みてみなよ (道の途中 その後)
いつも通り、全く手をかけない朝食をオーランドが用意し、家主は、ぼんやりとした顔でテーブルがセットされるのを待っていた。
これを怠慢だと、切り捨てることもできたが、オーランドは、起き抜けの油断しきったショーンの顔が結構好きだった。
ショーンは、新聞を広げているが、大方頭に入っていない。
時々、髪をかき回し、大きなあくびをして、眠たそうに目を閉じる。
オーランドが、適当に、洗濯機を回すせいで、量産されていく、首の伸びたTシャツを文句も言わずに着ている。
決して、オーランドを手伝おうとはしない。
オーランドとこういう関係になる前は、食事の用意をどうしていたのだと、一度、ショーンに聞いてみたかった。
いや、聞いたら、その時は、もっと、手の込んだ朝食を作ってくれる彼女がここに通っていてくれたんだと、平気な顔で答えるかもしれない。
反対に、もっと、まともな飯を作れと言い出す可能性だって、ショーンにはある。
なんというか、ずぼらなのだ。
行動もだが、人の心の機微というものに対して、ショーンはずぼらだ。
付き合ってみて、オーランドは、随分呆れた。
ショーンは、驚くほど、人に気持ちに疎い。
なんというか、察そうとか、そういう努力を全くしない。
オーランドは、ショーンのことを、もっと、優しくて、真面目なタイプだと思っていた。
頼りがいがあり、それでいて、可愛げがあって、随分魅力的な人物だと誤解していた。
いや、ショーンは、勿論、魅力的だ。
顔だって、身体だって、人を惹き付けるラインをこれでもかと、詰め込んだ造りをしているし、基本的に優しい。
そして、穏やかだ。
洗濯をするのが嫌いだとか、嫉妬されるのが、心底嫌だとか、肉体的接触の多すぎる親友を大事にしているだとか、いろいろ問題を抱えてはいるが、オーランドを捉えて離さない魅力に溢れている。
しかし、ずぼらだ。
そうりゃぁもう、まめだとは、言い切れないオーランドですら、呆れるくらいにすぼらだ。
「ショーン、そろそろ、新聞を畳みな。この間みたいに、コップを引っ掛けるよ」
「…ああ」
寝ぼけているような面倒くさそうなショーンの声は、そう言いながらも、オーランドの言葉に従った。
のろのろと、新聞を畳んで、乱雑に、テーブルに置く。
その下には、やはり、そうやって積み重ねられたらしい、新聞が、2日分溜まっている。
撮影は、きつい。
連日深夜までカメラの前に立ちつづけるのは、若いオーランドにしても、疲労が身体に残る。
ショーンも疲れているのだろう。
だるそうな動作だけでなく、切れ長の目の下にクマができていた。
だが、そんな状況でも、ショーンは、オーランドが家に立ち寄ることを許していた。
時間が許すのであえば、泊っていくことも、禁止されなかった。
2人は、同じベッドで眠った。
正し、セックスは、なかった。
昨日の晩も、2人一緒に眠っただけだ。
オーランドにだって、確かにそんな気力は残っていなかったが、でも、ショーンからお願いされたら、努力した。
勿論、ショーンは、お願いなんかしない。
それどころか、ショーンを抱きしめて眠ろうとしたオーランドをうっとおしいと、ベッドの端へと蹴り飛ばすようなことまでした。
それでも、オーランドは、ショーンが愛しい。
ショーンは、机の上に載せられた、シリアルをむしゃむしゃと食べ始めた。
ついでだったのかもしれないが、ミルクをオーランドの分まで、注いでくれた。
「ありがとう。ショーン」
「…ん」
朝の会話は最小限だ。
特にオーランドと話している時は、それが顕著だ。
これで、ヴィゴから電話が掛かってきて、撮影所に行ってから話せばいいような無駄話をされたら、この10倍は返事をする。
スタッフからの連絡だったりすると、もっと礼儀正しく受け答える。
「ショーン、今日の撮影、午後からで、いいんだよね」
「…そう」
ショーンは、黙々とシリアルを食べている。
わざわざオーランドと視線を合わせるようなこともしない。
「だったら、まだ、時間あるよね?」
オーランドは、すこしばかりショーンが憎らしくなって、嫌味なほど優しい声でショーンの注意を引いた。
こういうところが、ショーンに、嫉妬ぶかいと言われる所以かもしれない。
だが、この程度のことは、オーランドにしてみれば、普通のことだ。
もっと、愛しあっていたって、問題はない。
「…ん?お前は?お前も、午後から?」
やっと、ショーンがまともにオーランドを見た。
オーランドは、寝癖でくちゃくちゃになったショーンの髪を手櫛で梳いた。
「俺は、もっと遅くて、夕方から。ショーン、恋人のタイムスケジュールくらい把握しといてよ」
「じゃ、いうけど、俺も、6時にスタジオ入りすればいいんだ。昨日の帰りに、急に言われた。お前だって、俺のスケジュール押さえてないだろ?おあいこだ。おあいこ」
ショーンは、スプーンを振り回して、自分の正当性を主張した。
「違う!ショーンは俺に一言だってそんなことは言わなかっただろ?俺は、二度は言ったね。ここに来る前と、泊ってもいいかと聞いたときだ。あっ、そうだよ。寝る前にも言った。せめてキスさせてくれって言ったら、あんた、仕事の早い奴はだめだって。その時、三回目の、明日の仕事は午後からだって、ちゃんとしゃべった」
オーランドは、いかにも卑怯者のショーンを追い詰めすぎないよう計算しながら追い詰め、ショーンは、オーランドの甘い拘束ですら、心底嫌そうな顔をした。
それでも、ショーンは、オーランドと顔を合わせた。
面倒くさそうにしながらも、恋人に精一杯合わせようとしていた。
「わかった。で、何が言いたいんだ?」
オーランドは、思い切りにやりと、笑った。
「ショーン、あのさ、アリスの話。覚えてる?あんたが、俺にハンプティ・ダンプティは、いないって、言ったあの話のことなんだけど」
オーランドは、自分のたくらみに、にやにや笑いを隠すことが出来なかった。
ショーンの出が、夕方だと分かった今、オーランドの計画を邪魔するものはどこにもなかった。
ショーンは、シリアルを口元に運びながら、嫌そうに顔を顰めた。
珍しく、勘がいい。
緑の目が、太陽の光に、綺麗に輝いているというのに、ショーンの表情は固い。
スプーンを持つ手が止まっている。
「実はね、あの話。ショーンなら勿論知ってると思うけど、続きがあってさ。鏡の国のアリスって、いうのなんだけど。あれに、ハンプティ・ダンプティが、出てたんだな」
「…それで?」
ショーンは、注意深くオーランドに聞き返した。
少しだって、オーランドに隙を与えたくないという感じだった。
「嘘じゃないよ?覚えてない?彼は、言葉の不透視性について語るんだ。アリスと、365−1の計算もしたよ。詩の朗読もしてた」
オーランドは、自分の優位を確信して、揺るがなかったので、ショーンの疑わしそうな目については、何も言及しなかった。
オーランドが、羊の店屋の話や、高い壁のてっぺんにトルコ人のように足を組んで座ってたハンプティ・ダンプティの話をすると、ショーンは、やっと思い出したのか、顔の表情を変えた。
オーランドが言い掛かりをつけいるわけではないとわかって、少し、申し訳なさそうな顔をした。
「そうなんだよ。ショーン。ハンプティ・ダンプティは、アリスにでてきてなかったわけじゃないんだ。俺が勘違いしてたんじゃなくて、ショーンが勘違いしてたんだ。まぁ、そんなに大した問題じゃないけど」
オーランドは、ショーンに、にっこりと笑いかけた。
ショーンの頬が僅かに引き攣れた。
オーランドは、朝食の後片付けを、流しのたらいのなかに、皿をつけておく。という、ごくシンプルな形で済ませると、ショーンの手を引き、寝室に向かった。
これは、特に奇異なことではなく、皿は、次に使う時、また、オーランドが洗うことになるのだし、この家で、2人が寛ぐ場所といえば、テレビのある寝室だったので、ショーンは、進んでとは言い難かったが、腰を下ろしていたソファーから、仕方がなさそうに腰を上げた。
オーランドは、ショーンの腕をしっかりと掴んだ。
ショーンは、握り込まれた腕の力強さに顔を顰めた。
「なぁ…オーリ、お前、なにを企んでる?」
ショーンは、鼻歌を歌いそうな勢いで、寝室のドアを開けるオーランドに、眉を寄せた。
オーランドは振り返った。
「楽しいこと!俺が、ショーンに嫌なことするはずないじゃん」
黒い目はくりくりと動いて、唇は、とても綺麗な形に引き上がった。
オーランドは、不安そうなショーンの腰を抱きこんで、寝室のドアを勢いよく閉めた。
皺の寄ってしまったショーンの額に自分の額を重ね合わせ、筋肉質な背中を両腕で抱き込んだ。
伸びているTシャツの首元にキスをする。
ショーンが、擽ったそうに、首を竦める。
「ねぇ、ショーン。仕事が夕方からなら、いいでしょ?」
オーランドは、ショーンの匂いを吸い込みながら、背中を緩く撫で回した。
ショーンは、分かりきった質問に、口を尖らせ、まったく見当違いの方向を見た。
「…なんのことだ?」
まったくとぼけたショーンの言葉に、オーランドは、苦笑した。
もっと、分かりやすくショーンに説明するため、腰を押し付け、顎を両手で押さえ込んだ。
「したいんだけど、ダメ?って、聞いてるんだよ」
オーランドは、ショーンの固く閉じている唇にキスをした。
すこし伸びているショーンの髭が、オーランドの肌を擽った。
口付けを続けるオーランドが、そんなに待たされること無く、ショーンの唇が開いた。
オーランドのキスに応えるが、ショーンの口は別のことを言う。
「ビデオが観たかったんだ。この間の、試合の。あれ、まだ、一度しか観てないだろ?」
オーランドは、ショーンの腰を強く引き寄せながら、にやにやと笑った。
「ショーン…照れ隠し?合意してるよね。俺にスケジュールを教えた時点で、ショーンは、合意してるでしょ?」
オーランドは、自分から先にベッドに腰掛け、ショーンの手を引いた。
ショーンの体が、オーランドの上に倒れ込む。
ショーンは、オーランドよりウエイトがあるので、本気で伸し掛かられると、少しだけ、苦しい。
2人分の重みに、ベッドのスプリングが沈み込んだ。
「しようよ。ね?いいでしょ?ビデオなら、済んでから、付き合ってあげるから」
オーランドの手が、ショーンのTシャツの中に潜り込んだ。
綺麗な筋肉のついた背中をなで回す。
「ねぇ、ショーン、言ってよ。したいって。俺のためにさ。俺、このまま撮影に行かされたら、鼻血くらいは出しちゃいそう」
オーランドは、膝で、ショーンの腿を割りながら、伸し掛かるショーンの首筋にキスを落した。
ショーンが、ベッドに手を付き、身体を起こした。
顔が赤くなっていた。
「手を洗ってくる」
場にそぐわないぶっきらぼうなセリフだった。
言いながら、決して、ショーンは、オーランドと目をあわさなかった。
これは、最近ショーンが覚えた照れ隠しの言葉だ。
ショーンは、やっと、オーランドとセックスすることに多少の躊躇いや、恥かしさを覚えてくれるようになった。
面倒くさいという理由のほかに、オーランドとのセックスを拒否する理由を、つい、最近胸の中に発見したらしい。
手を洗いに行くのだけなら、間違いなく一番近いキッチンに行くショーンが、バスルームへと向かう。
それも、結構足早にだ。
オーランドは、顔を緩むのが我慢できない。
程なく、ショーンの足音が、寝室のドアの前に戻る。
オーランドは、ショーンに、キスの雨を降らせて、ゆっくりとショーンだけを裸にした後、ベッドから下りて、部屋の隅に立てかけてあった大きな姿見を引き摺ってきた。
ショーンが怪訝そうな顔でオーランドを見た。
オーランドは、嬉しさを隠し切れずに、とうしても唇が緩んでしまう。
その顔をみて、ショーンが思い切り顔を顰める。
「…なんだ?」
「なんでしょう」
「お前は馬鹿か?」
「馬鹿はショーンでしょう。これは、鏡。見ればわかるでしょ?」
ショーンの胸は、オーランドがしたキスで薄く色づいていた。
キスマークが残るほどではないが、ショーンにできればいつでも印をつけておきたいオーランドは、つい、きつく吸ってしまう。
その姿が、鏡の中に映っている。
鏡の中のショーンにはオーランドの印が沢山ついている。
眉の間には、色っぽくないきつい皺が寄っているが、まぁ、そんなのは、いつものことだ。
「どうして、必要なんだ?」
ショーンは、思い切り馬鹿にした目をして、オーランドを見た。
オーランドが何を言い出すか、しっかり分かっていて、それを馬鹿にしているのだ。
さすがセクシー俳優。
鏡に裸を映されることくらいでは、動揺してくれない。
「アリスだよ。鏡の国の話にハンプティ・ダンプティが出てることを発見した時から、こうやってしたいなぁって、思ってたのさ。ショーンの体。綺麗だからさ。しっかり見ながらやりたいなぁって」
オーランドが、鏡の位置を微妙に調節しながら、楽しそうに笑うと、ショーンは、疲れたように、ベッドの上にうつ伏せに倒れ込んだ。
丸い尻が剥き出しで、鏡の中に映っていた。
「…なぁ…そういうのが、楽しいお年頃なのか?俺は、パスだ。面倒くさい。そういうのは、好きじゃない」
ショーンは、今まで見せていたやる気もなくなったように、シーツの中に潜り込み始めた。
ペニスも、金色のヘアーも何もかも、鏡はしっかり写し取った。
鏡の中に映っているショーンは、実際に目で見るよりよりも、覗き見的な興奮を与えるせいか、色っぽく感じられた。
実物を見ればしっかり見て取れる部分が影になると全く見えなくなるのもいい。
オーランドは諦めない。
「ショーン。絶対楽しんでもらえるよう努力するからさ。ね。お願い。ちょっとだけ付き合ってよ。いいじゃん。散々パンプティ・ダンプティのことでは、俺のこと馬鹿にしてたんだから、このくらいは、サービス。サービス」
オーランドは、シーツの中から、ショーンを連れ出した。
ショーンは、憮然とした顔で、鏡を睨みつけている。
ショーンは、鏡の前で、目隠しをされていた。
オーランドは、固くなったショーンの頬に満足していた。
鏡に映し出されたショーンの太腿も緊張していた。
ショーンの足は、いつのまにかきつく閉じられていた。
目で自分の姿が確かめられないからなのか、酷くショーンは、緊張していた。
鏡の前で、ベッドに浅く腰掛けさせた最初とは随分な違いだ。
たった一枚のスカーフが、ショーンから、緊張と、羞恥を引き出した。
固くなった頬が、赤い。
吐き出す息が、浅くなり、早い呼吸を繰り返している。
オーランドが軽く肩を撫でるだけで、ショーンの体が酷くびくつく。
「ショーン、すごく素敵だ」
オーランドは、囁きと共に、ショーンの耳を噛んだ。
ショーンの脚が、更にきつく合わせられる。
力が入っているのが、筋肉の盛り上がりでとてもよく分かる。
「どうしたの?たかが鏡でしょ?そんなことしたがるなんて馬鹿みたいだって、ショーン、俺のこと見てたじゃん」
オーランドは、背後から、ショーンを抱きしめ、ゆっくり胸の筋肉をなで回した。
「ショーン、見えないから教えてあげるんだけどね。ショーンの乳首、ぷくって、大きくなってる。俺に触って欲しいんだよね。赤くなっちゃってさ。結構いやらしい感じだよ」
オーランドは、ショーンの乳首を指で摘んで引っ張った。
「…オーリ」
ショーンが、唇を噛む合間に、オーランドの名を呼んだ。
悔しげに、顰められた顔が鏡に映し出されている。
けれど、立ち上がっているペニスも同じく鏡は写し取るのだ。
一緒に映り込む、オーランドは着衣のままだから、対比がまたいやらしい感じだ。
「結構、楽しいでしょ?」
オーランドは、両手でショーンの乳首を引っ張り、小さくショーンをうめかせた。
そのまま、手を滑らせて、ショーンの腹をなで回す。
ショーンの手は、強く握られたまま、体の横に垂らされている。
その手が、時々、シーツを握り締めようかどうしようかというように、頼りなくベッドの表面を辿る。
「ショーン、自分で触ってみない?俺しか見てないよ?触りたいでしょ?かなり大きくなってるもんね」
金髪で隠された耳の後ろに息を吹きつけながら、オーランドは、ショーンの際どい部分まで手を伸ばした。
繁っている金色のヘアーをかき回し、ペニスの根元を指先で掠めた。
きつく寄せられている太腿の付け根に、強引に手を差し込んで、少し緩めさせる。
「触りなよ。俺のこと待ってるんだったら、まだ、しばらくそんなことしないよ?」
オーランドは、ショーンの首に唇を落して、なだらかな肩へキスを続けた。
オーランドの手は、忙しくショーンの体を撫でまわっている。
けれども、決して、ペニスには触れない。
胸を揉みこみ、腹を撫で、太腿の産毛をかき乱していく。
そのたびに、ショーンの体が過剰な反応を返す。
見えないということは、こんなにも、体の反応を敏感にするのだろうか。
「ねぇ、触りなって。いつもやってるじゃん。俺の入れた後、するなって言っても勝手にするのは、誰?」
まだ後ろを使われる感覚に慣れないショーンは、少しでもオーランドを楽しませるために、努力を続けてくれていた。
自分のものを扱くことで、中にいるオーランドが微妙に締め付けられ、いいということを発見すると、自発的にペニスを触った。
ものすごくそそる光景だった。
オーランドは、やめろと、言っていたが、それは、ショーンにそんなことをされると、面子を保てなくなるからだ。
だが、それも、近頃は、ちょっと違う。
後ろを擦られることで、声が上げられるようになってきた頃からだろうか。
ペニスを自分で扱き上げることは、ショーンにとって恥かしい行為という分類にわけられるようになった。
もう、オーランドがするな。なんて、止める必要は殆ど無い。
と、いうよりも、してくれない。
瞼に焼きついた光景が懐かしいくらいだ。
ショーンの体に、ますます力が入る。
「してみなって。気持ちいいと思うよ?なんで出来ないの?ショーン、気持ちよくなりたくないの?」
オーランドは、耳を噛むように甘くショーンに囁いた。
「どうしたの?恥かしい?鏡があるから?目隠しされちゃったから?」
ショーンがますます唇を強く噛む。
白い歯が、唇を噛み締める。
オーランドは、ショーンの唇の間に指をねじ込んだ。
ショーンが驚き、後ろに頭を引いた。
オーランドの胸が、反り返ったショーンを受け止める。
「傷がついたら、困るでしょ?…こっちにも、スカーフ噛ましてあげようか?」
オーランドは、ショーンの口の中へ指を入れて、舌を愛撫しながら、くすくすと笑った。
ショーンの舌は怯えたように口の中へと丸められていた。
「オーリ…」
情けない声を、ショーンが漏らした。
手が、ジーンズの太腿を掴んだ。
「オーリ、降参する。俺が悪かった。こういうのは、恥かしい。お前の思いつきは、馬鹿にしたもんじゃなかった」
オーランドは、くすくす笑いを止めずに、ショーンの腰をぐいっと自分に引き寄せた。
掛かってくるウエイトを十分覚悟して、腰の上にショーンを乗せた。
白い足の間に、ジーンズを割り込ませた。
ショーンは、居心地の悪さに、オーランドの上から慌てて降りようとした。
オーランドは、腹に腕を回してしっかりと抱きとめた。
「危ないって。ショーン。たまには俺のいい子ちゃんになってよ。気持ちのいい思いさせてあげるからさ。ゆっくり俺を楽しんで」
オーランドは、ショーンの足の間に自分の足を割り込ませると、決して閉じられないように両手で拘束して、赤くなった身体を鏡に映し出すと、じっくりと観察した。
「ショーン、ショーンってさぁ、こうされてるのの何が恥かしいの?」
オーランドは、ショーンの股の間に手を入れて、柔らかい肉のついた太腿を撫でた。
太腿の筋肉は緊張していた。
ショーンの手は、オーランドの腕に爪を立てていた。
開かされている足を閉じようと、身を捩ろうとしていた。
鏡は、赤くなった顔や、首もと、
早い息をする胸と腹、
立ち上がったペニス、
暗がりのショーンの肛門、全てを映し出して、オーランドに見せ付けていた。
「鏡は恥かしくないんだよね?じゃ、目隠し?自分がどんな格好してるのかわかんないのが恥かしい?」
ショーンは、せわしなく呼吸を繰り返していた。
手がオーランドの腕をきつく掴んでいた。
「ショーン、どうしたの?自分で触りなよ。気持ちよくなってくれていいんだよ?」
オーランドは、足の付け根を強く押したり、引っかいたりして、ショーンの性感を煽った。
けれども、決してペニスには触れなかった。
ショーンが、悔しそうにまた唇を噛んだ。
「じゃぁ、ショーン、お願いしてみない?ショーンにお願いされちゃったら、俺だって、触ってあげないなんて意地の悪いことはしないんだけど」
オーランドは、そこまでショーンが譲歩してくるとは思えなかったから、からかうような気持ちで言ってみた。
ショーンのペニスは、もう、すっかり大きくなっていた。
浅い息で喘いで、胸を赤く色づかせていた。
オーランドに爪をたてている腕だって、ショーンの本気の力ではない。
いや、まず、本当に嫌なら、目隠しを取ればいいし、オーランドの上から降りてしまえばいいのだ。
オーランドは、どこも拘束していない。
ショーンだって、この状況が楽しめていないわけではない。
オーランドは、ショーンの耳を緩く噛んだ。
「ねぇ、ショーン、触ってくださいって、お願いしてみて」
調子に乗ったオーランドは、ショーンに要求を繰り返した。
ショーンが小さく身震いした。
鏡の中のペニスが揺れた。
ショーンは、何度も息を呑んだ。
せわしなく自分の唇を舐めた。
それが、全て鏡の映し出されていた。
オーランドのジーンズが間に入っているせいで、大股開きになったまま、すべてを鏡に曝け出して、ショーンは、ゆっくり口を開いた。
「…オーリ…触ってくれ」
オーランドは、ショーンの掠れた声に満足して思い切りにやついた。
鏡に映る自分の顔は、満足したチャシャ猫のようだと思った。
「ショーン、どこを?」
それでも、オーランドは、意地悪く更に要求をエスカレートさせた。
「…ペニス」
ショーンは、オーランドの腰の上で、鏡に向かってペニスを突き出すように少し腰を前にずらした。
「挑発的!ねぇ、ついでに、後ろにも指を入れてって言わない?」
オーランドは、ショーンのペニスを指で扱きながら、更に囁いた。
ショーンが、唇を噛む。
「ねぇ、言ってよ。お願い。いいじゃん。サービス、サービス!」
オーランドは、指を足の付け根から奥へと進ませ、穴の縁に指をかけたまま、ショーンにねだった。
ショーンの腹が、何度もへこむ。
「ショーン。言って。ここを俺に弄ってほしいって。指を入れて欲しいってお願いして」
ショーンは、オーランドにペニスを扱かれた姿のまま、鏡の中で、また何度も唇を舐め回した。
言い辛いことを口にするとき、いつもショーンは、この癖を出す。
オーランドは、期待に胸が膨らんだ。
穴の中にめり込みそうなほど、指先に力が入ってしまった。
「ショーン、お願い。入れてって、一言!」
オーランドは、一瞬何が起きたのか、分からなかった。
腰の上に乗っていたショーンが大きく身体を捩って、オーランドの上に伸し掛かかってきた。
感極まったショーンに、抱きしめられるのか、キスされるのだと思った。
ショーンは、オーランドをベッドに押し付け、自分を目隠ししていたスカーフを毟り取ると、それで、オーランドの口を塞いだ。
塞ぐというのは、正確な表現ではない。
思い切り突っ込まれた。
緑の目が、剣呑な光を帯びていた。
「オーリ。お前には付き合えない!」
ショーンは、オーランドに伸し掛かると、ジーンズのボタンを外し、さっさと太腿までそれをずり下ろした。
飛び出したオーランドのペニスをぱくりと口の中に咥えてしまった。
「ちょっと!ショーン??」
慌てて、スカーフを吐き出して、顔を上げたオーランドが見たものは、自分の股間に顔を埋めるショーンの顔と、鏡に映ったショーンのバックショット。
尻も、毛も、穴も丸見えのショーンの後姿。
「ショーン…凶悪」
オーランドは、その映像に引き寄せられるように、ふらふらと身体を丸めてショーンの背中に覆い被さった。
鏡に大写しになっている白い尻の肉をつかんで広げてみた。
鏡の中で、横に広がるピンクの穴。
目の眩む光景。
その一瞬後の激痛。
オーランドは、身を丸めてベッドの上で蹲った。
「噛むなんて酷い!」
「どうして、そう趣味が悪いんだ!」
ショーンが容赦なく噛んだので、オーランドの目に涙が滲んでいた。
「…痛い…使いものにならなくなったらどうするんだよ!」
「そういうことは、まともなセックスをする奴が言え!」
言いながらも、ショーンは、オーランドの腰を撫でた。
涙に潤むオーランドの目にさすがにやりすぎたと感じたのか、機嫌をとるように、頬へと口付けてきた。
舌が涙を舐め取っていく。
「なぁ、オーリ、普通にやろうぜ?なぁ、それが一番だと思わないか?」
緑の目が、心配そうにしながらも、どこか呆れた色をしていた。
オーランドは、ショーンの顔を見上げながら、唇を尖らせた。
「だって、やりたいんだ。ショーンに嵌めるとこ、鏡でばっちり見たいんだ」
オーランドは、痛みに眉を寄せながら、ショーンのことをじっと見上げた。
「…最悪な趣味だな」
ショーンの眉が寄った。
「いいじゃん。見せてよ。俺、見たいんだもん」
オーランドは、強固に言い張った。
痛い思いをさせられたので、すっかり強気になっていた。
ショーンは苦虫を噛み潰したような顔をした。
オーランドを睨みつけた。
何度も何度も、ため息をついた。
オーランドの頭を一つ叩いた。
そして、オーランドの願いを叶えてくれた。
「うっわー。最高!」
どうしても譲れない条件として、ショーンは、目隠しすることだけは嫌がった。
オーランドには、見えるほうが恥かしいような気がするのだが、ショーンは、違うようだった。
オーランドと抱き合う形になっている緑の目が、羞恥に赤くなっていた。
そんな目が見られるのなら、目隠しなしのほうが、オーランドには都合が良かった。
ショーンの中に入っていくペニスが、鏡に映っていた。
ショーンの穴を限界まで広げて、ブルーのゴムの醜悪なペニスがピンクのわっかにどんどん飲み込まれていく。
オーランドから、よく見えるように、ショーンは背中を鏡に向けているのだが、気になるのか、ちらちらと後ろを振り返った。
そして、自分の広がった穴や、中に入っていくペニスを見ては、悔しそうに頭を振った。
小さな振動が、ショーンに包まれているオーランドのペニスにも伝わる。
「俺は、最高!どう?ショーンもいい感じ?」
オーランドは、何度もショーンの尻を掬い上げ、ペニスが飲み込まれていくシーンを再現した。
ショーンは、赤くなった目元で、何度もそれをちらちらと見ていた。
ショーンの顔は、顰められていた。
「…最悪だ」
眉の間には、きつい皺が寄っていた。
でも、オーランドの肩にゆるく腕が回されていたし、2人の間に挟まれたペニスは、ちゃんと固いままだった。
「ショーンのこと大好き。俺、ずっとこのままでいたいよ」
ショーンが、オーランドのことをきつく抱きしめた。
ショーンがオーランドの頬ずりした。
オーランドは、愛の言葉を期待した。
ショーンが、オーランドの耳に口を寄せた。
「…オーリ、後で、ビデオを観る約束を忘れた訳じゃないだろうな」
低い声で脅されて、オーランドは、自分の欲望を優先させて頂いていたことを思い出した。
一瞬目を見開いたオーランドをショーンは、くすくすと笑った。
「…こんなセックスするなんて、どれくらいぶりかな?」
ショーンは、オーランドの頬にキスをした。
「さぁ、じっくりと見ただろう?さっさと、気持ちよくなって、ゆっくりしようぜ?」
すこし照れた顔で、自分から、腰を上下させた。
鏡は、何もかも写しだしていた。
ショーンが、オーランドを愛しく思っていてくれる気持ちも。
オーランドがショーンを愛していることも。
2人は、鏡の存在を忘れ去って、お互いに夢中になり、鏡は、その存在をただ、全うしていた。
END
BACK
H様から、メールでハンプティ・ダンプティのこと教えてもらったんですよ。
その後、夏樹君に本借りて読み返したら、ばっちり出てました。(笑)
そして、それをネタにする私。
転んでもただでは起きませんね。(笑)
H様。教えてくださって、本当にありがとうございました。
お名前はもしかして、本名?って思ったので、イニシャルとさせていただきました。