ボロミアの命日が話題だったとき2

 

その日、ゴンドール城では、朝から何度も密やかなささやきが繰り返されていました。
「今日だな」
「ああ、今年こそ、気付かれるといいのだが・・・」
「ああもはっきり見えているというのに、何故、ファラミア殿は気付かれないのだろう?」
「いや、あの方はお優しいから、兄上様がお亡くなりなっているという事態を認めていないせいで、見えていないのかもしれないぞ」
この国の太陽であった執政家の長男が、亡くなってから、緩やかな年月が流れた。
この会話は、毎年繰り返されている。

「私は、一生懸命アピールなさっているボロミア様が、だんだんと肩を落としていかれるのを見るのが不憫で・・・」
「いや、去年は、とうとう腹を立てられて、ファラミア様の頭を殴っておられたから」
「そうそう。気持ちはよくわかるが、会議中は、やめて欲しかったですな。思わず笑いそうになって堪えるのに大変でしたよ」

城の城壁には、儀礼用の服へと着替えた衛兵達が立ち並び、剣を構え、ボロミアを待っていた。
どうやってなのか、ボロミアの現れる刻限まで先に告げる王は、窓辺で西の方角を眺めていた。
ファラミアは、王に言われるままに、城門を開け、立っている。

「兄上は幸せ者だ。王は、毎年こうやって、兄上のために礼儀を尽くしてくださる」
強い風が吹き、ゴンドールの旗がひらめく城壁の上で、剣の交される音が始まった。
激しくやりあう音が一段落すると、大きな歓声が、城を包む。
ファラミアも、その光景を見たことがあった。
毎年、その年の一番の剣士が、まるで帰ってきたボロミアと剣をあわせるように、一人で一試合の剣技を披露した。
それは、すばらしい真剣勝負で、見守る他の衛兵の目は、本物の試合を見るように熱中した。

春を思わせる温かな風は、城門をも吹き抜ける。
「お帰りなさいまし。兄上」
ファラミアは恭しく頭を下げた。
今年もまた、見当違いの方向へと頭を垂れている弟に、ボロミアは、顔を顰め、笑った。

 

END