嗜好
ソファーの背もたれに片足をかけ、もう片足は、床へ積み上がった本の上だ。
そして、その足の間には、ショーン・ビーンが腰掛け、煙を吐き出している。
ショーンが、煙そうに眉をしかめるのに、戯れで足の指を使って、腕から肩へと辿ってみる。
ショーンは、笑いながらヴィゴの足を背もたれへと押し戻した。
もう一度しつこく辿る。
「こら、何がしたいんだ?」
タバコを持った手が、足を捕まえる。
指があやすように、足首を撫でる。
「うん?」
見上げるヴィゴの眼を、優しいブルーがのぞき込む。そのままショーンの顔を捕らえて、唇へと触れるだけのキスをする。ショーンの唇の形が笑ったままなのが、悪くなかった。彼が気怠い自分の体の状況を満喫して、タバコをふかしているのだって、上等な状態だろう。なのに、それだけでは満足できない自分に、ヴィゴは軽い嫌悪感を覚えた。
そして、そのことに気づかないショーンに対しても、ちりちりする苛立ちを感じた。
「なぁ、俺のことを縛ってみてくれないか?」
ショーンは、怪訝そうに眉を寄せた。
「そういうのはいやか?」
「してみたいのか?」
ショーンは驚きを隠そうとせず、ヴィゴの表情に嘘がないかと、細心の注意をもって見つめた。
「縛るのが嫌なら、ぶってくれてもかまわない」
ヴィゴは悪びれず言葉を続けた。ソファーの上、身じろぐショーンの戸惑いがいっそ心地いい。
「そういうのが趣味だったのか?」
いや、とヴィゴは首を降った。床の本を蹴り倒し、その足をショーンの膝へと乗せると、ボクサーショーツだけの下半身を足の裏でなで回す。布地の部分は特に念入りだ。
ショーンは、ヴィゴが苛立っていることを理解したが、急な展開についていけず、抵抗を忘れて、させるがままになっていた。足の裏が撫で上げるサービスにも応えられない。
「なにがいいのかなぁ。首輪で繋いで、あんたが気の済むまでやり続けるとか、あっ、剃毛?うーん、もっとインパクトがあるっていったら、フィスト?ああ、さすがに無理だよな。どう考えても医者に駆け込むことになりそうだ」
ヴィゴは、くにくにと、気持のいい感触を味わいながら、思いつくままに、言葉を続ける。
「どうしたんだ?いまのセックスじゃ満足できなかった?」
ショーンがためらいがちにヴィゴの瞳をうかがった。ヴィゴの瞳には、何かを渇望して苛立つ小さな炎がちらついている。
数分前には、二人で満足のため息をついて、抱きしめ合ったばかりだというのに。
ショーンは、戸惑いを隠せなかった。
「もっとあんたがほしいんだ。もっときつく抱いてほしいっていったら、あんたは迷惑か?」
「迷惑じゃないが、ヴィゴ、君の体が心配だよ」
ショーンは、自分の体に悪戯をしかけるヴィゴの足を抱きしめ、そのままもっと奥へと指を伸ばした。
「ここで、俺を受け容れるのに、やっと慣れたばかりじゃないか。やっと君だって楽しめるようになったってのに」
ショーンの指が、一枚のタオルのみ、かけていたに過ぎない、ヴィゴの奥を探った。
「痛くない?」
指はそのままに、額をくっつくほど寄せて、鼻先へとキスをする。
「平気だよ」
ヴィゴは答えて、唇を突き出した。すぐに望みは叶えられ、唇に柔らかい感触が下りてくる。腕を伸ばして抱きしめると、ショーンの体はたわいなくヴィゴのものになった。それでも足りなくて、ヴィゴは、足をショーンの腰へと絡めた。
これで全てショーンはヴィゴのものだ。少なくとも、絡め取れるところは、全てヴィゴが占領した。それでも、ヴィゴにはまだショーンが足りないのだ。
こんなばかげた格好をして、ショーンを拘束しているというのに、もっとショーンがほしいのだ。
「まだ、あんたが食い足りないよ」
ヴィゴは、ショーンの唇に噛みついた。
眉を顰めながらもショーンは許す。そして、ヴィゴは許されることに苛立つのだ。
「なぁ。俺のこと縛れよ」
「やだよ。痛そうじゃないか」
ショーンは、ヴィゴの腕の中でかすかに抵抗した。それを力を入れて封じ込めると、ヴィゴは、重なりあった股間を摺り合わせて、ショーンの耳の後ろへと歯を立てる。
「なぁ」
「痛いだろ。なにをそんなに苛立ってるんだ」
ショーンは、ソファーへと腕をついて、体の間に隙間を開けると、あやすように優しくヴィゴの眼をのぞき込む。
「したいんだ。興味があるんだ。あんたにして欲しいんだよ」
ヴィゴは、ショーンの首へと縋り付くように腕を廻して、彼のことを拘束した。
「なぁ、あんたはしたことない?そういうことを俺にしてみたくない?」
「ああ・・」
ショーンは、ため息をついた。
「だめだよ。誘惑しないでくれ。俺はあんたが大事なんだ。大切にしたいんだ。あんたをそんなことで、消耗させたくない」
ヴィゴの目の中にある怒りが、ますます強くなる。
ショーンは、むずかる恋人をなだめようと、唇に触れようとした。
しかしヴィゴは、首を振ってキスを拒む。
「だめなんだ。そういうのは苦手なんだよ。相手が苦しい思いをしているのかと思うと、俺も苦しくなるんだ」
ショーンは、体全体で拒否を訴えるヴィゴを、そっと抱き込んだ。ヴィゴは、ショーンの愚鈍なまでの誠実さに、ますます怒りが募る。ヴィゴは、ショーンの腕の中でもがき、彼の腕を脱すると、彼のショーツの上からやわらかいものをきつく掴んだ。
「これを、もっとくれって言ってるんだ。中年男を縛るのなんて、嫌かもしれないが、縛ってヒイヒイ言わせてくれって頼んでるんだ」
ショーンは、何度か首を振った。ヴィゴは、ショーンのものをもっと深く掴んだ。
「なぁ・・」
今度は、猫なで声でヴィゴが擦り寄る。
「俺がしたいって言ってるんだ。何も悩む必要なんてないだろ」
手の中のショーンを、やわやわとなぶる。
「どうして君がそんなに苛立つのかわからないよ。俺のセックスじゃ満足できないんだって言うのなら、どうしたいのか教えてくれ」
ショーンの困惑は深かった。ヴィゴの目が、ショーンの姿を跳ね返すのを、見ているしかできない。
「あんたはバカだ。だが、そのバカが俺は大好きなんだ。なぁ、いいじゃないか。俺のしたいことをしてくれよ」
ヴィゴは猫なで声をやめないままに、ショーンを押し倒し、その上に乗り上げる。
「なぁ、これ。これで、気がおかしくなるまでやってくれ。もう勃たないなんて言うなよ。そんなこと言うなら、俺がこんな役立たず、ちょん切ってやる」
こんなヴィゴをみるのは、ショーンにとって初めてだった。
ショーンの知るヴィゴは、稚気を持ち合わせていても、大人の余裕をしたたかに見せ付け、そして、性急な欲求を突きつけることは、まずしなかった。
二人の恋愛は、いままでの人生では考えられなかったアクシデントではあったが、その方法においては、お互いに無理のない範疇に属していると考えられていた。
肉体を手にいれるまでの、もどかしさを楽しむ余裕さえあったはずなのだ。
「どうしたんだ。何かあったのか?」
ヴィゴは、ショーンの問いには取り合おうという気すらないようだった。
汗の引いた肌に唇を這わせ、苛立ったように、時折歯を立てていく。
「なぁ」
ヴィゴは伸び上がり、ショーンの耳へ、直接、誘惑を仕掛けてきた。
吐息に混じる自分の名は、ショーンに、くすぐったさだけでないものを味合わせる。
「正直に言うよ。俺はそういう意味で、君を縛りたいと思ったことはない。それどころか、セックスで、君に突っ込むことだって、苦痛を与えているんだと、深く反省することすらあるんだ」
ヴィゴは、強くショーンの耳を噛んだ。
痛みに、ショーンの体が慄く。
「あれは苦痛なんかじゃない。あんただって知ってるじゃないか。俺は、あんたのが突っ込まれると、気持ちよくなって、精液を垂れ流す」
「それは、最近のことだろう」
ショーンは耳の痛みだけでなく、わざと性質の良くない言葉を使うヴィゴに、顔をしかめて見せた。
ヴィゴに、やめる気はないようだ。
「尻の穴をこすられるのが気持ちいいって、俺はあんたに伝えてるよな。あんたの固いので、一杯一杯まで広げられて、出したり入れたりされると最高だって、何度も。何度も」
ヴィゴは、切羽詰ったように体を摺り寄せる。
「あんたは、いつも、俺に天国を見させてくれる。思わず一人でするときすら、弄っちまいたくなる位、いつもいつも気持ちよくしてくれる」
なぁ、と、ヴィゴはもう一度ショーンにねだった。
「俺がどうしても、して欲しいと、お願いしているんだ。これは、そんなにも罪深い要求なんだろうか」
ショーンは、ヴィゴの視線を避けた。
「・・きっと、つらいだけだと思うんだが」
「その辛さを味わいたいと俺が思ってるとしたら?」
ヴィゴは、自分が挟み込んでいるショーンの腹から、ため息のような息が吐き出されるのを感じた。
「なぁ、どうしてそうしたいのか、説明を聞くことはできないんだろうか?」
ショーンの眉が、情けなく下がった。
ヴィゴは、自分がショーンを追い詰めようとしていることは十分にわかっていた。彼がこんな自分をどう扱っていいかわからず、戸惑っていることも承知していた。
しかし、ショーンを追い詰めてしまわねばならなかった。
逃げ道を断って、思い通りにしてしまわなければならないほど、ヴィゴ自身も思いつめていた。
ショーンの思いやりの深さが、邪魔だとすら感じた。
ヴィゴは、ショーンの体の上から降りると、そのまま背中を向けて、散らかった机の上から紙袋を手に取った。
ショーンはソファーの上から身を起こし、目の上を抑えるようにして俯いている。
「これを使って欲しいんだ」
「だから・・ヴィゴ」
ヴィゴは、ショーンの手に、袋からだした細いロープを握らせた。
「・・説明を」
「どうしても。どうしても、そうすることが必要なんだ」
ヴィゴは、ショーンの唇へとそっと口付けた。
「この行為は、あんたには狂ってるように感じるかもしれない。だけど、俺にとって意味のあるものなんだ。どうしても必要なんだよ。ショーン」
ヴィゴは、空ろにさ迷おうとするショーンの瞳を強い力でねじ伏せた。
ショーンの青い瞳に、餓えたあさましい顔のヴィゴが映る。
それでも、ヴィゴはそこから視線をはずさなかった。
「どうしても、なのか?」
「そうだ」
「俺が嫌だと言っても?」
「あんたに拒否権はある。だけど、ここで帰ったら、二度と一緒のベットに眠るなんて事はないだろうと思ってくれ」
「・・どうしてなんだ」
ショーンは、ため息とともに、そう言葉を吐き捨て、立ったままのヴィゴの手を引いて、ソファーへと引き倒した。そして、自分がその体の上へとのしかかる。
「あんたは、つい最近、俺とのセックスを楽しめるようになったばかりじゃないか。それまでのセックスで、あんたが苦痛を感じていることなんて、俺は知ってた。あんたが聞かせてくれた声の大半が、あんたのサービスだって、俺は知ってたんだよ」
「なのに、やっと上手くいくようになって、まだ、あんたは痛みを感じたいっていうのか。それが、俺の重荷になるとは考えもしないのか」
ヴィゴは、ショーンに強く抱きこまれた。ショーンの鼻が、ヴィゴの肩へとうずめられる。
「ショーン、これは俺にとって必要なことなんだ。あんたへの愛情そのものなんだ」
「愛情?これが?」
ショーンは苛立ったように、手にもたされたままの縄をヴィゴへと突きつけた。
「あんたはマゾだったのか?」
ショーンがきつい目をしてヴィゴを睨む。
「ちがう。多分、それは違うと思う。少しはそういう性質も持ち合わせているかもしれないが、特別にそういった嗜好が強いわけじゃない」
「じゃぁ、何故っ!」
ヴィゴは、両手を揃えてショーンへと突き出した。
ショーンの目に、困惑が過ぎる。
「だから、言ったろ、必要なんだって」
ショーンは、ヴィゴの強情さに押し流された。
ショーンは、ヴィゴの差し出された手首にロープをかけた。
綿の白いロープが、ヴィゴの骨ばった手首に巻きつく。
「だめだよ。ショーン」
緩すぎる締め付けに、ヴィゴの首が振られる。
ショーンは、ヴィゴの揺るぎない視線の強さに、舌打ちして、もう一度最初からやり直す。
「そう、もっときつくしてくれても構わない」
「俺が嫌だよ。こんなことはしたくないんだ」
「だめだ。君がしてくれなきゃ、自分で自分の手首を縛るなんて真似はできないんだから」
ヴィゴは、注文どおり、手首に食い込むロープの感覚に、満足気な笑みをもらした。
「もっと、荷物を括るような感じに力一杯やってくれてかまわない」
「そんなことしたら、酷い跡が残るだろ」
「構わないよ。どうせそんな所を映したりはしないんだ」
「だけど」
「大丈夫だよ、ショーン。全く問題はない」
ショーンはまた舌打ちをした。そして、ソファーに座ったまま、当然のように足を突き出してくるヴィゴに、縋るような目を見せた。
ヴィゴは、ショーンの瞳を受け止め、ゆるく首を横に振る。
「今度は足だ。どう縛る?あんたの好みがあれば、そうしてくれて構わない。結構、体は柔らかい方だから、かなり無理な体勢でも大丈夫だと思う」
ヴィゴは、ショーンの苛立ちを知りながらも、攻撃を緩めたりはしなかった。
ショーンは、手首を縛り終えたロープに鋏を入れ、まだ十分な長さのある残りを、手のなかで弄んでいる。
「これだけではだめか?」
「だめだよ。まるでだめだ。ショーン、わかっているんだろ?」
ヴィゴは、ショーンを追い詰めようと必死だった。彼の優しさは、当然心得ている。
しかし、今は、そんなものをどこかの引出しへでも、閉まっておいてもらいたかった。
ヴィゴだって、自分がこんなにも意地の悪い人間になれるとは、思ってもいなかった。
自分勝手で。甘ったれで。ここまでは、自分でも、自覚していた。
しかし、こんなにも、愛情を欲しがる人間だとは、想像もしていなかった。
相手が、こんなに身近にいるのに、こんな息すら感じられるほど身近でいてくれているというのに、まだ、足りなくて、焦燥感に身を焼かれそうになっている。
これまで生きてきた人生で、とうに擦り切れたと思っていた、せつなさに胸を焼き尽くされてしまいそうだ。
もっとショーンを感じたくて、彼に抱かれたくて、いっそ彼に同化してしまいたくて、気がおかしくなっている。
そんな自分を納得させ、静かにさせておくためには、強い自己犠牲が必要だった。
少なくとも、それをすれば、落ち着けるような気がした。
ショーンの快感のために苦痛を我慢することで、おかしなくらいセックスに感じることができたように。体は苦痛を訴えていても、頭のなかで気が遠くなるほど感じだように。
ああして、苦痛を感じながら、ショーンを抱きしめていた時、腕の中にあるショーンを、すべて自分のものにしたような気がして、酷く安心することができた。
今のセックスじゃ、だめだ。
優しく揺すられて、安心して楽しんで。
自分の快楽が本物だとわかっていても、満足の度合いが大きくなればなるほど、不安になる。
「ショーン?」
ヴィゴは、いつまでも動こうとしないショーンにじれて、床を踏み鳴らした。
それを合図のように、ショーンがヴィゴへと掴みかかる。
「あんたは、とんでもない淫乱だ」
ヴィゴの括られた手首を掴み、そのまま上へと吊り上げる。ソファーから立たされ、同じ視線の高さで、ショーンの目がヴィゴを射る。
「俺にこんなことをさせて、いったい何が楽しいんだ。畜生!」
そのまま噛み付くようなキスを受ける。
勢いに任せたキスは、何度も歯が音を立てる。
「ああっ!なんだって、こんなことを!」
ショーンが残った片腕をヴィゴの腰に回して、きつく腰骨を押し付ける。
ぐいぐいと下肢を押し付けあいながら、喰らいつくすようなキスを続ける。
ヴィゴは不自由な手を、ショーンの頭へと回して、彼を抱きしめた。
ショーンは、痛いほどヴィゴの頭を押さえつけ、一瞬だって唇が離れることを許さない。
ヴィゴの脳は、それを快感だと訴えていた。
こうやって、強く執着されることを、ヴィゴは願っていた。
酷い嵐に巻き込まれることを、ヴィゴは期待していた。
ショーンは望みを叶えてくれようとしている。
さっきまで気怠くまどろんでいたソファーへ、括られた手首を掴んで、放り投げられた。
当然、スプリングが弾んで、二度三度とヴィゴは顔を打ち付けることになる。
勿論、文句をいう気はなかった。
柔らかい布張りのソファーでは、痛みと言っても大したものなんて感じやしない。
振り返る間もなくショーンが覆い被さってきた。ヴィゴが、意図的に伸ばしたままにしていた手首を掴んで、ソファーへとヴィゴを磔にする。
伸し掛かった体温が、胸を弾ませた。重さに胸が苦しくなるのが、心地よかった。
「・・ヴィゴ」
ショーンは、ヴィゴの名を呟き、黒く染めた髪へと額を寄せているようだった。
動きが止まっている。
手首のロープを掴むのだって、だって、まるで力が入っていない。
「ショーン」
ヴィゴは励ますような声をだした。この場面では、まさしくおかしいのだが、無理をしているのがわかるショーンに、続きを促すには、これしか有効な手段が思い浮かばない。
「どうしても?」
「そう、どうしても」
ほんのわずかのうちに、苛立ちを消化してしまった恋人に、ヴィゴは信念を打ち明けるような生真面目さで答えた。
「そんなに俺は物足りない?」
「俺が貪欲なんだ。足りなくて干からびそうなんだ。あんたの言うとおり、まさしく淫乱なんだよ」
ヴィゴはソファーへと顔を埋めたまま、ショーンへと願った。
ショーンは、まだ、決心するように髪へと額を押し付けている。
「軽蔑していい。軽蔑してくれ。だけど、俺はこういう男なんだ。いつも過剰じゃないと満足できない、いやらしい奴なんだよ」
ショーンが頭を上げた。何をするかと思ったら、ヴィゴの足を曲げさせ、尻を持ち上げさせると、そこを大きな手のひらで叩く。
「ひっ!」
考えてもいなかった衝撃に、ヴィゴは驚き、後ろを振り返った。
ショーンは、にやりと笑って、ヴィゴの顔を下げさせると、もう一度手を振り上げる。
「・・」
今度は、ヴィゴも声を上げずに耐えた。
しかし、驚きにいくつもの疑問が、口から飛び出しそうだった。
「いい子にできるじゃないか。何でも欲しがる悪い子のおしおきと言えば、これだろ。どれだけ耐えられる?」
お互い子供を持つ身だ。一番抵抗なく、馴染んだ方法をショーンは採用したようだった。
ヴィゴだって、いたずらをした息子をこうしたことがある。もっと言うなら、自分だって、ずいぶん小さな頃に、母親にこうされたことがある。
しかし、大人になった今、尻を叩かれるという行為は、痛みよりも恥ずかしさに、身を焼かれる行為だった。
顔に血が上るのを、ぐっと耐える。
望んでいたものとは違う展開に、頭のなかも混乱している。
知らず、膝を引き寄せ、体を丸めようとしていたのだろう。ショーンの大きな手が腰の下へ入り、引き上げると、もう一度、強く叩かれた。
「ヴィゴ、満足か?」
いつまでも聞き分けのない自分の態度に、ショーンも多少は苛立っていたのだろう。
振り下ろされる手のひらは、少しの加減も感じられなかった。
ピシャンと、いい音が、部屋に響く。
「…ちがう」
顔をソファーへと押し付けて、恥ずかしさに耐えながら、ヴィゴが口を開くと、きつい一発がまた振り下ろされた。
「妥協しろ。俺にできるのは、これが精々だ」
痛みではなく、羞恥のために、ヴィゴの足が細かく震えると、ショーンは、尻をまるく撫でた。
ヴィゴは、細く息を吐く。
ショーンの大きな手が、尻から背中へと撫で上げて、背骨の位置を確かめるよう、まっすぐに上ってくる。
「ヴィゴ、首から、背中にかけて赤くなっている。恥ずかしい?」
ショーンの声はからかうように、笑っていた。
「恥ずかしいよ。こんな目に合わされたのは、子供の頃以来だ」
「そう?でも、こういうのも、プレイのなかでは、ひとつのジャンルだ」
「俺の希望と、違う」
「大抵のことは、望み通りにはいかないものだ」
髪を撫で、まるで慰めるようにキスをすると、ショーンは、もう一度、ヴィゴの腰を抱えなおす。
「どう?まだ、する?」
返事をする前に、ぴしゃりと張られた。
首を振って停止を求めても、手は止まらなかった。
「ショーン、もう、いい」
「いや、ちょうどいい。ちょっと、おしおきしてやるよ」
「こんな恥ずかしいのは嫌だ」
「恥ずかしいのを我慢するから、おしおきなんだろ」
「もう!!」
ショーンは、おどけたように両手を上げて、ヴィゴを解放した。
ヴィゴも、赤くなっていると自覚のある顔を起こして、ショーンに向き直る。
ソファーの端に腰掛けているショーンの足を蹴り飛ばした。
足を縛られていなくてよかったと、2度3度、蹴ることのできる自由を噛み締め、感じた分の恥ずかしさを、お返しするように、容赦なく蹴る。
「ほら、やめろよ」
ショーンが、ヴィゴの足を抱かえ上げ、ソファーへとひっくり返した。そのまま抵抗する間も与えず、開脚させた足の間から体を乗り出す。
「どう?すこしは、満足した?」
「するわけない!」
ヴィゴは縛られたままの手で、ショーンの胸を叩いた。
笑いながら、ショーンは手を掴んで抵抗を封じ込める。
ヴィゴは、悔しさのあまり、足の間にある体を、きつく締め上げた。
「いたい、痛いって、ヴィゴ」
遠慮のない力で締め上げると、ショーンが、苦笑を漏らす。
「ほんと、しょうがない人だな。あんたは」
そう言って、締め上げられた状態のまま、伸び上がって、ショーンは、ヴィゴの頬にキスをした。
「全くっ、違う!」
「わかってる。わかってるって。でも、ヴィゴだってわかってるだろ?そういうことを俺に求めるのは無理だ」
「でも!」
ショーンは、ヴィゴの顔を両手ではさみこんで、顔じゅうにキスを降らせた。
「まぁ、待て」
ヴィゴは、ショーンの理解の遠さに、唇を噛む。
「待ってくれ。ヴィゴが苛立ってるのは、わかってる。俺に欠けているものがあるんだろうことも認める。だけど、俺は、あんたを痛い目にあわせるなんて、そんなことは出来ない」
皺をよせた鼻の上に、ひとつキスが落とされる。
「もう、俺はあんたに十分な負担をかけたんだ。これからは、できるだけ、あんたの快いようにしたいんだよ」
抗議する瞼の上にも、キスは降ってくる。
「だから、俺のいいようにって言うなら」
「心地いいように。だよ。いまだって、入れるときは痛いだろ。ヴィゴはもう十分我慢してくれている」
「痛くない」
「ほんと?じゃ、なんで顔をしかめるんだ」
「あれは、ちょっと、違和感があるっていうか。どうしても、最初は覚悟がいるんだ」
「その、覚悟だけで、十分だ」
ショーンは、あやすように何度も何度もキスを降らす。
ヴィゴは、子供のようにむずかって、腕の中で暴れた。ショーンがどんなに抱きしめなおそうと、そこから逃れようと暴れるのを止めなかった。
「じゃぁ、ちょっとだけ、ヴィゴの希望に添うように努力しよう」
あまりに、ヴィゴが納得しないので、ショーンはしぶしぶ、本当に、嫌そうな顔をしながら、ヴィゴの提案を受け入れた。
ヴィゴは、期待に胸が弾む。
「あんた、すごくよからぬことを考えてるな」
「考えて悪いか」
「申し訳ないが、こういう方面で俺に期待しないでくれ。絶対期待はずれだから、いろいろ楽しいことを想像するのもやめたほうがいい」
「あんた、一体いくつになるんだ」
「同い年だろ。うるさいな。人間、向き、不向きがあるんだよ」
「まったくノーマルなセックスばかりじゃ、恋人にあきられるって知らないのか?」
「うるさいな」
「あんな悪人面で、スクリーンに映ってる奴が、こんなに善人なんて、どれだけの人間が思うんだ?」
「ああ、もう、うるさい!」
ショーンは、ヴィゴの体をひっくり返して、ソファーへと、うつ伏せにさせた。
さっき、尻を叩かれたばかりなので、ヴィゴは、警戒してすぐに背後を振り返る。
「たたかない」
ショーンは、両手を上げて、申告した。
ヴィゴは、安心し、小さく頷く。
「じゃ、何をしてくれるんだ?」
「いつも通りのことだ、あまり期待しないでくれ」
ショーンは、ヴィゴが抗議する前に、背中に伸し掛かり、耳へと言葉を滑り込ませた。
「だけど、手首は縛ったままやる。それから、あんたが嫌がるあそこを舐めるの、あれをたっぷり味合わせてやる」
ヴィゴは、頭を振って、ショーンの言葉を追い払おうとした。
「だめだぞ、ヴィゴ。抗議は一切受け付けない。あんまり文句をいうなら、口にタオルを詰め込むってのをオプションサービスしてもいい」
ショーンは、本当にヴィゴの口を掌でおさえ、ヴィゴから文句の言葉を奪った。
「申し訳ないが、これで、満足してくれよ」
それでも、ヴィゴが文句をやめないので、ほんとうに、ヴィゴの口にはタオルが押し込まれた。
ヴィゴは、気が遠くなりそうな思いで、ソファーへと四つん這いになっていた。
いや、四つん這いというよりも、尻だけを高く上げているもっと恥ずかしい姿勢を、もう、かなり長いこと続けている。
ショーンは、ソファーの上へと足を投げ出して座り、ヴィゴの尻がちょうど顔の前にくるよう、高く掴んだまま離さず、ヴィゴは疲れて、ショーンの足の上に縋りつくように、乗り上げている。
「もう、ベタベタだ」
常識派を自認する英国人は、さっきから、聞くに堪えないような卑猥な言葉を連発して、彼の考えるサービスをヴィゴへと提供しつづけている。
「こんなに開いちまって。なかは、ピクピクしてるし、入り口はすぐ締め付けようとするし、なんてやらしい尻なんだ」
「ヴィゴのここ、舌が気に入っちまったらしいぞ。入れると噛んで離さない」
「なんだ、こういうの、好きなんじゃないか。いつもはほとんどさせないから、苦手なのかと思ってたんだが、ヴィゴ、君はうそつきだな。本当は、して欲しくて、して欲しくて、焦れていたんだろう」
ヴィゴは、もし、口が利けるのだったら、山のように文句を言ってやるつもりだった。
いまいましいタオルのせいで、はっきり言葉はしゃべれないまでも、鼻をならして文句をつけることはできたから、最初のうちは、ヴィゴもそうして抗議を表明した。
しかし、もう、疲れた。
どんなに、ヴィゴが嫌がっても、ショーンは、腰を掴む手を緩めず、そして、舌と指で、内部をえぐることをやめようとはしない。
気持ちが悪いわけではない。それどころが、おかしくなりそうなほど、気持ちいい。
何度も快感に背をそらし、眉間に皺を寄せて気持ちの良さに耐えていると、文句をいう気力もなくなる。
ただ、その行為は、異常なほど恥ずかしいことのような気がして、ヴィゴは苦手だったのだ。
ショーンに対して、申し訳のない気持ちにもなったし、できれば、せずに済ませてしまいたいことだったのだ。
たから、普段だって、シャワーをあびるついでに、自分でゼリーを仕込んでおいて、ショーンがスムーズに事を進められるよう準備していた。
たまに、ショーンがそこを舐めようとすると、ゼリーがきっとまずい味だぞと、中まで舌をいれることを許したりしなかった。
それが今、ショーンの唾液が、足のほうまで伝うほど、長い間されつづけている。
「…うぅ…くぅ…」
口に押し込まれたタオルのため、言葉にして、良さを伝えることはできないが、ひっきりなしに甘い音が鼻から漏れて、ショーンに快感を伝えつづけている。
ヴィゴは、ショーンの足に縋りつき、顔を摺り寄せ、何度も何度も体に力を入れた。
舌が、穴の中を行き来するたび、腰から背中に向けて快感の塊がこみ上げ、ヴィゴを震えさせる。
舌の届かない部分へ、長い指を入れられると、あまりの心地よさに、自分から腰を押し付けてしまいそうだ。
指が欲しくて、自然と体は、締め付けていた。
ショーンは、意地悪なことをせず、深い奥の部分まで、長い指を与えてくれる。
二本の指を開き、別々の壁を擦り上げ、広がっている入り口が感じるのを知っているから、引き伸ばされた皮膚を舌で何度も辿っていく。
ヴィゴの目には、涙が溢れていた。
縛られた手をきつく組み合わせて握り、いつまでもつづく快感に耐えている。
また、舌が、熱い粘膜をべろりと舐めた。
開かされている部分は、唾液が冷えると、ほんのすこし冷たいと感じる。
しかし、ほとんど、そんな気持ちを味わうことはない。
ショーンが舌を尖らせ、中まで深く埋めてくれるからだ。
気持ちいい。どうしょうもないほど、気持ちいい。
ヴィゴは、ショーンの与えてくれる快感に身を捩った。
額には恥ずかしいという意識がこべりついているが、快感はそれを遥かに上回っている。
手首の綱に額を摺り寄せ、ヴィゴはショーンを味わった。
でも、良すぎて、もう限界だ。
ショーンは、後ろへは、どんな快感も味合わせてくれたが、ヴィゴの前を全く無視していた。
硬くなり、もうとっくに、ショーンへとねばついた液体をこぼしている物体は、震えたまま放置されている。
ショーンが強く腰を掴んでいなかったら、ヴィゴは恥知らずにも、ショーンの体へと擦りつけていただろう。
そして、勝手に終わりに向かって疾走していたに違いない。
しかし、ショーンは、ヴィゴの身勝手を許さなかった。
いつまで続ける気なのか、届く限り奥まで舌をのばし、尻を広げてヴィゴに快感を味合わせる。
ヴィゴは、啜り上げていた。
ショーンが指の位置を変えるため、出し入れするたび、入れる指を変えるため、引き抜くたび、恐いほどの快感がその部分から、湧きあがってくる。
「ヴィゴ…とろとろだな」
ショーンがわざと息がかかるよう、そこで言うのに、びくびくと体を震わせて返事を返した。
「こういうのも、まぁ、たまにはいいもんだ」
抵抗しないヴィゴに、ショーンは、もう一度腰を抱えなおし、掌で大きく尻を開く。
「十分、味わせてやるよ。痛いことより、こっちのほうが断然いいに決まってるんだからな」
ヴィゴは、ショーンの体を濡らしつづけた。
もう、へとへとで、体中の骨が溶けてしまったのかと思うほど、ヴィゴの体に力が入らなくなった頃、ショーンはヴィゴを解放した。
解放したといっても、舐めるのをやめただけで、ソファーへとヴィゴを横たわらせたまま、自分だけ立ち上がると、しばらく体のこりを解すように腕をまわしたりして、それから、もう一度、ヴィゴの上へと覆い被さってきた。
重さに、ヴィゴは、小さくうめく。
足を抱え込まれて、薄く目を開くと、ショーンが片手で自分の下着を太腿までずり下ろしている。
灰色の下着が、濡れて、濃い色になっているのが、おかしかった。
それを履いて帰るんだぞ。ざまあみろと、考えて、おかしくなって笑った。
ショーンは、位置をたしかめ、遠慮せず、ヴィゴの中へと押し入った。
ずるりと、重く、ヴィゴはショーンの感触を味わう。
ショーンはウインクするように片目を閉じて、ヴィゴの内部を味わっている。
「いつもより、ずっと緩いぞ」
ゆっくりと動かしだしたショーンが、失礼な発言をした。ヴィゴは足の間の体を、きつくはさみ、鼻をならした。
「ちがう。入れやすくていいって言ってるんだ。締めるのは、いつも通りだよ。いや、だから、あまり力を入れるなって。いつも、きついんだよ。きつすぎるくらいなんだ。やめろって、おまえ、自分が、どの位、締め付けがきついか、わかってないんだろ。痛いって。痛い」
ショーンは、ヴィゴの鼻を摘んで、ヴィゴの抗議を封じ込めた。
タオルが押し込まれ、口をふさがれているヴィゴは、鼻をつままれては、息ができない。
激しく、頭を振った。
ショーンの指がずれて、鼻の頭だけ摘まれ、とても痛い。
ショーンは、改めてヴィゴの窮状に気が付いたとでもいうように、大袈裟にヴィゴを労わると、噛ませたままだったタオルの結び目を解き、口の中へ詰め込んでいた分も取り出してわざとらしく介抱した。
「ヴィゴ。最初に何が言いたい?」
「このくそ野郎」
「おかしいなぁ、聞き違いか?」
「ぼけてんじゃない!」
「あれ、やっぱり聞き違い」
ショーンは、ヴィゴの腰を抱え上げ、深くまでグラインドさせた。
「あっ…あっ」
内部はいやというほど蕩かされていて、強くて硬いものに刺激されると、脳髄まで快感が駆け抜ける。
「ほら、そういう声だろ、まず、そういう声を聞かせてくれないと」
ショーンも、あらかさまに絡みつく、ヴィゴの肉がもたらす快感に顔を歪めながら、ヴィゴの内部を深くまで掘り広げた。
ヴィゴは、もっと悪態をつきたかったが、目の裏で飛び散る火花のせいで、まとまった言葉が口から出せなかった。
「いいっ、いいっ!ショーン」
腕が縛られたままなので、ショーンに縋りつくことができず、足を絡めて、もっと、とねだる。
「いいだろう?こうやって、気持ちいいほうが、ヴィゴだって好きだろう?」
ショーンは、ヴィゴの肩へと頭を埋めるようにしながら、激しく腰を突き動かした。
「ああっ!ショーン」
ショーンは、焦ったようにヴィゴの顔を掴み、悲鳴に似た声を上げつづける口を塞ぐ。
腰は、ヴィゴが大人しくしていられないので、一時だって止まることがない。
「いつもより、ずっと柔らかで、すごく気持ちいいよ」
口付けの合間に、ショーンは、ヴィゴの髪を何度も撫でる。
「いい。いいっ、もっと動かしてくれ、ショーン」
「わかってる。満足させてやるよ。ヴィゴ」
ショーンは、額へとひとつキスを落とすと、絡みつくヴィゴの足を外して、胸につくほど押し付けると、尻の間を何度も擦り上げた。
「あっ!あっ…あっ」
ヴィゴの目からは、涙がこぼれ、眦をとおってシーツへと吸い込まれていく。
「ショーン。ショーン。ショーン」
あまりに快感が激しすぎて、ヴィゴは、ショーンの肩を、括られた両手で叩いていた。
「…あっ…んっ…ああっ」
折り曲げられた体が苦しいとか。
ずっと縛られたままの手首が擦れて痛いとか。
そんなものは、ショーンの与えてくれる快感の前には、まったく威力の無いものだった。
自分が獣のように唸っているだとか。
もう、目が開けていられないだとか。
体のすべての感覚が、一点に集まる快感に集中してしまって、全てどうでもよくなってしまっている。
「ショーンっ」
ヴィゴは、無理やり体を起こして、ショーンの唇を求めた。
ずれて、顎にキスしたことなど、気にもならない。
舌を伸ばして、顎を、頬を舐め上げた。
しかし、ショーンの顔が、なんとなく笑っているのを感じると、やはりキスをしたくなって、荒い息を吐き出す唇を求めて、自分の顔を突き出す。
手が使えれば、もっと簡単にキスできるのだろうが、いまは、邪魔なもので縛られている。
それでも、最大限に両手を開き、なんとかショーンの顔を挟み込んで、唇に噛み付いた。
「ヴィゴ」
ショーンの口からも、感極まったような声でヴィゴの名が呼ばれる。
「ヴィゴ、ヴィゴ、ヴィゴ」
唇がつぶれるキスの合間に、何度も何度も、名を呼びかけられる。
「いい。すごくいい。ヴィゴ、君は、最高だ」
熱くて、気持ちのいいものが、最大限に早くヴィゴへと与えられた。
あまりの感覚に、もう、快感だと認識しているひまも無い。
目の裏に、何度も稲妻のような光が反射した。
ヴィゴにわかるのは、気持ちのいい一点と、快感が乱反射する自分の頭蓋骨のなかだけだ。
「いいっ!もう…いくっ!」
体をえびのように折り曲げて、ヴィゴは何度か痙攣した。
息の整わないヴィゴの上に、ショーンも重なるように体重をかけてくる。
荒い息が、ショーンの口から吐き出されていた。
額に浮かぶ汗が、ヴィゴの肩へとそのまま伝う。
息が整うと、ショーンをおいて、先にイってしまったヴィゴは、まだ、終わっていないショーンを、きつく締め上げた。
「ちょっと、待て。おい、こら。」
ショーンが慌てたような声を上げる。
「ヴィゴ、もう、いきそうなんだ。ちょと、まてって、いきなり締めるな」
「ほら、いけよ。もう、十分遊んだだろ」
「まてって。そんなことされたら、こらっ!ちょっと!」
ショーンはヴィゴの肩を強く掴んで押さえつけた。
「ほんとに、あんたって人は…」
「最っ高に気持ちいいだろ」
「言ってろ、おしおきしてやる」
ヴィゴはまた尻を叩かれるのではないかと、身を捩って逃げようとした。
しかし、まだ内部にショーンを入れたまま、しかも、肩を押さえつけられていては、逃げることなどできるはずもない。
「これも無料、オプションサービスだ」
ショーンは、一瞬のうちにヴィゴの一纏めの腕を掴んで頭の上へとあげさせ、剥き出しになった胸へと歯を立てた。
「痛いっ!!!」
乳首を強く噛まれて、ヴィゴが悲鳴をあげる。
「痛い!痛い!痛い、ショーン!」
ショーンは、ヴィゴを無視して、乳首を噛んだまま腰を動かした。
一瞬、本当に手加減なしにきつく噛まれ、ヴィゴは悲鳴もあげられなかった。
ショーンが満足そうなため息と共に、動きを止めて、ヴィゴの体を抱きしめようと、ヴィゴの知覚は、どくどくと血を集める乳首へと集中している。
「ヴィゴ」
ショーンが優しく名を呼んで、押さえつけていた手を離した。
ヴィゴは、彼の頭を両手で殴る。
後頭部を容赦なく殴られ、ショーンは、一瞬、息がとまったような驚いた顔をし、それから、ヴィゴの顔を強くはさんだ。
「どこの坊主だ。こんなことするのは」
「誰が噛んでいいって言ったんだよ。ちくしょう。めちゃくちゃ痛いじゃないか」
「そういうサービスを望んだのは、君の方じゃないか!」
「望んだ通りの結果は得られないというわけだ。そうさ、あんたの言ったとおり、人生希望ばかりが通るわけじゃない。あんたも、俺も、期待通りにはいかない。さぁ、もう、ぬけ。とっとと退くんだ」
「ほんと、あんたが分からない。ヴィゴ、君は気まぐれすぎる」
「違う。ショーン、あんたが不器用すぎるんだ」
ショーンは、ティッシュの箱を情けない顔でとり、ヴィゴの後ろに当てると、ずるずると自分を引き出した。
ヴィゴはその箱を奪って、まだくくられたままの手を使い、自分が腹を汚したものと、ショーンの体についた分を、手荒く拭う。
ショーンは、ヴィゴの足の間で、情けない顔をしてソファーに座っていた。
ヴィゴは、時々、ショーンの体を軽く蹴りながら、ソファーへとだらしなく横になっていた。
する前と、した後と、二人の状況にほとんど変わりはなかったが、ヴィゴはなんとなく満足していて、くやしかったから、ショーンのことをもう一度蹴った。
ショーンは、それを受け入れている。
ヴィゴは、笑った。
やはり、ヴィゴは満足していた。
END
Back
Mなヴィゴさんを書きたくて書いたもの。
しかし、ただの欲求不満な人になってしまった模様。
攻のショーンさんにも挑戦。
もう、大好きだよショーンさん。
ヴィゴさんに飽きられないように、エッチを精進しようね。
って、精進するのは私だな…。