ラプンチェル

 

ある遠い国のことです。

若い二人の夫婦がいました。

妻は、お腹に子供がおり、つわりで、気が遠くなるほど、チシャナが食べたくて仕方がありませんでした。

しかし、チシャナはとてもこわいと噂の魔女の庭にしかありません。

妻は、とても美しいブルーの目をして、悲しそうに魔女の庭を見つめておりました。

ちいさなため息をかわいらしく漏らします。

夫は、どうしても、妻にチシャナを食べさしてやりたくなりました。

 

「そうだ。魔女に頼もう。そうすれば、チシャナの一つや二つ別けれくれるかもしれない」

ショーン・アスティンは、妻イライジャのために、魔女の庭に出かける決心をしました。

アスティンは、妻の顔にべた惚れだったのです。

妻がいなければ夜も明けません。

その妻が涙でうるんだ目をしてチシャナを見つめているのです。

アスティンはリュックを背負って、魔女の庭にでかけました。

魔女の庭は、妻が夢見るチィシャナが青々と繁っています。

 

アスティンは、別段泥棒するつもりはありませんでした。

魔女さえ在宅であったなら、きちんと断りを入れ、チィシャナを譲ってもらうつもりだったのです。

ですが、生憎、魔女は留守でした。

何度、呼び鈴を押しても出てきません。

居留守のようではありませんでした。

アスティンの目の前には、可愛い妻がうわ言をいうほど欲しがっているチィシャナが沢山植わっていました。

つい、アスティンは、リュックの口を開きました。

そこに魔女が帰ってきます。

 

アスティンは、後ろから蹴り飛ばされて、チィシャナの中に突っ込みました。

頭からチシャナの中に真ッ逆さまです。

振り返ると、大変柄の悪い魔女が、腕を組んで見下ろしていました。

「何をしているんだ?ああ?」

茶色がまだらな小さな馬の横に立つ魔女は、胡乱な目をして、アスティンを睨みつけておりました。

アスティンは、チィシャナの上で、這いつくばりました。

アスティンの腹の下で、チシャナがいくつか潰れました。

「身重の妻がどうしても、どうしても、チィシャナを食べたがるんです。お願いです。私にチィシャナをわけてください」

大事なチシャナを踏み潰したアスティンに、魔女は、表情だけは優しくにやりと笑い、首を横に振りました。

「だめだな。ここにあるチィシャナは、すべてかわいいお馬ちゃんに食べさせてやるために作っているんだ」

「そんな!」

魔女の隣に立つ馬は、小さな体をしてなかなかチャーミングな顔をしていました。

けれど、可愛さでいえば、うちのイライジャよりかわいいものなどいないと信じているアスティンは、声高に言い張りました。

「もっと可愛い人に食べさせるためにどうしてもチィシャナがいるんです。わけください!ほら、写真!これ、この可愛い人がうちの妻です。こんな可愛い人に食べられるチィシャナは幸せだと思いませんか!」

魔女は、突然、写真を突きつけられ、すこし驚いて身を引きました。

迫力の夫は、追いかけるようにヴィゴの顔に、ブロマイドのような妻の写真を突きつけます。

アスティンは、ヴィゴの隣に立つ馬より鼻息を荒くしています。

「…確かに可愛いとは思うが…」

好みを言えば、ブロンドで、もっと色気のあるタイプの好きなヴィゴは、青い目のロリータ、イライジャに、どうしていいのか悩みました。

しかし、アスティンは、ヴィゴの困惑を理解しません。

「可愛いでしょ?可愛いいんですよ。どうして、俺の妻になってくれたのか、不思議で不思議で、俺はこの世で一番の幸せ者だと思っています!」

胸を張るアスティンに、ヴィゴはなんと答えればいいのか分からず、思わず馬と目を合わせてしまいました。

馬は迷惑そうに視線を反らします。

「こんな可愛い人に、チィシャナを食べたいと言っているのに、あなたはわけてやろうという気がおきないんですか?そんなに心の冷たい人なんですか!」

魔女の困惑を他所に、アスティンは、演説を打ち始めました。

人の畑から持ち逃げしようとしたチィシャナの詰ったリュックを背負ったまま仁王立ちで、拳を振り上げています。

恥じという言葉を知りません。

アスティンは、現在の世情を嘆き、それを少しでも改善するためには、少子化に歯止めをかける必要がある訴え、そのための第一歩として、うちの美人妻にはどうしてもチィシャナが必要だとわめきたて、地球全体の平和のためにも、ご近所づきあいは大事な草の根的な活動だと言い出し、その意味でも、過剰にできた作物のおすそ分けは意味のある交流だと、地球資源の無駄の無い利用法としても、それはとても大事なことだと、くどくどしく言い立てました。その上、身重の妻がチシャナが食べられなくて苦しんでいる限り、自分は仕事に熱心になれず、それは、地球全体において、どれ程知的能力のマイナスになっているのか分からないとの、自信過剰な締めくくりをしました。

ヴィゴは、とても頭が痛くなりました。

思わずこめかみを指先でもみました。

アスティンの声はヴィゴがこんなにも近くにいるというのに、過剰に大きかったのです。

ヴィゴは、一秒でもはやく、まだ、演説を続けるこの迷惑な人物に立ち去って欲しくなりました。

馬も迷惑そうな顔をしています。

「…チィシャナはやる。だから、さっさと、帰れ!正し、お前の家に子供が生まれたら貰いに行く。いいか。約束だからな。子供が生まれた俺が貰いに行く。忘れるな!」

アスティンは、妻のことだけで、頭が一杯でしたので、魔女の取引にすんなりと頷きました。

リュックから零れ落ちるほど沢山のチィシャナを詰め込み、魔女の畑を立ち去ります。

畑を出る頃には、喜ぶ妻の顔を目の前に浮かんで、約束自体を忘れています。

魔女は、馬の鞍を引き、酷い目にあったと、馬の背をなでました。

 

家に帰ったアスティンを笑顔の妻が迎えました。

アスティンの後ろに背負っているチィシャナが目当てです。

この妻、可愛い顔をして、アスティンの下僕とでもいえる自分への仕えっぷりに、これなら、と、結婚を決意したのでした。

涙ぐんで魔女の庭を見ていた姿を見せた以上、死んでもチィシャナを食べさせろと、優しい顔をした後ろで、実は、思っていました。

夫はチィシャナを差し出します。

「さぁ、リジ。これをお食べ。魔女が君のためにわけてくれたんだよ」

魔女との取引など忘れ去ったアスティンは、にっこり笑います。

つわりで、もう一杯一杯のイライジャは、リュックからチィシャナをつかみ出し、餓鬼のように貪り食いました。

その姿ですら、世の中で一番かわいらしい天使だと、アスティンは見つめます。

イライジャは、心行くまで、チィシャナを食べつづけました。

勿論、これが、馬用だとは知りません。

 

夫婦の間に可愛らしい赤ちゃんが生まれました。

生まれたばかりだというのに、ブロンドのふさふさした、それは、それは可愛らしい天使のような赤ん坊でした。

アスティンは、妻という天使と、ベイビーに囲まれ、幸せの絶頂です。

得てして、そういう時に不幸は訪れます。

ドアがノックされました。

いつか見た馬が、窓の外に立っています。

 

「ヴィゴ!なんであんたが、こんなところに!」

魔女は常識知らずにも、馬を引き連れたまま、夫婦の扉を潜ろうとしていました。

イライジャは、この世の何よりも馬を大事にしている魔女の姿に、青い目を限界まで見開いて、後ろへと下がりました。

驚きの表現です。

ついでに、小さく震えて、細かく心情を表しています。

「お前が食べたのは、可愛いこの仔のチィシャナだったんだよ。さぁ、そのお返しを貰っていく。その腕に抱いた赤ん坊を寄越すんだ」

ヴィゴは、いつかの約束を履行するため、片手に馬の綱を引き、もう片手をイライジャに差し出しました。

ヴィゴの手は、イライジャの腕に抱かれた赤ん坊を狙っています。

イライジャのばら色の頬から、血の気が引きました。

恐ろしく清んだ目は、じっと馬をみつめたまま離れません。

「…可愛い仔?」

かわいらしい顔に収まった赤い唇が、小さく声を出しました。

「可愛いだろう?この仔のために俺が一生懸命作っていたチィシャナをお前の旦那が奪っていったんだ。あの演説、頭が痛くなったぞ。いつもあんななのか?お前も大変だな」

イライジャは、唇を噛んで、ぶるぶると震え出しました。

ヴィゴは、イライジャの異変を特に気に留めませんでした。

イライジャの震えを、子供を渡さなければならない苦悩のせいだろうと思ったのです。

「…チィシャナが馬用?」

しかし、イライジャは、腕の子供を魔女に押し付けると、部屋の隅で小さくなっていた夫を振り返りました。

「馬用?お前、俺に馬用のチィシャナを食わせたってのか!」

雷のような怒声が部屋に落ちました。

馬が怯えていななきます。

イライジャは、夫に飛び掛りました。

殴る、蹴るのドメスティックバイオレンスです。

魔女は唖然と見守りました。

腕の赤ん坊は、慣れているのかすやすやと眠っています。

「リジ、ごめん。リジ、ごめん。君がどうしても食べたがったから…馬用だってことは言えなかったんだ」

アスティンは、頭を抱えて無抵抗です。

可愛い妻にはむかうなんて、これっぽっちも頭に浮かばないのでしょう。

「だからって、お前、あの馬だぞ?あの馬用に作られたチィシャナを、この俺が食べたんだぞ?そんなことが許されると思うか?この可愛い俺が、馬用…馬用…」

怒りのあまり錯乱し始めたイライジャを、殴られながらもアスティンが、抱きしめます。

魔女は、腕に抱いている赤ん坊を、どうしようかと思いました。

夫婦は、2人のことに忙しく、赤ん坊をすっかり忘れているようです。

ヴィゴは、赤ん坊の顔を見ました。

赤ん坊にしては、目鼻立ちがはっきりし、美しいブロンドをしていました。

ヴィゴの目尻が下がります。

「これは、綺麗な子に育ちそうだな」

まだ、喧嘩をするのに忙しそうな夫婦を置いて、ヴィゴは、お馬ちゃんの背中にひらりと飛び乗りました。

腕に抱えた赤ん坊に大事に大事にキスをします。

「さぁ、お家に連れて帰ってやるからな。お前の名前は、ショーンにしよう。それがいい。とても、素敵な名前だ。大事に、大事に育ててやるからな」

幼児誘拐の現場がそこにはありました。

ヴィゴは機嫌のいい赤ん坊にキスを繰り返します。

ついでに、性犯罪の芽も生まれたようでした。

 

ヴィゴにさらわれたショーンは、逃げられないように高い塔に閉じ込められ、暮らしておりました。

別段困ってはおりません。

自分にべた惚れの魔女が下僕のように尽くしてくれるので、監禁されているという事実を除けば、酒は飲み放題、映像だけとはいえ、サッカーは見放題の、結構な暮らしだったのです。

たまにやってくる魔女の相手さえしてやれば、この暮らしは約束されておりました。

その相手だって、ショーンの気分次第です。

なんたって、ヴィゴは、ショーンにメロメロなのです。

 

ヴィゴは、今日も、ショーンに差し入れてやるための雑誌を手に、塔の下に来ておりました。

塔の下で、ショーンを呼びます。

「ショーン、その美しい髪を垂らしておくれ」

「ん?今日は何の用だ?」

ショーンが塔の窓から顔を出しました。

面倒くさそうな顔をしています。

ヴィゴは慌てて、雑誌を袋から取り出しました。

サッカー雑誌の最新号です。ショーンの機嫌を取るため、本屋が開くのを待って買ってきたのです。

ヴィゴは、ショーン可愛さのあまり、甘やかしつづけた自分の失敗を悔いていました。

日に日に好みに育っていくショーンを、光源氏計画で好みに育てていくつもりでしたが、そうするには、ヴィゴはショーンに甘すぎました。

ショーンがほんの少し拗ねただけで、つい機嫌を取ってしまったのです。

ショーンは、まず、テレビを欲しがり、ビデオを欲しがり、サッカーについての情報を知りたがり、ついでに、酒の味を覚えました。

俗世を知らずに育つはずが、すっかり擦れて、塔の中は、サッカー選手のポスターがベタベタと貼られています。

ヴィゴは、サッカーボールを100回もリフティングできるようになった自分がいることに気付いたときは、愕然としました。

ナチュラルにサッカー用語も口をつきます。

ショーンは、目を眇めてヴィゴを見下ろしていましたが、雑誌の表紙が新しいのに気付くと、すぐさまその長く美しい髪を塔の外へとたらしました。

ヴィゴは、髪を伝って塔を上っていきます。

ショーンは、重いだのなんだのと文句を言っています。

本当は、ヴィゴが魔法を使って、殆どショーンに体重をかけることなく、塔の上にたどり着いています。

重いはずがありません。

ヴィゴがたどり着いた部屋の中は、いつも通り、あきれ返るほど散らかっていました。

ヴィゴがまず、することといえば、この状態を、心地よい状態に復元してやることです。

魔法で酒をコップに満たし、部屋を綺麗にして、やっと、ヴィゴは落ち着いてショーンを抱きしめることが出来ます。

そのくらい破滅的に部屋は散らかっていたのです。

どうして、片付ける気にならないのか、ヴィゴにはよくわかりません。

 

ヴィゴが育てた紫の上は、予想通りとはいきませんでしたが、ヴィゴ好みのとびきり性悪な色気のある大人へと育っていました。

そう、ショーンは、緑の目がきつい、いかすブロンドに成長したのです。

が、そういう人間は、可愛いだけではすみません。

塔の中の可愛そうな捕らわれ人は、魔法使いの膝をソファーにして嬉しそうに雑誌に見入っていました。

すっかり安心しきった表情です。

身体はむちむちと色気に満ちています。

ヴィゴは、吸い寄せられるように、ショーンの太腿へと手をかけました。

ショーンが、ヴィゴの手を叩きます。

ヴィゴの手が赤くなるほど、力一杯叩いてきます。

「ヴィゴ、今は、雑誌を見てるんだ。邪魔しないでくれ!」

ショーンは、雑誌から目を離さず、ヴィゴのことを邪険にしました。

椅子として使ってやってるんだからいいだろう。と、でも、言いたげです。

「そんな、ショーン。俺は、この本を手に入れるために、町の本屋が開く前から並んで…」

ヴィゴは、構って欲しい犬のように、膝の上に抱きしめたショーンの体に顔を摺り寄せました。

ショーンは、それに煩そうな顔をします。

「これを読み終わったら、相手してやるよ。それまで、待ってろ」

大きな声ではいえませんが、まだいたいけだったショーンに手をつけて、すっかりいやらしい身体に仕込んだのは、ヴィゴでした。

ヴィゴが、それはそれは、大切にショーンのことを花開かせたので、ショーンもエッチは嫌いではありません。

だたし、サッカーの次くらいにです。

新しい雑誌を読んでいる今、邪魔されたくはありません。

ヴィゴは、大人しくショーンの椅子になっていました。

一時間もそうやって待って、やっとヴィゴにも報われる時がやってきました。

 

「ヴィーゴ」

雑誌を読み終えたショーンが、やっとヴィゴに注目しました。

満足いくまで、知識を吸収したので、こんどは体の要求を満たす気です。

唇を突き出し、キスをねだっています。

ショーンの重みに足の痺れたヴィゴは、上手く動くことが出来なくなっていましたが、そこは主の意地にかけ、ショーンを抱きこみ、思う存分キスを与えてやりました。

ショーンは、自分から服を脱ぎ出します。

長い髪を惜しげも無く床に散らして、ヴィゴを誘って白い身体を晒します。

ヴィゴは、切れ上がった目の濡れ具合に、思い通りに育たなかったとはいえ、ショーンを攫ってきて良かったと、自分の先見の明を褒め称えてやりたくなりました。

ショーンは、あのロリータ親が信じられないくらい、本当にヴィゴ好みに育っていました。

長い手足も、よくついた筋肉も、すこし意地の悪い顔も、その顔を彩る美しいブロンドも、全くもって、ヴィゴを誘惑してやみません。

ショーンが、奔放にエッチ好きなところも、予定とは違いましたが、ヴィゴは好きでした。

サッカーボールの転がった部屋の中で、ヴィゴはよく熟れたショーンを抱きしめます。

 

「ショーン、可愛いショーン。絶対にここから、逃げたりしないでくれよ」

ヴィゴは、ショーンの体にキスを落としながらかきくどきます。

「ヴィゴ、どうやってこんな高い塔から逃げるんだよ。もう、そんな言葉は聞き飽きたよ。それより、さっさと気持ちよくしてくれよ」

ショーンは、ヴィゴの洋服に手をかけ、どんどんと毟り取っていきます。

「ショーン、もし、他の誰かが、ここに来ても絶対に話し掛けたりしてはダメだ。君は俺のものなんだからね」

「わかってるって。もう、耳にタコができるほど聞いた。誰が、こんな辺境までくるってんだよ。それより、早く。ほら、早く」

いままで、焦らしていたのは、ショーンだというのに、その気になったショーンは、ヴィゴの手際の悪さを責めたてます。

ヴィゴは、ショーンの体中に口付けを落して回りました。

ショーンは、気持ちよさそうに目を細めています。

もっとして欲しい部分では、ヴィゴの頭を捕まえて、もっとと、言葉に出してねだります。

腰を突き出し、ヴィゴに舐めろと要求します。

ヴィゴは、ショーンの腰を抱きこみました。

ヴィゴしか知らないショーンの後ろに、ヴィゴはペニスを押し込みました。

ショーンが満足げな声を上げます。

ヴィゴは、ショーンが、本当に満足してくれるまで、努力を続けました。

 

そうやって、ヴィゴは、いつもいつもショーンの関心を得るためのアイテムを手に、塔を訪ねていたのですが、とうとうある日、そのヴィゴを真似る者が現れました。

オーランド王子です。

王子は、塔の窓から姿を見せるショーンに心を奪われ、どうにかして、ショーンに近付く方法を探していました。

ヴィゴは、いつも杖の先で塔を叩き、ショーンを呼びます。

ストーカーのごとく、監視を続けていたオーランドは、塔のショーンに近づく方法を学びました。

木の先で、塔を叩き、ヴィゴの声真似をして、ショーンに呼びかけました。

ショーンが顔を覗かせます。

すかさずオーランドは、塔に向かって、サッカー雑誌の最新号を見せ付けました。

それにばかり目を奪われているショーンが髪をたらします。

オーランドは、髪に掴まり、塔を上り始めました。

魔法を使って身を軽くしているヴィゴと生身のオーランドでは重みが違います。

ショーンの髪に人一人分の重みが掛かります。

「…重い」

ショーンは、いつもとはあまりに違う髪への負荷に、我慢しているのが嫌になってしまって、髪をはさみで断ち切りました。

約二階の高さから、オーランドは落ちていきます。

絶叫があたりの森を震わせます。

「うそ!?」

てっきりヴィゴだと思っていたショーンは、大変な事態に、ばっくれることにしました。

塔の下で、右往左往する城の兵隊たちをこっそり窓から眺めます。

 

可愛そうにオーランド王子は、背骨を痛め、病院に担ぎ込まれました。

立てなくなるかも知れないなどと医者に宣告されて、家族はすっかり青ざめました。

しかし、王子は、二週間後には歩き出しました。

脅威の回復力です。

その後はリハビリに専念していました。

執念です。

「ショーン、俺、負けないから!」

ショーンにほれ込んでしまった王子は、すっかり元の身体を取り戻しました。

 

そんなことがあったとも知らない魔法使いヴィゴは、今日も新しいサッカーのビデオを持ってショーンのいる塔へと訪れていました。

塔の下で、なんだか大変なことが起こってしまったということが分かっていたショーンは、オーランド王子の一件をまるきし口を噤んで黙っていたので、ヴィゴは、ショーンの髪が短くなってしまったことに驚いていました。

ショーンは、暑いからなどと、平気で嘘をついています。

ヴィゴは、美しい髪を失ったことを嘆き悲しみ、魔法で、また、すっかり長くしていました。

ショーンは、短い髪の楽さを知って、重い髪をうっとおしそうに顔を顰めていました。

けれども、ヴィゴがあまりにがっかりしていたので、我慢しています。

今日もショーンは、ヴィゴの膝の上で、サッカーのビデオを見ていました。

ヴィゴは、ショーンの機嫌を伺いつつ、あちこちタッチしています。

 

身体を直したオーランド王子は、塔から落ちた拍子にちょっと頭も打ったみたいで、少しだけお利巧になっていました。

今日は、長いはしごを用意しています。

魔法使いが来ていないことも確認済みでした。

王子は、全く下半身の要求に素直な性格でしたので、城の兵隊に、塔の見張りをさせることにも、なんの抵抗もありませんでした。

使えるものは、なんでも使うとばかりに、城の兵隊をパシリに使っていました。

長いはしごは難なくオーランドをショーンの下へと運びます。

勿論、梯子を押さえているのも、兵隊の仕事です。

 

「お前は誰だ」

ショーンは、窓から入り込んできたオーランドに目を見開きました。

「ショーン、綺麗なショーン。俺、君に一目惚れしちゃったんだ。大好きだ。ショーン」

オーランドは、ショーンの顔をうっとりと眺め、甘い声で囁きます。

この2人、会話が成り立っておりません。

「今、試合の中継中なんだ。邪魔しないでくれ。ここは俺の家だ。靴を脱げ、勝手に入るな」

「なんて素敵なブロンドなんだ。緑の目もキュートだ。こんな塔に閉じ込められてかわいそうに、さぁ、俺が助けてあげるから、こっちに来てショーン」

ショーンは、テレビの前から動かず、オーランドは、窓の側で、ショーンを抱きしめようと待ち構えています。

2人とも動きません。

「…ショーン?悪い魔女に閉じ込められているんでしょ?」

いつまでも、テレビの前で動かないショーンに、さすがのオーランドも事態が思い通りではないと、わかってきました。

そんなオーランドをショーンは迷惑そうに見ます。

「うるさいな。試合の中継中だと言ってるだろ。ハーフタイムまで待ってろ。そうしたら、口を利いてやる!」

オーランドは、ショーンの迫力に押され、靴を脱ぐと、ちょこんと、ショーンの隣へと腰掛けました。

部屋の中を見回します。

床には酒壜が転がり、部屋中は、同じチームのポスターで埋め尽くされていました。

ユニホームもピンで留めて飾ってあります。

ショーンの試合を見る目は真剣です。

オーランドは、塔の窓から見かけた美しい人の本当の姿に、すこし、いえ、かなり驚きを受けました。

しかし、塔から落された時点で、オーランドにも、すこしばかりの覚悟は出来ていたのです。

ショーンの容姿は、それを補ってあまりある美しさなのです。

 

オーランドのお尻が落ち着き無くもぞもぞし始めた30分もした頃、やっと試合が休憩に入りました。

ショーンが、初めてまともにオーランドの顔を見ました。

「用件は、まとめて、簡潔に。試合が始まるまでの間だけお前の話を聞いてやる。で、なんなんだ?」

散々、ヴィゴに甘やかされて育ったショーンに、客に対する礼儀などあったものではありませんでした。

塔の中などという狭い世界ではありますが、ショーンは姫なのです。

ヴィゴが世界1愛するこの世の宝石なのです。

オーランドは、ショーンににっこりと笑いかけました。

オーランドも、甘ったれた王子でした。

国中の人間が、オーランドを甘やかしているのです。

自分のことを愛さない人がいるなどということは、頭にも浮かびません。

「ショーンとセックスしたくてさ。とうとうここまで、上って来ちゃった。ちゃんと試合が終わるまで、待ってるからさ、やらしてくれないかな?」

全く、オーランドの言い分は、簡潔です。

ショーンは、すこし呆れました。

しかし、ヴィゴ以外の人間とするセックスにちょっと興味もありました。

ショーンは、ヴィゴ以外を知らないのです。

隣の芝生は青いものです。

 

オーランドは、試合が終わるまで、行儀よく待ち、それから、ショーンと関係を持ちました。

オーランドは見せ掛けだけでなく、本当に青い芝生だったようです。

ショーンは、それからも、オーランドの訪問を受け入れるようになりました。

 

ヴィゴがかわいいお馬ちゃんたちの出産ブームなど、いろいろと忙しい時期を済ませ、久し振りに、ショーンの下を訪ねると、塔には長いはしごが掛かっていました。

はしごの下には、暇そうな顔をした兵隊も座っています。

ヴィゴは大慌てて、塔の上へと魔法を使って飛んでいきました。

今までだって、そうすることはできたのですが、少しでもショーンと交流の持ちたかったヴィゴは、あえてショーンの髪を伝って上っていたのです。

窓から、中を覗いたヴィゴは、凍りつきます。

「オーリ、もっと、そこ。…もっと。…いい。もっと…もっとしてくれ」

ヴィゴにねちっこく愛されてきたショーンは、オーランドの愛撫に少し物足りなさを感じていて、いつもしつこく要求します。

「ショーン、あんたさぁ、自分も少しは努力したら?してもらうばっかりなんて、ずるいと思わない?」

オーランドは、とてつもなく気持ちいい体のショーンを抱きしめながら、要求の激しいショーンに額に汗を浮かべています。

ヴィゴの目の前で、金の髪以外その身体を覆うものの無いショーンが、あられもなく足を開いてオーランドを咥え込み、オーランドに愛撫をねだっていました。

オーランドは、ショーンの足を抱きこんで、すっかり自分の体の下に押さえ込むと、ずぶずぶと尻を犯しています。

「オーリ、もっと!ヴィゴはもっと気持ちよくしてくれたぞ!」

「だぁかぁら、ちゃんとしてあげるから、もう少し大人しくしてなって」

ショーンがやたらと腰の位置を上げようとするのを、オーランドは、押さえ込んで、自分の思い通りにしようとしています。

どっちも自分の要求を優先しながら生きてきたので、譲り合うという気持ちがありません。

それでも気持ちいいのか、ショーンの脚がオーランドの腰に絡みつきました。

ヴィゴは、真っ青です。

反対にオーランドに揺すられているショーンは、素敵なピンクに色づいています。

ヴィゴは、声も出ませんが、ショーンは、調子よく、いい声を上げています。

 

背中を見せて這わされ、中をペニスで擦り上げられ始めたショーンが、すっかり蕩けた表情になりました。

ショーンの好きな体位です。

体中が、うっすらと汗に覆われ、シーツを掴んで腰を捩っていました。

もういきそうな表情です。

ここまでにショーンを仕込んだのは、ヴィゴです。

わからないはずはありません。

やっとヴィゴは、急速解凍されました。

「お前は何者だ!ショーンに何をしている!!」

急に窓から乗り込んできたヴィゴにオーランドは驚きました。

魔法使いのあまりの剣幕に、ショーンの中に入れているものは、萎え萎えです。

ショーンが切ないため息を落しました。

つまらない顔をして、背後に伸し掛かっているオーランドを見上げます。

唇を突き出して、ペニスの小さくなったオーランドに不満を隠そうともしません。

 

「ヴィゴ、急に現れるなよ。オーリがびっくりして、役に立たなくなるだろう?」

ショーンは、文句をいいました。

2人の男は、ショーンのあまりの言い分に、呆れてものがいえませんでした。

ショーンは、オーランドから体を離し、ベッドの上にあぐらをかきます。

「どうしたんだ?ヴィゴ?久し振りじゃないか。どうして、そんな悲しそうな顔をしてるんだ?あっ、捨てられるんじゃないかと思ってるのか?大丈夫。あんたの方が上手いからな。捨てるなんて言わないぞ?ただ、ちょっとこの塔を訪れる人間が増えただけじゃないか。いいだろう?あんただって、毎日来るわけじゃないんだし」

オーランドがこの事態に役に立たなさそうだと判断すると、ショーンは、いっそ潔く、ビデオのリモコンを手に取りました。

スイッチを押します。

「観るか?ヴィゴ。あんた、このところここに来てないから、観てない試合が沢山あるだろう?」

一応、オーランドより、ヴィゴに情があるのか、ショーンは、ヴィゴを優先してくれているようでした。

けれども、あくまで、ショーンの基準でです。

セックスの最中に放り出す、オーランドよりはヴィゴが上だという程度です。

 

ヴィゴと、オーランドは、争うようにショーンの待つ塔へと訪れるようになりました。

小さな諍いは、耐えませんが、ずっと忍耐することに慣れてきたヴィゴが調整役となって、結構幸せなトライアングルを築いていました。

そこに、一通の手紙が届きます。

手紙は、ショーン宛でした。

差出人は、ショーンの母、イライジャです。

 

手紙とほぼ同時に、イライジャは、ショーンの塔へと訪れました。

過ぎ去った日々を感じさせないロリータぶりが健在のまま、かわいらしい顔をして、下僕な夫を従えています。

イライジャは、馬用のチィシャナを自分に食べさせた夫を、まさしく、馬車馬のごとく働かせ、一代で巨万の富を気付いていました。

勿論、富を築くにあたり、イライジャ本人の美貌も大いに活用されています。

そして、生活にゆとりが出来て、母はやっと我が子を思い出したのでした。

自分の子なら、美貌に違いなく、魔法使いに大事にされているはずだという理由の無い確信のもと、塔を堂々と訪ねています。

「ああ、綺麗な子だ。よかった。大事に愛されて育ったようだ。名前は?」

塔の中を見回したイライジャは、部屋に貼られたポスター類に驚いた顔をしていましたが、ベッドの上で、睦みあっている三人のことについては、どうでもいいようでした。

こんな親子再会があっていいものかちょっと悩むところです。

ところが、ショーンは、すんなりイライジャを受け入れています。

親が親なら、子も子だということでしょうか。

「名前は、ショーンだ。…あんたは…ママか?」

「そうだよ。可愛い子。さすがはママの子だね。魔法使いだけでなく、王子まで、お前の虜かい?なかなかやるじゃないか」

「…まぁな」

ショーンがにやりと笑います。

この親にして、この子ありというのでしょう。

ビジュアルだけみていると、まるで花園のように美しい光景だというのに、なんだか薄ら寒い会話でした。

そんな2人でしたが、母と子は、抱き合って、再開を喜んでいました。

何度も言いますが、ビジュアルだけなら、天国のような光景です。

小さな母と大きな子は、どちらも、違う魅力に溢れていました。

母は、永遠の天使でしたし、子は、悪魔のような色気で、男たちを放しません。

 

この塔に捕らわれていたのは、本当のところ、魔法使いや、王子のほうでした。

 

塔に集う下僕たちは、自分の上に君臨する女王さまたちに、すっかり骨抜きだったのです。

 

 

END

 

   BACK

 

ご存知だと思いますが、本当のラプンチェルはこんな話じゃございません。(笑)

ラストの方を散々改ざんさせていただきました。

童話シリーズ第4弾。(笑)

今回のショーンさんは、さすがに、エッチ好き過ぎでしたね。(泣)