いい具合に酔っぱらえた夜は、夜中に不法侵入をする。

ドアには鍵が掛かっていないのだから、夜中とはいえ堂々と入ればいいのに、しんと静まり返った空気の中へと押し入る時は、やはり忍び足だ

床の軋む音、ぎくりと背中が強張る。

 

通り抜けるリビングは、世の中の楽しみに対してギブスが興味を持っているだけの分だけしか物が置かれていなくて、少し呼吸が楽だ。

だが、明かり一つない暗闇の中で、何にも躓くことなく寝室のドアまで辿りつけるのが、捜査官としてのトニーの能力のおかげだとしても、その酔ってずいぶん判断力の落ちた捜査官の頭ですら、ギブスが眠る寝室のドアを開ける一瞬のためには、非常に緊張した。

 

そっとドアノブを回し、壁に隠れたままドアだけを少し押し開く。

 

もし、ドアが開いた瞬間、ギブスがその影をトニーだと認めなければ、撃ち殺される。

それは、もう、間違いなく。

 

毎回、どうしてこんなことに命をかける気になるのか、トニーにも理由はまるでわからないが、それなのに、酔いに箍の緩んだハートは、居てもたってもいられない衝動で、うるさくこのドアを開けろと命じる。

ベッドの中では、すでに目覚めた気配だ。

 

トニーは、大きく息を吸い、この息が最後の一息だと覚悟の上で、ドアの隙間に身を晒す。

 

 

 

今回も、撃ち殺されずにすんだ。

 

ほっと、息を吐きだせたのは5秒後で、それから10秒経って、やっと、震える足でベッドに近づくことができる。

 

ギブスは、不機嫌そうに前髪をかき上げたようだが、身を起こそうともしなかった。

だが、もうトニーは飛びかかる勢いで、ギブスにのしかかって行った。

布団の中のギブスの上へと乗り上げ、唇を押し付ける。ギブスの唇は、乾いていた。

なかなか開かれないそれに、無理やり舌をねじ込む。

酔っぱらいだとわかる息を吐く自分を言い訳に、ギブスの頭を両手で掴み、無理やりディープなキスを押し付ける。

キスが返されることは、極まれだ。

ほんの時たま、きまぐれにギブスが舌を動かすことはある。

だが、殆どの場合、トニーがひたすらギブスをむさぼる。眠っていた人の口内は、温かい。押さえつけている柔らかい頬も胸も。

 

暗闇で顔が見えないこと。自分が酔っていること。

ギブスが抵抗しないこと。

恋い焦がれ、崇めたてまつるように慕うことしかできない上司を、こんな風に扱う権利をトニーは全く持っていない。だが、トニーに呼びかける理性の声の声は遠く、押しつけた唇を1ミリだって離さず、トニーはギブスの舌を吸い続ける。

そして、

その合間に、手筈良く温まった布団の中へと手を忍び込ませ、ギブスの体を撫で降りる。

キスが許される時間は、長くも短くもなく、その間にギブスをその気にできなければ、トニーの負けだ。

ギブスは決して優しくはない。

 

面倒なことの嫌いなギブスの性質に合わせ、パジャマのズボンをずらすとすぐに直接的にペニスを手の中へと握り込む。

男なら誰だって弱い、雁首の裏側辺りを刺激するように扱きあげ、少し勃ってきたら、遠慮もなく自分の体を布団の中へと押し込み、すかさず晒したそこを、ギブスのと合わせて擦る。

 

「……っ、抱いて、っ、くれませんか?」

 

もう暗闇でも青だとわかるようになった目は開かれていて、見透かすようにトニーのことを眺めているというのに、ギブスは必ず、トニーの願いを無視する。

けれど、擦り合わされるペニスは硬い。

トニーは、自分が随分酔っているという自覚がある。

だからと言って、自分のものの濡れ出すのが早すぎやしないかと思う。

開いた口からは、自分でも恥ずかしくなるような声が出ている。

「……っぅ、んん、っは、……はぁっ」

もしこれが、女の子とセックスしているのなら、こんな声を出して喘ぐ男は興ざめだろう。

でも、ギブスの締まった腹に、硬い腿に自分のペニスを押し付け、そこをいやらしい液で汚しているのかと思うと、興奮した。

ただベッドに横臥するだけだが、それでもこの動きで、ギブスのペニスも勃起しているのだと思えば、腰をさらに卑猥に振ってしまう。

「ねぇ……っ、ボスっ!」

 

 

ここに忍び込む勇気を得るためには、相当量の酒が必要で、ギブスが喉の奥で小さく唸る音を漏らして射精するところを見てどれだけ興奮しようとも、まだ、トニーはいけず、だが、冷たい上司も、こんな場面ではさすがに温情を見せ、トニーがいけるまで長い時間、好きに体へと腰を擦りつけさせてくれた。

 

飛び出した精液でギブスを酷く汚さないようにペニスの先を握り込んだトニーは、喉を晒すようにして呻くと、びくりと腰を震わせる。

 

「…………っう、ぅ!」

 

 

 

「……今日もしてくれませんでしたね」

満足に近いため息を吐き出しながら、トニーは詰った。

頭を置いたまま、枕の位置を直しながら、ギブスはあくびをした。

「パパとセックスしたがってる男とは寝ない」

 

「酔っ払いと擦り合うことは平気なくせに?」

「酔ってない時にここに来られる度胸があるのか?」

窺い見る青い目の余裕は、本当に憎たらしかった。

だが、息をひとつ飲み込み、気持を落ち着かせた。

 

「酔ってない時に来られたらセックスしてくれますか?」

 

ギブスは笑う。

「その時は、ドアが開いた途端に、撃ち殺してやる」

 

 

 

 

信じてください。

 

 

 

愛してるんですってば!