ホームダイアリー 2
地下のミニシアターは、適温よりも、僅かに低い温度に設定されていた。
大きな革張りの椅子に、ブラッドが座っている。
隣には、おもちゃの拳銃を持った子ショーン。
子ショーンは、大きすぎる椅子の中で、画面のカウボーイと撃ち合いをしていた。
ブラッドの趣味で見ている古典映画は、少し子ショーンにとってはつまらない。
「バン! バン!」
岩場で行われた銃撃戦に子ショーンは参加した。
子ショーンは、画面を真似て銀色の銃でカウボーイを援護した。
ブラッドが出口を指さした。
「ショーン。静かにできないなら、出ていけ」
唇を突きだした子ショーンは、膝を抱かえてソファーの上に座り直した。
画面のカウボーイは、傷を負いながらも戦いの場を逃れた。
しかし、町を守ろうとしているこの男は、決闘に出なければならない。
悪者達に、酒場でそう言い渡されたカウボーイに、女がすがりついた。
「行かないで」
濃厚なキスシーン。
ベッドにもつれ込んで、また、キス。
続くキスの連続に、子ショーンは、ちらりとブラッドを見上げた。
ブラッドは、難しそうに眉を寄せ、画面に見入っている。
女優の髪がどんなに乱れようと、子ショーンには、ただ、ただ、退屈なだけだった。
地下のシアターは、最高の座り心地のソファーくらいしか、子ショーンの心を捕らえるものがない。
「……つまんない……な」
粒子の粗い白黒の画面では、宇宙船も空を飛ばない。
ブラッドは、もぞもぞと動く子ショーンを目の端に映していた。
だが、決してショーンと遊んではくれなかった。
画面の二人は、愛の言葉を交わしあっている。
キスが止まらない。
退屈しきった子ショーンは、ちらりとブラッドを見上げた。
ブラッドは、寄せた眉のまま、泣きながらキスをする女優に見入っている。
子ショーンは、ブラッドにドアを指される前に、素早くブラッドの唇を奪った。
押しつけられた柔らかな唇に、ブラッドが目を見開いた。
すぐ側で、子ショーンの輝く緑の目が、ブラッドに笑いかける。
「ブラッド」
自分の悪戯の出来映えに満足そうな子供の声は、壁の吸音材に吸い込まれた。
ブラッドの青い目がじろりと金髪の子供を睨んだ。
「ショーン」
悪戯の成功に喜ぶ、子ショーンは、にいっと歯を見せて笑うと、もう一度ブラッドの唇を奪った。
今度は映画を真似て、唇を開いて吸い付く。
しかし、自分のキスは、画面の二人と何かが違う気がして、子ショーンは、少し考えた。
ブラッドの厚めの唇に歯を立ててみる。
ブラッドが、子ショーンの顔を両手で挟み、引き離した。
「行儀が悪い」
「つまんない!」
唇をとがらせた子ショーンは、画面の二人が続ける濃厚なキスシーンを真似て、もうワントライしようとした。
鼻がぶつかった。
ブラッドが、子ショーンの小さな顎を掴んで止めた。
「へたくそには、用がない」
「酷い!」
子ショーンは、金髪をくしゃくしゃにしてブラッドの手を逃れると、無理矢理、唇に吸い付いた。
キスの方法も知らなくて小さな歯を立ててくる子ショーンのやり方は、全くブラッドの好みとは違った。
やれやれと、少し唇を開けたブラッドに子ショーンが、目で何で?と、尋ねる。
ブラッドは、子ショーンの頭を抱いて、舌を滑り込ませた。
小さな舌を捕まえ、ざらりと表面を擦れあわせる。
びくりと、子ショーンが舌を引っ込めた。
ブラッドは、唇を押さえて真っ赤になっている子ショーンにドアを指さした。
「お休み。ショーン。ちゃんと歯を磨いて寝るんだぞ。口の中、甘いぞ」
子ショーンは、足音も荒くドアから出ていき、やっとブラッドに落ち着いた時間がやってきた。
END
現在、拍手の小話に入っている血と子豆の話と同じ設定のつもりです。
と、いうわけで、1がないのに、2からなんです。
全ダーリン分書き下ろせなかった……。