美女と野獣
むかし、むかし、ある所に、3人の娘を持つ、ショーンという男がおりました。
娘の名は、ドム・ビリー・イライジャといいます。
男は、町へと商品を売りに行くところでした。
かわいらしい3人の娘に向かって、お土産になにが欲しいかと尋ねます。
「洋服が欲しい!」
一番、上のドム。
「靴!靴!靴!」
真ん中の娘、ビリー。
「でも、親父、わかってると思うけど、あんたの趣味で選ぶなよ。あんたが、選んでいいのは、かわいい子が売り子をしてる店選びまで。あんたのお眼鏡にかなった子がいる店があったら、あとは、その子の言うとおり、後は金だけ払ってくれればいいんだからな」
次女の言う事は辛らつです。
「そうそう。変に、自分の好みを言い出すなよ。だぶだぶのトレーナーなんか、買ってこられても迷惑なんだからな」
長女の言う事も、辛らつでした。
やはり、男手一つでの子育ては、無理だったかと、ショーンは思いました。
けれど、妻には、逃げられたのです。
しょうがありません。
がっくり肩を落としながら、ショーンは、末娘を見ました。
末娘は、小さく肩を窄めるようにして、ショーンが自分に気付いてくれるのを待っています。
「お前は、何にする?」
もう、どんなことを言われても傷つかないよう、ショーンは、最初から覚悟を決め、淋しいような笑いを浮かべながら、イライジャを見ました。
イライジャは、青い目で何度も瞬きをしながら、遠慮がちに笑います。
「あのね…花を一輪。それだけで、十分」
あまりに可愛い末娘の発言に、ショーンは、泣きそうになりながら、ぎゅっとイライジャを抱きしめました。
「どんな花でもいいのかい?」
「できたら、バラを…でも、無理だったら、なんでもいい」
イライジャのぶりっこ発言に、上の姉2人は、ブーイングです。
ショーンは、もう、抱えきれないようなバラの花束を買って帰ろうと心に決めて、一番かわいい娘の髪をハゲになるほど撫でました。
「ちゃんと、お土産を買って帰るから、お前たち、留守番を頼んだよ」
ショーンパパは、バラを持ち帰った自分に、頬をピンクに染めた末娘が微笑む顔を夢見て町へと出かけました。
家の中で、こんな会話がなされていたことなど知りません。
「リジ。いい子ぶり過ぎ」
「そうそう。なんで、そうやっていい子ぶるかな?普段、あんなにショーンのこと邪魔にしてるのに、何でああやって、ポイント稼ごうとするわけ?」
この姉妹、別段、仲が悪いわけでは、ありません。
それどころか、悪いことをするのも、いいことをするのもいつも一緒という仲の良さです。
イライジャは、さっきまで儚げにきらめいていた青い目に、意地の悪い光を載せて、姉2人ににやりと笑いかけました。
「馬鹿だなぁ。2人とも、もうちょっと、頭、使わないと。今は、冬なんだよ。この季節、どこにバラの花が咲いてるっていうのさ。ああやって、かわいこ子ぶって、お願いすれば、ショーンなんてちょろいんだからさ、散々町のなかさ迷い歩いて、帰るのが遅くなって、その分、俺たちに自由時間が増えるってモンでしょうが」
「おっ、ナイス!」
「さすが、リジ!」
姉妹共通の悩みは、ショーンが娘の教育に対して酷く保守的だという点でした。
お前は、生きている化石か?と、聞きたくなるほど、女らしさや、優しさというものばかりで、娘を一杯にしようとしています。
娘達は、姉妹の別々の母親達が出ていた理由の一つに、ショーンのこの部分に、嫌気が差したに違いないと思っていました。
そういうわけで、3人は、ショーンが行商に出かける時を楽しみにしていたのです。
「ショーンさ、いつも、テレビ占領するから、見たかったビデオ溜まっちゃってるんだよね」
「俺も、俺も、大音量で、CDかけてもいい?」
ドムと、ビリーは隠してあったホラー映画や、ロックのCDを持ち出してきました。
「勿論、オッケー!ショーン、同じサッカーの試合ばっか、馬鹿みたいに繰り返し見てるから、頭、痛くなるよね」
イライジャは、料理酒の注文に混ぜて頼んだ、ウイスキーを取り出します。
「あっ、それ、ショーンが飲んでるのより、上等なのじゃん」
「だって、そりぁ、酒は、味のわかる人間に飲んでもらうってのが、最高に幸せでしょ?」
グラスに注いでいるイライジャは、幸せそうな顔で笑っています。
上の姉2人は、顔を見合わせました。
「ショーン。かわいそ。この一番下が、一番手に負えないって、早くわかるといいのにね」
外は、吹雪がふぶいていました。
ショーンパパは、生意気な口を利く、上2人の娘と、かわいい末娘のために、町までの道のりを一生懸命歩いています。
持っていった商品は全て売れ、ショーンは、娘のお土産を探すだけとなっていました。
上2人のお土産は、簡単に買えたのですが、どうしても、花が見つかりません。
ショーンは、まんまと、イライジャの策略に嵌っていました。
イライジャの読みどおり、ショーンは、たいへんちょろかったので、町にある、全ての店を見て回っていたのです。
しかし、こんなかわいいお父さんのために、一本の花も売っていなかったのでした。
仕方がないです。
今は、冬です。
「…悲しむかもしれないが、あきらめるしかないか…」
ショーンパパ、一番好きな娘の望みが叶えてやれず、心なしか肩が落ちています。
帰る道でも、目は、花を探し、雪の上をさ迷っています。
そんなことをしていたせいで、ショーンは、道に迷ってしまいました。
見たことも無い、大きなお城の前に来ています。
「ここは、どこだ…」
茫然とするショーン。
しかし、お城の周りをぐるりと囲む鉄柵の中には、バラの花が咲いていました。
「一本だけ…」
娘には、公正さを求めますが、ショーン、自分には甘いです。
瞼の裏に、嬉しそうに笑うイライジャの笑顔が浮かんで、すっかり目尻の下がっているショーンパパは、鉄柵から腕を入れ、人様の家の花を盗もうとしています。
「…あと、ちょっと…」
花盗人は必死です。
「ちっ、なんで、もっと近くに咲いてないんだよ」
何度も指先が宙を掻き、ショーンは、舌打ちを繰り返しながら、花を折ろうとしていました。
「誰だ!!俺の庭の花を盗もうとする奴は!」
大きな声とともに、城門が開き、一陣の風が舞い上がったと思うと、ショーンは、吊るし上げられていました。
あまりの勢いに、ショーンは、逃げる間もありません。
「わぁ!!許してください!バラの花を一本!一本だけ、頂きたかっただけなのです」
ショーンは、頭を抱えるようにして、必死に謝罪を繰り返しました。
足は、まるで地面につきません。
ショーンだって、随分な身長です。
相手は、どれほど大きいのでしょう。
「ダメだ。ここは野獣の城だ。この城のものは、何一つだって、やる訳にはいかない。それほど、野獣は甘くないんだ」
野獣は、すこし擦れがちで、とても低い声でした。
ショーンは、震え上がりました。
野獣の城。
そこは、とても恐れられ、誰も近づかない場所なのです。
「お前は、誰だ。この城のものを盗もうとはいい度胸だ」
「…ショーンです。娘のために、だた、一本、バラの花が分けていただきたかっただけで」
ショーンは、分けていただくという態度ではありませんでした。
あれは、盗人の態度です。
「顔を上げろ。俺を見て、まだ、バラが一本欲しいというか?」
怖がってしまい、頑なに顔を上げようとしないショーンを野獣は、振り回しました。
ぷるぷる震えながら、ショーンは、顔を上げました。
いきなり目を閉じました。
なぜって、野獣は、緑色だったのです。
色も変ですが、この寒空に、黒いパンツ一枚しかはいていません。
「助けて下さい!助けてください!でも、バラは、一本下さい!娘がどうしても欲しいって言っているんです」
がたがたと震えているくせに、ショーンは、妙なところで根性を見せました。
野獣は、怯えた目をして、唇を震わせ、けれども、じっと自分を見つめる人間に、すこし好感を抱きました。
びくつき振りが、なかなかキュートだと思っています。
緑の野獣は、もうすこし脅かしてやろうと、ショーンを振り回しました。
ショーンは、涙目になっています。
「頼む!俺は、高所恐怖症なんだ!下ろしてくれ!地面に下ろしてくれ!」
野獣は、ショーンの叫び声も、なかなか可愛いと、思いました。
「お前、そのバラを娘に届けたら、必ずこの屋敷に帰ってくるんだ。それが約束できるのなら、バラを一本くれてやってもいい」
散々ショーンを振り回し、楽しんだ野獣は、ふらふらと足元の覚束ないショーンを支えながら、一本のバラを差し出しました。
ショーンは、これほど怖い目に合わされたのだから、バラの1本や2本、貰って当たり前だと思っています。
「やさしい野獣様。必ず、娘に花を届けたら、こちらに戻ります。ありがとうございます。本当に、ありがとうございます」
戻る気など、さらさらありませんが、ショーンは、口先だけで緑の野獣と約束を交わしています。
大男、総身に知恵はまわりけぬ。
ショーンは、隆々とした筋肉を見せつけるためか、雪の降る日だというのに、黒パンツ一枚の野獣を多少馬鹿にしています。
「約束を守らなければ、お前を攫いに行くからな」
緑の野獣は、ショーンの顔が気にいってしまいました。
自分とお揃いの緑の目が、うるうると潤んでいるところなど、食べてしまいたいほどかわいい。と、思っていました。
ショーンは、あんな高いところで振り回されたことは、一生覚えていてやる。と、思っていましたが、約束など憶えておこうとも思っていません。
「勿論ですとも。野獣様。バラを届けましたら、必ず。必ず、こちらに戻ります」
「野獣などと、呼ばないでくれ。俺のことは、エリックと」
エリックは、あまり世間ずれしていませんでしたので、ショーンが約束を守るという以上、必ずそれは守られるものだと思っていました。
「では、エリック様。必ず戻りますが、とりあえず、娘の所へ、急ぎ返りませんと…」
「そうだな。では、待っている」
ショーンは、後ろも振り向かず、野獣=エリックのもとから、逃走しました。
走って逃げる途中で転び、約束したことなど、ぽろりと雪の上へと落とし忘れてしまいました。
あれほど約束をしたというのに、エリックの下へ、ショーンは帰ってきません。
エリックは、3日待ちました。
ショーンの家が遠いことは知っていました。
娘達との別れに時間がかかっているのかもしれません。
1週間待ちました。
ショーンは、やってきません。
普通に歩いても、ショーンの家から、エリックの城まで、1日もあれば十分でした。
エリックなら、30分です。
エリックは、もう、我慢など出来ませんでした。
城の外へ出ると、大きく屈伸しました。
一回のジャンプで、森の半分を飛び越えます。
だてに、野獣じゃないのです。
そこからエリックは、走りました。
どすどすという足音に、山では雪崩が起きています。
黒パンツ一枚の緑の野獣が疾走します。
雪化粧されたメルヘンな雰囲気の森には、似合いません。
ドンドンドン!
ショーンの家のドアが叩かれました。
エリックとの約束など、すっかり忘れ果てていたショーンは、ソファーの上に転がり、サッカーの試合、5度目の観戦中でした。
熱をこめて、エールを贈っています。
しかし、ソファーの後ろを通るドムは、その試合が負け試合であることを知っていました。
冷ややかな目をして、ショーンを見下ろしています。
ドンドンドンドン!
ドアを叩く音は、次第に性急になりました。
せっかちな奴だ、と思いながら、ショーンは、ドムに言いつけました。
「客だ。ドム。お迎えしてくれ」
「えー!どうせ、お客様なんて、ショーンにしか来ないんだから、ショーンが出なよ」
「どうして、そう口答えばかり…」
ぶちぶち言うショーンに、ドムは、文句を言いました。
ショーンが買ってきた洋服が、膝下までもあるワンピースだったので、ショーンと、ドムはずっと喧嘩中なのです。
「どうして、そういう口の利き方をするんだ。ドム。」
「うっさいなぁ。また、女の子のくせに、とか、なんとか言う気でしょ。そういうことばかり言ってると嫌われるんだよ。ショーン」
「ドム。お客様。お願い。手が離せないんだ。出てよ」
台所から、イライジャが、ドムを呼びました。
調度、夕飯の用意をしていたイライジャは、ドアが打ち破られそうな勢いで叩かれるノックの音に、上手い具合にドムを使います。
「もう!しょうがないなぁ!」
ドムは、ドアへと向かいました。
大きな叫び声を上げます。
「ショーン。お前を迎えに来た」
「……エリック…」
約束は、忘れていたようですが、ショーンは、野獣の名を覚えていたようです。
気絶したドムを片手に抱いて、家のドアをくぐるエリックに、ショーンは後ずさりします。
「…ショーン。お友達?」
イライジャが、台所から顔を出し、緑色の野獣を見上げました。
あまりの大きさに、さすが、小さな大物も、唇を震わせています。
「ショーンは、俺のところに戻ると約束したんだ。いつまで経っても、戻ってこないから、迎えに来た」
「…サッカー仲間?」
「…いや、違うんだが」
変なところで、やけに根性を見せ、食い下がってくるところは、この家の家系なのかもしれません。
イライジャの質問が、ショーンのサッカー仲間なのか?ということだったことに、エリックは、驚きを覚えました。
今まで、この姿のせいで、誰からも迫害を受け、まともに会話をしたことなど無かったのです。
まさか、サッカー仲間だなどと、言われるとは、思ってみなかった展開でした。
「じゃ、どんな関係?うちのパパが、なにか、そちらで、ご迷惑を?」
洗濯物にアイロンをかけていたビリーも顔を見せました。
緑の野獣に、驚いた顔を見せましたが、この寒空に、黒いパンツ一枚だけで寒くないのか?と、聞いています。
「ショーンは、バラを一輪持って帰る代わりに、俺の城で暮らす約束をしたんだ。約束が守られないから、俺が迎えに来た」
「…俺?俺が、原因?」
さすがに、イライジャの顔色が変わりました。
忙しく、透き通った目をさ迷わせます。
「別に、お前が原因だったわけじゃない。俺が、エリックの家のバラを盗ろうとしたのがいけないんだ」
ショーンは、父親らしくイライジャを庇いました。
イライジャは、大きく息を吐き出し、ああよかった。と、言っています。
「じゃ、ショーンは、これから、この人の家で暮らすってこと?」
意識を取り戻したドムが、ショーンに聞きました。
「…う…ん。できれば、いきたく…ないん…だが…」
ショーンの声は、もごもごととても小さいです。
約束を守れと口うるさく娘達に言っている手前、自分が率先してそれを破ることはできません。
おまけに、緑の野獣、エリックが、ショーンを見下ろしています。
「え?ショーン。聞こえないんだけど?」
娘の声が、意地悪く聞こえたのは、ショーンの被害妄想かもしれません。
ドムと、ショーンは、喧嘩中です。
「ねぇ、野獣さん。どうして、ショーンなのさ。どうした?この顔が気に入った?うちのパパ。顔だけは、格好いいから、結構もてるんだけど、見掛け倒しだよ」
ビリーは、野獣に近づいて、こしょこしょと内緒話をしていました。
度胸があります。
「これでさ、うちのパパ。3回も離婚されちゃってるの。今度ダメだったら、きっとさすがのショーンでも立ち直れないだろうから、俺たち、ショーンがどんな人間でも、大好きだから、許せるって人が希望なんだ」
ビリーは、野獣の腰までもありません。
でも、野獣に腰をかがめさせ、内緒話をさせています。
「あと、俺たちの生活の保障もしてくれないと。あんなだけど、一応、大事なパパだからね。いなくなっちゃうと、俺たち生活に困っちゃうんだ。野獣さん。あんたん家って、すごいお城だったよね。俺たちの生活、ちゃんと面倒見てくれるかな?」
会話には、イライジャも割り込んできました。
エリックを驚かせずにはいられない、とてもはきはきとした娘達の存在です。
すぐビクつく、父親にまるで似ていません。
「お前達の生活については、あとで、城から人をやって金を届けさせる。ショーンのことは、一生面倒見る。お前達のパパを俺にくれ」
エリックは、真摯に話し掛けました。
イライジャが、疑い深い目で、エリックを見上げます。
「本当に、一生?途中で返品は止めて欲しいんだ。返品されちゃったら、俺たちにショーンの老後の面倒とか、そういうの降りかかってきちゃうし」
「一生だ。間違いなく、一生。苦労はさせない。大事にする。勿論、お前達の面倒も見る」
イライジャと、ビリーと小躍りしました。
「ラッキー!パパ、いい人見つけたね」
結局、あれほどショーンが苦労して手に入れたバラの花を差し出したときにも見ることができなかったイライジャの頬がピンク色に染まっています。
ショーンパパは、どんどんと進む話に、あわあわと度を失いました。
「あの…ちょっと…おい…」
けれども、誰も気に留めません。
「あと、お願いがある。俺たちもさ、あんた達の新婚生活に、干渉しないから、あんたも、俺たちの生活に干渉しないで欲しい。俺たち、親の目がないからって、道を踏み外すほど、馬鹿じゃないし」
交渉事にはイライジャ。
これは、3人の中で、もう、決まっていることです。
上、2人も、うんうん。と、頷きながら、野獣を見上げています。
緑の野獣、エリックと、3人の娘は、お互いに満足のいく結論に達しました。
ぜひ、誰かに監視しておいて貰ったほうがいい、安請け合い馬鹿、ショーンは、娘達に見送られ、新しい妻(緑の野獣)の脇に抱えられました。
エリックの足は、ほんの一跨ぎという勢いで、城へと向かいます。
ショーンは、贔屓チームの負けが決まるPK戦をみることなく、住み慣れた我が家から連れ去られました。
ここまで見ると、ショーンは、いつも悲しくなります。
もしかしたら、これは、幸せなことかもしれません。
「ショーン。不都合なことがあったら、何でも言ってくれ。お前の言うとおり、何でも用意させるから」
エリックの城に連れ去られたショーンは、最初こそ、怯えていましたが、意外に住み良い暮らしに、すっかり満足していました。
なんと言っても、ここでは、同じ試合のビデオを何度繰り返し見ようとも、誰も文句を言いません。
エリックは、相変らず、この寒い季節だというのに、黒いパンツ一枚で、筋肉隆々の体を見せ付けていましたが、まぁ、見慣れてしまえば、大したことありません。
緑色だということは、赤や、黄色じゃなくて、良かった。と、思っていました。
緑というのは、なんとなく落ち着きます。
そんなことを考えながら、ショーンは、城で暮らしていました。
ここの暮らしは快適なのです。
「ショーン。悪いが、奥の塔にある部屋にだけは、入らないでくれ」
エリックは、できれば、自分が野獣になったことに対する説明をしたくて、ショーンの気を惹こうと、こう切り出しました。
もう、この城につれてきて、1週間も経つというのに、ショーンは、エリックに説明も求めませんでした。
エリックの姿が、異形であるということを素直に受け入れ、まるで、不思議がりもしません。
全く、ここの生活に順応しています。
「ああ。いいよ。俺は、この部屋さえあれば、満足だ」
ショーンの部屋には、かき集められるだけのサッカーに関する色々なものが集まっていました。
ショーンが見たことのなかった試合。そして、これからも、続々と新しい試合のビデオが集まることになっています。
エリックの城に来てよかったと、本気でショーンは思っていました。
ショーンは、とても気軽にエリックに返事を返します。
視線は、テレビから動きません。
「いや、あの、ショーン。あそこには、俺が元が人間だったという証明になる…」
「へぇ。ふーん。わかった。エリック。その部屋には入らないから、エリックも、すこし黙っててくれ」
ショーンは、ソファーの上で、握りこぶしを作っています。
エリックにも何故だかわかります。
これから、贔屓チームが、攻撃を再開し、シュートが一本決まるのです。
「よし、いけ!そこだ!うまい!」
もう、エリックは、3回このビデオを見ました。
エリックは、ショーンが次に叫ぶ言葉まで知っています。
「そうだ。シュートだ!そら!!ゴーーール!!!!すごいぞ。あんたは、天才だ!」
エリックは、何とか、ショーンに自分が何故、野獣になったのか、説明したいと思っていました。
そして、是非、元の人間に戻りたいと思っていたのです。
「ショーン」
エリックは、邪魔にされるのを承知で、ショーンに話し掛けました。
3回も見ているので、エリックだって、試合の流れは知っています。
ここからは、しばらくの間、両チーム攻めあぐね、コートの上にたいした動きはありません。
「なんだ?まだ、居たのか?エリック」
案の定、ショーンは、面倒くさそうに目を上げて、エリックを見上げました。
ここは、エリックの城です。
どこにだって、エリックは居ていいのです。
「あのな。ショーン。ちょっとだけ、話を聞いて欲しいんだが」
「すこしだぞ。短く話してくれなきゃ、追い出すからな」
1週間、好き放題、わがまま放題にやってきたショーンは、すっかりエリックが言いなりになるという事を憶えていました。
「えっと、じゃぁ、まず、俺がどうして野獣になったかについてなんだが…」
「魔法だろ?」
「いや、あのな、俺の親父が、マッドサイエンティストって奴で、軍の研究者だったんだが、核実験をしていて…」
「は?何を言ってるんだ?だから、魔法だろ。よし、わかった。で、それで、なんだって?」
全く理解していないとわかる顔で、ショーンは続きを急かします。
目は、ちらちらと、テレビの映像を追っています。
「だから、ショーン。この姿は、俺の本当の姿じゃなくて…」
「緑じゃないのか?じゃ、何色?俺、派手な色は目が疲れるから、いやなんだけど」
「いや、色の問題じゃなく…」
「うっとおしいな。早く言えよ。エリック。まず、結論だ。それを言え」
ショーンに言わせれば、こういう両チームにらみ合いの時にこそ、力のあるプレーヤーが、すばらしいテクニックを披露するのでした。
ボール送りの仕方など、素人にはわからないかもしれませんが、頭脳的で計算されていて、見ているとため息が漏れます。
エリックは、1度天井を見て、覚悟を決め、それから、ショーンの顔を見下ろして、はっきりといいました。
「ショーン。ショーンに、俺のことを好きになってほしいんだ」
野獣、一世一代の告白です。
野獣の肩が心なしか震えています。
「好きだよ?エリック。お前、優しいもん」
けろっと、言ったショーンは、話が済んだとばかりに、テレビに向き直りました。
まるで、天気の話でもしているようです。
「ちょっと、待った、ショーン。まだ、話は終わりじゃないんだ」
嫌々、ショーンが顔を上げました。
「じゃぁ、なんだよ。早く言えよ」
「俺は、もともと、野獣じゃないんだ。俺を愛してくれる人と…あの…その…セックスすることができたら、元の人間に戻れるっていう呪いにかかっていて」
「はぁ??お前、核実験がどうのこうのって、言ってなかったか?」
一応、ショーン、話は聞いていたようです。
「だから、核実験のせいでこうなったんだが、その直後に1人の妖精が現れて、バラの花が散るまでの間に、愛する人と合体することが出来たら、元の姿に戻れると言う魔法を…」
「なんちゅう、下世話な魔法だ…」
「いや、でも、俺、もう、バラも散ってしまいそうだし、このまま一生野獣のままかと思っていたけど、ショーンという愛する人にも出会えたし」
エリックは、緑の頬を赤く染めて、嬉しそうにショーンに笑いかけました。
確かに、ショーンは、エリックから、愛の告白は受けていました。
でも、肉体関係を迫られるとは夢にも思っていませんでした。
「いや、ちょっと、待て。お前、いくら、なんでも無理だろう。自分のサイズを考えてみろ」
ショーンは、ソファーの上を後ずさりました。
目は、エリックの黒いパンツに釘付けです。
「なぁ、おい、俺がお前に入れるって話じゃダメなのか?」
したいとか、したくないという問題ではなく、ショーンは、自分の体が心配でした。
あんなものを入れたら、絶対に、尻が壊れることは間違いありません。
なんとか勃たすことさえ出来たら、エリックは大きいですから、それほど無理なくショーンのものを挿入することが出来るだろうと思いました。
「悪いが、ショーン。妖精は、俺が入れるということしか、念頭になく、魔法をかけたんだ」
「その妖精を探そう。頼めば、そのくらいの違いは何とかしてくれるかもしれない」
「いや、もう、随分、高齢の妖精だったから…多分、もう…」
ショーンは、ソファーから飛び降りて、廊下へと逃げ出しました。
「絶対に、無理!入らない!入らない!」
「大丈夫、ショーン。いきなり入れるなんてことはしない。ちゃんと、日にちをかけて、ゆっくり慣らすから」
ショーンが、螺旋階段を駆け下りる間に、エリックは、ひらりと、ジャンプして、踊り場で、ショーンを待ち受けます。
「無理。無理。だって、エリック。お前、人間じゃないんだぞ。そんな大きいの入るわけがない!」
「大丈夫だって。ショーン。訓練すれば、ちゃんと腕だって入るんだ。俺は、きっと出来るって信じてる」
ショーンは、今度、階段を駆け上り、緑のエリックを引き離そうとしました。
エリックは、ほんの3歩で、ショーンに追いつきます。
「ショーン…」
エリックは、暴れるショーンを抱き上げ、悲しげに目を見つめました。
「そんな顔しても、無理なものは、無理!」
「でも、ショーン。バラの花が散るまでの間に、俺が、人間に戻らないと、この城と、俺は、地上からなくなるんだ。妖精が、どうせなら、ドラマチックにって、そういう魔法もかけていったんだ」
「……なんて、迷惑な…」
ショーンにとって、エリックが、野獣のままであることなど、まるで問題ありませんでした。
けれども、野獣が、城ごとなくなってしまうと言うのは、大問題でした。
ここの暮らしは、1度味をしめたら、止められません。
「…あと、どのくらいで、バラは散るんだ?」
長くて、あと、一月。
エリックは、期待に震えながら、ショーンに打ち明けました。
ショーンは、それだけあれば、もしかしたら、エリックのものでもいれられるようになるかもしれない。と、思いました。
黒いパンツを嫌そうに見つめながら、わかった。と、エリックに承諾しました。
「エリックは、絶対に大きくしないよう、努力するんだ」
「でも、ショーン…」
野獣専用の大きなベッドでは、緑の大男がしゅんっとうなだれていました。
ショーンは、その膝に乗って、エリックに説教をかましています。
「でも、じゃない。どう考えたって、このサイズのままじゃ、入れるのは無理だろう!お前のために、こんな真っ昼間から努力してるんだぞ。根性をみせてみろ。根性を!」
エリックのペニスが入る大きさまで拡張するという訓練に対し、音を上げ、泣きまくったのはショーンでした。
ショーンには、根性などありません。
「だけど、ショーン…」
「わかった。いつもどおり、ちゃんと舐めてやるから」
ショーンにマックスの大きさで入れることなど諦めた二人は、せめて、エリックのものが普通サイズの時に入れることが出来るよう、訓練をしていました。
けれども、エリックは、ショーンの裸に欲情していしまいます。
「この野獣が」
ショーンは、口では散々なことを言っていましたが、エリックのペニスを優しく舐めました。
肌を重ねるようになって、もう、3週間も経ちます。
ショーンは、エリックに情のようなものを感じています。
エリックは、ペロペロと舐めるショーンの舌に、低い声で、小さくうめきました。
「ばか。エリック。大きくしてどうするんだ。あまりサイズを変えないようにして、さっさといけ。一回いったら、後は大きくしないように、じっと我慢してだな…」
「そんな、ショーン。無理だよ。そんなのは、無理…」
言いながら、エリックは、ショーンのお尻に手を回しました。
肉付きのいいショーンの尻は、エリックのお気に入りです。
「触るな。今は、エリックの番だろ」
「でも、ショーンだって、ちゃんと広げる訓練をしないと」
ショーンは、エリックの小指なら、なんとか受け入れることが出来るようになっていました。
小指なら、中で動かされて、感じることまで出来ます。
でも、他の指では苦しいです。
エリックのマックスは、人差し指、中指、親指の3本を合わせても、まだ、太いのです。
遠い道のりでした。
けれども、日にちは迫っています。
「…ちょ、こら!エリック。そうやって、悪戯するなら、もう、舐めてやらないぞ」
「ショーン。これ、気持ちいいんだろう?今日は、人差し指に変えてもいいか?小指の次に細いんだけど」
エリックは、ショーンの体にキスを繰り返しながら、入れている小指を前後に動かしました。
ショーンの腰が揺らめきます。
ぴくんと立ち上がったショーンのペニスを、体の大きなエリックは、軽々と根本まで口に含みます。
「ショーン。口がお留守。俺みたいに、全部舐めろとは言わないから、せめて、先っぽだけでも舐めてくれよ」
「…う…ン。エリック…もっと、気持ち…いい。もっと舐めてくれ…」
今日のショーンは、人差し指まで、頑張りました。
バラの花びらは、残り、3枚となっていました。
「大変です。ご主人様!」
今日も、ベッドの上で、訓練と称して、いちゃいちゃしていた二人の寝室に、燭台と時計が駆け込んできました。
後ろからは、ポットやら、マットやら、箒などが続いています。
この城、いつも清潔に掃除が行き届き、そして、食事が時間どおりに出てくるので、ショーンも不思議に思っていました。
これで、謎が解明しました。
この不思議については、細かいこととして、ショーンは、気にしません。
緑の野獣、ご主人様は、ショーンの裸体を隠すことはしましたが、自分達の関係を隠そうとはしませんでした。
「何が、大変なんだ?」
「ご主人様、バラの花びらが、残り一枚になってしまいました!早く、早く、その美人とやっちゃってください!」
「なに!?残り一枚??そんな早過ぎる…」
一番ショックを受けたのは、ショーンでした。
ショーンは、まだ、とても大きなエリックのペニスを受け入れることなど出来そうにありません。
けれども、出来なければ、この生活ともおさらばなのでした。
そんなのは、爪の先までサッカーにまみれた生活をしたショーンには耐えられないことでした。
「エリック!」
ちょうど、エリックは、先ほど、射精したばかりでした。
ペニスは、今が、一番小さいと言っていいでしょう。
「絶対に大きくするなよ!」
ショーンは、エリックのペニスを鷲掴みにして、その上に腰を落とそうとしました。
でも、エリックのペニスは、人間サイズじゃないのです。
城の召使たちは、ショーンの男気に、惚れた!と、思いました。
「ショーン!無理だ。そんなことしたら、ショーンが、ショーンが!」
心配のあまり、顔は蒼白となっているのに、エリックのペニスは、正直にも大きくなっていきます。
「大きくするなって、言ってるだろう!!」
両手で、ぐいっと、ペニスを締めて、痛みにすこし小さくなったものへと、ショーンは果敢にチャレンジします。
「痛ってぇ…」
ショーンは、涙目になっていました。
愛する人の献身に、エリックは、自分の体に爪を立て、気を紛らわせて、ペニスの膨張を止めようとしました。
「頑張って、ご主人様!頑張って、ショーン様!」
召使達は、ベッドの周りを取り囲み、一生懸命応援します。
ほんの少しだけ、ペニスの先っぽが、ショーンの中に入り込みました。
体が引き裂かれるような感覚に、ショーンは、ヒューヒューと、胸で息を吐き、流した涙は、もう、乳首まで達しています。
「ごめん。本当に、悪い。ショーン」
エリックは、ショーンの腰を摩り、少しでも痛みを和らげようと努力しました。
「いいって。エリックがいなくなったら、俺が淋しいんだ」
ショーンは、泣きながら、笑顔で、エリックへと手を伸ばしました。
2人は手を繋ぎました。
そっと唇を寄せ合います。
エリックの体が、激しく光り、急にしぼんでいきました。
ショーンを痛めつけていた大きなペニスも、小さくなります。
「ええ??」
ショーンは、自重で、どんどんと、エリックのペニスを飲み込んでいきました。
野獣のペニスを受け入れようと努力していたのです。
多少大きかろうと、たかだか、人間のペニス。入らないわけがありません。
「やったぁ。魔法が解けた!」
ベッドの側には、大勢の人間が集まっていました。
カップのお母さんは、小さな息子の目をふさいでいます。
ショーンは、自分を抱きしめるエリックを見つめました。
「エリック。お前、そんな顔だったんだ」
「だめかな?この顔じゃ気に入らない?」
ペニスを受け入れたまま、茫然とエリックを見入るショーンに、エリックは、にっこりと笑いかけました。
エリックの髭面に、頬を摺り寄せます。
「まさか!野獣のときも、ワイルドでよかったけどな。でも、俺、お前が、いつも黒パンツ1枚なのはどうかと思ってたんだよ」
こうして、幸せな一組のカップルが城に誕生しました。
魔法の解けたエリックと、随分訓練してきたショーン。これからが、楽しい新婚生活です。
ショーンの娘達も幸せに暮らしていました。
サッカーではなく、ホラーと、ロック。
元ショーンの家は、娘達の趣味により、すっかり居心地が変わっていましたが…。
END
ここまで馬鹿馬鹿しい話だと、怒る気にもならないんじゃないかと…(笑)
お願い。
ね、笑ってね。