言い分

 

オーランドは、その光景に目を見張った。

開けっ放しのドアの向こうだ。

わざわざ、目を閉じていない限り、嫌でも目に入る。

ヴィゴは、オーランドに気付いて、ウインクした。

腕の中には、ショーンを抱きしめている。

オーランドは、動きを止めてしまっていた自分に気付いて、腹立たしくなった。

手に持っていた雑誌でドアを強く叩いた。

「何やってるんだ!離れろ!」

オーランドは怒鳴った。

自分以外の腕の中でうっとりと目を閉じていたショーンを取り戻すため、ずかずかとキッチンのなかに入り込んだ。

 

ヴィゴに借りたカメラを返すために、家を訪ねると言ったオーランドに、ショーンが付いていくと言った。

珍しく自分の車の鍵を取る。

「いいの?」

「ヴィゴの家だろう?」

笑ったショーンは、慣れた運転で山道に車を走らせ、平気で鍵も掛かっていない家のドアを開け放った。

「ヴィゴ!」

ショーンは、まったく、まごつくことなく玄関を抜け、二階へと駆け上がっていった。

オーランドは、ショーンの後ろに従いながら、二人の親密な関係にすこしばかり顔を顰めた。

ショーンと、ヴィゴは、親友だ。

きっと、この山の家など、何度も来ているのだろう。

ショーンは、自分の家のように、平然と廊下に出されている雑誌の山を避けて通った。

躊躇うことなく、二階の突き当たりのドアを開けた。

部屋からは、油絵の具の匂いがした。

「いるんだろう?ヴィゴ。返事くらいしろよ」

ショーンは、笑いかけるような穏やかな声を出した。

古ぼけたソファーの上で転寝をしていたらしいヴィゴは、あくびをしながら身体を起こした。

いきなり現れたと感じたに違いないショーンに向かって、すこし小首を傾げて手招きをした。

ショーンは、オーランドを振り返ることもなしに、ヴィゴに近づいた。

ヴィゴが身体を起こした部分に腰を下ろした。

すかさず、ヴィゴは、ショーンへともたれかかった。

眠そうに目を閉じた。

ショーンが、内緒話でもするようにヴィゴの耳元で、ドアのところで立ち止まっているオーランドがいることを告げた。

「なんだ。オーリも一緒なのか」

ショーンの肩に頭を預け、眠そうな顔で肩を抱くヴィゴは、ドアから顔を出しているオーランドにあくびを繰り返した。

オーランドは、思い切り顔を顰めた。

確かに2人は、撮影中など、嫌になるくらいずっと一緒にいて、側から離れようとしない。

しかし、この距離感の近さは、いくら親友とはいえ、分別のある大人のものではなかった。

2人の間に隙間はなく、ちょうど心地よくお互いに身体を預けあって、まるで最初から一緒だったようだ。

ショーンと一緒に来たはずのオーランドの方が、疎外感を感じた。

しかも、苛立たしいことに、2人は、オーランドがいることに歓迎の意思を見せていた。

お互いに信頼しあっていて、誰かの侵入を拒む必要が無いというほど、強いつながりをオーランドに見せつけた。

ショーンは、リラックスした顔で、ヴィゴの眠そうな顔をみて笑っていた。

ヴィゴは、ショーンの肩に、顔を擦りつけて、眠そうなあくびを繰り返した。

車に乗り込むまでは、オーランドが抱きしめていた、ショーンの肩を独占した。

それを、ショーンは、全く不思議と思っていない。

オーランドは、2人の間にスニーカーの足でどかりと割り込んでやろうかと思った。

しかし、部屋の中で、そんな不穏なことを考えているのは、オーランドだけだった。

2人は、恐ろしく近い距離に顔を寄せ合い、のんきにも朝飯を食ったかと話し合っていた。

仕方なく、オーランドが友人としてのマナーを守って、ヴィゴのいるソファーへと近づいた。

 

「オーリは、読みたいって言ってた雑誌を探して来いよ。その間に、俺と、ショーンで昼飯の準備をしてやる」

カメラを返したオーランドに、ヴィゴは笑って、隣の部屋を教えた。

ヴィゴは、絵の具で汚れたエプロンをつけていた。

夜遅くまで続く、撮影の合間だというのに、その情熱と才能に、オーランドは、羨望を覚えていた。

ヴィゴは、柔らかい目をして、オーランドに、雑誌のありそうな場所を教えた。

ドアを開けて、部屋の隅を指差した。

ヴィゴは、ショーンを特別扱いしているだけで、オーランドを邪険に扱っているわけではない。

ショーンが、ヴィゴに口を出した。

その本は、クローゼットの中に突っ込んでいた筈だと、言った。

ヴィゴの後ろから、顔を出しているショーンは、ヴィゴの肩に顎を乗せて、部屋の隅にかがみこんだオーランドを見下ろした。

距離感がおかしかった。

ヴィゴと、ショーンは、親友。

オーランドとショーンは、恋人のはずだった。

これは、3人とも、納得ずくの関係だ。

あまりにヴィゴとショーンの濃密な関係に嫉妬したオーランドが、嫌がるショーンを説き伏せて、ヴィゴに公表した。

その時のヴィゴの顔は、オーランドの中で、今でも、どう受け取っていいものか、悩みを与えていた。

平然としていたようにも見えた。

驚いているようにも見えた。

怒っているようにも、喜んでいるようにも見えた。

とにかく、表情ひとつとっても、ヴィゴは、オーランドにとって、簡単に理解できるような人間ではなかった。

オーランドは、ヴィゴの才能に対して、畏怖に近いような尊敬をしていた。

そのせいもあって、ヴィゴと、ショーンの関係には、問題があったが、オーランドは、強くヴィゴに噛み付くことができずにいた。

 

雑誌を手に、キッチンのドアを開けたオーランドは、目を見開いた。

部屋の中には、コーヒーのいい匂いがしていた。

キッチンのテーブルにもたれかかるようにして、ショーンが背を向けていた。

ヴィゴと、ショーンがキスをしていた。

どうしてだか、ショーンは、裸の背中だ。

エプロンの紐とおぼしきものだけが、滑らかなショーンの背中を隠していた。

ヴィゴの手が、全く力を入れることなしに、ショーンの顎を支えていた。

指先が、顎鬚を擽っていた。

ショーンは、目を閉じていた。

緩やかに緊張を解いた穏やかな顔を見ていれば、この状況が、ショーンの同意なしに成立したとは考えられなかった。

ショーンは、うっとりとして、口を開いていた。

ヴィゴは、優しい目をして、ショーンの顔をながめながら、キスの続きを与えていた。

ヴィゴの目線が、上がった。

オーランドに気付いて、小さなウインクをした。

それが、オーランドに正気づかせた。

オーランドは、雑誌で、ドアを大きく叩いた。

「何をしてるんだ!ショーン!ヴィゴから、離れろ!!」

オーランドの大きな声に、ショーンは、びっくりしたように振り返った。

まだ、ヴィゴに腰を抱きかかえるようにされたまま、ドアのところに立つ、オーランドに気付いて、しまったというような顔をした。

「ヴィゴ!人のものに手を出すな!」

ショーンは、裸の上半身にさっきまで、ヴィゴがつけていたデニムのエプロンを着ていた。

絵の具に汚れたそれは、色っぽいなどと言える代物ではなかったが、ショーンの滑らかな背中の筋肉を際立たせるようなきついブルーだった。

オーランドは、雑誌をテーブルに投げ捨てるようにして、二人に近づいた。

テーブルの上には、出来上がったサンドイッチと、その材料がごちゃ混ぜに置かれていた。

椅子を押し退けて、二人に近づいたオーランドは、ヴィゴに腰を抱かれたショーンを、自分の腕の中に取り戻した。

ショーンが着ていたはずのポロシャツが、床に放られていた。

代わりに、ショーンは、ジーンズの上に、ヴィゴのエプロンだけを身につけていた。

「なんて格好なんだ!なにしてるんだ!」

騒ぎ立てるオーランドを、ヴィゴは、目をまるくして見た。

悪びれた様子はどこにもなかった。

今にも、驚いた顔のショーンに手を伸ばし、安心させるように頬でも撫でそうだった。

オーランドは、ショーンを強く自分へと引き寄せた。

「何するんだ!ヴィゴ!」

「余裕がないな。オーリ」

ヴィゴは、両腕で、しっかりとショーンを抱きしめるオーランドを笑った。

「ショーンのシャツが、マスタードで汚れたんだ。だから、エプロンを貸してやった。キスは、そのおまけだよ。なんなら、オーリにもしてやろうか?」

ヴィゴが、オーランドに向かって手を伸ばした。

オーランドは、自分のシャツを脱ぐと、ショーンに羽織らせた。

格好が悪いと思いながら、雑誌もそのままに、ショーンの腕を引いて、車に戻った。

 

どこまでも、ヴィゴは余裕の態度を崩さなかった。

エンジンをかけた車の窓を叩いて、オーランドに窓を開けさせると、雑誌を膝へと滑り込ませた。

ハンドルを強く握っているオーランドの耳に唇を寄せて、そっと囁いた。

「オーリ。そろそろ、俺に、ショーンのこと返せよ。もう、十分遊んでもらっただろう?」

オーランドは、思い切りクラクションを鳴らせて、車を発進させた。

 

オーランドの家に引っ張り込まれたショーンは、機嫌悪く口を曲げていた。

まず、最初に言ったことは、腹が減ったという一言だった。

ヴィゴとのキスの現場を見つかった瞬間のしおらしさはどこへやら、機嫌の悪いオーランドに対抗するようにそれ以外の口を利こうとしなかった。

ショーンは、ヴィゴの汚いエプロンを着けたままだった。

その上に、白いオーランドのシャツを羽織っていた。

羽織ったシャツのほかには、エプロンしか身につけていないせいで、すらりとした首元が大きく開いて、盛り上がり始める胸の筋肉の見え方が、いかにもセクシーだった。

ショーンは、髪をかき混ぜるようにして、わざとらしくため息を落とした。

親友との悪ふざけにまで目くじらを立てるオーランドが、嫉妬深いと目で睨んだ。

「自分が悪いとは、思わない?ショーン」

オーランドは、ソファーに座るショーンの膝の上に、ビスケットの箱を落とした。

ショーンが、睨むような上目遣いでオーランドを見上げた。

このメニューでは満足しないらしい。

だが、ショーンを満足させるような食材が、オーランドの家には無かった。

オーランドは、箱を取り上げ、一枚出すと、ショーンの口元へと運んだ。

運びながら、ショーンの膝に腰を下ろした。

デニムのエプロンは、絵の具ですっかり汚れていて、その上に尻を落とすと、自分の服が汚れそうだった。

オーランドは、不満そうにビスケットを咥えたショーンの顔を間近で眺めた。

「あんたたちさ、いつも、こんな距離なんだよ。おかしいだろ。その上、キスまでしてさ。ショーン、自分がどんな顔してたか、自覚ある?すっかり、うっとりしちゃって、もっとしてくれって顔してヴィゴにキスされてたんだよ?」

ショーンは手も使わずに、もしゃもしゃとビスケットを頬張っていき、食べ終わると唇を尖らせた。

「ちょっとした悪ふざけだろう?シャツが、マスタードで汚れたから、ヴィゴが脱げって言って、それで、エプロンを貸してくれたんだよ。そしたら、まるで新妻みたいだって、ヴィゴが言って」

「新妻!ショーンが、新妻!」

「だから、悪ふざけだって言ってるだろう!俺が新妻に見えるわけが無いのは分かってる。そういうわけじゃなくて、ほら、裸に直接エプロンをしたから、そういうイメージが浮かんだんだ。それで、ヴィゴが、面白がって、『ハニー、腹ペこなんだ。サンドイッチより先にキスしてくれないと、倒れちまう』とか、なんとか言って」

ショーンは、その時のヴィゴを思い出したのか、オーランドを膝に乗せたまま、くすくすと笑った。

オーランドは、楽しげに笑う口に、もう一枚ビスケットを押し込んだ。

「それで、いつもみたいに、ショーンは、言うんだ。キスくらいお前だってするだろう?俺がちょっとヴィゴとキスしたくらいで、そんなに怒るなよって」

ビスケットを食べ終えたショーンは、真顔で頷いた。

唇の端に、食べかすがくっついていた。

オーランドは、舌を伸ばして、それを舐めとった。

ショーンは、擽ったそうに、指でそこを撫でた。

「わかってるじゃないか、オーリ。お前だって、悪ふざけでヴィゴにキスしたりするだろう?なぁ、もう一枚、ビスケットを寄越せ」

オーランドは、ショーンの開いた口に、ビスケットを押し込んだ。

小さなため息を付いた。

「あのね、ショーン。俺は、親友を、膝に乗せない。気持ちのいい顔になっちゃうまで深いキスはしない」

ショーンが、少しだけ困ったような目をした。

「ショーン、自分が、どのくらいヴィゴに気を許した顔をしてたか分かる?すっかり楽しんでる顔しちゃって、俺が来なきゃ、もっとキスさせてただろう?」

オーランドは、ショーンの唇の端を掴んで、横に引っ張った。

「…ヴィゴのキスが気持ちがいいのは、知ってるだろう?」

ショーンは、つまらなそうな顔をした。

「気持ちがよければ、それでいいの?ショーンは?」

オーランドは、ショーンの唇にちゅっとキスをした。

「俺が好きなんだろう?俺だったら、親友に『ショーンを返せ』なんて発言をさせて、恋人を居心地悪い気持ちにはさせない」

そのままオーランドは、ショーンの薄い唇をすこしだけ噛んだ。

ショーンは、さすがに、天上を見上げて、情けないような顔をした。

 

腹のすいたショーンを宥めすかして、オーランドは、寝室へとショーンを連れ込んだ。

ヴィゴの所業は許せなかったが、やはりヴィゴの趣味は、悪くないと思った。

オーランドが着せていた白いシャツを脱がしてしまうと、ショーンの丸い肩が、エプロンから零れていた。

シャツについたというマスタードは、本当に偶然ついたものなのかどうかあやしかった。

強い紺色が、ショーンの白い肌を際立たせていた。

ヴィゴは、ちょっとからかうような目をしながら、ショーンの服に手をかけ、魔法のようにするりと脱がせると、自分の首から抜いたエプロンをなんでもない顔で着せたに違いない。

「似合うじゃないか。すごくスイートだ。ショーン!」

このくらいのことは、言って、ショーンを笑わせただろう。

また、それをショーンは、くったなく笑うのだ。

どんなにエロティックな格好をさせられているのか考えることもなしに、楽しそうに笑ったに違いない。

唇を突き出したヴィゴに、多分、ショーンは、自分から吸い付いている。

腰を抱き寄せられ、唇を舐められたら、笑う目のままで口を開いただろう。

どうかと思うほど、ショーンは、ヴィゴに対して安心していた。

オーランドが下心を持って、ショーンに近づいたときの警戒心は、なんだったのかと思うほどだ。

ショーン本人から聞かなければ、ヴィゴと、ショーンはそういう関係なのだと誤解してもしかたのない肌の近さだった。

 

オーランドは、ショーンをベッドに押し倒しながら、丸みのある肩に口付けをした。

ショーンが、オーランドの髪を撫でた。

「なぁ、飯が先ってわけにはいかないのか?」

撫でる振りで、オーランドの頭を自分から引き剥がそうとしていた。

「飯を食おうとすると、出かけなきゃならないからね。戻って、また、この格好をしてくれる?ショーン」

オーランドは、ショーンの力に逆らわず、顔を上げると、ベッドに横になっているショーンを見下ろした。

ショーンの金色の髪が、白いシーツに散らばっていた。

派手に絵の具がついたデニムのエプロンが、位置をずらして、左の乳首をすれすれに隠していた。

濃いブルーは、ショーンに良く似合った。

オーランドは、ひょいっと、エプロンの端を持ち上げた。

固い生地に擦られた乳首は、小さく立ち上がっていた。

「すげー、エロティック。ヴィゴ、やっぱり趣味はいいよな」

オーランドは、ショーンに髪から手を離させると、首筋から順にキスをしていった。

ショーンは、不満そうに唇を突き出していた。

「ヴィゴの家で、飯だけでも食ってから帰ってくればよかった」

ショーンは、オーランドとの体の間に手をねじ込んで、自分の腹を撫でた。

腹が減っているから、嫌だとアピールしたいのだ。

オーランドは、エプロンの肩紐に顔を潜らせるようにして、ショーンの肌に口付けを落としていった。

「あそこにいると、飯だけじゃなくて、ショーンまで食われそうだから、嫌だ」

続けられるキスに、ショーンが、擽ったそうに笑った。

「…ヴィゴが?そんなことするかよ。あんなの冗談に決まってるだろう?」

オーランドは、エプロンをずらして、小さく尖った乳首に吸い付いた。

「嘘つきだなぁ。ショーンは。ああやって、ヴィゴに構われるのをまんざらでもないと思っているくせに!」

小さく歯を立てると、ショーンが、身体に力を入れた。

オーランドは、エプロンは着せたまま、ショーンのジーンズだけを脱がせてしまった。

勿論、下着も一緒に引きずり下ろした。

「この姿をヴィゴだって、見たかったんだろうけど、でも、これが見られるのは俺だけだよね?ショーン」

エプロンの丈は、ショーンの膝上くらいだった。

オーランドは、ショーンを見下ろし、もう少し短いとセクシーなのに、とは思ったが、逃げるショーンが、背中を見せた時には、その考えは霧散した。

緩く結ばれた腰紐や、背中に掛かる肩紐なんて、肌を隠していないも同然だ。

だが、尻まで回った布の端が、身体を隠していないわけではない。

隠すからこそ、いやらしくみえる時がある。

まさしく、今のショーンがそうだ。

わざとらしい白ではなく、ピンクなどのそれっぽい色でもなく、無造作にデニムを選んだヴィゴに感謝した。

ショーンの肌の色が際立っていた。

薄い金色の体毛が、青に映えて、煌いていた。

オーランドは、背後から、ショーンに覆い被さった。

項に吸い付いて、そのまま耳を噛んだ。

「ショーン、しようよ。ショーンのこの格好、すごくそそる」

ショーンは、眉を顰めた。

「変な趣味だな」

「そう?ヴィゴに似合うって誉められた時は、喜んでたんでしょう?」

ショーンは、首を捻って、オーランドを見ると呆れた目をした。

「どうして、そんなに嫉妬深いんだ。ヴィゴとは、なんでもないって言ってるだろう?」

「なんでもない友達は、気持ちよくなるキスなんてしてくれないし、本気の声で、返せなんて言わないね」

低くなったオーランドの声に、ショーンの声がおもねるようなものに変わった。

「ヴィゴが、ちょっと変わってるんだ」

「ショーンもちょっと変わってる。かなりヴィゴが好きなこと、そろそろ認めたら?」

オーランドは、認めたからといって、ショーンを放す気があるわけではないことを証明するために、腕の中にある身体をぎゅっと抱きしめた。

デニムの生地がごわごわした。

オーランドは、見えているショーンの背中に次々とキスを落とした。

尻を隠そうとしている布をめくって、丸みのある二つの山を手ひらで揉み込んだ。

尻の肉を両手で分けて、薄く茂っている金の毛に、唇を尖らせてキスをした。

ショーンは、体を返して、正面から、オーランドと向き合った。

何か言いたげなショーンを無視して、オーランドは、エプロンの裾を捲った。

濃い紺色が捲り上げられて、ショーンの白い太腿が晒されていった。

ショーンは、じっとオーランドの手元をみつけていた。

「仕方が無い、やらせてやるかって、顔してるね。ほだされかけてるの?」

オーランドは、整ったショーンの顔を見下ろした。

ショーンは、目元と、口元をいっぺんに緩めて、くしゃりと笑った。

花が咲いたようだった。

「好きな奴が、思いつめた顔してたら、ほだされもするだろう?たかだか、セックスで安心するってんなら、好きなだけ付き合ってやるよ」

ショーンは、自分から足を開いて、オーランドを抱きしめた。

手を伸ばして、枕もとの引き出しから、ゴムと、ジェルを取り出すと、オーランドの唇にキスをした。

後ろに手を伸ばして、エプロンの紐を解こうとした。

オーランドは、キスに応えながら、ショーンの手を止めた。

「ショーン、これは、このままで」

拗ねてはいても、欲望に忠実なオーランドに、ショーンは、呆れたような顔で笑った。

 

ヴィゴのエプロンは、ショーンの精液で汚れていた。

四つん這いにされて、後ろから伸し掛かられているショーンは、零れ出した先走りの精液をエプロンに擦りつけていた。

片方の肩紐が、ショーンの肩から、ずり落ちていた。

何度オーランドが直してやっても、せわしなく身体を動かすショーンに、エプロンの肩紐はずり落ちていった。

ショーンの穴は、オーランドで一杯だった。

中を何度も擦り上げられて、ショーンは、甘い声を上げていた。

わざとだろう。

何度もしつこく、オーランドの名を呼んだ。

掠れた声だった。

オーランドの鼓膜は気持ちよく擽られた。

年上と付き合うと、こうやって甘やかされた。

どちからかというと、そういう気遣いが少ない方のショーンでもオーランドを時々こうやって、甘やかした。

オーランドは、甘やかされるのが嫌いではない。

その部分を手がかりにして、相手の心に入り込んだ。

優しくしてやりたいという気持ちは、言い換えるなら、愛情だ。

 

「ショーン、気持ちいい?」

オーランドは、エプロンと、ショーンの体の間に手を差し込んで、ショーンのペニスを扱いた。

ショーンが眉の間に皺を寄せた。

唇が開いて、熱い息が吐き出された。

「…ああ。気持ちいいよ。オーリ」

ぬとぬとと濡れたペニスは、芯が通って固いけれども、柔らかな皮膚の感触で、オーランドの手に自由にされた。

オーランドの腕の中で、ショーンの体が揺れた。

自分から、尻を振るような真似をした。

まだ、デニムのエプロンに包まれた白い体が、オーランドの腕のなかで、しきりに動いた。

「もっと、奥まで突っ込んでって言える?」

わざと挿入を浅くしながら、オーランドは、ショーンのペニスを扱いた。

オーランドは、ショーンの浅い部分だけを早く擦った。

ショーンは、頬を染めて、何度か、はぁはぁと息を吐き出した。

尻をオーランドに向かって突き出した。

舌が、何度か、薄い唇を舐めた。

「…奥まで入れてくれ…オーリ」

ショーンのペニスを扱くオーランドの手がねっとりと濡れていた。

オーランドは、復讐するように、それをエプロンに擦りつけた。

「もう一度、今度は、愛してる。オーリって言って」

ショーンは、目を閉じて、睫を震わせていた。

額には、うっすらと汗が浮かんでいた。

「…オーリ。愛してるよ…そろそろ…俺の言う事を信じれくれ」

ショーンは、特別なことを言っているようではなかった。

いつもオーランドに強要される言葉をいつも通り、口にしたという程度の応え方だった。

会話の内容よりも、体の要求の方を優先させていた。

腰は、恥かしげもなく、高く上げられていた。

足だって、大きく開いて、何もかもオーランドに晒していた。

オーランドがペニスを扱く手を止めると、その上からショーンの手が握った。

「ショーン、愛してる!愛してる!」

オーランドは、本気にしか聞こえないショーンの告白に、思い切りショーンを抱きしめ、激しく腰を使った。

奥を突き上げるオーランドの振動に、ショーンは、潰れたような呻き声すらあげた。

「好き!大好き!ショーンのこと、愛してる!」

ショーンの額にいくつもの皺が寄り、唇からは、ひっきりなしに、声が零れていった。

エプロンは、ぐしゃぐしゃだ。

ショーンは、辛いような顔をした。

そんな顔で、喉の奥から絞りだすような声をあげて、絵の具で汚れたエプロンをまた一つ白で汚した。

 

オーランドは、すっかり濡れて、緩くなったショーンの穴の中に指を入れていた。

ショーンは、オーランドに尻を向けたまま、サービスなのか、オーランドのペニスについたゴムを外して、ティッシュで拭ってくれていた。

「ショーン、好き。絶対にヴィゴになんか、渡さない」

オーランドは、ぐちゃぐちゃと熱いショーンの中をかき回した。

特別な刺激が欲しいわけではないショーンは、悪戯に中を探るオーランドがいいところを掠めると、小さな声を上げてから、オーランドを睨んだ。

潤んだ目をしていた。

「ヴィゴは、お前から、俺を取ったりしないさ。そんな風じゃないよ」

「本当かな?かなりあやしいと、俺は思うね」

ショーンは、オーランドの顔にキスを繰り返した。

子供をあやすようなキスだ。

オーランドは、ショーンの顔を掴んで、舌を絡めた。

ヴィゴに見せていた顔をするまで、やめなかった。

ショーンは、とろんとした顔で、目を閉じた。

オーランドは、満足した。

「まぁ、エプロンを洗濯して返してやったら、結構傷つくだろうから、それで、今回は我慢してやる」

にやりと口元を緩めたオーランドを、ショーンは笑いながら見た。

「感謝されるだけだろ…通じるような奴じゃないと思う」

笑うショーンをオーランドは、もう一度抱きしめた。

「そう思ってるのは、ショーンだけだ」

オーランドは、ショーンに愛想を付かされない前に、ベッドから起き出して、遅くなった昼飯を食いに行く準備を始めた。

 

 

END

 

 

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花豆←藻という構図は、難しいと判明(笑)

モーちゃん、手ごわいから、うちの場合、簡単に豆がふらついちゃうんだよ。

ラブく落ち着かなかったら、どうしようかと、はらはらしながら書きました。(笑)