花豆の喧嘩話

 

酷い喧嘩だった。
オーランドの足は、苛立ちに何度も床を蹴った。
ショーンは、舌打ちを繰り返し、時には手を振り上げ、……さすがに、彼の職業を慮って、そのまま強く握りしめた。
「もう、いい加減にしろ!」
ショーンは、また、同じ事を繰り返し言い始めたオーランドを怒鳴った。
手は、苛立たしげにソファーを打った。
立ったままショーンを見下ろしているオーランドは唇を噛みしめた。
「何度だって言う。ショーンが分かってくれるまで言う」
「何回言われたってわからない! 泣くな! うっとおしい!」
「なんで! なんで! わかってくれない!」
「分からないものは、わからない!」


とうとうオーランドが、ショーンの隣に腰を下ろした。
疲れ果てたため息をつき、汗に濡れた髪をかき上げた。
「疲れた。……ショーン」
ショーンも盛大なため息を吐き出した。
図々しくもショーンが座るソファーへと腰を下ろしたオーランドを足で蹴った。
オーランドは蹴られるままに、情けない目をしてショーンを見た。
「なんで俺たち喧嘩してたんだっけ?」
ショーンは、冷たい目をしてオーランドを見返した。
……さぁ?」
「せめて、そのくらいは、答えて欲しかったな」
オーランドの肩が震えた。
涙を流すオーランドを、ショーンは冷たく見守る。
「オーリ。いい加減にしろ。その性格。話し合えばなんとかなるなんてのは、幻想だ」
「俺、喧嘩するの、嫌いじゃない。だって、喧嘩するのって、分かって欲しいって欲求じゃん」
「そうか? だが、もう、今はお前だって、話し合うのが無駄だって思ってるだろ?」
……うん、……ちょっと、今だけはね」


真っ赤に泣きはらした目をしたオーランドがソファーから立ちあがった。
拒絶するショーンの頬に手を伸ばし、軽いキスを一度だけ贈る。
「俺、帰るよ」
ショーンは、顔を上げようとしたオーランドを引き寄せ、強いキスを与えた。
「オーリ、しばらく、頭を冷やせ」
ショーンの目はオーランドを突き放していた。
オーランドは、散る花のように、切ない笑顔を浮かべた。
「ショーンも、ちょっとでいいから、俺の言ったこと考えて」
ドアが閉まる。
ショーンは苛立たしげに、ソファーから立ちあがり、ビールを飲み干した。

 

END