泳げない魚

 

そこは、プレストンのマンションだった。

子供は、学校に行っている時間で、妻は、反逆者として、プレストン自身が通報したため、家には誰もいない。

プレストンは、ドアを開け、同僚を部屋の中へと通した。

「さぁ」

「…ああ…」

同僚は、緑の目と、美しい金髪を持つ、ストイックな顔の男だった。

いつもは、毅然と顔を上げ、揺るぎない目をして、威厳を失わない強い男だ。

それが、今は瞳を、落ち着かなくさ迷わせていた。

唇が、開いていた。

薄く、酷薄な印象を与える唇が、普段に比べれば、ずっとせわしない呼吸を繰り替えている。

「早く、中に入って」

「…ああ」

男は、エリートだった。

それは、プレストンがクラリックとして、任命される前からずっとそうだったことだった。

その頭脳、行動力、そして、忠誠心は、誰の追随も許さず、彼を放したくないという、ただ、それだけのために、男のクラリックという枠から出たくないという要望すら、政府は飲んだ。

男は、中央の政治に関わるだけの能力を持っていた。

それが、彼を上手く操ることもできない無能な役人たちのおかげで、未だにただのクラリックとしてプレストンとともにいた。

美しい顔をした男だ。

その顔に、ひとかけらの感情も載せず、男は、地下に潜り、廃屋を巡回し、理解しているとも思えない芸術を愛好する感情違反者を摘発、処分する毎日を送っていた。

せめえても、男の持つ技術を継承してほしいと、政府が出したクラリックを養成する教官の役目すら、男が、首を振らないために、未だ実現されていなかった。

男は、クラリックの中で、今、一番の実力を発揮しているプレストンのパートナーを勤めていた。

クラリック=聖職者の名に、相応しく、いつも黒の制服を恐ろしく優雅に着こなし、一部の隙もみせないのだった。

 

「ここで、服を脱ぎごうか」

プレストンは、まだ、廊下を二歩ほど進んだだけの、男の背に声をかけた。

パートリッジの肩が揺れた。

振り返った緑の目は、常になく、涙に潤み、唇は小さく震えた。

「……はい」

しかし、反抗もみせず、パートリッジは、制服の襟を緩めた。

スタンドカラーで、首元まで覆う制服は、襟元を崩しただけで、一気に正調を失った。

金色の睫を震わせながら俯くパートリッジは、震える手元で、クラリックのステイタスを脱ぎ落としていく。

白い肌は震えていた。

パートリッジは、自分の体をプレストンに晒すことに激しい羞恥を憶えていた。

緊張に、滑らかな肌が泡立っていた。

だが、白い肌を間接照明の明かりに晒したパートリッジは、そのまま、ズボンも脱ぎ落とす。

「また、すこし…」

プレストンの言葉に、パートリッジの顔が一気に赤くなった。

全てを隠してしまいたい、と言いたげに、体を小さく縮こめる。

若いプレストンに比べれば、緩やかに弛緩した体だった。

十分に鍛え上げられ、少しの美しさも損なっていないが、どうしたって、若い世代を代表し、活躍するプレストンに比べれば、余分なものがつきすぎていた。

プレストンは、項垂れるパートリッジを観察した。

丸みのある肩。

見るものの目を楽しませる、なだらかなヒップライン。

きっと若い頃には、削げ落ちていたに違いない緩やかな下腹部。

太腿は、どうしたって触れてみたくなる柔らかさだ。

 

ここは、ただの廊下だった。

エリートであるクラリックが、裸身を晒すような場所ではなかった。

そして、地位、経験などから言っても、パートリッジが、若輩のプレストンの言葉に従わなければならない謂れはなかった。

 

靴を脱ぎ、裸足で、フローリングに立つパートリッジは、床にしゃがみこみ、自分の脱ぎ捨てた服を拾おうとした。

美しい背中が、プレストンの目を焼いた。

プレストンは、パートリッジの黒い制服を踏んだ。

「今日は、どうしようか?」

パートリッジが、顔を上げ、潤んだ目をしてプレストンを見上げた。

薄い唇が震えていた。

「そうだな。パートリッジ。あんなことをして、俺の足を引っ張ろうとしたんだ。仕方がないよな」

プレストンは、丸みのあるパートリッジの腰を蹴った。

 

現場は、いつだって、芸術品に溢れていた。

ものうげな女の歌声。

何世紀も前の、洗練された言葉。

笑う少女の絵。

だが、それを、美しいと感じられる感性を人間は封じられて久しかった。

この世界は、プロジアムという絶対の薬に支配され、人間が感情を持つことは、犯罪だとされた。

クラリックは、その行いに反しようとする感情を取り締まる、神の聖職者ではなく、ファーザーのための聖職者だった。

楽しげなメリディーを奏でるオルゴールすら、取り締まりの対象となった。

女も、子供も関係なく、ただ、感情を胸に芽生えさせているという理由で、人間は処分された。

プロジアム(感情抑制剤)の使用は、法的な義務だ。

しかし、徹底して管理された世界などありえなかった。

人間は、生きているということが、まず、猥雑な営みなのだ。

その人間が感情をすべて取り去るということは、難しい理想だった。

クラリックが襲撃する感情違反者たちのアジトには、美しい判ずることが出来なくとも、必ず何か心を揺さ振る物が残された。

それは、たまに、十分に抑制されたクラリックの心さえ揺るがした。

「パートリッジ。処理班の一人が、プログラム解析にかけられ、悪くすれば処分だそうだ」

パートリッジは、プレストンに踏まれた制服を拾い上げることもできず、丸みのある白い尻を晒していた。

プレストンが蹴った腰は、すこし赤くなっている。

「あれは、等級の高い芸術品だとわかっていた。人に悪影響を与えるということだって、知っていただろう?なぜ、明かりを灯した?」

今日のアジトには、滑らかでいながら、どこか、幾何学の美しさを秘めたフォルムのランプが多数所有されていた。

それには、訓練された処理班の精神にも、美という概念を産み落とすだけの存在感があった。

芸術が認められ、その美しさを金銭的に取り扱っていた時代なら、一人の一生ではあがなえない高額な品だ。

「……きれい…だったから…」

見上げるパートリッジの瞳には涙が盛り上がり、今にも零れ落ちそうだった。

プレストンは、パートリッジの制服を踏みにじった。

口角を上げ、笑顔を作った。

「確かに美しかったな。とくに、ランプがついてからが、綺麗だった。それに照らし出されたあなたの顔も綺麗だった。瞳がきらきらと光って、嬉しそうに笑う頬は、薔薇色に見えた」

パートリッジは、恥じ入るように顔を伏せた。

プレストンは、パートリッジの腕を掴んで立たせ、白い尻が動くのを見ながら、後ろについて歩いた。

 

パートリッジは、何も言わず、ただ、制服を台の上に載せると、ベッドの横に立った。

プレストンも、口を利かず、その体に縄をかけ始めた。

部屋には、昼間の太陽が遠慮がちに差し込んでいた。

プレストンが、遮光ブラインドを引かないせいで、パートリッジは、光の中に裸身を晒している。

プレストンは、首が絞まりきらないよう、気をつけながら、丸みのある肩を通し、背中へとロープを回した。

胸は、突き出すように、すこしそり気味に固定した。

ロープの間から、パートリッジの胸肉が押し出された。

プレストンは肩の骨を外さないよう幾重にもかけていた腕のロープを締める手を止めて、パートリッジの前に回った。

パートリッジは顔を上げない。

押し出された胸を喘がせながら、じっと頭を垂れている。

戦闘を日常に、鍛えられた体は、少し足を開き気味にして、自然と安定を保っていた。

立ち上がりつつあるペニスの存在も、隠すことはしない。

「パートリッジ」

プレストンは、特に必要なく名を呼んだ。

上げるだろう顔に浮かぶ表情は、予想できていた。

金髪は、怯えた目をしながら、唇を噛んで、硬い頬をしているはずだ。

パートリッジは、これから起る事を、知っていて、自分にそれが耐え切れるかどうか、そのことを怖がっていた。

耐え切れず、プレストンを失望させることを、とても怯えていのだ。

プレストンは、パートリッジの盛り上がった胸の乳首を舌で舐めた。

焦らすように、舌で弄び、乳首の先を口に含んだまま、パートリッジを見上げた。

パートリッジの緑の目に、浮かぶのは、歓喜と、怯え、両方がない交ぜになったせわしない感情だ。

プレストンは、見せつけるように、舌を動かした。

「…プレストン」

先を急がせるように、パートリッジがプレストンの名を呼んだ。

パートリッジは、激しい痛みが訪れる時を待っている。

プレストンは、乳首へと歯を立てた。

「………ううっ…」

パートリッジの眉が泣きそうに歪む。

ぎりぎりと歯を立てるプレストンに、パートリッジは、何度も腹をへこませ、痛みに耐えた。

「……プレ…ストン」

小さくパートリッジの体が震える。

プレストンは、慎重にパートリッジの乳首を噛んでいた。

パートリッジの体は、どこも美しく、プレストンは、どんな小さなパーツだって、損なうことはしたくなかった。

小さな肉の塊を、噛み切らないよう注意深く歯で噛み、愛人が、今日最初の刺激に満足しているのを確認した。

強く寄っている眉の間には、深い皺。

足は、酷く力を入れ、立っている。

そして…ペニスは、緩く立ち上がっているのだ。

パートリッジは、プレストンの歯が離れたことに、ほっとして、頬を緩ませた。

安堵のため息をつく、開いた唇は、耐えるために噛んだせいで、色が濃くなっていた。

プレストンは、歯の形にへこんだ乳首を舌で労わるように舐めた。

まだ、痛む乳首に触れられることに、パートリッジが、小さくうめく。

プレストンは、痛みに耐えるため、力の入った尻を両手で抱きしめ、その感触を味わうために揉んだ。

 

プレストンと、パートリッジは、最初から、こういった痛みを介在とした関係ではなかった。

あれは、いつの、セックスの時だったか。

穏やかで、満足のいくセックスを提供していたプレストンに、パートリッジが、罠を仕掛けた。

クラリックは、生体戦闘兵器だ。

感情はプロジアムで抑制されていたが、それも、あえて、怒りという感情のみは、リミッターが早く切れるよう、訓練がなされていた。

それがわかっていて、パートリッジは、自分がプロジアムを摂取していないことをプレストンに告げた。

プレストンを政府の犬だと言い、拳を突き出してきた。

どんなに信頼にたるパートナーといえども、犯罪者であるとわかれば、拳を振り上げることに対して、躊躇うクラリックはいなかった。

長く、クラリックの地位を喪失する事無く、生きてきたパートリッジにとって、そんなことは、わかりきっていた。

なのに、わざと、パートリッジは、プレストンを挑発したのだ。

セックスの最中だったという、本来の人間らしい感情的状態だったのもまずかった。

プレストンは、パートリッジを殺さなかったことを後になって、良かったと思った。

枕もとには、銃も置いてあった。

それを手に取らなかったのは、プレストンに、プロジアムによる冷静さが残っていたせいだ。

プレストンは、その状態でも、パートリッジが、抵抗しないことをおかしいと判断するだけの冷静さを、なんとか持ちえていた。

パートリッジは、避けられる拳を、あえて、体に受けていた。

殴打された頬に唇は切れ、腹には、色が変わるほど、強い拳が入っていた。

体の切れは確かに、プレストンの方がよかった。

しかし、第一線でクラリックを張っているパートリッジに、プレストンの拳が、避けられないわけはないのだ。

 

激しく殴りつけたプレストンに、見せたパートリッジの痴態は、プレストンの感情に、爪あとを付けるに十分だった。

セックスすら、コミュニケーションの手段としていたパートリッジが、泣き喚いた。

体を合わせていても、僅かに体温を上げ、小さな声を漏らす程度の乱れ方しか見せたことのなかったストイックな男が、裂けるほど大きく口を開け、泣き叫んだ。

今まで見せていた顔など、表面の一層でしかないことをプレストンは知った。

パートリッジは、泣きながら、激しくプレストンを求めた。

そして、与えられたペニスに、かつて無いほど激しく感じた。

プレストンに蹴られ、赤黒く色を変えていた尻が、きつ過ぎる締め付けで、プレストンのペニスを噛む。

「許して、許して」と、繰り返しながら、振りたてられる大きな尻は、プレストンのペニスと同時に、そこを叩いていく掌を必要としていた。

パートリッジは、幾度も混乱をプレストンに見せた。

プレストンの腕に抱きしめて欲しがり、その手で触られることに、酷く怯えた。

叩いて欲しがり、泣きながら、許しを請うた。

激しく尻で感じているくせに、感じる自分を強く恥じた。

その複雑な混乱の中には、パートリッジの自分を見られることを嫌がる醜貌コンプレックスも、潜んでいた。

何度も、何度も、クラリック1美しいと評された金髪が、泣きながら叫ぶのだ。

「見ないでくれ。プレストン。お願いだ。醜い俺を見ないでくれ」

プレストンは、殴りつけた頬の色が変わっているのをじっと見つめながら、ペニスを動かしていた。

顔を隠そうと手を上げるパートリッジの腕を掴み、あえて、泣く顔をじっと見た。

パートリッジは、泣きながら、顔を隠したがり、プレストンが、体に触れば、そこが、緩んでいることに激しく怯えた。

パートリッジのうわ言を繋ぎあわせ、プレストンは、こう読み取った。

パートリッジは、自分が年を取ったことに酷くコンプレックスを抱いていた。

容貌の衰えも含め、パートリッジは、プレストンとペアリングを続けていくだけの自信を喪失してしまっていた。

クラリックとしての実力に、全く翳りなど感じさせていないというのに、パートリッジは、加齢による自分の衰えで、プレストンのパートナーという地位から追い立てられるのではないかと、本気で怯えを抱いていた。

信じられないことであったが、若輩であるプレストンの庇護を求め、庇護することによって生まれるだろう、プレストンの苛立ちを勝手に自分で想像し、その対象となることを求めていた。

殴られてなお、パートリッジは美しい顔をしているというのに。

丸みを帯びてきた体は、プレストンにとって愛すべき対象であるというのに。

かわいそうに、美しい金髪は、病んでいた。

 

後ろ手に縄をかけられ、苦しくなるほど胸をきりきりと縛り上げられた金髪は、その足も、白いロープでつながれてしまった。

ふくよかな太腿と、足首を一つに括られたパートリッジは、足を折りたたんだ形のまま、床の上に、正座をしていた。

プレストンのベッドはすぐ側にある。

だが、決して、パートリッジは、そこに登ることを望まなかった。

激しいスパンキングの最中に、感じすぎたパートリッジは粗相をした。

それに恥じ入り、怯えていた。

だが、癖のように、繰り返してしまうのだ。

儀式を終えるまで、プレストンは、やわらかなベッドへとパートリッジを誘うことを諦めなければならなかった。

そこを汚されてもいいように、準備する事だって、プレストンは嫌ではなかった。

だが、パートリッジは、プレストンの寝所で漏らしてしまう自分に、舌を噛みそうなのだ。

 

パートリッジは、目を潤ませたまま、静かにプレストンを待っていた。

まずは、長い口腔性交を。

パートリッジは、ただ、ひたすら、プレストンに尽くす、奴隷の身分の自分を待っていた。

プレストンは、あえて着たままのクラリックの制服で、パートリッジの前に立った。

パートリッジは、括られた腕が使えず、プレストンの股間に頬擦りするようにして、歯で、プレストンのジッパーを下げた。

 

長いペニスで、パートリッジの口内を犯しながら、プレストンは、パートリッジの顔を撫でた。

パートリッジが、自分を醜いというわけがわからなかった。

確かに、加齢はパートリッジに降りかかっていた。

プレストンほど若かった頃のパートリッジがどれ程の美貌だったか、見たくないわけではなかったが、いまでも、十分に美しかった。

きつくつり上がった目。

滑らかさとともに、柔らかさを持つ頬。

唇などは、今でも薄いピンクだ。

この顔を醜いと、いう人間など、世界中を探しても、パートリッジ一人しかいないだろうと、プレストンは思った。

過酷なクラリックの任務をこなしながら、これだけ、顔に傷を持たずに済んだことの方が奇跡に近い。

その頬が、今は、含まされたプレストンのペニスの形に合わせ、慌ただしく動いていた。

皺を寄せた額には、懸命な口腔奉仕に、汗が滲んでいた。

「もっと、奥まで入るだろう?」

プレストンは、パートリッジの喉へと、ペニスをつきたてた。

顎を掴み、逃げられないよう固定すると、えずきあげるのを耐えている喉に向かって、腰を振りたてた。

パートリッジの喉が締まった。

それでも、パートリッジは、逆流するものを必死で飲み下し、プレストンのペニスに奉仕しようとしていた。

「そう、気持ちがいい。パートリッジは、役に立つ」

プレストンは、涙を零す頬に、あえて腹をぶち当てた。

パートリッジは、苦しい息の下で、懸命に舌を使おうとしていた。

口からはみ出した舌は、喉を擦り上げるペニスに、最後まで快楽を与えようとする。

パートリッジが、プレストンの足手まといになることなどなかった。

パートリッジの仕事は、完璧だ。

パートリッジが無意識を装って起す、意識的ミスだけを、プレストンは、庇いつづけた。

それは、パートリッジが示した愛情に応えることだ。

 

顎が痺れるほど長い間、パートリッジに口腔性交を強い、やっとプレストンは、パートリッジに精液を飲ませた。

パートリッジは、勿論、一滴残さず飲み下した。

パートリッジの顔は、自分の唇から零れた唾液で濡れていた。

それは、喉を伝い、胸にまでも到達している。

プレストンは、パートリッジの肩のロープを掴み、パートリッジを床へとうつぶせにした。

 

「…うっ」

パートリッジが、固まっていた筋肉を無理やり動かされることに、小さなうめきを上げた。

腕から続くロープに縛られたままの足は、パートリッジの背を反り返かえらせた。

立ち上がっているパートリッジのペニスは、自重と、床の間で潰されているはずだ。

プレストンは、次の行為のために、パートリッジの足首に巻いたロープを解いた。

血行の悪くなっている足を、ゆっくりと床へと下ろす。

楽になった姿勢に、何度も息をするパートリッジを置いて、プレストンは、立ち上がった。

クローゼットを開き、それ以外に使用されることのないパイプを一本手に戻る。

「パートリッジ。処理班の人間、一人の命は、何回分尻を叩かれれば、許されると思う?」

「…許されない…」

床へとぺたりと頬を押し付けたパートリッジは、安堵さえ含む顔で、プレストンを見上げた。

緑の目が、プレストンの怒りを待ち望んでいた。

「プレストン…俺は…」

プレストンは、汚れたパートリッジの顔をじっと見つめた。

だが、パートリッジの言葉は続かなかった。

「パートリッジは、贖わなくてはいけないんだろう?」

プレストンが、口を開くと、パートリッジは、自分から、足を開いた。

膝裏にパイプを通され、閉じることを許されない惨めな形に、パートリッジは固定される。

それは、戦うことを知っているパートリッジに、余計な反射をさせないためのプレストンの配慮でもあった。

パートリッジは、振り上げられるプレストンの腕のいちいちに反応し、筋肉に、抵抗の瞬発力をみせた。

いっそ、動けない状態にされてしまえば、拷問に対する訓練も受けているクラリックは、精神に体を隷属させることができる。

叩きやすいよう、金髪の頭だけ、プレストンは、ベッドに載せた。

指の無い皮の手袋をするプレストンを、感情に入り乱れたパートリッジの顔が見あげる。

「…大丈夫だ……」

途中で音を上げて、プレストンを失望させることを、パートリッジは、一番怯えていた。

自分には、プレストンのストレスを解消させることしかできないと疑うことなく信じている。

パートリッジの薄い唇は、いつもの呪文を口にした。

「…大丈夫だ。耐えられる」

クラリックの暴力に、持ちこたえるのは、並大抵のことではない。

「耐えられるとも。パートリッジ。いや、耐えられなくても、見捨てないから、安心すればいい」

プレストンは、大きな尻に、掌を当てた。

 

まず、ひとつ。

叩くほうにも負担がかかる道具を使わないスパンキングに、プレストンは、柔らかな皮の手袋を着用していた。

プレストンは、柔らかなパートリッジの肉に直接触れるのが好きだったが、パートリッジを満足させるためには、これは、必要な処置だった。

鈍い音で、プレストンは、パートリッジの尻を打った。

叩かれたパートリッジの尻は、色が白いせいもあり、すぐさま、赤くなる。

痛みと、その後の痛痒感に、むずむずと振られる大きな標的を捉え、プレストンは、もう一度手を振り上げた。

パートリッジが首を竦め、歯を食いしばって、うめきを殺す。

続けて、プレストンは、もう一発パートリッジを殴打した。

パートリッジが歯の間から、小さな声を漏らす。

掌のあたった尻肉が、ぷるんと震えた。

痛みに耐えようと、ぎゅっと硬くなった筋肉だけでなく、殴打の余韻に震える柔らかな肉の存在が、プレストンには愛しかった。

プレストンの手が、白い尻を叩くたび、腕から続くロープがピンっと張って、柔らかな太腿を締め付け、そして、そこから続くパイプが、小さな音を立て、床とぶつかった。

はぁはぁと喘ぐ胸は、ロープに搾り出され、小さな隆起を作っている。

「パートリッジ」

プレストンは、背中を震わせている金髪の名を呼んだ。

皮手袋をしているからと言って、プレストンの手が痛いわけではない。

パートリッジの望む、きつい仕置きをかなえるためには、プレストンとて、思い切り手を振り上げる必要があった。

パートナーの尻は、プレストンが愛し、パートリッジが嫌う、柔らかな肉で優しく保護されている。

名を呼んで、プレストンは、赤く腫れ上がり始めたパートリッジの尻を打った。

パートリッジが息を飲む。

プレストンのベッドへと顔を埋めるパートリッジの項が赤くなっていた。

もう、3打も、繰り返せば、パートリッジは、感極まって泣き出し始めた。

プレストンは、パートリッジを愛しい目をして見つめた。

パートリッジに十分な快楽を味あわせるため、叩く手を緩め、赤くなった尻を撫でた。

「パートリッジ。今日の処理班、全員の顔は思い出せるか?」

「…イエス。プレストン」

プレストンは、ロープの食い込むパートリッジの太腿も、掌で撫でた。

力の入ったそこは、次の衝撃に耐えるため、小さく震えている。

「じゃぁ、お前が、ターゲットに選んだ奴の顔も、忘れてないな」

「…イエス。プレストン」

「パートリッジの持つ自覚の無い感情違反者を知覚する能力が、これほどだということを、上部が知ったらどうなるかな?」

返事を待たず、プレストンは、振り上げた腕で、パートリッジを打った。

パートリッジが、遠慮なく泣き喚くことができるよう、腰に、尻へと掌を振り下ろす。

逃げるように、パートリッジの尻が左右に振られた。

骨まで痺れるような殴打の連続に、反り返ったパートリッジの顔に、涙が零れるのが見えた。

 

プレストンは意識が高揚するのを感じた。

もともと、クラリックは獰猛に飼育されているのだ。

クラリックは皆、プロジアムに感情を押さえつけられようと、暴力に対する意識だけは鋭敏に研ぎ澄まされていた。

その上、プレストンは、プロジアムを摂取することを止めていた。

パートリッジを美しいと感じる気持ちを、もっと味わってみたかったのだ。

「嬉しいだろう?」

熱を持った尻を掴んで、プレストンが耳元で囁くと、パートリッジは、はぁはぁと切ない息を漏らした。

プレストンは、手を振り上げた。

「返事を。パートリッジ」

肉を叩く鈍い音が、部屋に響く。

パートリッジの背が反り返った。

「…うれ、しい…です…」

パートリッジの声は、途切れ、その目は、与えられるだろう痛みへの期待で、すっかり濡れていた。

開いている尻の間の穴も、ひくひくと収縮を繰り返していた。

「叩かれるのが、好きだな?」

プレストンは、手袋のままで、パートリッジの濡れた頬を撫でた。

パートリッジは、すりすりと頬を摺り寄せた。

涙を隠さない顔は、こんな時だけ、素直な表情を見せた。

とろりと、欲情の色を隠さず、パートリッジは、プレストンを見上げた。

獰猛なプレストンの瞳の色に、自分から、頭を下げて、プレストンの手を待っている。

「パートリッジ」

プレストンは、尻だけでなく、柔らかな太腿も打った。

柔らかな太腿は、パートリッジの残虐に、ぷるぷると震えた。

閉じられない足に、パートリッジは、内腿も打たれていく。

パイプが、何度も床で音をさせていた。

熱い息を吐き出し、パートリッジはうめきだけで耐えた。

しかし、それも長くは続かず、悲鳴が、唇から連続して飛び出し始めた。

「プレストン!プレストン!…ああっ、プレストン!」

泣き喚き始めたパートリッジは、何度も床で、パイプの音をさせた。

振られる頭に、涙が飛び散る。

プレストンは、振り上げた手を止めない。

鈍い音が、部屋に響く。

 

多分、もう、パートリッジは、痛みを感じることも出来ないはずだった。

ただ、焼けるような熱感だけに、苛まれているに違いない。

尻は、真っ赤に腫れあがり、すっかり熱くなっていた。

プレストンは、残酷な感情に揺さ振られることを心地よく思いながら、冷静にパートリッジを観察することも止めなかった。

鍛え上げられた体は、簡単に壊れるようなことはない。

だが、パートリッジが、本当に耐えられなくなる、ぎりぎりをいつも、プレストンは見極めていた。

ロープから搾り出された胸には、しっとりと汗が浮かんでいた。

ひくひくと動く腹は、パートリッジのある欲求をプレストンに伝える。

プレストンは、構わず、パートリッジを打った。

真っ赤に腫れ上がった尻をひねるようにして、パートリッジが逃げようとした。

パートリッジは、一度目を持ちこたえた。

プレストンは、また、パートリッジを打った。

「…だめっ!」

切ない悲鳴をパートリッジがあげた。

真っ赤な尻の間から見えるペニスが、ぴくぴくと震えた。

縛られている腕に、パートリッジは、自分で握り込んで排尿を止めることもできなかった。

唇を噛み、体に力を入れて、必死に漏れだす尿を止めようとする。

プレストンは、尻を打ちつづけた。

ぐすぐすと泣きじゃくるパートリッジは、とうとう抵抗できなくなり、全てを床へと垂れ流してしまった。

床を打つ水音と、しゃくりあげるパートリッジの息遣い。

部屋のなかにあるのは、これだけの音だ。

ここまでして、プレストンは、パートリッジを打つのをやめた。

パートリッジの体を拭うための、タオルを取りに、部屋を出た。

 

「見ないでくれ。見ないでくれ」

パートリッジは、しきりにその言葉を繰り返した。

シーツへと顔を押し付け、捻った体は、半分も浮き上がっていた。

パートリッジの高い鼻が、潰れそうになっている。

反り返った胸から、腰にかけてのラインは、ひどく艶かしかった。

鍛えられた体に、滑らかな脂肪がついている。

盛り上がり、せわしない呼吸に震えるその肉は、プレストンが触れずにおくことができないものだった。

小さく突き出している乳首を引っ掛け、プレストンは、そのまま手をすこし膨らんだ下腹部へと這わせていく。

プレストンが、自分の腹に比べれば、ずっと柔らかなその感触をなで回すと、パートリッジは、泣きながら、手を避けようとした。

「触らないで…ああ…ごめんなさい…」

パートリッジは、自分のことを酷く恥じている。

プレストンに触れられ、自分の体のフォルムを知ることに、痛いほどの羞恥を感じていた。

それは、プレストンに比べ、張りのない肌や、緩んできているラインに対する羞恥だった。

何度言い聞かせようとも、パートリッジは理解できない。

プレストンが、パートリッジの腰を掴み、ぐいっと奥へとペニスを差し入れた。

自分が痛めつけ、腫れあがらせた尻をずぶずぶとペニスで犯す。

叩かれて敏感になっている肌を引っ張られ、パートリッジは、小さくうめくと、腰を揺らした。

「足を開け」

プレストンは命令した。

パートリッジは、プレストンの腰を挟んでいた腿を開いた。

ここも赤くなっていた。

熱を持った柔らかい肉を、プレストンは、指先で辿った。

肉は、熱くなっていた。

パートリッジが、また、小さくうめいた。

プレストンは、そのまま、太腿を掴み、狭いパートリッジの尻穴に、ペニスをねじ込んだ。

強引に何度も突き上げると、パートリッジの口が大きく開いて、顎が反り返った。

声が、唇から飛び出す。

目は閉じられ、顔は赤くなり、眉はきつく寄せられていた。

パートリッジが、体内の快感に甘い悲鳴を喚き散らす。

腕が自由に動くのなら、パートリッジが必ず顔を隠していた瞬間だった。

パートリッジは、自分の顔を醜いと信じていた。

プレストンより、ずっと年嵩の自分が、浅ましく快感を貪っている顔を、許せないほど醜いと感じているらしい。

プレストンは、その顔を美しいと思った。

だが、パートリッジは、必ず隠したがった。

隠されたくなくて、プレストンは、腕を縛るようになった。

酷く切羽詰った感情をのせるパートリッジの顔が、プレストンの動きに揺れる。

パートリッジのペニスから、濃い粘液が漏れ始めた。

真っ赤に腫れ、痛みしか感じないはずの尻を大きく揺すり、大きな声を上げている。

プレストンは、その口を塞いだ。

パートリッジが、苦しそうに、鼻から息を繰り返す。

顔が苦痛に歪められる。

しかし、プレストンは、これからパートリッジが言う言葉だけは、聞きたくなかった。

 

 

「…ごめんなさい」

金髪のクラリックが、泣き崩れるのは、いつものことだった。

パートリッジは、プレストンの残酷な欲求のおもちゃになりたいと望み、その一方で、優しく愛されたいというと相反する心を同じ器にいれてプレストンに体を差し出していた。

それは、同時に叶うことはない思いで、いつも、パートリッジは、プレストンのはけ口になりきれない自分を責め、事後までぐずぐずと泣きつづけた。

プレストンは、項垂れる金髪を眺めた。

その体が、必要以上に痛んでいないことを点検した。

後ろ手に縛った腕が、時に外れることがあり、しかし、そういった痛みには、パートリッジは決して弱音をはかないため、プレストンは、注意深くパートリッジを観察する必要があった。

「謝る必要なんてない。それとも、もっとして欲しいから、謝っているのか?」

プレストンには、パートリッジから貰わなければならない代償などなかった。

パートリッジは、けして醜くなく、クラリックとしても、完璧に仕事をこなしており、プレストンから、ペアリンクの解消を申し立てる必要など、すこしもありはしなかった。

パートリッジに手を振り上げるのは、それを彼が望むからだ。

ありえない未来を想像し、怯えるパートリッジに平安を与える手段として、プレストンは力を選んだ。

「もっと、して欲しいのか?パートリッジ」

潤んだ目の年上が、おずおずと顔を上げた。

その顔が美しいと、プロジアムの支配から抜けたプレストンは、思っていた。

 

END

 

 

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難しかった…(苦笑)

でも、すっごく楽しく取り組めました(笑)

リベリオンに、と、いうか、パティ苛めにリクエストを下さって、本当に感謝ですv