LICENCE TO LOVE.
Mの部屋から出たジェームズは無視されていた。
気付いてさえもらえなかったという方が正しいかもしれない。
オーランドはパソコンに向っているものの、ただ右手親指の爪を噛んでいる。
眉間に寄せた皺が彼のイライラ加減を語っていたが、それすら可愛く見えるジェームズは
何時もの笑顔で近付こうとした。
「ハイ、スウィーテ・・・・」
そこまで言って軽く右へ身体を捩ったジェームズは中腰のまま振り返り、投げ付けられた
物の行方を見届ける。
背後で壁に突き刺さったペンの軸が揺れた。
「用が済んだならさっさと帰れよ、スケコマシ」
顔を顰めたオーランドは顎を引いて笑顔を睨みつける。
「君にこんな特技があったとはね。ご披露してくれてありがとう」
ジェームズが距離を縮めるとオーランドは勢い良く立ち上がった。
「手が届く範囲の女全部手を付ける節操なしと話すことはないっ!!」
左手を腰に当て右手で廊下に通じるドアを鋭く指差す。
「帰れって言ってんだよ!出ていけ!!」
立ち止まったジェームズは顎の先を撫でながら、にやりと笑った。
「オーランド、怒っていても可愛いよ・・・これは前にも言ったかな?」
「出ていけーっ!!」
飛んできたカッターナイフをドアで受け、ジェームズは部屋を出た。
「訳を聞いても?」
ノプに手をかけたまま、廊下にいるヴィゴヘ問い掛ける。
ヴィゴは頷いて白衣のポケツトから手を出した。
「昨夜、セックスの最中に電話があった」
「出たんだな」
「オーランドはそれを怒っているんじゃない」
「ほう」
片眉を上げてふざけた表情をするジェームズ。
「彼女は誰なの?!」
何時の間にかオーランドが半分だけ開けたドアから覗いていた。
イライラした様子は半減していて、拗ねた唇を曲げている。
涙の気配を含んだ眼が潤みながらヴィゴを見ていた。
先程とはうって変わった愛らしい怒り方にジェームズが思わず微笑む。
オーランドは居残ろうとする第三者を睨みつけて退却させた。
「木曜目の恋人さ」
ヴィゴは真面目くさった顔で答える。
「私は7人の恋人が必要だった」
「どういうこと?」
いいかい、というように人差し指を立ててヴィゴは続けた。
「日替わりじゃないと彼女達の身が保たないんでね。昨夜、実感しただろう」
「うん・・・・凄かった」
耳まで赤くなってオーランドが俯く。
胸の前で両手の指を絡めて照れる様は異様に可愛い。
「でも・・・・」
縋るようにヴィゴの真面目な顔を見るオーランドの唇がため息をつく。
「もう全員と別れたが」
「本当?」
華が綻ぶように笑うオーランド。
「覚悟するんだな。セーブの効く平日ならともかく休日はどうなると思う?」
首を傾げたヴィゴが初めて笑った。
「“愛している”と他に何も聞こえない位、何度も囁く。食事をする暇も無い位キスをし
て、朝昼晩と君をやさしくペッドに押し倒す」
囁きながら伸ばしたヴィゴの指に頬を撫でられ、オーランドは色付いた目蓋を下ろした。
「禁欲主義なんて言うなよ、オーリ。抱きたいのは君だけだ」
「・・・・ヴィゴったら!」
ヴィゴが両腕を広げると、才一ランドは飛ぴ込んだ胸に頭を擦り付ける。
抱き止めた恥じらう身体をまさぐりながら、ヴィゴは耳朶を噛んだ。
「やだ、こんな所で・・・・まだ仕事中だよ」
「金曜日は休日の始まりさ」
再び真面目な顔で言い聞かせたヴィゴは、機嫌の戻った恋人に濃厚なキスをした。
2枚のドアを隔てた部屋の中ではMが若干淋しさを感じつつ、生温くなった紅茶を口にし
ている。
彼が歩くフェロモンと呼ばれたヴィゴの日替わり恋人制度を廃させた秘書の魅力に、改め
て感嘆していた事を二人は知らない。
END
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