喜劇王 4

 

今日も暑かった。

エリックは、額に滲んだ汗を拭った。

撮影に、ショーンが参加しているはずだった。

朝一に撮っていた戦闘シーンの時には見かけた。

午後からは、打ち合わせが入っている。

こんなスケジュールの時には、ショーンは、ビールを片手に撮影をじっと見つめていた。

それなのに、張られたテントの下にショーンはいない。

エリックは、自分の撮影分が済んだ途端に、現場から逃げ出し、ショーンの姿を探し求めた。

聞かされた噂が耳にこびりついていた。

マルタ島の空は、抜けるような青だ。

だが、そんな爽快感とは、エリックの気持ちは全く別の所にあった。

 

探し当てたショーンは、木陰でくたびれ果てたように座っていた。

エリックが見つけたショーンは、予想される範囲のなかで悪い方に入っていた。

小さな声で毒づいていた。

拾い上げることができた言葉は、「あのくそ野郎」や、「死ね」だ。

ここから、一番近いトレラーハウスは、間違いなくブラッドのものだった。

ピーター・オトゥールの言っていたことは正しい。

「…ショーン?」

エリックは、ショーンを驚かせないように、そっとショーンの名前を呼んだ。

ショーンは、もう、驚くだけの元気もないのか、のろのろと顔を上げ、エリックを見ると、瞳だけで緩慢に笑った。

疲れが滲んだ顔のなかで、怖くなるほど、目がしっとりと濡れた色気を発していた。

エリックは、息を飲んでしまい、ショーンに反応するのが遅れた。

その間に、ショーンは、髪をかきあげ、見上げるようにエリックを眺めた。

「なぁ、エリック、お前、暇か?」

正確に言えば、エリックは、暇ではなかった。

ショーンだって同じ筈だ。

2人は、同じ打ち合わせに入ることになっていた。

打ち合わせは、あと、30分もすれば始まる。

ショーンは、知っていてエリックに聞いた。

「どうした、ショーン?どこか、体の調子が悪い?」

こんな時だというのに、気の利いたことが言えないエリックは、自分が今まで何をして食ってきたのか、自分の経歴を抹消してしまいたくなった。

ショーンがエリックを頼ろうとしていることなど、口にされなくとも分かっていた。

そのくらいの人間観察が出来なくて、どうして人を笑わすことができる?

なのに、エリックは、上手くショーンを庇うことが出来ずにいた。

ショーンは、薄く笑った。

寂しいような笑いは、彼に不似合いだった。

「悪いが、打ち合わせは、サボらせてもらうよ。後で資料を貰う。そこで、頼みがあるんだが、エリックもサボらないか?あんたに一緒にいて貰えるととても助かるんだ」

ショーンに助けてくれと言わせてしまったことを、エリックは強く後悔した。

相談にだって乗るし、なんだったら、ブラッドに抗議するのに付き合ってもいいと、どうしてもっと上手くいえないのか。

ショーンの醸し出している雰囲気に呑まれてしまったということもあった。

ブラッドとの間で、どんな秘密が持たれているのか知るのが怖いという恐怖もあった。

エリックは、ショーンに向かって頷いた。

みっともなくも、それだけしかできなかったエリックは、頷くと、ショーンに車へと行くよう促し、自分は、2人で消える理由を誤魔化すためにとりあえず、現場に戻った。

 

エリックに、自分のホテルへと車を回すよう指示したショーンは、助手席で目を閉じて、ぐったりとしていた。

開いた目の濡れた色に、落ち着かない気分にさせられていたエリックは、ショーンの体を心配しながらも、ほっとしてハンドルを握っていた。

部屋に着き、ドアを開ける。

ショーンが、上着を脱ぎ捨てる。

Tシャツと、ジーンズのショーンは、ベッドの上に倒れこんだ。

ベッドに顔を埋め、しばらく何かを唸っていた。

「…大丈夫か?」

エリックは、どうしたらいいのか分からず、ベッドの端に立って、ショーンを見下ろした。

ショーンが急に手を伸ばした。

くるりと体の向きを変え、エリックの手を掴んだ。

「なぁ。セックスしよう。エリック。ものすごくエリックのが欲しいんだ。もう、俺とする気にはならない?」

いきなりだった。

見上げた目が、泣きそうに潤んでいた。

吐き出す息が熱い。

ショーンは、エリックの手を引き、ベッドに近づかせると、腕を回して抱きしめた。

エリックは、ベッドの淵に立ったまま、ショーンに抱きつかれていた。

エリックの太腿に、ショーンが縋りつく。

摺り寄せる体が、熱い。

「エリック。身体の傷は、すっかり綺麗になってるんだ。だから、エリックをがっかりさせたりしない。なぁ、人助けだと思って、俺としてくれ」

切ない声は、とびきりの心地よさでエリックの鼓膜を擽った。

「ほら」

ショーンは、自分のTシャツを捲って見せた。

身体を覆っていた痣が殆ど消えていた。

残っているものも、とても薄い。

この間から、そんなに日にちが経っていなかった。

これは、痣をつけたものがとても注意深くショーンに触れていたという証明のようなものだ。

「ダメか?」

ショーンは、そのままTシャツを脱ぎ捨てると、エリックの太腿へと顔を摺り寄せた。

見上げる目が、酷く潤んでいた。

「エリックは、優しいだろう?…その優しさをほんの少し、俺のために使って欲しい」

ショーンは、エリックのジッパーを下げると、下着の上に舌を這わせた。

唇が、ペニスの形にそって閉じられた。

柔らかな唇の肉だけで、ショーンは、エリックのペニスをなぞった。

「…ショーン?」

エリックが疑問を含んでショーンの名を呼んだというのに、ショーンは、返事を返さない。

エリックの声に拒絶の響きがないことだけを確認すると、下着の中に指を入れ、まだ、立ち上がっていないエリックのペニスをつかみ出した。

エリックは、ベッドの淵に立ったままだ。

ショーンは、舌をのばして、エリックの下腹を覆う毛をなめ始めた。

ざりざりとした毛を舌が舐め取っていく。

ショーンは、滑らかな手に握ったエリックのペニスを緩く扱いた。

とたんに、エリックのペニスに血が集まり始める。

鼻から息を漏らしているショーンが、目を閉じて、味わうように、エリックの下腹部を舐めた。

何度か、唇を押し当てる柔らかなキスをした。

「ショーン…」

エリックは、ゆっくりとショーンの頭を撫でた。

驚かさないよう、優しく手を動かした。

ショーンは、口を開け、エリックのペニスを含む。

わざと、くちゅくちゅと音を立て、ペニスを吸い上げる。

エリックは思わず、ショーンの髪を掴んだ。

「ショーン、してもいい。するよ。わかった。だから、その後で、理由を教えてくれるか?」

エリックは、ショーンがこんな風になってしまっている理由が、ブラッドにあると確信していた。

一体どんなことをされているのか。

エリックは、ショーンの表情を観察した。

ショーンは、頷かない。

殊更、熱心に唇でエリックを扱く。

舌が、先端を包み込む。

固くなったものを口に含んだまま、ショーンが顔を前後に揺らす。

エリックをセックスへと駆り立て追い詰めようとするショーンの気持ちを表すように、行為には躊躇いも恥じらいもなかった。

エリックは、ショーンの窄まった頬を撫でた。

どうして、こんなにもショーンが、追い詰められてしまったのか、かわいそうで仕方がなかった。

ショーンは、ペニスを口から吐き出し、エリックの手の平に頬を摺り寄せた。

舌だけを伸ばして、重力に逆らうエリックのペニスを舐めた。

緑の目が、縋るようにエリックを見上げた。

「ショーン…話したくない?」

ショーンが頷く。

エリックは、ショーンの頬を優しく撫でた。

ショーンが、その手に頬を摺り寄せる。

ショーンは、甘えて見せるくせに、心を許さない。

エリックは、じっとショーンを見つめた。

「…わかった。じゃぁ、話さなくていい。ショーンの望みどおり、ただ、セックスしよう」

エリックは、自分に出来ることが、これしかないのだと諦めた。

ショーンが、顔を上げて、しっかりとエリックを見た。

エリックは、ショーンを抱きしめようと身を屈めた。

間近に迫ったショーンの顔の中で、瞳が揺れた。

ショーンは、手を伸ばして、エリックの首に縋りつくと、耳元へと唇を寄せた。

ショーンの声は小さかった。

「……エリック…優しくして欲しい」

あまりに、切ない声で望むので、エリックは、思わずきつくショーンを抱きしめた。

ショーンが、うめいた。

エリックは、おどけた声を出した。

「俺は、優しいよ。この前だって、そうだっただろう?そのせいで、物足りないと思われることもあるくらいなんだ」

ショーンは、もがいて嫌がることもせず、エリックの頬にキスを始めた。

熱っぽいキスだった。

「お願いだ。…優しく抱いて欲しいんだ。図々しいお願いだということは分かっている。でも、沢山抱きしめてくれ。キスも沢山して欲しい」

ショーンの声は真摯だった。

「…ショーン」

エリックは、大事な恋人を抱きしめるように、ショーンを抱く腕を緩めた。

ショーンは、エリックの頬へのキスを続けた。

「大丈夫。大丈夫だから、ショーン」

ショーンは、エリックの頬に頬を摺り寄せるようにして、キスを続けた。

ショーンのエリックしか頼るものがないように、必死になって願いをかなえて貰おうとしていた。

エリックは、そんなショーンが切なかった。

もっと沢山の願い事をしてくれればいいのに。

もっと、頼ってくれれば。

そんなキスをするよりも、助けてくれと、秘密を打ち明けてくれれば。

いや、せめて、話を聞いて欲しいと、相談を持ち掛けてくれれば。

「…ショーン、ショーン。そんなに煽らないでくれ」

エリックは、そっとショーンをベッドへと押し倒した。

「優しくしてやりたくとも、そんなことをされたら、我慢が利かなくなっちゃうだろう?」

だが、ショーンが、エリックに求めるものは、だた、セックスだけだ。

エリックは、潤んだ目をしたショーンに笑いかけた。

裸の胸にそっと唇を寄せた。

ショーンが、エリックの髪を引っ張った。

「…エリック、キスを」

唇を開いたショーンが、エリックを待っていた。

そうだ。恋人にするような優しいセックスなら、キスからはじめなければ。

エリックは、ショーンに口付けながら、こんなにも切ない顔をしてキスを求めるショーンに訳を問いただしたかった。

 

ショーンは、自分から、ジーンズを脱ぎ捨て、エリックに抱きついてきた。

足を絡ませ、キスを待っていた。

エリックは、自分も乱暴に服を脱ぐと、ショーンの体にキスをするために、急いで元の位置に戻った。

潤んだ目元からはじめて、順に下へとキスしていった。

ショーンが、嬉しそうに、体の力を抜いていく。

エリックは、決して先を急がず、指の一本一本にまで、キスをした。

ショーンの手を取り上げ、形のいい指を口の中に含む。

舌で嘗め回したら、ショーンは、目元を赤く染めた。

ショーンは、こういう愛情に塗れた緩い愛撫を望んでいた。

だが、同時に、次の行為へと急いでもいた。

口に含んでいない方の手が、エリックの身体をさ迷った。

立ち上がっているペニスを求めて、エリックの身体を下へと辿った。

エリックは、ショーンの手に笑顔を返しながら、ショーンの体を唇で辿りつづけた。

盛り上がっている胸にいくつものキスをした。

ぷっくらと膨らんでいた乳首を唇で挟んで、ちゅうっと、吸い上げた。

おかしなことだったが、子供が生まれて、エリックが学んだことがあった。

一番、上手に乳首を吸うのは、赤ん坊だ。

授乳する妻の顔を見ていたとき、自分が吸ってやるよりずっと気持ちの良さそうな顔をしていると変な嫉妬をしたことがあった。

だが、そこで、嫉妬するだけですまないのが、エリックだ。

エリックは、それから何度も観察を続けた。

問題は力加減なのだと気付いた。

エリックは、痛いのではないかという恐さもあって、あまり力を入れて吸い上げたことがなかったが、赤ん坊は、額に汗を滲ませるほど、必死になって吸い付いていた。

ミルクを貰う前の、赤ん坊の口の中に指を入れて実験してみても、かなりな力だ。

エリックは、歯を立てないように、舌で乳首を包みこむようにして、きゅっと強く吸い上げた。

その時の観察結果だ。

ショーンは、声を立てて、エリックの頭を抱きこんだ。

足の先が、反り返っていた。

続けて吸い上げると、

「あっ、あっ、あっ!」

ショーンは、体を震わせた。

エリックは、気持ちよさそうに、目を閉じるショーンの乳首を何度も吸い上げた。

 

 

ペニスに跨ろうとしたショーンを、エリックは止めた。

ショーンは、エリックの上に乗り上げていた。

ベッドへとエリックを押し倒し、焦れた身体を持て余していた。

「だめだよ。ショーン。ゆっくり舐めてあげるから。もう少し、我慢するんだ」

ほぼ、ショーンの全身をエリックは、唇で辿った。

御希望どおりの、ひたすら甘くて、優しいセックスをしていた。

確かにすこし、時間を掛けすぎの感があった。

けれども、エリックが、そうしてやりたくなるくらい、ショーンは傷ついていた。

エリックが抱きしめる腕の一々にショーンは嬉しそうな顔をした。

何かを確かめるように、何度もエリックの胸に顔を擦りつけた。

「エリック…」

ショーンは、首を振った。

「なんで?そんないきなりなんて、ショーンにだって無理だろう?」

エリックは、ショーンの腰を引き上げようとした。

ショーンが抵抗した。

もう、すっかり、ショーンが、甘いばかりのセックスには焦れて、求めていることなど、エリックにも分かっていた。

柔らかい尻の肉をショーンが振った。

エリックは、とろとろと先走りをこぼすペニスにもう一度キスしてやったら、恥かしがるくらい大きく足を開かせて、ショーンのあそこをべっとりと濡れるまで舐めてやるつもりだった。

優しくして欲しいというショーンの希望を最優先にしたセックスをしているつもりだった。

エリックだって、随分我慢していた。

あと少し、我慢すれば、ショーンに深い満足を与えてやれると努力していた。

ショーンは、エリックの頬にキスをした。

すっかり、顔は火照り、開いた唇からは、熱い息が漏れていた。

ショーンが、大丈夫なんだと、呟く。

エリックは、横に首を振った。

大丈夫な訳が無い。

それは、いきなり過ぎた。

エリックには、許せる範疇にない。

怪我を負わせるのなんて、最悪だとエリックは、思った。

ショーンは、立てひざのまま、エリックの手を自分の股の間に引き寄せた。

目の淵を赤くして、俯きがちだったが、手の動きには躊躇いがなかった。

エリックの指先が、ショーンの肛門に触れる。

濡れている。

そして、随分柔らかい。

エリックは、自分の血の気が引くのを感じた。

エリックは、何もしていない。

そして、ショーンに準備をする時間なんてなかった。

「…やっぱり…レイプ?」

何かすることが出来たとしたら、エリックが、ショーンを見つけるまでの間。

ショーンが隠しているブラッドとの時間の間だけだ。

ショーンは、首を横に振った。

「違う」

「でも!」

「違うんだ。それは、違う。でも、準備が出来ていることは、分かっただろう?大丈夫なんだ。だから、エリックのを入れて欲しい」

ショーンは、エリックの指先が触れることにも腰を揺らした。

エリックが躊躇って、動けずにいると、手のひらに、尻を擦りつけた。

柔らかくほぐれた穴の中に、エリックの指先が入った。

「…ショーン、何をされてるんだ?…薬を使われてる?」

ショーンが、あまりにセックスばかりを求めるので、エリックは、恐ろしい可能性についても考えてみた。

こんなに柔らかくなるまで、弄られた尻。

中にたっぷりの潤滑剤。

それでも、レイプを否定し、セックスを求めるショーン。

中に薬でも塗られて…放置されて、だから、こんな風になっているのか?

だが、ショーンの目は正常だ。

もう、どうなっているのか、エリックにはわからない。

「違う…本当に、違う。薬なんて使われてない。……俺が、我慢の利かない尻軽だから…エリックのペニスで擦られたいだけの淫乱だから」

ショーンは、急かすように、エリックの腕を払った。

もう一度、エリックのペニスの真上に、自分の尻の位置を合わせた。

ぬるりとした穴へとエリックのペニスが擦りつけられた。

そのまま、ショーンは、腰を落とす。

ショーンは、すこし、首を仰け反って、唇を噛み、小さなうめきを上げた。

途中で、エリックの首に縋りつき、その体温に、安堵したように、エリックの名を呼んだ。

強く、抱きつく。

エリックは、ショーンの背中を抱きしめてやるしか、できることが無かった。

 

 

END

 

 

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やってる最中なのに、ごめん(笑)

次回は、やってるとこから、始まります(笑)