おはよう。おはよう。
「ショーン、朝だよ」
空の酒瓶やら、空き缶やら、煙草の吸殻、食べかけの皿、食べ終わった皿、何もかも、ごちゃごちゃと床の上に散乱してる空間で、オーランドは、頭を抑えながら、辛うじてソファーの上に寝転がっているショーンを揺さぶっていた。
多分、狭いソファーを分け合っていて、床に転げ落ちたらしいイライジャは、床とソファーの狭い空間に、頭を押し込もうと、苦労した形跡を残したまま苦しそうな顔をして眠っている。
ドミニクは、窓の壁に凭れ掛かったままだ。テレビだってついているし、蛍光灯も太陽光のなか、間抜けな顔をして灯っている。
飲みすぎた自覚のあるオーランドの頭はがんがんとしている。
「ねぇ、起きなって。あんた朝、早いって言ってたよね」
オーランドの倒れこんでいたのは廊下で、何故か頭の上で、目覚ましが鳴っていた。恐ろしい音が、頭蓋骨を揺さぶり、地獄のような朝を、オーランドに教えてくれたのだ。
とりあえず、目覚ましを掛けた本人を起こさなければならない。
「おい、起きなって。遅れるぞ」
ショーンは、揺さぶるオーランドの手を避けるように、背中を向けて体を丸めようしていた。
痛む頭に手を当てたまま、オーランドは、辛抱強くショーンに声を掛ける。
「おい、朝だって」
「…うん。うん。うん、いま」
ショーンではなく、下に転がるイライジャが返事をした。しかし、眠ったまま、だ。
「ショーン!」
頭に響くことは覚悟して、少し大きな声で呼びかける。
ショーンは、寝返りを打ち、オーランドに顔を向ける。目は殆ど開かれていない。
ショーンの長い指がオーランドに向かって伸ばされた。オーランドの首を捕まえ、ものすごく繊細な仕草で、耳を撫でる。
「ショ、ショーン?」
ショーンは、瞼を閉じたまま、首に縋りつくようにして身体を起こし、顎や、頬に唇をよせる。
「…んっ、もう、すこし…」
抱きついたまま、軽く耳を唇にはさみ、寝言のような不確かな声で、オーランドに囁きかける。
「ちょっ…ねぇ、ショーン…ねぇ!」
縋りつく腕は、ぐったりと重く、ショーンが未だ眠りの中にあるのは、確実だった。
しかし、おそろしい色気だ。なんというか、フェロモンとでもいいたいようなものが、ショーンから、溢れ出している。
とにかく眠りたいらしいショーンは、うるさいオーランドを黙らそうと、何度も顔にキスを繰り返す。
「…もう…すこし」
唇を押し付けるだけのキスの合間に、ぐずるような声を漏らす。
「…セクシー俳優というのは…恐ろしい…」
全く無意識だからだろう。ショーンは、眠りたいという欲求のためだけに、より長い睡眠を得る方法を躊躇い無く実行していた。
ショーンの行動は、確実に人を惹きつける。そんなに甘えてくれるなら…と許したくなってしまう。逆らい難い魅力に溢れている。
全開の色気という武器がもつ恐ろしさを、オーランドは体験した。
しかし、女ならそれだけですむのだろうが、男のオーランドだと、そのまま寝かして置けないような居心地の悪い気持ちにすらなってしまう。首筋で寝息を漏らされて、オーランドは、ついふらふらとその気になりかけていた。
「…ショーン?」
「うん。起きるから…あと、すこし」
完全に寝ぼけているショーンは、ねだると、許してもらおうとキスを繰り返す。
声は、かすれ気味で、背筋をぞくぞくとさせる。
おいおい、ショーン。いままで、どんな生活を送ってきたんだ?
オーランドは、足元に転がるイライジャや、壁のドミニクを見た。二人とも何が起こっても起きないんじゃないかというほど、必死な顔をして眠っている。
「ショーン、起きないと、襲っちゃうよ」
オーランドはショーンの耳を噛んで、声を流し込んだ。ショーンは、目覚めを誘うような刺激を嫌がって、首を振っている。オーランドが噛むのを止めると、また、首筋に顔をうずめようとする。
「ねぇ、ショーン、本当に酷いことしちゃうよ」
「うん。うん…もうちょっと」
ショーンは、オーランドの首へとキスを繰り返した。
「もう、たまんないなぁ。朝から、こんななんて、最高だけど、最悪」
ワークパンツの中が大きくなり始めて、オーランドはため息をついた。
何かしたくとも、ここでは出来ないし、ショーンは仕事に出かけなければならない。なにより、ショーンの承諾が無い。まだ、キスまでしか、承諾をもらっていない。
そんな時に、こんなに色っぽくなられては、迷惑だと思う。首にぶら下がる色気の塊とかしたショーンをオーランドはもてあました。
「…はぁ…」
ため息をついて、無理に手を伸ばすと、目覚ましを手に取った。
アラームを今の時間に合わせて、ショーンの耳元でボタンをオンにした。
オーランドの頭蓋骨をも揺さぶる地獄の音が鳴り響く。
「起きます!起きます!今、起きます!」
一番最初に、床からイライジャが飛び上がった。
ショーンも目を見開いて辺りを仕切りとうかがっている。あまりに驚いたためか、オーランドの首に回した腕に力が込められ、頬まで摺り寄せられている。
「おはよう…すごい寝技を見せてもらったよ」
オーランドがショーンの頬にキスをすると、慌てたようにショーンは体を離した。
「あれ?えっと、あ…」
イライジャと、ショーンは、同じような疑問の声を出し、イライジャの方はそのまま床へと崩れ落ちていった。…まだ、眠いらしい。
「ショーンは、朝から仕事だって話だろ。もう、寝るなよ」
頭を抑えているショーンに、オーランドは、バスルームを指差した。
「モーニングキスは、十分してもらったからいいよ。ほら、顔洗ってきな」
今ごろになってドミニクが、悪態をつきながら瞼を開けようとしている。
「ほら、まだ、眠いって俺に甘えちゃう気なのかい?」
ショーンは、瞬きを繰り返し、居心地悪気にオーランドの表情をうかがっていた。
「あの…俺…なんかしたか?」
「まぁ、いろいろと。すばらしい技を見せてもらったよ」
ショーンは、大きくため息をついて立ち上がると、バスルームに向かって歩き出した。
がっくり肩を落ちている。二日酔いのためだけではないだろう。
誰かにしたことがあるのだ。まぁ、あれは、初めてとは思えない熟練振りだった。
「時間、自分でちゃんと確かめなよ。俺、目覚ましが鳴ったから起こしただけだからな」
水音の聞こえ始めたバスルームに向かって、オーランドは、叫ぶ。
テレビでは、すっきりとした顔のキャスターが今日は晴れだと笑っていた。
「じゃ。行くから」
「ああ、後で」
頭が痛い。と、思っているうちに、オーランドはもう一度眠りに落ちてしまっていたらしい。
扉の閉まる音に、ソファの上で意識を取り戻した。
床のものを拾い集めているドミニクと目があって、オーランドはショーンが出かけたことに気が付いた。
ドミニクは、顰め面をして空き缶をひとつにと纏めている。
「オーリ、なんか、わかんないけど、ショーンが謝っておいてくれって、言ってた」
口をきくのも頭が痛むのか、しきりと顔をしかめている。
オーランドの状況もそんなに変わらない。
「昨日、そんなにショーン、すごかったっけ?」
「…昨日、と、いうより、今朝、凄かった」
「そうなんだ」
ドミニクは、それ以上、突っ込んでは来ない。頭の痛み以外のことは、考えることは出来ないらしい。
オーランドもそれ以上言うつもりはなかった。
あれは、しゃべってしまうのが勿体無い。
「おや、セクシーダイナマイトってば、気が利くじゃん」
オーランドは、机の上に置かれた人数分のコップと薬を見て笑おうとしたが、さっきより酷くなっている頭痛に顔をしかめた。
END
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まだできてない頃の二人です。
これから、きっと花ちゃんががんばって落とすんでしょうね。
やってない二人も書けるじゃん!って、思いました。(笑)