喜劇王

 

喉が渇いて目が覚めたエリックは、手を伸ばした先の様子がいつもと違うことに、目を擦った。

部屋の中が暗くて、良くわからない。

しかし、自分が宿泊している部屋は違った。

いつも手の届くところに置いてある水がなかった。

目を擦りながら、身体を起こす。

すると、隣で身じろぎする動きがあった。

自分以外の人間がいると思ってなかったエリックは、驚いて息を呑んだ。

小さくため息のようなあくびを漏らし、シーツの山がもぞもぞと動く。

茶色だと思われる薄い色の頭が、シーツを引き連れて寝返りを打つ。

自分が誰かを連れ込んだのかと、エリックは、後悔しながら目覚めようとする塊を見つめた。

「…ん」

シーツが小さな声で唸った。

シーツの中から這い出てきた塊の正体がわかって、エリックは大きく息を付いた。

ショーンだった。

今、同じフィルムに収まっている、味のある俳優だ。

この人物なら、エリックがベッドに連れ込んだところで、なんの問題もなかった。

額に皺を寄せ、目を擦るようにして、ショーンが瞼を開ける。

残念ながら、部屋が暗いため、あの綺麗な瞳の色がわからないが、緑の目が、何度か瞬きして、いきなり大きく開いた。

「…起きたのか?エリック。悪いな。あんたの部屋まで連れ帰ってやるだけの親切心は持ち合わせがなかったんだ」

ショーンは、体を起こしながらにやりと笑った。

鮮やかな笑い方だった。

エリックは、ショーンと飲みに行くことになったいきさつをその笑顔で思い出した。

このとんでもない笑い顔にすっかりエリックは参ったのだ。

 

ピーター・オトゥールが、椅子に腰掛けた。

撮影の状況に興味を引かれて、何気無く足を止めたようで、自分の椅子ではなく、誰でも座れるよう置いてあるパイプ椅子だった。

そのせいで、日よけが無い。

日差しは強い。

ピーターは、手をかざして目を細めていた。

太陽は誰にも均等にその力強さを発揮していた。

周りを駆け回っているスタッフが撮影を見ることに夢中になっているピーター・オトゥールを気にしていた。

けれども、回っているカメラに、誰も自分の作業を止めることも出来ず、ピーターは太陽に灼かれていた。

砂も、じりじりと照り返しでピーターを痛めつけていた。

偉大な俳優の身体を心配して、エリックは、席を立って、ピーターに声を掛けようとした。

それより前に、移動式のパラソルをピーターの直ぐ側で広げるものがいた。

撮影を見つめるピーターの邪魔にならないよう、そっと後ろから差し掛ける。

「おや…すまないね」

自分を灼いてた太陽の日差しが無くなったことに、ピーターは、顔を上げた。

後ろの偉丈夫を振り返って、青い目を細めた。

ピーターにパラソルを差し掛けていたショーンは、子供のようにはにかんだ笑顔を見せて、小さく首を振った。

悪戯が見つかったかのような照れた笑いだった。

「たいしたことじゃ、ありません」

エリックにもショーンの声が聞こえた。

撮影中よりも、ずっと柔らかい跳ねるようなトーンの声だった。

何度かこの英国人とエリックは話したことがあったが、こんな顔をして笑うところは、今まで見たことがなかった。

いつもは、もう少し、控えめな笑いを浮かべていた。

強面のくせに、柔らかい表情を浮かべるとは思っていたが、これほど鮮やかな笑い顔を見せるとは思っていなかった。

そういえば、撮影中には見た。

だが、あれは、演技用なのだと思っていた。

ピーターに向かって、ショーンが、にこりと微笑む。

ピーターが目を細めて笑い返す。

すると、ますますショーンの顔に笑いが浮かぶ。

 

「俺は、ずっとあなたに憧れてました。こんな風にあなたの側にいられることを幸せに思います」

ショーンは、年齢にそぐわない、はにかんだような笑顔を浮かべてピーターに言った。

どこか緊張気味に、大きな身体で真っ直ぐに立っていた。

「そうかね。しかし、そのパラソル、ずっと持っているのは大変だろう?そこに差すことはできるかね?できるんなら、こっちに来て一緒に座らないか?」

ピーターは、鷹揚に頷いてみせると、太陽に熱せられたパイプ椅子の座面を触り、すこし肩を竦めた。

「おや、かなり熱いな。迷惑かな?自分が座った時も熱かったが、私は、夢中だったから、気にせず座ってしまったんだが、あんたみたいに剥き出しの格好だと、やけどをしてしまうかもしれんな」

ピーターは、自分のほうが立ち上がろうとした。

ショーンが、その肩をやんわりと押さえる。

「御一緒させていただけるなんて光栄です。迷惑だなんてとんでもない。ぜひ、隣に座らせてください。迷惑でなければ、すこし話を…」

ピーターが、青い目を細めて頷いた。

ショーンは、ピーターに触れた手を何度も嬉しそうに開いたり、閉じたりした。

そして、きちんと断りをいれて、パラソルを砂に突き刺し、周りに石を積んだ。

ピーターが礼儀正しく、おまけに大変魅力的に笑う英国人を気に入ったのは、明らかだった。

ショーンが、ピーターの隣に腰掛ける。

エリックの所まで、2人の笑う声が聞こえた。

 

その後のショーンは、実にスマートに尊敬する俳優をパブへと誘い、けれども、顔にはヒーローに出会った子供の喜び、そのままの笑顔を浮かべていた。

あんな顔をして、褒め称えられては、誰だって誘いを断れない。

偉大な俳優は、笑顔のままで誘いに乗った。

エリックは、ショーンを、なんて気持ちよく笑う奴なんだと感心して見ていた。

話し声がきれぎれに、エリックまで聞こえた。

漏れ聞こえてくる会話を聞いている限りでは、特別ショーンの口が上手いというわけでもない。

しかし、ピーターとショーンの間に交わされる笑顔が、言葉以上に会話を弾ませていた。

ショーンの笑顔が相手の心にするりと入り込んで相手を楽しい気分にさせていた。

エリックは、ショーンの笑顔に惹かれて、彼を盗み見つづける行動のわけを自分の性だと感じていた。

あんな顔で笑われて見たい。

たしかにピーター・オトゥールは気難しいだけの俳優ではなかったが、誰にでも気さくな俳優でもなかった。

その俳優を見事にリラックスさせる笑顔でショーンは笑った。

笑われることを職業としているエリックは、ショーンの笑顔に触手が動いた。

そのくらい、ピーターに見せた鮮やかなショーンの笑顔は印象的で、魅力的だった。

笑顔を見慣れたエリックが、自分のためだけに笑わせてみたいと思うほど。

 

エリックは、自分の名前を呼ばれて、日差しの中に出て行った。

2人の笑い声を聞きながら、エリックは、いつか自分もショーンを飲みに誘ってみようと思った。

もっと、自分がショーンを笑わせてやろうと密かに決めた。

 

次の日、どういうわけが、ショーンが、皆にビールを配っていた。

重要なキャストであるショーンがそんなことをする必要などありはしないのに、ショーンは、ビニールの袋をがさがさ言わせながら、砂を踏んで歩いていた。

大きな身体を竦めながら、照れたように笑っていた。

「サンキュー、ショーン」

何かを手渡された人々が、礼を言う。

ショーンは、エリックの前にも来た。

「これ、ピーターから。昨日、美味かったから、皆にって」

ショーンは、子供の使いのようなことをさせられながら、どこか自慢気な笑いを浮かべて、エリックに地元のビールを一本手渡した。

ビールはとても冷えていた。

「結局、昨日、飲みに行ったのか?」

エリックは、ビールを受け取りながら、ショーンに笑いかけた。

可も無く、不可も無くという程度の気分だったはずなのにエリックもショーンの笑顔につられていた。

「え?ああ、そうか、あんた、側にいたな。そうなんだ。誘ったら、一緒に飲んでもいいって言ってくれて。昨日は沢山話が出来て、すごく楽しかった。この撮影に参加した中で、最高の思い出になると思う」

ショーンは、誇らしげにピーターのこと語った。

全く嫌味のない態度だった。

エリックは、やはりこの英国人と一緒に飲みたくなった。

そして、昨日、飲みに誘おうと思ったことを思い出した。

「じゃ、今度は俺と二番目の思い出を作らないか?ショーンが暇な時でいい。俺とも一緒に飲みに行こうぜ?」

エリックは深く考えることも無しに、ショーンを飲みに誘った。

酒が嫌いじゃないのだろう。

ショーンは、楽しげに笑うと、気軽るにエリックに頷いた。

 

「どうした?頭が痛い?それとも、シャワーが浴びたい?」

ベッドの上で、身体を起こしたショーンが、髪をかき上げながら、エリックに聞いた。

小さくあくびをもらしていた。

「喉が渇いたから、水が飲みたい」

「あれだけ、ビールを飲んだのに?」

ショーンは意地悪く笑いながら、ベッドから降りて、水差しを取った。

この意地の悪い笑いは、パブで何度も見せてもらった。

エリックが撮影現場に対して笑いを交えた毒舌を吐くたび、ショーンは意地の悪い顔で頷きながら、大笑いした。

口の端を片方だけ上げて、切れ長の目をキラキラさせながら、エリックが次に何を言い出すのかと待っていた。

エリックは、ショーンが礼儀正しいだけの英国人でないと分かって、余計に彼が好きになった。

意地の悪い笑いは、ショーンの顔に良く似合う。

「まぁ、アレだけ飲めば、喉も渇くだろうさ」

ショーンは、肩を竦め、もう一度意地悪く笑うと、エリックにコップを持たせると、水を注いだ。

エリックは、一息で水を飲み干した。

大きく息を吐く。

それをショーンは、じっと見ていて、水差しを、もう一度、差し出そうとした。

エリックは、半分だけ注いでもらうと、今度はゆっくりと飲んだ。

 

人の部屋に担ぎこまれるほど正体がなくなるまで飲んだのは久し振りだった。

あれほど頭をフル回転させて、人を笑わせたのも久し振りだった。

ショーンは、机を叩いて笑っていた。

目に涙が浮かび、終いには、エリックを叩いて、話を止めさせた。

笑い転げるショーンを見て、エリックは満足していた。

あまりに満足しすぎて、酒を飲みすぎたようだ。

 

ショーンは、柔らかいまなざしで、水を飲むエリックを見つめていた。

パブで、時折、見せていたようなまなざしだった。

エリックは、くすぐったくなって、コップを膝の上に置くと、大袈裟に息を吐き出した。

長い息を、ショーンが笑う。

ショーンは、バスローブ姿だった。

じっと見ていたエリックにショーンが首を傾げた。

それから、水差しを置いてベッドの上に乗っかった。

ショーンの体重にベッドのスプリングが揺れた。

「エリック、悪いけどな、俺はあんたみたいな大男を、丁寧にバスルームまで運んで、身体を洗ってやるなんてサービスは、しない主義なんだ。バスルームは、あっち。俺も、あんたを担ぎこんだところで力尽きて、着替えもせずにベッドに倒れこんじまった」

ショーンは、にやりと歯を見せて笑うと、シーツの中にそのままの格好で潜り込んだ。

「もし、帰るんだったら、出てきたところで、一度、起こしてくれ。朝まで俺と一緒に寝てもいいってんだったら、そっとベッドに忍び込めよ」

ショーンは、シーツから顔だけ出すと、歯を見せて笑った。

飲み友達と化したエリックに、もう、すっかり心を開いている顔だった。

エリックは、石鹸の匂いのするショーンに比べ、アルコールの匂いがぷんぷんする自分が嫌になり、バスルームに向かった。

 

エリックがバスルームから戻っても、ショーンは、目を開けていた。

起きているのならば、部屋の照明をつけようとすると、ショーンが制止した。

シーツの端を上げ、ショーンが、エリックを手招く。

「どうする?ここで泊っていくか?」

ショーンは、エリックの頭を抱きこみ、髪に鼻を突っ込んで、いい匂いになったと笑った。

エリックは、擽ったくて、一緒になって笑った。

「そうしようかなぁ。もう、戻るのも面倒くさいし、ベッドを半分貸してくれるか?」

ショーンは、すこし驚いた顔をした。

エリックも驚いた。

ショーンが驚くとは思わなかったのだ。

社交辞令だったのかと、すこしエリックは淋しくなった。

「あ?迷惑だったか?いや、帰っても構わないんだけど」

エリックは薄暗い部屋の中で時計を探して時刻を見た。

3時を少し回っていた。

帰れないわけではないが、できたら、このまま動きたくなくなる時間だ。

ショーンが、慌てたようにシーツの中で動いた。

「ああ、悪い。そういうわけじゃなくて。酔っ払って正体がなくなっているわけでもないのに、こんなむさ苦しい男と一緒のベッドになんか寝たくないだろうと思っただけだ。気にしないでくれ。端によるから、こいよ」

一人分の隙間をショーンは空けた。

エリックは、ショーンの体温の残るそこに膝をついた。

ショーンがエリックを見上げたまま、申し訳なさそうな目をする。

「雑魚寝は、慣れてるんだ。それより、ショーンの方は平気か?俺、胸はないし、あんたよりずっとでかいし、全く好みじゃないだろう?」

バスローブの胸を摘んで持ち上げたエリックに、ショーンは、けらけらと笑いを漏らした。

シーツの中に潜り込んだエリックの額に額をゴツンとぶつけると、自分で痛いと文句を言った。

「俺は、自分の好みをあんたにしゃべったか?いつ、俺が、胸の大きい方がいいって言った。でかい女は結構好きだよ。まぁ、あんた程でかいってのは、ちょっと考えるけどな」

いきなり、ショーンが、エリックの胸を触った。

バスローブ越しの感触は、掴むようにエリックの胸の形を確かめた。

「少しは、あるじゃないか。ああ、そうか、大胸筋か」

ショーンの手が、エリックの胸を揉んだ。

悪戯に目をきらきらとさせていた。

エリックは、思わず笑った。

ショーンは、俺の方がグラマーだと、エリックの手を自分の胸にさわらせた。

撮影用に作り上げた身体を自慢するように、胸を突き出して、エリックの手に押し付けた。

お互いにまだ、酒が残っていた。

子供のように馬鹿笑いして、2人は、相手の胸を擽った。

ショーンの方が擽ったがり屋で、エリックが両手でショーンの胸を揉みだしたら転げまわって嫌がった。

エリックは調子に乗って、ショーンのバスローブの中にまで手を入れた。

ショーンが嫌がって、暴れる。

大声で、笑う。

両腕で胸を庇っているので、足でエリックを蹴る。

はぁはぁと、大きく息をして、逃げ回るショーンを後ろから抱きとめ、エリックは思う存分バスローブ内に入れた手で胸を揉んでやった。

ショーンが腕の中で身体を捩って、笑う。

ショーンは、足をエリックの足に絡みつかせて、脛毛を擦り合わせてエリックに嫌がらせをした。

「どう?奥方よりグラマー?」

笑いすぎで、目に涙の浮かんでいるショーンがエリックを振り返りながら言った。

「うちの奥さんは、こんなに太ってないからなぁ…」

「これは、手厳しい。グラマーなのは好みじゃない?」

「いや、どっちかっていうと、好み」

ショーンは、エリックの返事にいささか満足そうな顔をして気位高く笑った。

そういう顔で笑うと、ショーンの顔は実に情の薄そうな顔になった。

人の気持ちなど全く考えない嫌な奴の顔。

それだからこそ、どんな手段を使っても自分を振りからせて見たくなる色気のある顔。

エリックは、振り返ったままのショーンの顔を強引に掴んで、唇を寄せた。

薄い唇に齧り付く。

突然の欲望には、エリック自身驚いた。

片腕で抱き込んだショーンの体が強張った。

だが、抵抗はしなかった。

遊びの延長だと思っているのかもしれない。

エリックは、遊びだったと言いぬけることが出来る時間で、唇を離して、ショーンを見つめた。

ショーンは、困ったような薄い笑い浮かべてエリックを見た。

エリックは、その顔をじっと見つめた。

すこしばかり気まずい空気が流れた。

しかし、ショーンの目を伏せた笑いには、エリックが冗談にしようとしていた欲望を、そこに留めるだけの魅力があった。

 

ショーンは、エリックから体を離すと、髪をかき上げ、小さな息を吐き出した。

すこし首を振り、乱れたバスローブの前を掻き合せた。

「…平気なのか?」

ショーンがエリックの顔も見ずに尋ねた。

エリックは、何がとは、聞かなかった。

ショーンの態度を見ていれば、質問の意味はおのずと知れた。

察しのよさは、エリックが誉められる美点の一つだった。

「エリックは、こういうのも、許容範囲?」

髪をかきあげながら、ショーンが言った。

ショーンは、今までに纏っていた態度をかなぐり捨てたように、僅かに首を前に傾げ、すこし疲れた態度でエリックの前にいた。

バスローブから見える肌が色気を発していた。

さっきまで両手で揉んでいた胸も隠されてしまったせいで、余計に見てみたい存在に変化した。

ショーンは、鑑賞に値する。

拒絶でもしてみせるかと思っていたショーンは、正反対の態度を見せた。

「あまり、平気ではない…かな?経験はないんだ。急にあんたにキスしてみたくなって、自分でも驚いてる」

エリックは、正直に、自分の状態をショーンに伝えた。

ショーンは、力なく肩を落とし、暗いホテルの天井を見上げた。

「してみたい?」

ショーンの言葉は、エリックの耳を擽った。

声は、優しく、体だって、先ほどまでのふざけあっていた時とはまるで違って、怠惰な色気を発していた。

「ショーンは、大丈夫なのか?」

エリックは、ショーンの態度をこのまま捕らえてもいいのか判断できず、すこしばかり警戒して、質問に、質問で返すような真似をした。

ショーンが、薄く笑う。

流し目を含んだそれは、ベッド以外のどこで見せられても困るような被虐的な色気が滲んでいた。

「誘ってもいい?」

ショーンは、言った。

「俺は…したい…かな。まぁ、エリックが迷惑でなければだけどね」

ショーンは、エリックに膝を進めると、伺うように下からエリックの顔を見上げた。

「ショーン…本当に?」

エリックは、ショーンに尋ねた。

まだ、冗談でこの場をひっくり返すことは可能だった。

ショーンがひっかけようとしている可能性もあった。

「ショーン、確かに、俺は、久し振りに人に気持ちが動くのを感じているよ。でも、あんたは、何を考えてる?何で俺とセックスしたいと思ってるんだ?」

同性とのセックスを経験したことが無かったせいで、エリックは、無様なほどショーンのことを警戒した。

ショーンは、ベッドに手を付いたまま、エリックを見上げて、困ったように笑った。

家庭を持ち、安定の中にいるエリックが久し振りに見る笑いだった。

力を抜いた柔らかい笑いは、こういうことに、慣れた人間がする誘いだった。

エリックの心にざわめきが起こった。

ショーンは、さらには密やか笑った。

「したいから、したいんだよ。気持ちよくなって眠りたいんだ。でも、エリックが嫌なら、無理強いはしない。ただ、もし、あんたがしてもいいって言うんだったら、あんたは、寝っ転がってるだけでいいよ。どこまで喜ばせてやることができるかわからないが、すこしばかりは、いい思いをさせてやれると思うぜ?」

ショーンは、じっとエリックを見上げ、エリックが言葉で答えられずに入るうちに、もう一度、秘めやかに笑って顔を下げた。

 

ショーンはエリックのバスローブの裾を捲り上げ、その下に顔を埋めた。

濃い色の体毛をしたエリックの太腿にショーンの金髪が埋まる。

躊躇いのない舌が、エリックのペニスの先に触れた。

ショーンは、エリックのペニスの先を口の中に包み込み、そっと舐め上げていく。

頬を窄めてきゅっと吸い付く。

そのまま扱くように顔を動かす。

あたたかで、柔らかな感覚だった。

「…大丈夫か?」

ショーンが聞いた。

「大丈夫?…ああ、大丈夫だよ。俺は、浮気しないんだ」

エリックが答えると、ショーンが顔を上げて、柔らかく笑った。

「違う。そういう意味じゃない。浮気もしない真面目なエリックが、男の舌で舐められて平気かと、聞いたんだ」

エリックは、ショーンの気遣いに声を出して笑いそうになった。

ショーンは、薄く口を開いたまま、エリックの太腿に手をかけて見上げていた。

唇が濡れて光っていた。

そんなのは、こんな気持ちのいいフェラのできない奴に言ってもらいたかった。

「そういうことか。俺は、平気だけど、ショーン、あんたは平気なのか?ゴムをつけようか?」

エリックは、ショーンの顎を捉えて、髭を擽りながら、ショーンに聞いた。

不思議なほど、同性とのセックスに嫌悪感を抱かなかった。

ショーンは、擽ったそうに顔を振ってエリックの手から逃れた。

「エリックが平気なら、生のままでいい。そこまで心配してくれなくても、できないようなら、ちゃんとゴムをつけてくれるよう頼むからいい」

ショーンは、また、エリックの股の間に顔を戻した。

温かい口内がエリックのペニスを包む。

ショーンの上顎をエリックのペニスの先が擦っていく。

薄い唇が、何度もペニスの先にキスを繰り返した。

ずるりとエリックを含んだショーンは、エリックのペニスが力強く立ち上がるまで、熱心にしゃぶった。

 

 

 

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続きます。

バナ兄さんが掴めず、苦戦中なんで、更新が遅くなるかもしれません。(泣)