朝食をどうぞ

 

ショーンが部屋に入ってきた気配で、オーランドは、実のところ、目が覚めていた。

しかし、このまま眠った振りを続ければ、ショーンが優しく声をかけ、もしかしたら、モーニングキスなどという素敵なプレゼントをくれるかもしれないと、期待して、しっかりと目を瞑りつづけた。

ショーンが、どんな顔をしているのか、確かめるために、わざと音に反応して寝返りを打ったような演技すらした。

薄目を開けると、ショーンは、背中をむけて、小さなテーブルへと朝食の盆を置いている。

金の髪に、朝の光が反射する様は、鑑賞に値するが、残念ながら、顔は全くみえない。

 

ショーンの振り向く気配に、オーランドは慌てて目を閉じた。

ショーンは、ゆっくりとオーランドに近づく。

「オーリ、そろそろ起きたらどうだ?」

ショーンの手が、オーランドの髪を優しく撫でる。

「…」

とりあえず、深く眠っている振りだ。

ショーンは、オーランドの髪を何度か撫でた。そのまま手を滑らせて、頬を撫でる。

くすぐったいほど優しい手触りに、オーランドは、笑いそうになった。しかし、そこは、じっと耐える。瞼が不自然に震えないようにぐっと意思の力を込める。

「オーリ、朝食が冷めちまうぞ」

ショーンが、オーランドの耳元でささやく。低くて、穏やかなくせに、人の気を引くショーンの声に、オーランドは体に力が入らないように注意する。

「オーリ、まだ眠いのか?娘たちだってとっくに学校に行ったってのに…」

ショーンは、オーランドが目を覚まさないことを残念がっているようだった。

だから、頬でもいいから、モーニングキスを送ってくれれば、今すぐ最高の笑顔で目を覚ますのに…

オーランドは、絶対に唇にキスしてくれるまで目を開けないと決めていたくせに、さっさと譲歩して、ショーンの行動を待った。

ショーンがわざわざ運んでくれたらしい朝食の匂いも、オーランドに目を開けるよう促していた。

オレンジジュースの匂いと、トーストの上で溶けるバターの匂い。それに、蜂蜜の匂いもする。

あんなに飲んだ翌朝だというのに、オーランドの胃袋は、果てしなく健康だ。

夕べ遅くに、正確に言えば、もう今日だった時間だ。ショーンの家にとまることを許され、寝静まった家の、すこし冷たい客室に用意されたシーツの中に、もぐりこんだ。

今日は、夕方にここを発てば十分間に合うスケジュールしかない。

糊のきいたシーツの中で、オーランドは、もうそろそろ諦めて目を開けるべきかと、ほんのわずかに身じろぎした。

ショーンの視線が自分の体の上をゆっくりとさまよっていてくすぐったい。

オーランドは、最初の野望を放棄しようとした。モーニングキスなんて、ささやかなものにこだわる必要なんてない。

ただでさえ、会える時間なんてほんの少しで、ショーンとたくさん会話して、二人でなにか楽しいことでもしていたほうが、きっといいに決まっている。

『ショーン』と、呼びかけて、驚かすように抱きついてやろうかと、体に力をいれるほんの、一瞬前、ショーンがオーランドのシーツの中へと手を差し込んだ。

慌てて、オーランドは体中の力を抜く。

ショーンの手が、オーランドの手を握る。

シーツの下に潜り込んだ長い指が、オーランドの指に絡んで、愛撫する。

こそばゆいようなやり方が、照れ屋のショーンらしかった。

一旦、正直になって、欲望を露にしてしまえば、オーランドなど全く太刀打ちできないテクニックを持っているくせに、普段のショーンは、本当に紳士的だ。

手を握るのさえ、断りを入れそうな、そんなギャップが、ショーンらしい。

もしかしたら、やっぱり、キスくらいはしてくれるんじゃ…

ショーンの指が愛おいしそうに、自分の指に絡むのに、オーランドは、期待で胸を膨らませた。

ショーンが家族のいる家に、自分との恋愛を持ち込まないと決めているのは、本人から聞かされていたが、モーニングキスよりずっと愛情深い接触に、オーランドは、ドキドキと音をたてる自分の心臓をうるさく思った。

自分が寝ているからこそ、ショーンは、こんなことをしているんだ。

絶対起きていることを気づかせてはいけない。

ショーンが、オーランドの手をシーツの中から引き出した。

そのまま、自分の顔へと引き寄せ、頬を摺り寄せ、手の甲に唇をよせる。

羽が触れるようなささやかな接触だったが、オーランドを幸せにするには十分だった。

もう、目を開けて、ショーンが恥ずかしがらないように、大袈裟に抱きついて頬に思いっきりキスしよう。

オーランドが、目を開けようとすると、ショーンは、オーランドの指の一本、一本にキスを始めた。

爪の先に、柔らかな唇の感触。

オーランドは、すこしばかり動転して、瞼を開いた。

目を閉じて、本当に優しい顔をしたショーンの顔が視界に写る。ショーンは、オーランドを本当に眠っているものだと信じている。

朝の柔らかな日差しに包まれたショーンは、10本の指全てにキスするつもりらしかった。

確かに、オーランドは、そう簡単に目覚めたりしない性質だ。

しかし、寝ている間にだけ、こんなに無邪気な顔をして、キスするなんて反則じゃないのか。

ショーンの顔が、あまりにも、幸せそうだったから、オーランドは、もう一度目を閉じた。

どくどくする心臓を、何とか宥めようと努力し、ついでに、ショーンの薄い唇に指を突っ込みたくなった自分の欲望にも、我慢を強いる。

ショーンは、全ての指の爪にキスし終わると、もう一度、オーランドを呼んだ。

オーランドは、目を開けるべきかどうか悩んだ。しかし、小さな声で呼ばれた名前に、ショーンが今しばらく自分に眠っていてほしいのではないかと、目を開けるのを止める。

本当は、もう、目を開けてしまいたかった。

ショーンの顔をしっかりと見て、嫌がるかもしれないが、ちょっと朝にはふさわしくないキスをして、ショーンの行動には気づかない振りで、彼の愛情に感謝を伝えたい。

ショーンは、オーランドの名前をもう一度小さく呼び、オーランドが目覚める気配がないのを確認した。

その間も、ショーンの長い指が、オーランドの指を優しく撫でている。

オーランドは、いまこそ自分の実力を見せるときだと、ショーンの為に、演技を続けた。深い眠りについた人間は、ぐったりと体中の力が抜けている。変な緊張をみせてはいけない。

ショーンが、オーランドの手にまた、頬を寄せる。

力の抜けたオーランドの手は、ゆっくりとショーンの頬を撫でる。

指先が、ショーンの唇を辿る。

オーランドが目覚めていれば、もっといやらしく、その薄い唇を撫でている。

ショーンの接触は、オーランドが目覚めるのを恐れてか、本当にわずかで、オーランドには物足りない。

ショーンは、何度か指先の感触を唇で楽しむと、そのままオーランドの眠るベットへと乗り上げてきた。

ショーンの体重にベットがきしむ。

オーランドの真上に、ショーンの影が差す。

手をつかんだまま、ショーンがオーランドの顔を覗き込んだ。

オーランドの緩やかな呼吸を、臆病なほど窺っている。

次に起こしたショーンの行動に対して、跳ね起きなかった自分を、オーランドは、なんて才能ある俳優なんだと、自画自賛したかった。

「…オーリ…」

ほとんど、口の中で呟やいて、ショーンは、オーランドの手の甲を自分の胸へと触れさせた。

早い鼓動もさることながら、固くなった乳首の存在に、オーランドの方が、どきまぎする。

ショーンは、オーランドの体の上で、オーランドの手へと胸をすり寄せた。

うそ…だ。

オーランドは、自分がまだ、夢をみているのだろうかと、頬をつねりたくなった。

いつもの、都合のいい夢で…肝心なところになると、目覚ましの音に邪魔される、本当に腹のたついつもの…。

しかし、力のぬけた自分の手は、膨らんだショーンの乳首をしっかり感じているし、彼の手の意思だって捕らえている。

ショーンは、オーランドの手を大きく動かすことによって、オーランドが目覚めるのを恐れてか、オーランドの手を緩く掴んだまま、自分の体を動かしている。

オーランドは、手の甲に、何度もショーンの引っ掛かりを感じている。

「…オーリ」

小さく呟かれる声は、掠れていて、オーランドを突き動かしそうだ。

ショーンがオーランドの手をそっとひっくり返した。

今度は、掌が、ショーンの体温を感じ取る。

感激、などという言葉では、オーランドの喜びを言い表すことは、できなかった。

久しぶりに顔を合わすことができたが、昨日の晩に催された再会の宴は、ショーンの仕事仲間も一緒で、確かに、ショーンの話が聞けて楽しかったのだけれど、それは、恋人同士の時間とは、言えなかった。

子供しか家に居ないから、と、どうしても外泊を拒んだショーンに、無理を言って、家へと泊り込み、たしかに、ちょっと狙ってはいたけれど、こんな展開まではオーランドの頭にはなかった。

掌が、ショーンの乳首を何度も撫でる。

ショーンが体を動かすから、張り出した胸の筋肉をまんべんなく味わうことができる。

ベットがきしんでいる。

ショーンの視線が、真剣にオーランドの目覚めを窺っている。息が、顔に掛からないよう注意深くそらされている。

右も、左も、オーランドは、十分にショーンの胸の形を楽しませてもらった。

ショーンが、深くオーランドに覆い被さる。

掌が、ショーンの腹に触れる。

腹は、筋肉の上に、柔らかい脂肪を蓄えていた。

触るのが、気持ちいい。

しかし、今度のショーンは、オーランドになで回す楽しさを味あわせてはくれなかった。

臍よりちょっと下の辺りで、オーランドの手は、止まったままだ。

ショーンの呼吸がせわしなく耳元で聞こえる。オーランドの手を掴む力が、無意識に少し強くなっている。

迷っているらしい。

…迷っているって、何を?

気づいたオーランドは、とにかくハッピーな気分になった。

ショーンは、欲望と理性の間で揺れ動いている。簡単にいうなら、オーランドの掌にペニスを擦り付けたいと思って悩んでいる。そんなことをしてはいけないと、自分と一生懸命戦っている。

全く問題ない。

て、いうか、して!そんな、ショーンをみせて!みせて!

オーランドは、じっと待った。ショーンのペニスが、オーランドの掌に擦り付けられ、彼が腰を振ってくれることを切に望んだ。

掌は、いつか感じたショーンのペニスの重みさえ思い出していたのというのに、しかし、ショーンは、動かなかった。

それどころか、浅い息をオーランドの耳元で吐き出しながら、自分に罵りの言葉を吐き出し始めた。

自分の欲望を責め始めたショーンに、これは、もう、寝ているべきじゃないと、オーランドは決断を下した。

自由な片手をショーンの首に回して、ショーンの耳元に、思いっきり甘さを意識した声を流し込む。

「ショーン」

ショーンに握られている手は、引っ込んだ臍をくすぐった。

「うわっ!!!」

ショーンは、思いっきり体をのけぞらせた。

あまりの勢いに、オーランドも、引きずられて体を起こす。

間近で見るショーンの顔は、熟れたトマトのように、真っ赤だった。

「おはよ。何してんの?」

動揺して泳ぐ目をじっと見詰めて、わざとらしい声を出す。

ショーンの体は、オーランドを跨いだままだ。

たとえば、今、オーランドが起きたばかりだとしても、礼儀正しい彼にとって、この格好は、かなり恥ずかしいに違いない。

「…あっ…その…」

オーランドが眠っていたものだと、思っているショーンは、それでも、この状況を切り抜けようと必死に言葉を捜しているようだった。

残念ながら、オーランドは、そういう真似をショーンに許さない。

「ショーン、何がしたかったの?」

オーランドは、ショーンの頭を引き寄せて、耳元で、掠れた声を出す。

ショーンは、耳を遠ざけようとしてあがいている。勿論、オーランドは、離さない。

「お前が…あんまり起きないから…」

「つい一人でしちゃったの?」

「…っ!」

ショーンの言い訳を、オーランドは、瞬時に粉砕した。ショーンは、耳まで真っ赤になっている。

オーランドは、ショーンの赤い耳を噛み、震える腹に掌を当てる。

「言ってくれればいいのに…」

ショーンが、必死になって頭を振った。

「違う…違うんだ…あの…だから…」

どんなに、言いぬけようとも、確信を掴んでいるオーランドに動じることはない。

オーランドは、下腹に当てた掌を、ゆっくりと下へと動かした。

「オーリ!」

鋭い制止の声を上げて、ショーンが、オーランドの手首を掴む。

オーランドは、ショーンの耳の後ろへとキスをしながら、ショーンの行動をくすくすと笑った。

「いいじゃん。触らせてよ。娘さんたちは、学校なんでしょ?」

「お前!最初から!!」

「当たり。俳優を舐めちゃダメだって」

ショーンは、オーランドの頬を両手で包むと、思い切り力を入れた。

オーランドの顔は、ショーンの力にゆがんで、思い切り唇と突き出すような状態になる。

何をするのかと、思ったら、ショーンは、そのアヒルのようになった唇に、音を立てたキスをした。

「…これで帳消しにしてくれ」

気の毒なくらい恥じ入った様子のショーンだったが、オーランドは、さらさら止める気など、ないのだった。

寝ている自分を相手に、発情してしまうショーンがいるのに、何を遠慮する必要があるのか、オーランドには、全くわからない。

ベットから降りようとするショーンを捕まえようかと思ったが、もっと面白いことを思いついて、焦っているショーンの背中に声をかけた。

「朝食は、ここで食べていいの?」

ベットへと引き戻されることも覚悟していたらしいショーンは、ほっとした顔で、オーランドを振り返った。

耳がまだ赤い。

「ここでも、いいし、下に下りてきて食べてくれても構わない」

多分、ショーンは、このベットのある部屋から出たいのだろう。

盆を持ったまま、ドアとの距離を視線が辿っている。

オーランドは、せっかくだから、ここで。と、ショーンにベットへと朝食を運ぶことを要求した。

弱みを晒してしまったという認識のあるショーンは、オーランドの意見に同意を示す。

ショーンの用意してくれた朝食は、すっかり冷めてはいたが、大変食欲をそそる内容だった。

しかし、今、オーランドを支配しているのは、食欲とは違う欲望だ。

ショーンが、オーランドの膝の上に、食器の乗った盆を置いた。

オーランドは、その上から、デザート用のイチゴを摘むと、口にくわえて、盆を膝の上から降ろしてしまう。

イチゴをくわえた唇を突き出して、キスを請求すると、ショーンは、諦め顔でオーランドの脇へと手をついて、顔を寄せてきた。

オーランドは、ショーンの唇が触れる直前まで我慢して、ショーンが完全に瞳を閉じてしまうと、ショーンの腰に手をかけ、体をひねる。

口の中のイチゴは、自分でとっとと飲み込んで、押さえ込んだショーンへと何も無い唇で襲い掛かった。

「こらっ!…はなせっ!」

ショーンが、抵抗するのには、固くなっていた下半身を重ね合わせることで黙らせた。

シーツに隠れてショーンは、気づいていなかったようだが、オーランドのものは、ショーンのなんかより、よっぽど硬くなっている。

「一緒に、朝食を食べようよ」

オーランドは、ショーンの硬いものに、自分のを擦り合わせて提案した。

ショーンは、視線を合わせない。

「ねっ、一人でなんて味気ないよ」

オーランドは、甘えた声でショーンにねだった。

ここは、さっさとショーンの同意を取り付けなければならない。

簡単に応えられるお願いだと油断させて、常識を逸脱しないことだと勘違いさせて。

お互いの下半身という、ショーンが原因で起きた現象をはっきりと提示されて、ショーンは、葛藤を捻じ伏せ、オーランドの提案に同意した。

決断して、頷くまでには、大分時間がかかった。もしかしたら、オーランドの下半身があまりに露骨な反応を示していたからかもしれない。

オーランドは、内心、ショーンの判断の甘さに苦笑する。

いままでだって、何度も、オーランドのお願い攻撃から、酷い目にあってきたはずなのに、ショーンは、騙されやすい…それとも、騙してほしいのか。

勝手にショーンが騙して欲しいのだと結論を出したオーランドは、ショーンの尻をなで回した。

形のいい尻を掌に収め、存分に形を味わう。

実際のところ、オーランドは、ショーンに食事の同席を望んだわけではなかった。

ショーンにも、朝食を一緒に食べてもらうことを望んだのだ。…つまり、口ではなく咀嚼も消化もできない部分で。

その位、先ほどのショーンは、オーランドを煽り、普段から抑制することが苦手な彼の留金を外すだけ、衝撃的だった。

 

「だめだよね。ショーンが俺に欲情してることは、もう、しっかりばれてるんだし」

オーランドは、腕の中から逃げ出そうともがくショーンの体を、しっかりと抱きしめた。

密着した下半身は、ショーンのこりこりしたものを、ちゃんとオーランドに教えてくれる。

それが、さっきより、硬くなっていることだって、オーランドは、しっかりわかっている。

もう、こうなってしまえば、どんな常識だって、オーランドには通用しなかった。オーランドは、きちんと欲望を相手に伝えることも、愛情の一つだと信じている。

「オーリ、朝食を食べるんだろ」

「そうだよ。だから、ショーンも一緒に食べようよ」

「俺は、さっき、済ませたから…」

「大丈夫。絶対ショーンなら、食べられる」

じたばたと暴れるショーンの体を、オーランドは、押さえ込んで彼の手へと、唇へと寄せた。

「ねっ」

きれいな形の爪の先に唇を触れさせれば、先ほど自分がしていたことを当てこすっているんだと分かるショーンは、目尻を赤く染める。

「わかった。わかったから、尻を掴むのをやめろ」

「えー?朝食を一緒に食べてくれるんでしょ?」

「飯をくうのに、尻は関係ないだろう」

「それが、関係大ありなんだよね」

オーランドは、片手をショーンの首へとまわし、彼を逃げられないようホールドすると、残った手で、ショーンのズボンのボタンを外した。

身を捩るショーンに、オーランドは何度もイチゴの味がするキスを送って、作業はしっかり進行させる。

ショーンも自分が欲望を押し付けようとしていたという意識があるせいが、力任せな抵抗はしなかった。

どうしたって、久しぶりに会う恋人に、拒絶も甘くなる。

オーランドにとって、ショーンの優しさは、付け込みやすい部分だ。

「ショーンだって、俺に触って欲しかったんでしょ?」

外れたボタンのおかげで、ショーンのナマ肌がオーランドの自由になる。シャツの中にも手を突っ込んで、硬くなっている乳首にもタッチする。

いつもなら、理性や常識に縛られたショーンが、オーランドにしなくてもいい抵抗を繰り返すはずの展開だった。

それが、オーランドの上に体を重ねているショーンは、大人しく唇を噛んでいる。

考えられない状態に、オーランドは驚いて、思わずショーンを撫で回していた手を止めた。

ショーンが視線を上げ、オーランドの顔を見つめる。赤く染まった目元や、首筋が、中年男としては、反則としかいいようのない色気をかもし出している。

「…ショーン?」

ショーンは、オーランドの呼びかけには応えず、舌を伸ばして、オーランドにキスを求めた。

すがすがしい朝にはふさわしくない、続きをねだるようなキスだ。

とびっきり幸せな気持ちで、オーランドは、キスを返した。

こんなノリノリのショーンなんて、100年先まで拝めないかもしれない。

これは、ぜひ、一緒に朝食を食べていただかないと。

オーランドは、抵抗しないショーンのズボンに手をかけた。

 

「オーリ!」

肌を晒し、オーランドの手がその滑らかさを味わうことには、抵抗を示さなかったショーンだったが、オーランドが、ショーンを四つん這いにさせ、穴のなかに、蜂蜜を塗り込もうとすると、さすがに顔色をかえた。

蜂蜜は、ショーンが運んできたパンのそばの、小さな入れ物の中にたっぷり入っている。

「バターのほうがいい?」

パンの上には、溶けかけたバターがまだ残っていた。体温に触れれば溶けるだろうが、固形物より、液体のほうがいいとオーランドは考えたのだが…

「やめろ。食い物でそういうことをするな…ジェルなら取ってくるから」

「いいよ。俺は、ショーンと一緒に朝食を食べるって、言ったじゃん」

家に恋愛沙汰を持ち込まない主義のショーンからしたら、とても譲歩してつもりだった。しかし、オーランド的は、こんな事くらい、簡単に先へ進ませてくれないと困ってしまう。

オーランドは、硬くなっているショーンのペニスに蜂蜜まみれの手を伸ばし、とりあえず、そこを甘く味付けした。

広がる蜂蜜の匂いに、オーランドの腹が空腹を訴える。

オーランドは、ショーンの体の下へと潜り込んで、甘い味のするものを口に含んだ。

「おいしい」

ショーンは、腰が落ちすぎないよう注意しながら、オーランドに甘い味を与えてくれる。多少てこずらしてくれるが、やはり、ショーンもかなり乗り気だ。

オーランドは、ペニスを唇ではさんだまま、指先を、蜂蜜の入れ物へと伸ばした。

たっぷりとつけると、動くショーンの尻へと入れ込む。

「…お前…」

ショーンは、わずかに文句を口にしたが、どうしても嫌だというわけではないようだった。

入り口を蜂蜜のついた指がなぞり、少しずつ進入を試みても、フェラチオを止めさせるような真似をしない。

ショーンの中は、久しぶりだということもあって、随分かたくなっていた。これは、オーランドに、ショーンの貞節さを感じさせて、面倒くささよりも、嬉しさを味あわせる。

勿論、オーランドは、ショーンが一人でいることの淋しさに、自分で自分を慰めるような真似をして、ここがずっと柔らかかったりしても、ショーンを責めるつもりは無い。浮気さえしないでいてくれるなら、あとはどうでもいい。本当いうと、そんなショーンだって見てみたい。

もしそうだったら、ショーンの部屋中家捜ししても、お気に入りの道具を探し出して、目の前で実演を迫るんだけど…

蜂蜜の甘い香りにうっとりしながらショーンの中を弄繰り回していると、指がかなり自由に動くようになった。

ついでに、口の中のショーンのものも、かなり激しい自己主張をしている。

「ねぇ、ショーン、俺のもしてって言ってもいい?」

一体どうしちゃったの?という位、その気なショーンは、オーランドの下着をずらすと、口の奥まで銜え込んだ。

「…感激」

最初っから舌も唇も使って、口全体で楽しませてくれるショーンに、オーランドはシーツに包まる自分の夢じゃないだろうかと疑いたくなる。

もう、ショーンの電話の内容が、サッカー選手の話しだろうが、庭にきた鳥の話だろうが、そんな内容だけなのに、5分も話さずに切られたとか、会わずにいた間に積もった不満なんて、全然些細なことだ。

お返しにショーンにも最高の気分になれるようなフェラをしてあげたいところだったが、オーランドは、ひとまずショーンのものから口を離した。

2本目の指をショーンの中に埋める前に、ちょっと味見と、柔らかくなった穴に舌を伸ばす。

もう、最高なことに、ショーンはオーランドのフェラを止めることなく、腰を深く落すことで、オーランドに協力する姿勢をみせてくれた。

「あまーい」

蜂蜜でやらしい感じに光っている皮膚は、朝日の中にあるのが全く不道徳で、なまめかしいことこの上ない。

舌を穴の中に入れ込むと、まだ抵抗感の方が強いが、なんとか進んでいくことができる。

ぴくぴくする肌の感触を唇が、不意に締め付けられる驚きを舌が体験する。

「蜂蜜って、最高じゃん。スイートハニーってこんな感じ?」

「…オーリ」

オーランドのヘアーが濡れるほど、深くペニスを頬張っていたショーンが、脱力したようにオーランドの名を呼んだ。

「なに?ハニー」

「…恥ずかしい」

「なにが?ショーンのペニスがめっちゃ硬くなってること?穴の中嘗め回して欲しくておねだりしたくなってること?」

「お前のばかなおしゃべりがだよ。なにが、スイートハニーだ」

「ショーンがおいしいからだよ。なんなら俺もショーンのスイートハニーになってやろうか?あんた甘いの大好物だし、ペニスに蜂蜜ぬっても、食っちゃわないでよ」

「お痛ができないように、このままかぶりついてやってもいいぞ」

「そんなことすると、後で残念な気持ちになると思うなぁ」

「そうか?思い上がりじゃないか?」

「どうだろう。とりあえず、じゃ、試してみる?」

いれられるのだろうか?

まだ、準備が充分ではないと思うショーンは、慌てて腰を引こうとした。

目の前のオーランドのものは、指1本をまだ負担に感じているショーンには荷が重過ぎる。

オーランドは、ショーンを逃がさなかった。しっかりと太腿に手をかけて、移動を封じ込め、そのまま太腿を軸に、身体を引き起こす。高く上がったショーンの尻のまん前に顔を寄せたオーランドは、ショーンが上半身を起こそうとするのを、はしたなくも足を使って抱え込むことによって止めさせ、舌が嘗めてしまった蜂蜜を補充するため、もう一度指を穴へと突っ込んだ。

「お前…なんてこと」

まるで、格闘技状態のショーンは、真っ赤になった顔で怒っている。

「まぁまぁ。大人しくしなって。いきなり入れたりはしないからさ」

オーランドが大雑把に指につけた蜂蜜は、ショーンの尻に垂れ、ペニスに垂れ、シーツにもいくつか零れている。

蜂蜜は、ショーンの傷つきやすい粘膜だけでなく、まわりの皮膚も汚し、鈍く光を反射させるようになったところで、入れ物の中からなくなった。指も2本入るようになった。

オーランドは、わざとショーンの名前を呼んで、注意を向けさせると蜂蜜まみれの指を嘗めてみせる。

恋人の趣味の悪さに、ショーンは大きく舌打ちした。

「さてと」

オーランドは、枕もとにどかしてあった盆の上からソーセージを取った。

振り返ったままの、ショーンは、オーランドの行動に、顔を引きつらせる。

「食うのか?食うんだよな。オーランド、お前が食うんだよな」

「そんな、ショーン、わかりきったことを」

「まて、止めろ、冗談じゃない」

ショーンは、今までの抵抗など、まるで本気じゃなかったというところを実証した。

実は、オーランドの技など、はなから決まってもいなかったらしい。

すべて、ショーンがその気だったから、オーランドの思いのままになっただけのこと。裏を返せば、ショーンがその位オーランドが欲しくなっていたということだ。

しかし、オーランドは結構情けないことになってしまった。ショーンに身体を返されて、今はオーランドがショーンに馬乗りだ。しかも、ショーンの体に足を巻きつけたまま、片手にはソーセージだ。残念ながら、ここから、もう一度身体を返して技を決めるだけの筋力がオーランドにはない。あったらアクション俳優としても成功するだろう。

「ショーン。朝メシを一緒に食うって言ったじゃん」

「誰がそんなとこで食うんだ。口にくれ。口なら食ってやる。ほら、寄越せ。さっさとそのソーセージを俺に食わせろ」

オーランドは、とりあえず、ショーンの体からおりた。全く情けない限りだが、足の筋力でだけはウエイトのあるショーンをひっくり返すことなんてできない。でも、大きく口を開けたショーンには、ソーセージを渡さない。

「おっかしいなぁ。寝ぼけた俺の身体使って一人でやらしいことしてた人がいたはずなんだけど、なんでだろ。なんでお願いきいてくれないかな?」

「だからってお前…畜生…オーリ絶対に次はないと思えよ」

「ショーンだって、やりたいでしょ?俺とセックスしたいんじゃないの?」

「…」

オーランド一番の決まり技といえば、黒目をうるうるさせてお願いすることだ。これは、ショーンに強くダメージを与えるし、しかも返し技がきかない。

「…ソーセージはダメだ」

しばらくにらんでいたが、案の定、真っ赤な顔でショーンが小さく呟いた。

「わかった」

オーランドの手には、ソーセージが握られたままであり、こんな約束なんて嘘ばっかりだとわかっているのに、ショーンは、いちいち口に出してオーランドに約束させる。

多分、後で自分に言い訳する際に必要なのだ。

そのことがわかっているオーランドは、ショーンの為に平然と嘘をつく。

「…くそっ」

ショーンはシーツの上にのろのろと腹ばいになった。穴から溢れ出したもので、シーツが蜂蜜に粘ついている。

オーランドは、ショーンの後ろへと回った。

あまり協力的ではない腰を持ち上げて、蜂蜜まみれのお尻に舌を這わせる。

「オーリ約束を…」

「守る。守る。安心して」

言葉の終わらないうちに、オーランドは、ショーンの中へとソーセージを押し込んだ。

勿論、予測していたショーンは、体の力を抜いて、衝撃をやり過ごしている。

「はいっちゃった」

ペニスよりは細く短いものだが、穴の中へと押し込まれていくさまは、なかなかそそるものがある。

「…オーリ、お前…」

「ごめんねぇ。でも、おいしいでしょ?」

ショーンがオーランドを責めるのも、言葉遊びだ。

実のないオーランドの謝罪を聞きながら、ショーンは、シーツに顔を埋めて、身体のなかの異物にじっと耐えている。

オーランドは、ソーセージの先っぽが飛び出している尻へと口を寄せた。

「しっぽ?」

「…お前なんて、呪われてしまえ」

ショーンの言い方が、あまりにも悔しそうだったから、オーランドは、くすくすと笑って、ショーンのしっぽに口を寄せた。

「ちょっと、塩辛い味のするしっぽだね」

「…黙れ、クソガキ」

「はい、はい。黙ってあげますよ」

オーランドは、ショーンから突き出しているソーセージの端を摘んで、ゆっくり引きずり出した。

「…」

ショーンが、息を殺そうとしているのを観察しながら、何度か出し入れする。

ソーセージが深く入ってしまわないように、注意して、出し入れを繰り返す。

ショーンの腰が不自然に揺れる。

オーランドは、ショーンの注文とおり、それについて言及したりしない。

ただ、ソーセージを引き出すときに、捲れあがる赤い粘膜をじっと見ている。

「…っ、見るな!」

シーツに顔を埋めたショーンが、更なる注文をオーランドに出した。

言った後、真っ赤な顔をして、オーランドが目を閉じるかどうか確認する様が可愛らしくて、オーランドは、注文通りに瞼を閉じる。

目を閉じたって、オーランドはショーンを楽しませることが出来る。

手も、舌も、ショーンを味わう感覚は、まだオーランドに残されている。

オーランドは、ショーンの尻に手を置いて、顔をソーセージが突き出しているはずの部分へと近づけた。

最初に、鼻がぶつかったのには、オーランドだって驚いたが、ショーンも、ビックリしたらしい。

身体が、慄いている。

オーランドは、やはり目を瞑ったままというのは、不便だと、思いながらも、位置を修正し、ショーンから生えているソーセージを口に含んだ。

嫌がるのは承知の上だが、そのまま中へと押し込んでいき、周りに溢れる蜂蜜と一緒に嘗め回す。

蜂蜜を一生懸命嘗め取る自分が、まるで犬になったようだと、おかしく思った。

それでも、早くなるショーンの息遣いを聞いていると、そうしたくなる衝動を抑えることができない。

ゆっくりと押し出されてくるソーセージに、小さく歯を立てた。

かぷりと、いう音に反応したのか、それとも、皮膚にあたった歯の感触に驚いたのか、ショーンが慌てて身体を返そうとする。

オーランドは、手に力を入れて、ショーンの動きを止めた。

「…食べたか?」

ショーンの声は、まさに恐る恐るという感じだった。オーランドの返事を恐がっているのが、声だけで、ありありと感じることが出来る。

「食べた。蜂蜜まみれのソーセージってのは、初めて食べたけど、うん、ちょっと変な味だ」

「食うな!!!」

ショーンは、かなり本気でオーランドを振り切ろうとした。しかし、今度の抵抗は、全く予想の範囲内だったので、オーランドは、全体重をショーンの腰にかけて、ショーンから離れなかった。

「ショーン!あんた注文多すぎ」

暴れた拍子に、押し出されてしまうソーセージに、がぶりと齧り付く。

「変な味。変な味!」

あまりに抵抗するショーンに、オーランドは、子供のようにはやし立てる。もう願いを叶える気をなくして、目を開けて真っ赤になったショーンを見下ろす。

「塩味と、蜂蜜の味がめっちゃ微妙。でも、ショーンの味がするから、おいしく食べられるかな」

大きく顎を動かして口の中のものを咀嚼するオーランドを、ショーンは、下から赤い顔をして睨みつけた。

肩が少し震えている。

それでも、ショーンのものの興奮が冷めていないのが、オーランドを嬉しくさせる。

もしかしたら、この抵抗のあるシュチエーションで、さらに熱くなっているかもしれない。

「ショーンも食べてみたい?」

「…いやだ」

「ほんと?食べてみたいんじゃない?食べさせて上げよっか?」

「絶対に嫌だ。お前も止めろ。もう、これは、止めにしよう」

「…まっ、いっか。ショーンもここで、食べたことだしね」

半分ほどに減ってしまったソーセージを指で引き出し、オーランドは口の中へと放り込む。

「止めろ!お前、本当に趣味が悪いぞ」

「そうでも、ないって。この位は、ノーマルな範囲」

「…うそだ」

オーランドは、ソーセージを残らず、平らげた。

ショーンは、そんなオーランドを恨みがましい目つきで見ている。

「ショーンだって、結構変なこと好きじゃん」

「俺が、いつ!」

「え?だって、声が漏れるから嫌だとかいいながら、風呂場でやるの大好きだし、身体を織り込まれるみたいにされて身動きできない時、めっちくちゃ感じてるじゃん。

俺は、知ってるんだよね。…あんた、焦らされたり、恥ずかしいことされたりするの好きなんだよ」

ショーンは、シーツの中へと顔を埋めた。

思い当たる節があるらしい。

しかし、オーランドだって焦らされすぎて外面をかなぐり捨てたショーンが、求めるときの様子が好きだ。

恥ずかしい要求を繰り返すのも、それに抵抗を示しながらも、なんとかオーランドの要求を飲もうとするショーンが愛しいからだ。

ま、いわゆるベストカップルってやつだよね?

オーランドは、ショーンの赤い背中に唇を寄せた。

形のいい肩甲骨まで、舌でなぞる。

「ねぇ、ノーマルじゃないことしたいって言ったら、ダメ?」

「だめ…だ。…一体これ以上、何がしたいって言うんだ」

「うーんとね、サラダに、ショーンのドレッシングをかけて食べたいなぁ」

ショーンは、がっくりと肩を落した。

頭を抱え込むようにして、シーツにうつっぷす。

「…お前についていけないよ」

「そう?あんまり、いまのと変わんないって」

「人が作った朝飯を…」

「だから、おいしくちゃんと食べるって。残さず、全部食べます。それは、どんな味になろうが保証する」

「…そんなにしたものを食われたくないんだよ。俺が!」

ショーンが大きな声を出した。オーランドは、平然と怒りを受け止める。

「何を難しく考えてるの?俺は、ショーンの精液を飲むでしょ?それに、サラダだって、食べる。両方一緒になったからって、何か、問題ある?」

「ないと考えるお前に問題がある」

「ないない。ここには、俺とショーンの二人っきりなんだから、どんなことしても、平気。二人で楽しめたら、どんなことも、愛情表現でしょ?」

「…俺は、選択を間違えた…」

ショーンが、わざとらしい悲しみを演技して見せる。オーランドは、そのいかにもな演技を鼻で笑った。

「またまた、そんなに嫌じゃないでしょ?っうか、嫌だけどやっちゃってもいいって思ってるでしょ?ここが、裏切ってるよ。もう、セックスするためなら、なんでも許す気だね。

そんなショーンが大好きだけど」

オーランドは、ショーンの、股の間に手を伸ばした。

充実したそれは、確かに嫌がってみせるショーンを裏切っている。

しかし、ショーンにだって、言い分がある。

久し振りの恋人と一つのベットにいて、身体を撫であって、キスを繰り返したら、セックスを欲しくなってもおかしいことじゃない。恋人の多少の我侭に目を瞑ることだって、普通だろう。

だが、オーランドのは、範囲を超えていないか?

オーランドの目は、ショーンが頷くのを待っていた。

加齢を裏切る美しいラインを描く背中を撫でながら、ショーンが陥落するのを待っている。

どうのこうのと文句をつけても、ショーンがオーランドの要求を撥ね付けることは少ない。

だから、オーランドは自信をもって待っていられる。

その位惚れられているし、彼がどうしても出来ないことなどショーンに惚れているオーランドは要求しない。

背中を撫でていた手を、後ろへずらして、尻を辿る。

蜂蜜の粘り気を残す穴の中へ、指を入れ込む。

「ここで、俺の食いたくない?ショーン、もう腹ペコでしょ?」

先ほどのソーセージによる刺激があるせいか、ショーンの粘膜は、オーランドの指に敏感に反応した。

オーランドの指を食い尽くす気がありありだ。

「俺も、ショーンの中に入れてほしいなぁ。ショーンにぎゅってしてもらったり、したいんだけど?」

ショーンは、指を、オーランドが言うところのぎゅっとする。つまり、きつく締め上げる。

オーランドは、締め付けを楽しみながら、指を中でかき回す。

「好きでしょ?こうやって、もっといいもので、かき回してあげたりしたいんだけどなぁ?」

…ねぇ、だめ?

それは、悪魔のささやきだった。

ショーンは、オーランドに餓えていた。

そのせいで、この家に、恋人との恋愛を持ち込まないなんて堅実な考えは、とうに放棄してしまった。

ショーンは、オーランドを感じたかった。

そのためなら、あと一つや二つ、常識を投げ捨ててもいい位。

指が、ショーンの中を抉る。

かき回して、広げていく。

いいところを掠める。

オーランドがとても、欲しい。

オーランドに頷いてみせることなど、簡単なことだ。

欲しいといえば…かなう。

愛情も、肉体も、ショーンのものになる。

…なるのだ。

ただ、頷くだけだ。

ここには、二人しかいなくて、どんなことだって二人で楽しめるのならば、許される。

「ショーン、どうしよう?」

オーランドは、指を入れ込んだまま、回り込んでショーンの顔を覗き込んだ。

ショーンがゆっくりとシーツから顔を上げる。

ショーンの目元が赤く染まっている。

餓えたような舌が、唇をちろりとなめる。

浅い息がオーランドにかかる。

視線が、オーランドを捉える。

だから、こういう場での実力をいえば、経験の多いショーンの方が圧倒的に有利なのだ。

焦れているショーンの様子にやられて、オーランドは喉を鳴らすことになる。

ショーンの欲望を映したが目、オーランドの瞳を覗き込んで、誘いかける。

意識してか、そうでないのか、舌が、口の中で動くのが、オーランドの下半身を直撃する。

忍耐力だってオーランドの方がずっと低い。

そんなショーンを前に耐えていられない。

「…ごめん。ショーン、もう、させてください」

オーランドの殊勝な言い分に、ショーンが、くしゃりと笑顔をつくった。

柔らかで、優しい顔に引き寄せられるように、オーランドは、キスをする。

「もう、ショーンには、適わない。俺、いっつもお願いしてやらせてもらう立場じゃん。一回くらい入れてってお願いしてよね」

「…入れてくれよ。オーリ。お前が欲しいよ」

「だから!そういうんじゃなくてね、そういうんじゃないんだけど、もう、あんまり色っぽい声だすから、我慢できないじゃん。今度は、必ず、ショーンからお願いさせてみせるんだからね!」

焦ったように何度かキスを繰り返し、指の本数を増やすのももどかしそうに、ショーンの後ろへと回り込んだオーランドは、結構情けない状態だった。

でも、そんなことに構っていられないほど、オーランドはショーンに煽られていた。

ショーンの体全体がオーランドに誘いかける。

オーランドのために、広く開かれる足の角度や、待ち受けるように緊張する首から肩のライン。

綺麗な背中。

シーツに置かれた長い指。

金の毛が僅かにゆれる。腰がじれったそうに振られる。

オーランドを待ってくれている。

「ショーン、入れるよ」

「…ん」

くぐもったような返答を聞きながら、オーランドは、ショーンの中へと埋めていった。

「…ふうっ」

引き込んで強く締め付けようとするショーンに引きずられないように注意して、オーランドは、ショーンの内部を味わう。ショーンは、腰をゆっくりと前後させる。

オーランドには、全く、分がわるい。背後から挿入すると、ショーンの自由がきく分、オーランドはショーンに煽られる。

それでなくとも、オーランドは、ショーンの綺麗な背中に特別な思い入れがある。

綺麗だとは、ずっと思っていたが、セックスをするようになったら、フェチの域まで達してしまった。

その背中が、こう目の前で動くところを見ていると、視覚からもくるものがある。

一人でするときに、この背中を思っていると言ったら、ショーンは困った顔をするだろうか。

それとも大笑いするんだろうか。

オーランドは、ショーンの尻を捕まえて、動けないようにすると、奥へと深く入れて、そこをなんども抉るように動かした。

「…んっ…っ…」

ショーンは、そんなに派手な声を上げるほうではないが、だからといって、慎み深いとは、言い切れない。

気持ちのいいことには、きちんと反応を返すし、そうすることで快感をもっと煽ろうと無意識に計算している節がある。

とにかく、オーランドが簡単に乗りこなせるようなしろものではない。

オーランドは、主導権を確立するため、挿入したまま、ショーンを仰向けにひっくり返した。

膝が胸に付くように、身体を折り曲げて、身動きを封じる。

ショーンの目が泳いだ。

目元が赤く染まっている。

オーランドは知っている。

ショーンは、こうされるのが好きだ。

「いい、でしょ?」

オーランドは、深くまで腰を前後させながら、ショーンの目を覗きこんだ。

反らされる視線を追いながら、ぐいぐいとショーンの内部に押し入る。

「いいって、言わないと、いつまでもショーンの好きなとこしてあげないよ」

ショーンが、動かない腰を僅かに振る。

「無理無理。何度もしてるんだから、知ってるでしょ?」

「…オーリ」

ショーンの手がオーランドに向かって伸ばされた。

長く真っ直ぐな指がオーランドの顔にさわり、唇に侵入しようとしている。

オーランドは、指先を噛んだ。

ショーンが口元を緩めて微笑む。

ゆるく噛んでいる指を残して、他の指が、オーランドの皮膚を撫でる。

「…なぁ、してくれよ。俺はいつまで我慢させられるんだ?」

ショーンは、オーランドの目を覗きこんだ。反らし気味の顎のラインは、計算しているとしか思えない。

そこから見える、白い歯や上顎が、どんなにオーランドを煽るのか、ショーンは知っているに違いない。

「……相変わらず、ずるいなぁ……」

オーランドは、腰を止めてため息をついた。

色事に長けた恋人というのは、こういうとき困ると、噛んでいる指先に力をこめる。

「ショーンがぐずぐずに溶けちゃうとこがみてみたいよ」

「いつも、お前にされてるだろ」

「…そうだっけ?」

オーランドは、手を伸ばして、ショーンの顔を撫でた。

くすぐったがる頬を辿って、耳の後ろをそっと撫でる。

入れたまま動かないものに、ショーンが腰を捩る。

「うーん。たしかに、ここは、欲しがってくれちゃってるんだけどなぁ…」

何度も締め付けてくる穴に、オーランドはサービスして大きく腰を回す。

けれども、ショーンの言いなりになるしかない自分が悔しくて、その後は、ゆっくり、少ししか腰を動かしてやらない。

ショーンは何度も、身じろぎをした。

それでも、オーランドが押さえつけているので、思い通りに感じることができない。

焦らされるのだって嫌いじゃない。でも、今は欲しくて、焦りすら感じる。

「…なぁ、ドレッシングをかけてやると、言わないと、このまま適当に済ます気なのか?」

浅い挿入で焦らしつづけるオーランドに、ショーンは眉を寄せた。

「そうだって言ったら、ショーンは、承諾してくれるのかな?」

オーランドは憎らしい返答をした。

しかし、オーランドだって、ショーンの目が、欲しがってくれていることや、何度も捩られる腰や、引き寄せようとする手の動きに、このまま焦らしつづけることなど出来はしないかった。

だが、困らせるためだけに、言ってみただけだ。

言ってみたが、やはり、我慢なんて出来なかった。

ショーンの中が、オーランドを締め付け、中へ中へと引き込もうとしている。

押さえつけられ殆ど動かない腰が、それでも、左右に振られる。

くわえ込んでいる入り口が、ぎゅっとオーランドを締め付ける。

我慢していても、オーランドの動きは、次第に大きくなる。

「…んっ、なぁ、…もっと…もっと」

「ショーン」

「んんっ…いいから。なぁ、オーリ、何でもするから…なぁ、もっと」

我慢しきれず、ショーンの内部を擦り始めたオーランドの動きが、期せずしてショーンを陥落させた。

オーランドは、ショーンの望み通り、いや、自分の欲望のままという方が正しいのだが。大きく腰を使って、内部を抉る。

足を織り込まれたまま、身動きの取れないショーンは、激しく打ち込まれる腰の衝撃に感じている。

「ん…あっ…ああ…あ…オーリ…オーリ…」

シーツを掴んだり、オーランドを捕まえようとしたり、激しく動くショーンの手が、オーランドを煽る。

足をすくい上げ、自分の膝の上に載せるようにして、結合を深めると、違う部分が擦られ、ショーンが高い声を出す。

横に転がし、足を裂くと、ショーンは、自分からオーランドに絡み付いてきた。

「ショーン、いいんだ?」

「ん…最高…ずっとオーリとしたかったよ」

大きく足を開いたまま、ショーンは、キスを求めてオーランドに顔を差し出す。

「参るよね。ショーンはそういうこと簡単に口にしちゃうんだから…」

キスの間も、腰の動きに中止はなしだ。

ショーンの手は、欲望に忠実に、自分の胸を這い、ペニスを握る。

「こっちは、してあげるから」

オーランドは、乳首に吸い付いて、ショーンから甘い吐息を吐き出させた。

ショーンの腕が、オーランドの頭を抱え込む。

「オーリ、好きだよ。オーリ、大好きだ」

「俺も」

オーランドは、ショーンの乳首を唾液まみれにさせながら、くぐもった声で答えた。

「なぁ…」

潤んだ目が、オーランドを覗き込むので、ショーンのペニスに手を伸ばすと、そこはもう、精一杯の我慢をしている状態だった。

「余裕ないね」

「ないよ。久し振りにお前とセックスしてるんだから」

オーランドは、嬉しいことばかり言う口を、キスで塞いでしまった。

キスしながら、手を動かしてくちゃくちゃと音を立ててやる。

本当に余裕のないショーンは、腰を捩る。

「ん…イクって、そんなにしたら、出る…オーリ」

キスの合間に、ショーンが言う。

「いいじゃん。出せよ。何でダメ?」

「…ドレッシング…」

ショーンは言いにくそうに口にして、恥ずかしそうに目を伏せた。

「そう、そう!そうだよね!」

ショーンの内部の心地よさや、煽られる媚態にすっかり忘れていたとは言えないオーランドは、慌てて盆の上からサラダボールを引き寄せる。

それから一生懸命考えて、ショーンにたっぷり恥ずかしい思いをさせられるのは、どの格好だろうと、ショーンのことをうつ伏せにさせた。

ペニスの下に、サラダを置く。

「しっかり腕で支えててくれないと、ペニスがキャベツまみれになるからね」

サラダを跨ぐショーンの柔らかい穴の中へ、オーランドは、硬いものを突き入れる。

何度も、何度も、ショーンのいい部分を擦った。

いつもなら、ショーンはもう、とっくに射精している。

身体が痙攣するほどショーンだって感じているのに、ショーンは、まだいけない。

背中が異様に緊張している。

とても、感じている。

だが、サラダだ。サラダが気になって出すことが出来ずにいる。

「…ショーン、大丈夫。どんなことしても、俺はショーンが大好きだよ」

「…オーリ…」

振り返ったショーンは、情けないような泣き笑いの顔をして、オーランドが深く抉った瞬間、目を閉じると身体を震わせた。

「…んっ…ん…ああ…」

身体を引き絞るショーンに、内部のオーランドもきつく締め上げられる。

オーランドは、ショーンの快感を持続させるよう、激しく腰を揺すりたてて、泣き声のような甘い声に満足すると、ショーンの中へと解放した。

注ぎ込まれるオーランドの精液に、ショーンは、また体を震わせる。

「ショーン?」

力が抜けて重くなったショーンの体が、サラダに突っ込まないよう、オーランドは持ち上げ、ベットに横たえた。

サラダには、上手い具合にドレッシングがかかっている。

ショーンのペニスにも、やはり、キャベツがついてしまっている。

オーランドは、ショーンのペニスに、かぶりついた。

まだ、敏感なショーンは、体を折って逃げようとする。

「ちょっと、きれいにするだけだから」

オーランドは、もごもごとはっきりしない発音で言って、逃げるショーンのペニスを嘗めた。

 

なんとか、ショーンも、落ち着いて、あちこちに染みの付いたシーツの上に転がる二人の前には、朝食が残されている。

「なぁ…新しく作り直してやるから…」

サラダボールを手に、フォークを握るオーランドに、顔をしかめたショーンが、言う。

「なんで?平気じゃん。作りたてドレッシングでしょ?」

「……やっぱ、お前との付き合いを考えたくなるよ。

…なぁ、オーリ、やめろよ」

大きく口を開くオーランドに、力ないショーンの声が中止を求める。

オーランドは、キャベツを口の中へと放り込んだ。

「平気。…うん。上手いじゃん。変な味だけどね、ショーンのだと思えば上手い」

「…食ったな…もう、ダメだ。俺は、とんでもない間違いを犯した。人間として、俺は、とんでもないことをした…」

ショーンが脱力したようにシーツの中へともぐりこむ。

その隣で、オーランドは、もしゃもしゃとサラダを平らげ、盆に残っているトーストや、ジュース、デザートのイチゴを黙々と消化する。

「ショーン?」

頭までシーツの中に潜り込んでいるショーンを探して、オーランドは、シーツの中へ手を入れた。

手は探り当てた、滑らかな背中と、尻を撫でる。

「ショーン?」

反応がないので、悪戯に、ペニスへと手を伸ばした。

「なんだ。ショックなのかと思ったけど、やっぱ、ショーンもいいんじゃん」

ショーンのペニスは、通常の状態であると言い張るには、硬くなりすぎていた。

弱みを掴まれているくせに、ショーンは、まだ知らん振りだ。

「俺が食べてるの見て、感じちゃった?」

手の中のものを弄りながら、オーランドはシーツの中のショーンと顔を探す。

シーツの中で、ショーンは、真っ赤になって、目をきつく瞑っていた。

「ショーン、まだ、イチゴが一個残ってるんだけどね、ショーンの中に入れてあげよっか」

「…もう、いやだ。普通のセックスがいい」

目を開けずに、ショーンが言う。

「普通のセックスだったら、もっとしてもいいの?」

「……いい」

ショーンが腕を伸ばして、オーランドの首をきつく抱き締める。

まるでヘッドロックだ。

オーランドは笑ってショーンの上に倒れ込んだ。

「セックスが終わったら昼食を作ってくれる?」

「普通に食うなら、作ってやる」

「じゃあ、普通のことだけ、することにしようか」

オーランドは、愛していると何度か告げて、ショーンの薄い唇にキスを繰り返した。

デザートのイチゴが一つだけ皿の上に残っている。

 

END

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ショーンさんと食べ物ネタ。

いつかはやってみたい題材だと思うんですけど、いかがでしょうか?

書き終わってから気付きました。

Oくんは、ベジタリアンなんでしたよね。…ハハハ。

食べるのだろうか。ソーセージ。

妄想が激しくてすみませんでした