OV劇場 ―6―
坊やと呼ぶには育ってしまったオーランドを前に、ヴィゴは少し困っていた。かわいらしかったオーランドの顔は、確かに今もかわいいものの、会うたび、男くさくなっていった結果、今ではすっかり格好いいが定番の形容詞だろう。そのハンサムが、今朝いきなりやってきたかと思うと、キッチンの隅でしょぼんと俯いて座り込んでいる。
水一つ飲みに行こうと思っても、足を伸ばしてキッチンの床に座るオーランドを跨がなければ行くことができない。
「なぁ、お前、いつまでそこに座ってるつもりなんだ?」
別段、座りたいなら座りたいだけ座っていろというのがヴィゴの考え方だったが、通りかかってしまった以上、今日何度目かの声をかけた。ただし、もう何度も無視されているヴィゴは、返事がなければ、さっさと自分の部屋へと引き上げようと思っていた。あの映画以降、この若者が精一杯映画界でがんばった結果、今ではヴィゴよりもオーランドの方がビックネームだったが、けれどヴィゴだって突然尋ねられて気ままに相手をしていられるほどには暇な人生はまだ先にしかないらしい。
本当を言えば、今日はたまたまヴィゴも暇だったが、けれどもこの年上は時々全てを教えたりしなくなる。それが駆け引きではない辺りに、いつもオーランドは苦労する。
だが、拗ねたような表情で少しだけ顔を上げたオーランドの黒い目は相変わらず艶々としていて、それが、今日のヴィゴに保護欲でも抱かせたらしい。ヴィゴは手に持った水のボトルを差し出すようにしながら、オーランドの投げ出した足の上へと腰を下ろした。
ヴィゴが顔を覗き込むと、なんとか、オーランドの口元が笑みのカーブを描く。
「オーリ、どうした?」
ヴィゴは、この若いのが、もっと若い頃からかわいいがってきた。
「あんまり大したことじゃない」
「へぇ……?」
けれど年とともに、オーランドはヴィゴをあまり頼らなくなって、たまにヴィゴはつまらないと思っている。
オーランドが愚痴すら口にしなくて、仕方なく、ヴィゴは、オーランドの足を跨いだまま、ぼんやりと座っていた。
「だめ。やっぱ、もうだめ」
こんなに側にいるのにもう我慢できないと、がばりとオーランドに体を捕まえられ、いきなり抱きしめられたヴィゴは驚いて目を丸く見開いた。
「うん? ヴィーゴ。好き。好きだよ」
悔しそうにしながらも笑っているという複雑な表情で、オーランドは驚いて硬直したようになっているヴィゴの額にキスをする。そして、いつも通りの態度でべらべらとしゃべりだす。
「最近ちょっとさ、ショーンなんて若い娘にメロメロで、結婚するとかしないとかゴシップになってるってのに、ヴィゴときたら、同じ若いのだってのに俺のことなんて関心なくしちゃったんじゃないの?って位にそっけないし、確かに葉書はくれたけど署名しかしてないし、もしかして、俺が年取ったのが、ヴィゴには嫌なのかなぁって」
反省してもらうべきだと思ったんだと、文句をたらたら言いながら、ぎゅっとヴィゴの腰を抱いたオーランドは、ごろごろとヴィゴの胸へと顔を押し当て口を挟ませない。
その上、ヴィゴってさぁ、かなり若いか、それとも年寄りか、どっちかってのが好きな変態なんじゃないの?と言うヴィゴの恋人は、もしあの監督を前にしたら、若い役者でしかないオーランドでは決して口にできないであろう言葉を使ってかの人を表現すると、それでも恋人に気を使ってか、しーっと、口の前で指を立てる。
「あの人のことは、気を悪くするといけないからヴィゴに内緒ね。けど、ヴィゴが出てるのは、好きだったよ。それ以外は正直、いき過ぎててわかんないんだけどさ」
それから、どうして、ヴィゴの尊敬する監督を罵ったオーランドにベッドに連れ込まれる破目になったのか、ヴィゴもいい加減自分に呆れていた。年々自分の扱いが上手くなるオーランドは、セクシーな表情でヴィゴをシーツへと押し付け、腰を掴んでいる。
「ヴィゴ。……ね、集中してよ。ねぇ、ほんとに、俺が年をとったから、興味がなくなってきたの?」
キスを求めてくるオーランドの口の中へと舌を伸ばしながら、ヴィゴは汗に濡れる髪をかき上げ、自分を喘がせるオーランドに興味を失ったかどうかを考えようとした。確かに、初めてそうなった時の、ヴィゴに負担の多かった挿入や、自分がいきそうになって初めて、ヴィゴのペニスにも快感を与える必要があることを思い出したような、かわいらしいセックスをしたオーランドは、今でも一人の夜に、大事なヴィゴの恋人として登場する。あの切羽詰った顔。いざとなった時、オーランドは何度もいいのかと泣きそうな顔をして尋ねて、ヴィゴにキスをした。あのキスは、ヴィゴにとって生涯最高のものだと言っていい。
しかし、今、熱っぽい目でじっと見つめてくるオーランドが、
「ヴィゴ。……あんた、ほんっと、キスが上手いから、ダメだ」と言う。
若い恋人は、いつだってヴィゴが結論を出せずにいる間に、せっかちに結論を出し、ヴィゴはいいところばかりを狙って突き上げてくるオーランドに、苦しく額に皺を寄せた。
「いい?……ね、いい? ヴィゴ?」
「いいよ。……オーリ。すごく、いい」
持ち上げられ、突き上げられるヴィゴの尻は、じんっとしびれるような快感に、オーランドのペニスを強く締め付ける。オーランドが鼻にきゅっと皺を寄せる。
「好き。ヴィゴ。……すごく好き」
「ねぇ、ヴィゴ。俺さぁ、そろそろヴィゴに好きなことさせて上げられると思うんだよね」
オーランドは、ぐったりと汗をかいたヴィゴの背中を撫でていた。
「好きなこと……?」
ヴィゴは、相変わらずオーランドは若いと、何度も付き合わされた、けれども、すっかりヴィゴを満足させるようになっているセックスで、瞼が落ちそうになっていた。
「ショーン、若い娘と結婚する……かも、なんだよ?」
セックスの満足は、オーランドをはしゃがせているようだ。ヴィゴもさ、したいことだけしててくれていいんだよと、若いくせに包容力を見せようとしている。ヴィゴはオーランドの肩へと顔を寄せた。
「眠いよ。オーリ。……今、一番それがしたい」
「……あんたは、いつだって、それだよ……」
それでも、ヴィゴにハンサムだと認めさせるようになったオーランドの手は、優しく年上の髪を撫でていた。
END
わ〜。白猫さん、久しぶり(ぶんぶんと手を振る)