Your eyes only.
事の発端は昨日、Mがオーランドに預けた書類だった。
必ず明日中に渡してくれと言われた相手は蝿どころか蝿取り紙の様にまとわり付く男だ。
ところが今日に限って部屋に現れず、呼ぴ出しにも応じない。
アフターブァイプの約束があるオーランドは唸りながら午前中を過ごし、昼には網を張り、
就業間近な今は突き止めた居場所、特殊装備課までの猛ダッシュ中だった。
ジェームズが「福音の様だ」と言う若さと怒りに満ちた足音が廊下を駆け抜ける。
「いるんだろ、ジェームズ!」
辿り着いたドアを開けながらオーランドは叫んだ。
室内へ踏み込んだ身体に男が素早いタツクルをかまし床に伏せる。
次の瞬間、爆音が響き辺りに白煙が立ち籠めた。
「何が起きたの?」
オーランドは床に倒れたまま何度か瞬きを繰り返し、眼を見開く。
探し続けた男に覆いかぶさられているのに気付いたのか。
「大丈夫かい?スウィーティ」
ジェームズは、態勢を整え甘い声を出す。
「・・・・素敵な人」
ふらふらと立ち上がったオーランドの首は不自然なほど仰け反っていた。
「そんなに眼を大きくして。僕の愛の深さに驚いた?」
続いて立ち上がったジェームズが抱き締めても、放心した様に上を向いたままである。
首を捻ったジェームズは導火線を辿る様な眼付きで、オーランドの視線を探った。
先には薄くなった煙と天上しかないはずだが、その天井にスパイダーマンよろしく男が張
り付いている。彼の眼もオーランドに釘付けだ。
「オーランド、彼は特殊装備課課長のヴィゴ・モーテンセン。通称Q。ヴィゴ、Mの新し
い秘書、オーランド・プルームだ」
互いの位置に拘らないジェームズのスマートな紹介が済むと、ヴィゴは白衣を翻しながら
オーランドの背後に降り立った。
両手に付けた吸盤を外しながら近付くヴィゴを、ジェームズの腕から逃れて振り返ったオ
―ランドがうっとりと見つめる。
「恋を語る時間はあるのかい?」
ヴィゴはオーランドを引き寄せ、背中に腕を回した。
「時間はたっぷりあるよ」
胸に頬を寄せるオーランド。
「私と夜を過ごしたら、君の守護天使が顔を赤らめるだろうな」
優しくも鄙猥に笑うヴィゴ。
「・・・・あなたってロマンテイスト」
オーランドは早くも赤い項に手を当てて俯く。
「本当の事さ。確かめてご覧」
その手を取ったヴィゴは自分の股間にそっと押し付ける。
「ルガーP08カスタム位?」
可憐な表情で恥じらいながらオーランドが尋ねた。
「それともコルト・ディティクチブ?」
「ベイビー、安全装置が外れてないのを忘れてないか?」
ヴィゴは股間の手を維持したまま、ワイルドに笑った。
「君が相手なら、デザート・イーグル。一撃で見も心も砕く」
オーランドの目元が染まる。
「ジェームズだってワルサーPPKなのに・・・・」
「私は特殊装備課だからね」
俯いた顎に指をかけ、ヴィゴはキスしながら囁いた。
ちなみにまだ室内にいるジェームズのワルサーPPKは彼自身ではなく、実際に使用する
銃の一つであることを付け加えておこう。
オーランドにとってはどうでもいいことかもしれないが。
END