずある、埃っぽさと鉄の錆びた匂いがこもっていた。

幸い、空いていたから、付近に親子連れを乗せた箱などなかったが、それでも思っていたよりもずっと隣の箱との視界は近く、けっしてセックスに向いているとは言えなかった。

覆いがあるから、下半身は隠れるのかも知れないが、上の箱からもしのぞき込まれたら、何をやっているのかなど一目瞭然だろうし、いや、下からみたって、不自然に揺れるこの箱が、なにかをしていたんだと感づかれるかもしれない。

「ヴィゴが何考えてるのか、さっぱりわかんないよ」

「そうか?オーリィ、お前のことだけ考えてるんだよ」

ヴィゴは対面の席から動こうとしないオーランドに焦れて、自分から席を移ってきた。

そんな動きにも、観覧車は揺れる。

「ほら、キスしよう、キスは好きだろう?」

狭い座席に、無理矢理腰を下ろし、オーランドの顎を捕らえる。

「んっ」

何度も唇の薄い粘膜を挟み込まれる。

舌が歯の表面をなぞり、進入の許しを請うのに負け、オーランドは口を開く。

ヴィゴの舌が口のなかの粘膜を好きなように、舐め回す。こういうのは、気持ちいい。観覧車でキスなんてロマンチックで全然嫌いじゃない。

「キスだけじゃない。あんたとするセックスも好きだよ。だけどこれはちょっと常識外れじゃない?」

皮の匂いと混じり合ったヴィゴの体臭が、オーランドを包み込む。

これもいい匂いで好きだ。体を抱き込まると、もう、大抵のことはどうでもよくなったりする。

「まだ、その気にならないかい?」

キスの合間に、ヴィゴの薄い色の目がのぞき込む。

その目は、絶対にオーランドがこの楽しみにのると思って楽しそうに笑っている。

ヴィゴの手が、オーランドの素足をコートの隙間からなで回す。

不自然な素足は、その手が這い回るのを快感だと捕らえる。

ああ、なんだって、こんな太陽に照らされた場所で、こんな狭っ苦しいおかしな場所で、俺はその気になってるんだよ!

やけになって、鉄の壁をひとつ叩き、結局、オーランドは抵抗することを放棄した。

自分から、噛みつくようなキスをして襲いかかる。

もともと、そんなに常識派というわけじゃない。スリルだって嫌いじゃない。

ヴィゴの髪に指を差し入れ、頭を抱え込むようにして、彼の舌を追いかける。柔らかい粘膜が絡む。

観覧車は最頂地点までの半分ほどに位置していた。

 

「ああ、こういうのもかわいいな」

「その趣味は絶対におかしい」

ヴィゴの手が、オーランドのコートのボタンを外していた。そこまでは必要ないと思うのに、全てのボタンを外してしまう。

これで、上半身にTシャツを着て、下半身ときたら、ピンクのゴムと、デッキシューズしか履いていないなんていう、とんでもない格好が、太陽の下に晒された。

「なんで?かわいいよ」

コートの裾を大きく後ろへと払って、オーランドのピンク色の物体をわざわざ際だたせると、かなり萎えてしまっているものを指でつつく。

とくに、ここ。

ヴィゴは、笑いながら手の中に握り込んで扱き始める。

くり返されるキスに、オーランドの息も上がり始めていた。萎えてしまっているものはそれでも緊張のためか、なかなか大きくならない。

「そこはいいよ。それよりもさっさと入れたら?どうせ俺のはあんたのを突っ込まれたら、勃っちまうんだし」

どんどんと遠くまで開けていく視界に、オーランドが少し苛立った声をだす。

観覧車は高度を増している。風も強くなってきたようだ。

オーランドの手が、ヴィゴのコートの裾を掴み、その中へ手を潜り込ませた。もぞもぞと太股を辿り、密集する体毛のなか、自分と同じようにピンクのゴムに包まれたものを探す。

「それより、あんたの役に立つんだろうね。ここまできてダメなんていったら、あんたをここから突き落とすよ、絶対」

ヴィゴは触れてくるオーランドを拒みもせず、余裕の笑みを浮かべる。

「どう?」

「どういう神経なんだよ。あんたさっきのネーちゃんとしゃべってた時もこんなにしてたっていうのか」

その硬さに、オーランドは呆れ果てた。

「だって俳優だもん」

「こういう時に俳優っていうな。俺だってそうなんだからな!」

「今日のオーリィは怒ってばかりだな」

ヴィゴは揺れる観覧車のなかで、オーランドに座席へと手を付かせると、尻を自分へと向けさせた。

ヴィゴの余裕がオーランドにはくやしい。

 

「おっと」

足場の悪さは、さすがにどうしようもなかった。

ヴィゴは、オーランドの腰に先端を擦り付けて焦らしてやろうとしたのだが、二人分の重さに箱が傾き、その揺れに頭を壁へとぶつける。

「まぬけ」

自分に覆い被さってきたヴィゴに押しつぶされ、オーランドは埃臭いビニールのシートに顔を押しつけられ、憎まれ口をきいた。

「さっさと挿れなよ」

「結構恐いね。これ」

「じゃ、やめる?」

「いや、チャレンジするけどさ」

しばらく痛みに頭を撫でていたヴィゴだったが、今度は焦らすのはやめて慎重にオーランドの中へと硬いものを突き刺した。

オーランドの体から、息が押し出される。眉も耐えるようにきつく寄せられていた。

体の中がいつにも増してきついのは、先程の慣らしが少なかったせいではなく、このシュチエーションに対する緊張だろう。

ヴィゴは、しばらく背後から抱きしめるように、その上半身に体を密着させ、彼の呼吸が落ち着くのを待った。もっと安心させるために、まっすぐ伸びた素足に触れ、ゆっくり撫でさする。オーランドが皮膚との接触や、体温といったものに酷く弱いのは、もうとっくに分かっていた。

オーランドがゆっくりと息を吐く。

「どう?動かしても平気?」

「平気。でも、また頭をぶつけるかもよ」

可愛らしい憎まれ口だった。

いくぶん緩んだ体に、ヴィゴは少し、上半身を離す。

振り返ったオーランドの瞳は、すこし機嫌悪げだったが、それでも楽しそうにきらめいていた。このとんでもない体験を十分に楽しむ気があることが見て取れる。

「そう、じゃ、こうすればいいな」

ヴィゴは繋がったまま、その体を後ろへと引いた。

慌てたようにオーランドの手が自分の寄りかかっていたシートを掴もうとする。が、掴みきれない。狭い観覧車のなかだ、すぐに後ろのシートがヴィゴの体を受け止める。

「っっ!!」

結果、ヴィゴの体の上へと、深く腰掛けることになったオーランドは、目を見開いて、その衝撃に耐えた。

確かに、遊園地の中は楽しそうな悲鳴に溢れている。だが、ここで甘い色のついた悲鳴をあげたら、誰かの耳に拾われてしまう。

「さて、これで問題は解決」

「ここが、ベットルームじゃないってこと覚えてる?」

ようやく息をついたオーランドが、背後のヴィゴを睨み付けた。酷い衝撃に目尻には涙が

にじんでいた。ヴィゴは薄く笑って、オーランドを抱きしめると、腰を揺すり始める。

オーランドの唇はきつく閉ざされている。

「かわいこちゃん、このくらいでは満足でない?」

オーランドの首が強く横へと振られる。

「ほんと?もっとして欲しいんじゃない?」

恋人はさらに激しく首を振る。だが、分かっていてヴィゴは激しく腰を揺すり上げた。

この可愛らしい恋人が、唇を噛んで声を我慢する顔は、とてもセクシーだ。

コートの合わせ目からのぞく、ピンクのゴムがその役目をきちんと果たしているのもやんちゃでいい。

「・・んっ、ヴィゴ」

恋人が唇を求める。のぞくピンクの舌に、自分のを絡ませ、存分に甘さを味わった。

 

観覧車はほとんど頂上に達しようとしていた。

空気抜きのためだろう、開けられた窓からは、強い風が吹き込んできていた。

「目を開けてみろ」

ヴィゴはオーランドに促した。

ヴィゴの予想では、この地上を遥かという場所は、オーランドに最高の気分を味合わせくれるはずだった。

だから、その目が閉じられているのを残念だと思ったのだ。

うっすらと茶色い瞳が開くのを確認すると、ヴィゴは体の位置を入れ替える。

オーランドを観覧車のガラス面へと縋らせるようにして、シートへと膝を付かせる。

二人分の体重の動きに、観覧車の床が大きく傾いた。

「ひっ!」

眼下に広がる広大な眺めと、観覧車の揺れに、オーランドの体が緊張し、固く強張る。

「どう?すごい眺めだろ?」

まるで、のんびりと景色でも眺めているようなヴィゴの声に、オーランドは抗議の声を上げる。

「ほら、どう?」

揺れる観覧車の、その揺れを利用して、ヴィゴは上手く腰を動かした。

オーランドはめまいのような感覚を味わった。ヴィゴが腰を突き出すたび、ガラスへと押

し出される頭は、否が応でも景色を味わうことになる。広がる果てしない空も、動くたびに視界によぎる、遠い、遠い地上さえも。

ヴィゴのよって体の中から揺さぶられ、味わい慣れたたしかな欲望が駆けめぐっていたのも本当だが、恐怖が一番オーランドを興奮させたのかもしない。あまりの恐怖に神経が焼き付いてそれを興奮ととり違えたのかも。

「ああっ。・・あっ」

何度か揺さぶられるうちに、噛んだ唇からはっきりと喘ぎだと分かる声が漏れた。声は止めることができない。

 

揺れる視界に青い空と地上の景色が広がり、それが、揺れている。

高いところはとても好きだったけど、不自然に揺れる観覧車で、それを味わうと思ったよりもずっと怖い。

子供向けの乗り物のくせに、どうしてこう、足下が不確かなんだ。

どんなに強くシートにしがみついても、落ちないなんて信じられない。

 

こわい、

ちがう、

なんか、これって。

 

ヴィゴは冷静にオーランドを観察して彼を揺さぶる。

オーランドの目はガラスから離れない。自分のなかに深く入り込み、快感を貪っている。ヴィゴそれをは見逃さない。

 

地上が遠い。落ちるかも、落ちるかも、落ちるかも、

 

オーランドの体がとてつもなく熱くなった。

 

「・・・っ」

止める暇もなく、オーランドは上り詰めていた。

強く体を絞り込んで、震える恋人に、ヴィゴの方が怪訝な顔をしている。

2度、3度と強く締め付けられ、ヴィゴは思い合ったって、オーランドの前へと手を伸ばした。

ゴムのなかに、精液が溢れているのがわかる。

「もう、いっちゃったの?」

何度が荒い息をついたオーランドは、

「・も・う、とか・・いうなっ」

自分でも早すぎる頂点に、羞恥のあまり腕の中へと顔を埋めた。

「俺、まだなんだけど」

「勝手に擦っていけばいいだろ!」

首筋まで赤くなっているあまりにも可愛らしい恋人の姿に、ヴィゴは機嫌良く笑い声を上げた。

「笑うなっ!」

「いや、かわいいなぁと思って」

「ちくしょう」

オーランドは盛大な舌打ちをする。

「じゃ、勝手にさせてもらうからね」

あまりにあっけないオーランドの終わりに、すっかり置いてけぼりにされたヴィゴは、ぜいぜい彼をからかいながら、腰を打ち付けた。しかし、普通とは違うシュチエーションというのが、ヴィゴにもきいていたのかもしれない。あまりオーランドに迷惑をかけるまでもなく、ヴィゴも満足を得ることができた。

 

「どう?よかった」

あのあと、ゴムを外し、リュックに仕舞ってあったズボンを取りだし。

地上へとたどり着く前に身繕いを終えた二人は、待ちかまえていたといわんばかりのハート型の目をしたバイトに迎えられ、そこで少しオーランドの機嫌が悪くなったのだが、他のマシンに乗ることもなく遊園地を後にし、帰路についた。

最高に甘い恐怖をたらふく味合わされたオーランドは、もう絶叫マシンになんて乗る必要はなかったし、ヴィゴは、最初からそんなものに興味がなかった。

とんでもない日ではあったが、ヴィゴが考えたにしては、オーランド好みの一日と言える。「あんたが、一番の絶叫マシンだね」

「そう?」

ヴィゴはハンドルを握りながらにやりと笑った。

「なんだったら、このあと、俺の趣味もいかして、お前に嵌めてるとこの撮影会をしてもいいんだけど」

「嵌め撮り?そりゃとっても良い企画だけど、撮影はエージェントを通してくれなくちゃ」

「ああ、そうか。俺も俺のエージェントがそんなこと許すかなぁ」

助手席のオーランドは声を上げて笑った。

「最高。あんた俺に夢中だね」

「ずっとそうだって言ってるだろ」

「ああ、本当だ。俺もあんたが大好きだよ」

 

いい天気の休日だった。オーランドの髪がヴィゴの肩をくすぐる。

 

END

 

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VOもの好きの友達のために、書いてみたもの。

二人で「遊園地でね、コートの下は、ダンガリーのシャツでね」と、設定に盛り上がりました。

書いていて楽しかったです。

VO初物です。しかし、初物がこんな際物で、どうするよ。って、一人でつっこみいれました。