犬を飼う 2
ホテルの部屋は、すぐに開けられた。
時間は、明け方近かった。
エリックは、いままでショーンが起きていたのかと、思わず顔を覗き込んだ。
「ショーン、寝てないのか?」
「そんなわけないだろう。この位の時間だろうと思って、さっき起きただけだ」
ショーンの目は、とくに眠そうではなかった。
それどころか、シャワーでも浴びていたのか、しっとりと髪が濡れていた。
「俺のこと、待っててくれたのか?」
エリックは、ショーンの髪に触りながら、軽口を叩いた。
ショーンが、意地の悪い笑いを浮かべた。
「待ってたんだよ。エリック。お前とセックスするために、体まで綺麗にして待ってた。さぁ、中に入れ。自分の権利を行使したらいい」
ショーンは、エリックの手を引いて、部屋の中へと連れ込んだ。
エリックをベッドに座らせ、その上に、足を開いて、向かい合うように座る。
ショーンは、口を開きながら、エリックに顔を寄せた。
「キスしないのか?」
ショーンは、唇が柔らかく触れ合うキスをエリックに繰り返した。
エリックは、ショーンの髪に手を差し込んで、緩く撫でた。
「…ショーン、随分、怒ってるな」
エリックは、開いた口の中へ潜り込んでこようとしたショーンの舌に、小さなキスをして、顔を離した。
ショーンの目が、エリックを睨んだ。
「どこかの馬鹿が、風邪を引いてまで、チケットを買ってきたからな」
「ショーン、本当は、そんなことで怒っているわけじゃないだろう?」
エリックは、バスローブのショーンの背中を柔らかく撫でた。
「…エリック、お前、俺について調べただろう?」
ショーンは、エリックの目をじっと見た。
エリックは、聞かれる覚悟の範疇にあった質問に、笑顔で返した。
「まぁ、多少。でも、特別には調べたりはしていない。ただ、ちょっとショーンの過去の華々しい戦歴について、いろんな人から、話を聞いただけだ」
「それで?」
「それでって、別に。多分、ブラッドと変わらないくらいしか、俺は、ショーンについて知らない。ただ、ちょっと、ブラッドとは、その情報の解釈の仕方が違っただけだ」
エリックは、ショーンの頬を撫でた。
「ブラッドは、恋人が切れないショーンのことを、淋しがり屋で、いつも恋人に側にいて欲しいタイプだと解釈して、努力して出来るだけ側にいようとした。でも、俺は、次々と恋人の変わるショーンのことを、実は、自分勝手なとこがある、恋人にも側にいて欲しくない時が沢山あるタイプだと受け取った。だから、長続きしないんだとね」
エリックの言葉をショーンは、きつい目のまま聞いていた。
「後は、ショーンは、結構抜け目なく、権力に従順な方かと思って油断すると、実は、とても支配欲があって、自分が主導権を握ってないと、機嫌が悪くなるとかね、まぁ、そういう感じにいろんなエピソードを解釈したわけで」
エリックは、きつく見つめるショーンの目に笑いかけた。
「それに、俺に有利な点もあった。ショーン、大きな犬が好きだろう?」
どれ程、エリックが優しく笑いかけようと、ショーンの目は、きついままだった。
「皆に見せびらかせるくらい、大きくて、きれいな雄犬が好きだよな。小さい犬は、雌オンリーだろ?」
「…それは、どこから、知ったんだ?」
ショーンが口を開いた。
「情報源は秘密だ。まぁ、俺は、ショーンの後を素直について歩く前の犬みたいに大人しい犬には、なれないかもしれないが、あんたの役にたつ犬になる自信があるぜ?」
エリックは、ショーンの鼻を舐めた。
ショーンは嫌だって、エリックの肩に顔を埋めた。
「…なぁ、エリック。お前、最初から、このレースを勝ち抜く自信があっただろう?」
ショーンの声は、あいかわらず機嫌の悪いままだった。
エリックは、ショーンの頭を撫でながら尋ねた。
「なんでだ?ショーン」
「お前の役にたつは、セックスのことも、含めてるだろう?」
「どうしてだ?俺は、ブラッド同様、とても努力して、ショーンの許可がでるのを待ってたぞ?」
ショーンが、顔を上げた。
じっとエリックの目を見つめながら、ショーンは聞いた。
「エリック、撮影が始まってすぐの頃のことは、記憶をなくしたとでも言う気か?」
「まさか。憶えてるとも。でも、あれは、今回のレースを勝ち抜く勝機にはなり得ないと思ってた。反対に、アレがあったから、俺の方が不利だろうと」
エリックの言葉に、ショーンは、疑わしそうな目をした。
「セックスしたのに?」
「したからさ。ショーン。ショーンは、あの時、前の犬とお別れでもしたばかりだったんだろう?体つきが似てたか、そのくらいの理由で、俺を選んだ。実際、あの時のことは、ショーンにとってあまりいい記憶として、処理されてないはずだ」
エリックは、至近距離のショーンの目から逃げなかった。
ショーンは、瞳の力を抜いたが、嫌な笑い方をした。
「俺は、お前のセックスで、あんなに喜んでいたのにか?随分、殊勝なことを言うじゃないか」
「でも、キスの一つだって、しなかっただろう?それに、なんの言葉もなかった。ああいうのが、いい感情として、ショーンの中で、カウントされるとは思わない」
「…随分、利口な犬だな」
ショーンは、エリックの頬を噛んだ。
強く歯を立てない甘噛みに、エリックは、苦笑した。
ショーンは、憎らしそうに、もう一度エリックの頬を噛んだ。
「エリック、犬は、馬鹿な方が、かわいいんじゃなかったのか?」
「馬鹿なくらい従順なのが、かわいいんだろう?だた、馬鹿なだけだと、ショーンは飽きるくせに」
エリックは、頬へとキスを始めたショーンの髪を撫でた。
「ショーン。…風邪を引いてまで、一晩外で頑張ったことが、評価されたんだと思っていいか?」
「嫌味なくらい、いちいち、俺の好みを押さえておいて、そういうことを言うな」
ショーンは、まだエリックを睨んでいた。
しかし、エリックの体を押して、その体の上に、覆い被さった。
エリックは、ショーンの唇が顔の上に這い回る感触を楽しんでいた。
ショーンの足は、エリックの腰をしっかりと挟んでいた。
エリックは、ショーンの髪を何度も撫でた。
「ショーン、風邪が感染るかもしれないぞ?」
「感染るくらいじゃないと、お前、ブラッドに笑われるんじゃないか?」
エリックは、笑いながら、ショーンの唇へとキスをした。
ショーンの唇が、エリックの唇を追いかけた。
「そういや、ショーン。ブラッドにどんな魔法を使った?」
「…魔法?」
「悪いが、犬度の低いブラッドに勝つ自信はあったけどな。でも、奴があんなに丁寧な口調で、電話をかけてくるとは、夢にも思っていなかった」
ショーンは、エリックの頬へとキスを続けた。
エリックの手が、バスローブの中のショーンの足を撫でた。
「ブラッドの奴、まずは、俺の体調を気遣ってくれて、それから、ショーンが、俺を選んだ。精々上手くやれよって、かなりさっぱりした口調だったんだ。あんたに対しては、紳士的だろうけど、俺には、きっとキレると思ってたから、電話を聞きながら、反対に冷や汗が出た」
エリックの手は、ショーンがシーツについた膝小僧の辺りを撫で、そこから、順に上へと向かっていた。
ショーンは、まだ、エリックにキスを続けていた。
「エリック、お前、随分失礼な印象をブラッドに持っているんだな」
「そうか?大抵の男は、勝った奴のことなんて、大嫌いだろう?」
「お前より、ずっとブラッドの方が、懐が広いということだ」
エリックの手が、ショーンの太腿に触った。
柔らかな太腿をいとおしむように撫でたエリックは、もっと上へと撫で上げていった。
ショーンの太腿と、尻の間には、なんの障害もなかった。
滑らかな皮膚は、境目もなく、エリックの手の平を受け入れ続けた。
ショーンは、下着もつけていない。
「ショーン。本当に、待ってたんだな」
「待ってたって、言っただろう?」
「いままで、焦らしてきたくせに、随分、潔い態度じゃないか」
エリックは、ショーンの丸い尻を撫で回した。
尻の柔らかさは、エリックに満足を与えた。
「エリックの役に立つところを見せてもらわないとな」
ショーンは、エリックの手に尻を押し付けるようにした。
そうして感触を楽しんだ後、尻を浮き上がらせ、エリックの胸へとキスをし始めた。
ショーンは、エリックのシャツのボタンを外し始めている。
「恐い飼い主だ」
エリックは、ショーンの開いた足の間へと手を入れた。
息の弾んでいるショーンをエリックは、抱きとめた。
ショーンは、エリックの腰の上に乗っていた。
足は、エリックの腰に巻きついていた。
ショーンは、自分で動いていたくせに、深い挿入に、反り返って倒れそうになった。
「体が合うってのは、いいことだな」
エリックは、ショーンの尻を持ち上げ、自分の上に落とした。
ショーンの手は、エリックの腰を掴んでいた。
縋りつくように、エリックに爪を立て、大きく口を開いていた。
「あっ、いい!」
エリックが、腰を突き上げるごとに、ショーンが熱い息を漏らした。
胸にはしっとりと汗をかいていた。
エリックは、ショーンの足を掴み、自分の上から、ベッドの上へとショーンを転がした。
繋がったままの無理な体勢で、自分は体を起こし、ショーンの足首を高くつるし上げた。
天井に向かって恥ずかしくも大きく開かせたXの字の間で、腰を振るう。
ショーンの手が、シーツを掴んだ。
長い指が、何度もシーツを掴みなおし、そのたび、シーツは手繰り寄せられた。
「…んんっ…」
もうシーツはしわくちゃだ。
エリックが、深くペニスを突き入れるたびに、ショーンは、胸を突き出すようにして、体を反らした。
エリックは、自分でも荒い息を吐き出しながら、ショーンを見下ろした。
ショーンの首筋から、汗が、シーツへと流れていった。
エリックは、ショーンの足を離し、ショーンの上に覆いかぶさった。
「んんっ…いいっん……ん」
ずり上がるエリックに、体の中を擦られたショーンは、エリックの首へと腕を回しながら、唇から、甘い声を遠慮なく押し出した。
エリックは、ショーンの額に張り付いた髪をかき上げ、汗の噴き出したそこに、キスをした。
ゆっくりと揺すり上げるエリックの腰に、ショーンの額には皺が寄った。
「あっ…んん…エリック」
エリックは、ショーンにキスを繰り返しながら、強く抱きしめてくるショーンの腕の中から体を逃がした。
ショーンの足は、エリックの尻を強く挟み込み、手は、エリックの腰を抱いている。
「ショーン。別の場所では違うんだろうけど、実は、ベッドの中では、犬になりたいんじゃないか?」
エリックは、ベッドに手を付き、力強く、ショーンの尻を突き上げながら、緑の目を覗き込んだ。
ショーンは、目を逸らした。
だが、腰に巻きついた足はエリックの腰を引き寄せている。
「その顔じゃ、やっぱり嫌って訳じゃなさそうだな」
エリックは、笑った。
「…おいで、ショーン」
エリックは、ショーンの手を掴んだ。
ショーンの上半身を起こさせると、自分は、ショーンの中からペニスを引き抜いた。
粘膜を引きずられるような感触に、ショーンが声を上げた。
エリックは、ショーンの体を裏返し、ベッドへと両手をつかせる。
持ち上げた尻を自分に向かって高く上げさせると、後ろから、ずしりとショーンにペニスを突きたてた。
ずぶりと、濡れた肉をエリックのペニスが割り裂いていく。
ショーンが、顎を突き出すようにして、大きな声を上げた。
「あああっつ!!」
緩く脂肪をつけた腹が、衝撃をやり過ごそうと、何度もせわしなく動いた。
エリックは、ショーンが落ち着くのもまたず、大きく腰を動かした。
「…んんっ…あっ…ん…」
激しいペニスの抜き差しに、ショーンが必死になって頭を振る。
シーツを握りしめた手は、筋さえ浮かんでいた。
しかし、声は甘い。
「あ…ああっ!んっ…ん」
エリックのペニスに合わせて振られる白い尻は貪欲だった。
がっちりとペニスを挟み込み、簡単にはエリックにも引き抜かせない。
「やっぱり、ショーンは、この格好でされるのが好きなんだな」
エリックは、ショーンの尻を大きく左右に分けながら、下腹をショーンの隠されたうす赤い皮膚へと擦りつけた。
エリックの褐色の陰毛が、ショーンの薄い金の毛に絡む。
「これで、精一杯だな。どう?満足するほど、奥まで届いてる?」
ショーンは、夢中になって、何度も頷いた。
しかし、エリックは、すこしばかり身を引くと、ぐっと勢い良くショーンへと腰を押し付けた。
「……ぁあっ!!!」
「もう少しだけ、奥まで届いた。良かったよ。ショーンを失望させなくて」
エリックが、ショーンの腰に指を埋めて揺さぶるのに、ショーンは、もう、なにも抵抗できなかった。
ただ、ひたすらに声を上げて、エリックの揺さぶる動きに合わせ、前後に揺れた。
「…もう、だめ…だ。いく…エリック…いく」
ショーンのペニスは、すっかり重くなり、先っぽに精液を溜めていた。
それが、時折、シーツに落ちる。
「もう、だめ?…ほんとに?」
エリックは、ショーンの股の間に手を入れ、ペニスをぐっと掴んだ。
ショーンが切ない声をあげ、刺激を求め、腰を揺する。
エリックは、ショーンのペニスを何度か扱き、後ろで垂れ下がっている玉にも触れた。
「ショーン。もう、ここから、出そうなのか?」
エリックは、不確かな固さのものを手の中に握り込んで、柔らかく揉み込んだ。
ショーンの手が、自分のペニスへと伸びる。
「しつけがなってないな。ショーン」
エリックは、ショーンの手上に自分の手を重ねた。
振り返ったショーンの目が、きつくエリックを睨んだ。
「恐い。恐い」
エリックは、大きく腰を動かしながら、ショーンのペニスを扱いた。
ショーンは、また、シーツの皺を見つめるように、顔を下に向け、激しい息を繰り返した。
「んんっ…もう…いく…エリック、もう…」
「どうぞ。俺も、十分、ショーンに気持ちよくしてもらってる」
エリックは、強くなっていくショーンの締め付けに、奥歯を噛み締めながら、激しく腰を突き入れた。
「あ…ん、いく…いく、…んんっ…い、っく」
ショーンの背中が、こわばっていた。
息をつめるように、体の動き全てを停止させ、声さえ出さなくなったかと思うと、思い切りエリックを締め付けた。
「…い・・くっ、エリック…ああああっ!!」
激しく震えるショーンは、大きな声で叫んだ。
エリックは、痙攣するショーンの奥を、さらに突き上げた。
ショーンが、シーツの上で、激しく暴れる。
「あっ、ダメ…だ。ダメ…ダメなんだ…エリック!!」
ショーンは、精液をシーツへとべったりとつけながら、ずり上がった。
激しい快感に、ショーンの白い体がピンクに色づいていた。
エリックは、大きな尻をつかんで自分に引き戻すと、さらにショーンを揺さぶった。
ショーンのつま先は、反り返り、自分へと押し寄せる快感に、目には涙が盛り上がっていた。
ショーンが体に力を入れているせいで、エリックのペニスは、千切れそうなほどだ。
「…俺が、役に立つところを、お見せしておかないと、そうそうに飼い主に飽きられちゃ困る」
エリックは、自分でも荒い息の合間に、ショーンに言った。
「…エリック!エリック!」
あまりの快感に、ショーンは、とうとうしゃくりあげ始めた。
揺さぶるエリックに抵抗しようと、必死にシーツにすがりつき、果てには、もう、力を失って、倒れ込んでしまった。
エリックは、ショーンを、やっと優しく抱きしめた。
「じゃぁ、ここからは、もう少し、ソフトに…」
エリックは、ショーンの尻の中を埋めているペニスを、緩やかに抜き差しし始めた。
「…まだ、したいだろう?ショーン」
ショーンは、しばらくの間、シーツにすがりついたまま、エリックに優しく揺さぶられていたが、荒かった息が治まると体をねじった。
軽く、エリックの頬を叩く。
「…手加減しろ…」
「…体の相性がいいってのは、お互い最高だな」
エリックは、ショーンの唇を無理やり奪った。
だが、ショーンは、そのキスに応えた。
その日、ショーンは、夜間の撮影だったエリックを自分のベッドに寝かせたまま、だるそうに仕事に出て行った。
そして、帰ってきたときには、小さく咳を繰り返していた。
「…悪い、風邪を感染した?」
エリックは、自分が出かけるための用意をしていた。
黒目が、心配そうに、ショーンを覗き込む。
ショーンは、さっきまでエリックが使っていたベッドに横になりながら、心配顔の大きな犬に向かって命令した。
「俺は平気だ。それより、お前、必ず明日は試合を見に行くからな。お前こそ、絶対にぶり返すなよ。わかったな。お前にどんなに熱があったって、絶対に明日は試合を見に行くぞ」
エリックは、自分の風邪をおしてまで、散歩に出ようとする愛犬家のご主人様のため、ベッドの枕元に、薬と、飲み物を置いた。
枕元に寄ったエリックに、ショーンは、試合のチケットをひらひらとして見せた。
勿論、それには、招待席のスタンプはない。
エリックは、ショーンにキスしようとした。
しかし、ショーンは手を振って、しっしと、エリックを追い払った。
エリックは、ショーンに従う振りで、ドアの前まで行った。
だが、ショーンがシーツに潜り込んだ隙に、もう一度駆け戻り、口の悪い主人のことをぎゅっと抱きしめた。
End