勝ち負け
オーランドは、撮影が切りあがったので、ショーンの姿を探しに行った。
大抵、そこにいるだろうと思った場所にショーンはいた。
トレーラー横のターフの下だ。
涼しい風が吹いている。
雑然と置かれた椅子は、今の時間、もう、大半が空いていた。
だが、ショーンの周りだけが、人だかりになっていた。
ショーンを中心に、右横には、ダイアン・クルーガー、左横には、ローズ・バーン。後ろには、オーランドより先に上がったエリックが立っていた。
その上、ショーンの膝の上には犬がいる。
この間、ショーンが絵に描いて見せた時より、すこし毛足の長くなったポメラニアンが、ショーンの膝で愛嬌を振りまいていた。
その犬に向かって、皆、手を伸ばしていた。
ショーンの衣装の裾は、短い。
素肌を柔らかそうな犬の足が踏んでいく。
何が楽しいのか、ショーンも皆も笑っている。
オーランドは、ずかずかとその輪に近づき、いきなりポメラニアンを抱き上げた。
「終ったのか?オーリ」
エリックが笑いかける。
「終った。なんだ、お前すっかりポメラニアンらしくなって。暑くないのか?また、毛刈りしてもらったほうがいいんじゃないか?」
オーランドが抱き上げると、犬はキャンキャンと吠え立てた。
小さな口を精一杯開いて、オーランドを威嚇する。
「…かわいくない」
ショーンが、オーランドの手の中で暴れるポメラニアンに、手を伸ばした。
「どんなシーンを撮ってた?まだ、気が立ってる?」
「なんで?」
ショーンが、オーランドを見上げるのに、両側を彩る花も、口元に笑いを浮かべてオーランドを見た。
「ダメよ。小動物は、感情の変化に敏感なの。顔だけ笑ってたって、気が立ってる人間に抱かれたら恐いから吼えるわ」
「どうしたの?ワンちゃんに主役の座を奪われちゃったから、拗ねてるの?…ねぇ、エリック、オーランドにコーヒーでも淹れてあげて」
ショーンの手の中に戻ったポメラニアンに向かって手を伸ばして頭を撫でている二人の女優は、オーランドを笑った。
エリックは、二人のお姫様に促され、全員分のコーヒーを淹れに行く。
「エリック、コーヒーはいいよ。ごめん。もう、今日はすぐに帰る予定なんだ」
「そうなのか?なにか、用事?」
エリックが振り返る。
「そう。この愛嬌の悪い犬と一緒じゃないショーンと食事に行く約束」
オーランドが手を伸ばすと、また、ポメラニアンはキャンキャンと吼えた。
ショーンが笑った。
オーランドは舌打ちした。
女優たちが、じろじろとショーンを見た。
オーランドは、すっかり現代人に戻っていた。
だが、ショーンは、まだ、衣装のままだ。
「…ショーン、ここで私たちと一時間くらい遊んでたわよね?てっきりまだ、撮りがあるんだと思ってたわ」
「なんだ。もう、ショーンは終ってたのか。ブラッドと打ち合わせしてたみたいだし、このあとまだ、撮るのかと思ってた」
エリックの言葉に、オーランドが眉を吊り上げた。
「終ってる?ショーン?」
オーランドは、顔を傾けショーンに向かって目を細めた。
ショーンが、少し唇を尖らせ、オーランドを睨み返した。
オーランドは、衣装を着替え終わってないだけなら、ショーンを許してやろうと思っていた。
だが、今日の約束をキャンセルするつもりだったのなら、もっと申し訳のない顔をして待っていてくれてもいいと思った。
今日の約束を楽しみしていたオーランドとしては、愛玩犬に脂下がっていられたのでは、気がすまなかった。
ショーンは、オーランドを睨んでいる。
キャンキャン吼えるポメラニアンが、ショーンを擁護していた。
ショーンは、膝の上に抱いていた犬をエリックに渡した。
女優に渡さないところがショーンだ。
ちゃんと衣装や、メイクが汚れることのないよう気を使っていた。
「すごい恐い顔になってるぞ。オーリ」
ショーンが意地の悪い顔をして指摘した。
「撮りは終ってるよ。すぐ着替えてくる。そんなカリカリするだったら、今晩は、ちゃんとカルシウムの多いものを食え。…ったく、心の狭い」
オーランドが呆れた目でショーンを見るより先に、エリックが、大袈裟に肩を竦めた。
エリックは、今日の撮りを順調に進めるため、努力していたオーランドを知っていた。
オーランドと視線が会うと、目だけで笑う。
エリックに抱きかかえられたポメラニアンは、ハッハッっと、小さな舌を出し、機嫌よく愛想を振り撒いていた。
ショーンが機嫌を損ねたように乱暴に椅子から立ち上がった。
椅子が音を立てる。
「…ショーン、ショーンって、意外に我儘言う性格だったのね」
美人女優二人の前で、化けの皮がはがれ、ショーンは、オーランドに向かって顔を思い切り顰めた。
ベッドの上にショーンの体が転がっていた。
眉の間に皺を寄せ、オーランドのことを嫌がっていた。
もう、何度も鋭く名前を呼ばれた。
だが、オーランドは、ショーンのいいようには絶対にしてやりたくなかった。
ショーンの好きな部分には、触りたくなかったし、キスもしたくなかった。
ただ、自分が触りたい部分、キスしたい部分にだけ、触りたい。キスしたい。
嫌がるのを面白がるように、ショーンの嫌いな耳の中に舌を差し込んだ。
ショーンが必死に顔を遠ざけようとする。
頭を押さえつけ、そこでわざとショーンの名を呼ぶ。
脇の下を舌で擽った。
ショーンがオーランドの頭を捕まえようともがく。
大きな手に押されながら、だが、オーランドは、負けずにショーンの腕の下に潜り込んだ。
くすぐったがって逃げる身体を捕まえ、飽きるまで脇の下の毛を舐めまくった。
ショーンがオーランドの髪を引っ張る。
オーランドの頭を叩く。
かなり真剣に怒ってきているショーンは、もうオーランドの名を呼んで止めようとはしない。
力だけで、オーランドを押し退けようとして、二人はもう、喧嘩をしているのと変わらない状態だった。
「ショーン、言う事きいてくれてもいいじゃん」
「なんで俺がそんな我慢をしなくちゃいけないんだ!」
大嫌いな耳への愛撫や、くすぐったい脇を舐められるのに、ショーンの目は本気で吊り上っていた。
「いいじゃん。たまには俺の好きにさせてよ」
伸し掛かっているという立場を利用して、オーランドは、ショーンの嫌いな部分ばかりを攻める。
勿論、ショーンは、黙ってなんかいない。
そんなしおらしさとは無縁の性格をしている。
「俺に触るな!俺の身体を使って憂さ晴らしをするな!」
オーランドは、無理やりショーンの顔を押さえつけ、激しいキスをしながら、このままでは、本当にショーンに嫌われると、思った。
ショーンは口の中に入ってきたオーランドの舌を追い出そうともがいている。
きつく口が閉じられる。
だが、苛立つのだ。
ショーンを思い通りにしたいのだ。
ショーンをオーランドの好きなように可愛がって、それでも、ショーンにいい顔をしてもらいたい。
どんなわがままを言っても、抱きしめてもらいたい。
他の誰とも区別して欲しい。
はっきり言えば、特別に愛されたい。
それが、絶対に許されることではないと分かっていても、そういう衝動が押さえられない日というものもあるのだ。
前は、どうしてもそうしたい日、オーランドはショーンに会わなかった。
そんなことをして嫌われるのが恐かった。
衝動が治まるまでじっと耐えて、優しいキスができるようになってから会いに行った。
今は、少しは愛されている自信がついた。
隠し立てのない自分のままショーンに会いにいける。
けれども、現実は、そんなに甘くない。
「離せ!もう、帰る!!」
「……ショーン!!」
ショーンの膝が、オーランドの腹にすばらしい一撃を与え、オーランドはショーンの上に倒れこんだ。
一瞬息が出来なかった。
ショーンは、怒った顔のまま、体の上に降ってきたオーランドを押しのけようとした。
オーランドは、ショーンにしがみついた。
「ごめん。ごめんなさい。怒らないでよ。お願い」
やり過ぎたというのがわかった。
押しのけようともがくショーンを必死に抱きしめた。
「お願い。許して。ショーン!」
顔じゅうに謝罪のキスを繰り返す。
吊り上っている緑の目の周辺には特に念入りにキスをした。
「ごめん…ごめんなさい」
オーランドが謝るのに、ショーンが恐い顔のまま、オーランドの頭を叩く。
それでも、唇にキスするのを許す。
「…ごめん。ごめん。ショーン」
不思議なもので、謝罪を繰り返していると、オーランドの気持ちも静まってくるのだ。
やりすぎたと分かった時点で感情の昂ぶりは急激に治まった。
あれほど心を占めていた怒りは遠ざかり、急激にショーンが愛しくなった。
こんなにも愛しいショーンに嫌われないようにするためにはどうしたらいいのかと、勝手に頭が考え出す。
あれほど、ショーンを思い通りにしなければ気がすまないと思っていたのに、もう、すっかりどうしたら、ショーンに気に入ってもらえる愛仕方が出来るかを考えている。
愛してくれと叫んでいるより、そうやって心を砕いている時の方が、ずっと幸せな気持ちになれた。
傲慢にも愛情が足らないと思っていたのが嘘のように、ショーンにキスできる自分が幸せ者だと思う。
「ショーン、帰らないで」
オーランドは、情けない声でショーンに縋りついた。
仕方が無いという顔で、オーランドを抱きしめるショーンを心の底から愛していると思う。
オーランドは、丁寧にショーンの体を愛していった。
嫌がられないように緩く抱きしめ、項から、背中に何度もキスを繰り返す。
オーランドに押し付けるように突き出されている尻を優しく撫でた。
「…ショーン」
名前を呼びながら、腰骨にキスし、そのまま丸いカーブを描く大きな二つの山に唇を寄せる。
舌を伸ばして、掻き分けた肉の間をぺろりと舐めたら、ショーンが、小さな声を上げた。
脇の下では嫌がられたが、オーランドは、短い毛がしっとりと濡れるまでしつこく舐めた。
ショーンは、嫌がらない。
オーランドの名前をきつい声で呼ばない。
オーランドがもっと大きく足を開かせても、そのまま肩を落とすことまでする。
「ショーン、大好き…」
オーランドは、ショーンの尻の肉を掴みながら、舌を尖らせ、穴の中に差し込んだ。
ショーンが喉に詰ったような声を漏らす。
しきりに腰がもぞもぞと動く。
「気持ちいいんだ。ショーン」
オーランドは、にんまりと口元が緩むのが押さえられなかった。
わざと音を立てて穴の中から唾液を啜る。
この悪ふざけには、ショーンがぶつぶつと文句を言った。
小さなその声は聞こえなかったふりで、オーランドは、行為を続ける。
「…オーリ、いつまで、舐めてるつもりだ?」
「ショーンが気の済むまで」
オーランドは、ショーンの尻にチュっとキスする。
「…そこだけで、いっちまったらどうする?」
「そんなに気持ちいい?このままいきたい?…してあげよっか?」
オーランドは、ショーンの足の間から、手を差し込んで、ぴんと立ち上がっているものを掴んだ。
確かに、すっかり硬くなっている。
硬くなって、ぬるぬると濡れて、舐めながら、扱いてやったら、多分、そんなにかけずにいかせることができる。
余っている皮を緩く動かすと、ショーンの腰に力が入った。
ぺちゃぺちゃと舐めながら、扱きつづけると、ショーンの腰が揺れ始めた。
オーランドの手の動きだけでは物足りないのか、突き出すような動きをする。
「…オーリ、いっちまったら、もう終わりでいい?」
額に汗を滲ませたショーンは、首を捻って後ろを振り返りながら、意地の悪い顔をして笑った。
そして、刺激にうっとりと目を閉じる。
「…ダメに決まってるだろう!」
オーランドは慌てて、ペニスを握っていた手を離した。
ショーンが、残念そうなため息をつく。
「俺も大抵勝手な人間だけど、ショーン、あんたの方が、ずっと上手だな。俺のこれは、どうしてくれるってわけ?自分だけ満足したら、もう、俺は用無しかよ?」
オーランドは、ショーンの尻から顔を上げた。
ショーンが、ごろりと転がって、仰向けになる。
オーランドに向かって手を伸ばして、不満顔を抱きしめる。
「お前と同じ我儘を言ってみただけだ。そうだろう?オーリ。お前だって、自分勝手なことをされたら、傷付くだろう?」
ショーンは、オーランドの髪に口付けを繰り返した。
「こういう行為は、相手があって初めて成立するんだから、自分の感情だけを俺に押し付けるな」
オーランドの尖っている唇にもショーンは、口付けた。
薄い唇がにやりと笑った。
「で、続きをする?しない?」
ショーンは、オーランドの腰に、足を回して拘束しているくせに、そうやって聞いた。
オーランドの現状など、はっきりとショーンは知っていた。
「…謝ったら、やらせてくれる?」
オーランドは、ショーンを抱きしめながら、額を合わせてごめんと小さく口にした。
「謝る必要はないさ。どうせ、オーリには、一時間もお前の撮りが終るまで待っていた俺の気持ちなんてわかるはずがないんだからな」
嫌味は、オーランドにショーンの愛情を伝えた。
「…ごめん。本当に、ごめん」
何度も何度もショーンに謝りながら、オーランドは巻き付いている腰を抱き上げ、濡れた穴の中へとペニスを埋めていった。
オーランドは、ショーンの足もとに座り込んでいた。
いくつでも椅子は空いていたが、ショーンの膝を占領していたポメラニアンを退かし、その膝に頭を寄せていた。
二人の女優に頭を撫でられていた。
ショーンは、呆れた目をしてオーランドの旋毛を見下ろしていた。
「あのコの毛並みに比べると、オーリって、髪がばさばさしてるのよねぇ」
「そうねぇ。やっぱり、ワンちゃんには適わないかなぁ」
また、違う犬種にしか見えないほど毛刈りされたポメラニアンが、キャンキャンと土の上に腰を下ろしたオーランドの周りで吼えていた。
一丁前に威嚇している。
短い毛が逆立っていた。
「悪かったな。ここはお前専用って訳じゃないんだよ」
オーランドは手を振ってショーンの側に寄ろうとするポメラニアンを追い立てた。
少し離れたところから、まだ、ポメラニアンは吼える。
ダイアンと、ローズが、自分たちに可愛がって欲しいのだとすっかり誤解して、かわいいことを言うオーランドの髪を優しく撫でた。
エリックと、ブラッドが、姫君たちのために、コーヒーのカップを運んでいた。
ショーンだけが苦笑いをしていた。
END
BACK
暑い日が続きますねぇ…皆さん大丈夫ですか?
…私は、くたびれてます(笑)
言い訳ですが、集中力が続きません(苦笑)
と、いうわけで、花豆。
理由になりませんが、花豆です。だって、トロイの花豆が書きたかったんだもん!