OV劇場−5−
ドアの前で蹲る人影に、車を駐車スペースへと乱暴に止めたオーランドは走りだした。
玄関前は、風が通り、確かに涼しい。
しかし、玄関前のタイルの上で、荷物を枕に眠っているという態度は、ハリウッドスターとしてどころか、いい大人としてどうだろう?
この辺りは、閑静な住宅街だ。
通報されてもしかたのない。
オーランドは跪いて、眠る男の身体を揺すった。
「起きてよ。ヴィゴ」
嫌そうに顔を顰めたヴィゴは、髪の中に指を差し込んだ。
うっすらと目を開け、その目の色は、ブルーというより灰色だ。
「……オーリ?」
「そう。……こんなとこで寝ないでよ」
オーランドは、安堵感のあまりため息をついた。
しかし、ヴィゴは、のんきにあくびをし、身体を起こす。
「タイルの上は、やっぱり、身体が痛くなるな」
首をひねり音をさせる。
「じゃぁ、こんなとこで、寝ないでよ」
「せっかく着いたのに、お前がいなかった」
「ヴィゴがあんまり遅いから、心配で、探しに出たんだよ。約束の時間は、とっくに過ぎてると思うけど?」
とにかく、玄関から中へ入ってしまわないことには落ち着かないオーランドは、ヴィゴが枕にしていたボストンバックを取り上げた。
手に持ったまま、鍵を開ける。
「ヴィゴ、そんな不審者の態度で、パトロールに尋問されても知らないよ」
「連行されたら、迎えにきてくれるだろう?」
笑う男は、汗をかいている背後からドアに手を付き、もう一方の手で、オーランドの髪をかき上げ、首筋にキスをした。
「いい夢みてたの? ヴィゴ?」
オーランドは、擽ったそうに首をすくめた。
しかし、玄関に入り、ドアを閉めると、オーランドは、思い切り、バックを放り出した。
オーランドが投げ出したものは、バックの他に、常識人の顔もだ。
オーランドは、きつくヴィゴを抱きしめた。
「ヴィゴ……会いたかった」
オーランドは、ずっとこの瞬間を待っていたのだ。
笑顔に曲がった唇が、あやすようなキスをオーランドに与えた。
「がっつくな。オーリ」
オーランドは、もっとと、ヴィゴの唇に強く唇を押しつけた。
「会いたかったんだ。ヴィゴにキスしたかった」
「後だ、後。喉が渇いたよ。オーリ」
キスを避けたヴィゴが、オーランドの腰を抱き、わざとらしく腰を押しつけ、にやりと笑った。
部屋のソファーで、あくびの続きをしていたヴィゴは、ごそごそとバックを漁りだした。
ビールを片手に帰ったオーランドは、上からヴィゴのバックをのぞき込んだ。
バックの中には、一杯に荷物が詰まっている。
あぐらをかいた腿の上に先ほどまでの枕を乗せたヴィゴはそれの中をかき回していた。
「どんな宝物をプレゼントしてくれるの? ヴィゴ」
恋人のくつろいだ態度に、微笑んだオーランドに差し出されたのは、小さく長細い箱だった。
箱に印刷はない。
開けてみると、けばけばしい色の、チューブだった。
いかにもうさんくさい。
「飛行機に乗る前に、買った雑誌に、出ていた。試してみたくならないか?」
丸めてあった雑誌をめくりだしたヴィゴは、目当てのページを見つけ、オーランドに見せた。
セックスショップの広告だった。
「ヴィゴ、あんた……」
言葉に詰まったオーランドに、ヴィゴはいかにも楽しげに笑いかけた。
中年は、小さなウインクまでする。
「もしかして、これ買ってて、遅くなったの?」
ヴィゴ・モーテンセンともあろうものが。という思いと、ヴィゴ・モーテンセンだからか。という思いが、オーランドの心の中で、めまぐるしく交錯した。
ヴィゴの顔は、にやにやと楽しそうだ。
やはり、ヴィゴ・モーテンセンだから、この態度なのか。
この辺りの地理に詳しいとも思えないヴィゴが、タクシーの運転手と親しげに話を弾ませながらセックスショップまでの道のりを案内される様が、オーランドには、目に浮かぶようだった。
自分を落ち着けるために、オーランドは、ビールを一口飲んだ。
ヴィゴが顔を顰める。
「それは、俺のだろう?」
これで、ヴィゴは、オーランドとは、親子ほども歳が違う。
オーランドはヴィゴにビールを渡しながら、雑誌に書かれた効能を読んだ。
肌に優しいということの他に、そういう気分を盛り上げてくれると煽ってあった。
「普段、それほど、セックスに乗り気だとも思えないのに、どうして?」
オーランドは、ヴィゴの気まぐれが分からなかった。
年上の恋人は、確かにセックスが嫌いではないが、いくら久しぶりに会うときであろうと、眠気がそれを凌駕した。
しつこくしたがるオーランドの頬に何度もキスして、勝手に眠り落ちていく。
「たまには、サービスしないと捨てられちゃ、困るからな」
寝言としか思えないヴィゴの言葉だ。
要するに、ヴィゴの気まぐれだということだ。
だが、その言葉を実行するように、いそいそとジーンズを脱ぎだしたヴィゴに、オーランドは目を丸くした。
オーランドは、この展開を、ここまでで終わるヴィゴの手の込んだ悪戯だろうと、思っていた。
オーランドがその気になって、ヴィゴに襲いかかったら、笑い飛ばされ、いなすような軽いキスを沢山貰い。
散々焦らされて、年下の恋人は、やっとベッドに年上の愛しい人を誘う事が出来る。
多分、そんなところだと、オーランドは思いながらも、ヴィゴにキスを仕掛けるタイミングを計っていた。
なのに。
「どうしたの?」
「なんでだ? 試してみたいだろう?」
良く締まったヴィゴの尻が、オーランドの目に入った。
ヴィゴはジーンズを足で、蹴り落とし、オーランドに手を伸ばした。
「オーリ、貸せ」
手を伸ばしたヴィゴは、オーランドの手から、チューブを取り上げ、キャップをひねる。
「ちょっと、待った! それは、俺にやらせて!!」
オーランドは、ヴィゴの手から、広告曰く、「興奮度倍増」のクリームを取り上げた。
ヴィゴは、それを止めはしない。
ヴィゴの中に、指を入れ、クリームを塗り広げていたオーランドは、しおらしい顔をして足を開いているヴィゴに聞いた。
「どう? いつもと何か違う?」
「あまり、変わらない……か?」
羽織っただけのシャツのヴィゴは、指の違和感を和らげようとするかのように、しきりと腹で息をしていた。
「オーリ、お前、何か、違うか?」
「俺に聞かれてもわかんない。だって、俺、クリームに触ってるの、指だけだし」
「でも、匂いだとか」
ヴィゴは鼻をうごめかせた。
「クリームの匂いより、オーリの匂いの方に、興奮しちまいそうだな」
ヴィゴは、身を起こし、オーランドの胸に頭を付けた。
長くしているヴィゴの前髪が、オーランドに擦りつけられた。
オーランドは、あまりにもいつもと違う、いや、しかし、色気たっぷりのあまりにもヴィゴらしい態度に、くらりとしかけた。
なのに、まだ、年上は、年下を翻弄する。
「なぁ、オーリ、してやろうか?」
ヴィゴは、口を開いて見せたかと思うと、もう、手がオーランドのジーンズに掛かった。
オーランドは、ヴィゴの指が、ペニスに絡んでしごき出すのに、息をのんだ。
「ヴィゴ、あんた、すっかりクリーム、利いてるんじゃない?」
オーランドの指を抜かせたヴィゴは、口内にオーランドのペニスを飲み込んだ。
ヴィゴは、一気に喉の奥まで開いて、急激にオーランドを最高値に押し上げた。
そして、濡れた唇のままにやりと笑った。
「俺のことが、そんなに好きか? オーリ」
ヴィゴは、ペニス様子に、満足がいったのか、今度は、先端だけをぺろぺろと舐め、手で、その下の玉をにぎにぎしだした。
わざとらしく、ちゅぱ、ちゅぱと、音を立てたヴィゴは、サービスたっぷりに、オーランドをあおり立てた。
オーランドは、ヴィゴのフェラチオをしばらくの間、味わっていたが、ヴィゴを見下ろし、「お願い」をした。
「ヴィゴ、俺にもヴィゴの舐めさせて。俺にこと跨いで、ここにきて」
オーランドが望むのは、ヴィゴが上になった69の体勢だ。
やっとヴィゴの顔に、「いつもの」迷惑そうな表情が浮かんだ。
ペニスを口に頬張ったままだというのに、色気などどこかに忘れてきたような顔だった。
オーランドは、笑った。
「嫌だ。なんて、言わないでよ。ヴィゴ、サービスしないと、俺に捨てられちゃうんでしょ?」
とても幸せそうな顔だ。
オーランドは、ヴィゴが持っていた雑誌の本当に特集していたのが「ここが違う。若い恋人をキープし続けるテク」という記事だったのに、気付いていた。
END
うちのサイトの何処に、花藻の需要があるのかわかりませんが(苦笑)
どうしても供給したかったのv(迷惑。迷惑 笑)