SV劇場−4−
ショーンは、煙草を吸いながら自分の順番を待っていた。
視線の先には、説明を受けるヴィゴがいた。
日の光の加減なのか、ヴィゴの顔色は良くない。
いや、それは嘘だ。
ショーンには、心当たりがある。
いや、ショーンが原因だと言って差し支えはない。
昨日ショーンは自分が昼間に待ち時間を昼寝で潰したことを良いことに、どういうスケジュールだったのかもわかないヴィゴを夜中に呼びつけたのだ。
近頃、ヴィゴは、疲れたような顔をしてショーンの家のドアをくぐる。
まるで被害者ぶったその態度が気に入らないので、ショーンは、ほとんどヴィゴと口を利かない。
何か言い足そうなヴィゴの視線をねじ伏せ、寝室を顎で示す。
ヴィゴは、時折、そこに留まろうとする。
しかし、ショーンは、ヴィゴには、視線を合わせず、シャワーを浴びに行く。
これ程までに、こじれた関係だというのに、セックスの相性は悪くなかった。
また、それが、ショーンにとっては気に入らない。
ショーンは、冷たい目で、倒れそうなほど顔色の悪いヴィゴを見ていた。
「ねぇ。ショーン」
突然掛けられた明るい声に、ショーンは、驚いて顔を上げた。
太陽に金色が輝いていた。
「ああ、なんだ、オーリか」
眩しくて、目を細めながら、ショーンは声を返した。
「うん。俺。ねっ、隣座っても良い?」
「どうぞ?」
くったくのない顔で笑うエルフは、ショーンの隣の椅子へと腰掛けた。
威厳あるエルフのメイクのままだと言うのに、そのまま身体を倒して、ショーンの胸に頭を擦り付ける。
「ねぇ。ねぇ。ショーン」
ショーンは、鬘が乱れないよう注意しながらオーランドの頭を引き寄せた。
「どうした?」
ショーンの口元には温かい笑みが浮かんでいる。
「あのさぁ……」
オーランドは大きな目でショーンを見あげるように下から覗き込んで、すこし恥ずかしそうに笑った。
この甘酸っぱいような表情が若くて、ショーンは、オーランドを気に入っている。
本当は黒いオーランドの目が、ブルーのコンタクトにショーンの顔を映していた。
ショーンの顔は、目尻に笑い皺を刻んでいる。
「あのさぁ。ショーン。ショーン、近々、暇になる日ってある?」
「なんでだ?」
「……あのさぁ。……ねっ、また、……しない?」
しない?と、誘った後に、嬉しそうに精一杯に悪い顔で笑ったオーランドがかわいらしくてショーンは、オーランドの耳元に唇を寄せた。
「気に入ったか?」
とっておきの甘いボイスで囁く。
「うん」
と、頷きながらも、オーランドがぞくりと首を竦めた。
オーランドは、ショーンの声の威力を褒め称える。
そして、先ほどまでショーンの視線の先にいたヴィゴを見た。
「実はさ、あっちにコナ掛けたんだけど、振られちゃった」
「ほう。それは。……。オーリは、俺が好きなんじゃなかったのか?」
ショーンは、わざとらしい冷たい流し目をオーランドにくれた。
オーランドが、一番にヴィゴになついているのなど、誰だって知っている。
オーランドは、悪びれもせず、ショーンにじゃれつく。
「好きだよ。ショーンも大好き」
大きな目がショーンを覗き込んだ。
「ねっ、あのさ、ショーン。ヴィゴって、ショーンとやっちゃってるんだよね?」
疑いもない目で尋ねるオーランドに、ショーンは、少し顎を撫でた。
「オーリ、そういう話題は、もう少しデリケートな取り扱いを……」
「またまた。ねっ、そうでしょ?ねっ、やっちゃってるんでしょ?」
「そうだが……」
ヴィゴが交わした質問に、ショーンはあっさりと答えを与えた。
オーランドが大げさなため息をつく。
「いいなぁ」
一度身体の関係が出来たせいか、軽々とオーランドは、ショーンの頬を両手で挟んで撫でた。
「俺、ヴィゴの好みじゃないのかなぁ。それとも、ヴィゴ、やられる方が好きなのかな? ねっ、ショーン、ヴィゴってさぁ。どう?」
「どう、とは?」
ショーンは、随分と年下の俳優に髭の生えた頬を撫でられながらも、嫌がりもせず尋ねた。
オーランドの手は、子供のように純粋に髭を褒め称え撫でていく。
「あの人、普段から結構サービス精神豊かじゃん。やっぱ、ベッドでもそう?」
「まぁ、オーリよりは、確実に勤勉なタイプだな」
ショーンは、いくつも夜を思い出しながら答えを口に乗せた。
ヴィゴは、どれだけショーンが冷たく扱おうと、奉仕することに対して手抜きをしなかった。
泣き出しそうに目を潤ませ、眉を寄せていても、ショーンのペニスをきっちり喉の奥まで飲み込んで、吸い上げる。
ショーンの身体への愛撫も、手を抜こうとはしない。
舌を、手を使って、ヴィゴは、自分の快楽しか考えないショーンのために尽くそうとする。
だから、もともとそうすることが好きなタイプなのだろうと、多少のうとましさとともにショーンは、ヴィゴを理解していた。
オーランドが拗ねたように唇を尖らした。
「酷いな。ショーン」
それから、オーランドは撫でていたショーンの頬にその尖らした唇でそっと触れると、耳元に囁いた。
「ねぇ、ショーン……俺に、ヴィゴのこと抱けると思う?」
ヴィゴが、オーランドのものになる。
オーランドの質問に対して、ショーンの脳は、判断を拒否した。
ショーンは、打ち合わせ中のヴィゴを大声で呼んだ。
「おい! ヴィゴ。お前の犬が、逃げ出してるぞ!」
大きな声に、ヴィゴは、驚いた顔で、振り返った。
そして、顔を寄せ合ってじゃれ合っているショーンとオーランドの姿に傷ついた目をした。
小さな満足で、ショーンの心が熱くなった。
「ひっどい! それって、俺のこと?」
オーランドは、ショーンの両耳を引っ張った。
「何? 二人して、俺のこと犬扱いなわけ?」
「痛てて。こらっ、お前の耳も摘むぞ。エルフ」
ショーンは、殊更、オーランドを構った。
ヴィゴは、顔色の悪い顔で、英国俳優たちを笑うプローデューサーと、ショーンを見ていた。
オーランドから、目を上げ、ヴィゴを見たショーンは、アレは、俺のものだ。と、思った。
アレは、俺の親友なのだから、俺のものなのだ。と、ショーンは思っている。
そして、顔色の悪いヴィゴに対し、この場で倒れてしまえ。
と、そう傷つけたいとも思っているのだ。
END